箒は借りた打鉄を格納庫に返そうと紅椿で運んでいた。本当は一夏と同じピットに行きたかったがその前にやるべきことをしておかないといけないまじめな性格である。
一方一夏はピットに戻り更衣室で着替え用と上半身のISスーツを脱いでいた時であった。
「一夏―。」
更衣室のドアを開けながら鈴が入ってくる。
「きゃっ!いきなり入ってこないでよ鈴ちゃん。」
「そこに関してはゴメン。でもなによ“きゃ”って。あんたは女子か。」
一夏の発言に鈴はツッコミを入れる。
「まあそんなことは置いといて、はいこれ。確か温めでいいんだっけ?」
「うん。ありがとう鈴ちゃん。」
ペットボトルとタオルを渡す鈴に対し、一夏はにぱーと笑顔で言う。
「っ///////」
鈴は不意を突かれ顔を赤くする。一夏はペットボトルの栓を開けくぴくぴと音を立てながら中身を飲む。
「い、一夏。隣いい?」
「うん、いいよ。」
一夏の承諾を得て鈴は隣に座る。
「ねえ一夏、アタシがいなくて寂しかった?」
「うん。ドイツに行っていた時とはまた別で寂しかったよ。」
一夏が第二回モンド・グロッソで誘拐された後、千冬に情報提供をしてくれたドイツへの恩を返す形で一年間指導教官をしていた。その際に一緒に一夏も同行していた。本来であれば千冬だけでいいのだが日本だと何かと不安要素がある。一夏の実雨の時点で何度か男からナンパをされたケースが多い。(その度に周りの人からの鉄拳制裁が降ってくるのだが)
「そういやアンタ一年ドイツにいたわね。確かそこで同じ身長のことであったんだっけ?」
「うん、ラウラちゃんって言って今ドイツで隊長しているんだって。」
「ふ~ん。ま、アタシにはあんま関係ないけどね。」
鈴はそういうと立ち上がる。
「ねえ一夏、今度駅近くのケーキ屋さん行かない?」
「あそこちょっと問題があって潰れちゃったよ。」
「どんな問題よ?」
「・・・・・・・・・・・・・ミルクが賞味期限・・・」
「あー、はいはい。」
最後まで言わずもがなわかった鈴。
「じゃあそろそろ着替えないと。箒ちゃんとのシャワーの時間もあるし。」
「ちょっと待った!今なんつった!」
「えっと、箒ちゃんとシャワーの時間が―――」
「なんでそうなってんの!」
「え、えっとね。急きょ部屋割りで箒ちゃんと一緒の部屋になったんだよ。で、シャワーの時間とか部屋での決め事をしたんだよね。」
「ふ~ん、そっかそっかー。いちかー、アンタ困ってないの?」
「え?う~んと・・・・・・・確かに戸惑ったけど幼馴染だから助かったよ。知らない人と一緒だと不安だし・・・・」
「そっかそっか、幼馴染だといいのね。」
「へ?」
一夏は鈴の言っている意味が分からなかった。
「一夏、ちょっと後で部屋に行くから。」
鈴はそう言うと部屋を後にした。
「と言うわけで部屋変わって。」
「ふざけるな!」
夕食後の1025号室では一触即発の状態になっていた。
簡潔に説明するといきなり鈴が押しかけてきて箒に部屋を代わって欲しいと頼んだ。
「いやね、アタシ一夏に告白したからその応援もかねて変わって欲しいのよ。」
「ふふふ、そうか鈴。お前は一夏に告白したから応援するために変われと言っているのだな。」
「そうよ。それがなに?」
「残念ながら――――――――――――――――――――――――――――――――――――――私はお前よりも前に告白をしているのだ――――――――――――!」
「ちょ、ちょぉおっと――――――――――――――!なによそれ―――――――――――!」
鈴は光の速さの如く一夏に近づくと肩を掴み大きく揺らす。
「一夏、どういうことよ説明しなさ―――――――――――――い!」
「り~~~~~~~~~ん~~~~~~~~~~~ちゃ~~~~~~~~~~~~~~ん~~~~~~~~~~~~~~~ゆ~~~~~~~~~ら~~~~~~~~~~さ~~~~~~~~~な~~~~~~~~~~~~い~~~~~~~~~~~~~で~~~~~~~~~~~~~~~~。」
一夏は伸びた返事をする。
数分後
「落ち着いた、鈴ちゃん。」
「ええ・・・・・・・ごめんね一夏。」
肩で息をする鈴に対し一夏はぐったりしていた。
「それで、どういうことよ?」
「えっとね、鈴ちゃんが転校してくる少し前に箒ちゃんが別れ際に言ったんだよ。」
―――一夏、私はお前が好きだ!愛している!次会う時にこの答えを聞かせてくれ!
「—―――――って。」
「つまりそういうとことだ鈴。残念だが私としても負けられない。第一に、寮長に話は通したのか?」
「あ・・・・・」
「それと言っておくが多分お前の望みは寮長を知った時点で絶たれる。」
「どういうことよ?」
鈴は箒の言っている意味が分からなかった。
「寮長は・・・・・・・・・・・・・・千冬さんだ。」
「エ゛!」
鈴も流石に千冬には敵わなかった。絶対的力の差と威圧の前に鈴はか弱い子猫。結果は火を見るよりもである。
「ぐ、じゃあ部屋の件は諦めるわ!でも今度のクラス対抗で一夏、アタシと戦う時にどっちかが負けたら一つだけ頼みを聞きなさい!いいわね!」
「う、うん。それくらいなら大丈夫だよ。」
「よし!じゃあアタシは自分の部屋に戻るから!」
鈴はそういうと1025室を後にした。
ある日の放課後、一夏は白式の状態を知るために整備室へと足を運んでいた。
「え~っと、ここでいいかな?」
一夏はISの格納庫に白式を収めると機材を動かし操作を始める。
「やっぱりエネルギーの消費が激しいよね。でもなんでスラスター部分が多いんだろ?」
一夏は機体の操作で気づいたことがあった。スラスターの調子がどうもセシリアと戦ってから悪いのである。
「なんでだろ?」
一夏は白式のスラスターとのパスをカットしスラスター部分をライトで照らしてみる。
「あ、砂利が入ってる。これじゃあ危ないや。」
一夏は整備器具の中にあった掃除機を取り出し砂利を吸引。細かい砂利を取り終えると今度はピンセットで大きめの砂利を取り始める。
そんな時誰かが整備室に入って来た。
「っ!誰!」
一夏に対し入ってきた女子は問いかける。
「えっと、織斑一夏です。多分既に知っていると思いますけど。」
「ああ、貴方ね。」
一夏は白式越し話すのは失礼と思い顔を出すとそこにはメガネをかけた水色の同じ一年生の女子生徒がいた。
「あの、お名前は?」
「・・・・・・更識簪。」
「更識さん。」
「そっちで呼ばないで。」
「じゃあ、簪さん。どうしてここに?」
「・・・・・・・・・・自分の専用機を作りに。」
「へー。・・・・・・・・・・・・ん?今自分の専用機って言わなかった?」
「そう言ったよ。」
簪はさも当然のように答える。
「もしかして簪さんって日本の代表候補生?」
「そうだよ。織斑君、ありがと。」
「え?」
「私の方に人員を割いてくれたでしょ?そのお礼。」
「えーっと、僕は織斑先生にただ頼んだだけで何もやってないよ。」
「それでもお礼は言っておかないといけないと思ったから。」
「そ、そっか。」
「ところであなたは何をしているの?」
「白式の点検。スラスターに砂利が入っているから取っておかないといけないと思って。」
「機体の不調が分かるの?」
「う~ん、なんか感覚みたいなもので分かったって言った方がいいかな?初めて使った頃より少し音が変だったから。」
一夏は白式をなでながら言う。」
「そっか。ねえ、聞いてもいい?」
「なにかな?応えられる範囲でいいなら答えるよ。」
「その・・・・・・・・・・お姉さんと比べられたことある?」
「・・・・・・・・・・・・うん、あるよ。“ブリュン・ヒルデ”の称号を持つ姉の弟って周りにはよく認識されてた。ずっと比べられていた時に、なんて言ったかな?いす・・・・・・・・・しす・・・・・・・あ、そうだイスカンダル!イスカンダルって名乗る人がね、たまたま悩んでる僕に話しかけてきてくれたの。」
「イスカンダルって・・・・・・・・・・・・・またすごい名前だね。」
「すごいのは名前だけじゃなっかよ。多分2メートルの長身に全身筋肉の塊、オールバックに髭を生やしていた真っ赤な髪だったんだ。」
「そこにいるだけで女尊弾費の女性をも威圧しそうだね。」
「うん、それは思った。んで、僕の悩みを話したらどっからからペンと世界地図を出してこう言ったんだ。
“お前とお前の姉と余をこの地図に分かるように書いてみろ”
って。できる?」
「無理。ただの点にしかならない。」
「うん。僕もそう答えた。そしたらね、
“無理であろう。所詮余とお前とお前の姉はこの地図の上では極小の点でしかない。周りの野次馬共もまた然り。所詮人が勝手に決めた大きさなどたかが知れている。それにな、人は皆同じではない。お前と余を見比べてみればその違いは歴然。培ってきた経験も時間も、感情もその他もろもろ全てが違う。故に個性があり、その個性が今の世界を作り上げた。故に、お前の悩みなど小さく、しょうもない。世界にしてみれば人一人の問題など大したものではない。お前さん自身がそれに惑わされてはいつまで経っても変わることなどない。つまり、他人の戯言など気にせず、お前さんはお前さん自身として生きろ。”
って言ってた。」
「なんだか本当にイスカンダルみたいだね。」
「うん。僕も同じこと言ったら
“余は征服王故にイスカンダルである”
って言ってた。」
「そっか・・・・・・・・・・・ねえ、織斑君。」
「一夏でいいよ。」
「一夏君、私の個人的問題を聞いてくれる?」
「いいよ。」
簪は一夏に話した。自分より一個年上の更識楯無がいること、ここで一人でISを作り上げたこと、ここでは一番強い生徒会長であること、姉妹の中がどうもぎこちないことを。
「そっか・・・・・・・・・・・・ねえ、簪さん。」
「なに、一夏君?」
「楯無先輩のISって0から?」
「ううん、粗方完成はしてたって。だから私も――――」
「うん、それじゃだめだね。」
「・・・・・・・・・・え?」
「だってさ、更識先輩と簪さんは違うじゃん。なのに真似をしたってなれるわけじゃないでしょ?本物を真似た贋作は贋作でしかないのと同じ。」
「うん・・・・・・そうだね。」
「簪さんは楯無先輩が何が苦手か知ってる?」
「えっと・・・・・・・・・・・・虚さんと編み物。」
「じゃあ楯無さんは完璧?」
「・・・・・・・・・・・・・ううん、たまにドジを踏んじゃうところがある。」
「つまりそういうこと。さっきもイスカンダルが話したことを言ったように人には個性があるんだ。周りの言葉を気にしちゃいけない。僕もその言葉が心に響いて、自分にしかできない自分を極めようと思ってる。簪さんもしてみない?」
「・・・・・・・・・・・・うん、してみる。とりあえず今やるべきことは明日持倉研究所の人に来てもらうための電話、かな?」
「うん、そうだね。」