一夏がアリーナのグラウンドに出ると、すでに空中で待機しているセシリアの姿があった。
「お待たせしてすみません、オルコットさん。」
「いいえ、そんなに待っていませんわ。ですがあなたと私では操縦時間に雲泥の差がありますわ。ですが、日本のことわざに“油断大敵”と言う言葉がありますわよね?それを参考に私も全力でお相手しますわ。」
(う~ん、油断大敵は四字熟語なんだけど・・・・・・・・・・・・言わないでおこう。)
一夏は想いを心の内に留めておいた。
「じゃあ僕も全力で行くよ。」
「ええ、もちろんですわ!」
一夏は装備を確認する。やはり千冬が伝えた通りブレード一本であった。一夏は右手にブレードを装備する。
(ブレード一本ですか。ですが油断できませんわ。わたくしと同じように試験官を倒した実績を持つ人物。どのように倒したかはわかりませんが油断せず、全力でお相手しますわ。)
セシリアは改めて意を固める。
《それでは試合を開始してください。》
試合開始のブザーが鳴ると同時にセシリアは手に持っていたスターライトmkⅢからレーザーを放つ。レーザーは一夏の左肩にめがけて一直線に向かう。
しかし一夏はブースターを吹かし右に避けた。
「なっ!」
セシリアは驚くが一夏は間髪入れずに瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使用し一気にセシリアとの距離を詰める。セシリアは反応が遅れたが後ろに反る様に避ける。剣先が機体を掠め、わずかにシールドエネルギーを削った。
「っ!」
「・・・・浅い。」
一夏は瞬間加速(イグニッション・ブースト)の勢いのままセシリアと距離を取る。セシリアは逆さまになりながらスターライトmkⅢを放つ。一夏は急降下し回避する。
「一瞬の出来事で傷を負いましたがこちらが攻める番ですわ。さあ踊りなさい!ブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」
「社交ダンスは習ってないから無理です。後身長的にも!」
モニタールームから見ていた山田先生は一夏の攻めに感心していた。
「すごいですね織斑君。初撃を避けただけじゃなく先にシールドエネルギーを削るなんて。」
「まあ、あの場合はオルコット自身に問題があったのだがな。」
「どういうことですか?」
山田先生は千冬の言ったことの意味が分からなかった。
「アイツは剣術を身に着けていてな。それを習う工程であいつ自身の気づいたことなのだが銃などの武器を使うときの視線に着目している。」
「視線・・・・・・・・・・・ですか?」
「そうだ。剣などは相手全体を見ているためどこに視線を流そうともフェイクにすることができる。だが銃などの飛び道具は別だ。尻の青いガキどもはISの性能をフル活用できていない。ハイパーセンサーを使えば視線を使わずとも狙えるものをアイツは使わなかった。それで最初の攻撃が避けられたのだ。」
「成程。」
そんな解説を隣で聞いている箒は思った。
(一夏、お前は強いな・・・・・・・・・・私もお前の隣に立ちたい。)
箒はそう思いながらモニターを見ていた。
「くっ!すばしっこいですわね。」
セシリアは一夏よりも高い位置からスターライトmkⅢを放つが一夏はジグザグに動き回避する。規則性を限りなくなくし、それこそ本当のランダムの様に。
(セシリアさんには悪いけどこっちが有利になる状況に持っていくよ。)
一夏は一気にセシリアより高い位置に上昇する。
「っ!どの様な場所にいこうとも問題はありませんわ!おいきなさい、ブルー・ティアーズ!」
セシリアがそういうとカスタム・ウィングからユニットから四つの小型兵器が離れる。
(小さなのが四つ・・・・・遠隔操作型兵器ってところか。)
セシリアはビットを操作し一夏にレーザーを放つ。一夏はハイパーセンサーに頼り回避を取る。
(やっぱりハイパーセンサーは使える。死角から来る攻撃には有効的に仕える。でもおかしい、なんでオルコットさんはこの間にあの大型ライフルで打ってこないんだ?機会を狙ってる?・・・・・・・・・・・・いや違う。オルコットさんは同時並行ができていないんだ。)
一夏はセシリアの弱点に気づいた。
(隙をわざと作れば出来るけどでもあの腰の白い筒状のもの、ちょっと気になるんだよね。)
一夏は戦い始めてからずっと気になっていた。セシリアの腰の部分に装備されているのがブースターではないかと最初は思ったがしかし後ろを取って見ていても吹かす様子は一切ない。ならばあれは何か?一夏は避けながら考える。
(あれはいわば隠し玉。でもそんなに弾数は搭載していないと考えると今の優先順位はビット、ライフル、そして隠し玉だね。なら!)
一夏は避けから攻めに切り替える。近くにあるビットを突き刺すとそのまま他のビットにぶつけるように投げ二つを破壊する。
「なっ!」
セシリアは目の前の出来事に驚愕しビット操作を止めてしまう。その隙を一夏は逃さない。
「はいっ!」
一夏は右回し蹴りをビットに叩き込み銃口を曲げると足先にあるビットを足場に後ろにバク宙。回転の勢いを利用しビットを破壊する。
「次っ!」
一夏はまっすぐセシリアに向かい瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使用、一気に距離を詰める。
「くっ!」
セシリアは牽制しようとスターライトmkⅢを放つ。しかし一夏は狭い通路の壁を手で叩くイメージで細かな回避運動を取る。
「はぁ!」
一夏はブレードを横に振るう。しかしそれが振り切れることはなかった。
「っ!」
「危険な賭けでしたが・・・・・・・・・・・上手くいきましたわ。」
一夏のブレードがセシリアのスターライトmkⅢによって受け止められていた。
「な、なにが起こったのだ!」
試合の光景を見ていた箒は何が起こったのかわかっていなかった。
「オルコットの奴、刀の弱点を理解しているようだな。」
「弱点?」
千冬の言葉に山田先生は疑問を持つ。
「刀とは剣の重みと振りを利用して相手を切るものだ。振り切ればそれこそ最大の切れ味を有する。が、逆に振り切れなければ多少肉に食い込む程度の攻撃だ。オルコットは日本語が達者だから相当日本について勉強したんだろう。切っ先ならそれ以上に固いものを準備すればいいがその隙すらなかったためあいつは一気に一夏と距離を詰めた。織斑は降るために使う力を不完全燃焼する形で止められた。」
「じゃあ織斑君が不利になったんですね。」
「いや、そうとも限らんぞ。振り切れば最強の一撃だ。作用反作用の法則を考えればオルコットにも負荷がかかる。加えて精密機械にあの打撃だ。次が打てるかどうか問題だな。最も、予備があれば別だがな。」
(やはりこの一撃は痛いですわ。斬撃に瞬間加速(イグニッション・ブースト) を掛け合わせただけのことはありますわね。)
(ぐっ!腕が痺れた・・・・)
一夏は距離を取ろうと後ろに下がった瞬間と同時にセシリアも後ろに下がると5,6機目のビットを一夏に向ける。
「もらいましたわ!」
腰にマウントされていたビットからミサイルが二基発射される。
「っ!」
一夏は右手から左手に持ち替えると前に進みながらバク宙し、ミサイルに気をすれ違いざまに斬り落とす。斬り落とされたミサイルはしばらく浮遊し、一夏の後ろで爆発する。
刹那、一夏の目の前に投影ディスプレイが表示される。
〔最適化が完了しました。確認ボタンを押してください。〕
一夏はディスプレイの指示に従い確認ボタンを押すと白式が輝き始める。
「一次移行(ファーストシフト)!まさか貴方ずっと初期設定で戦っていましたの!」
「届いたのがオルコットさんと対戦する少し前だったんで仕方なく。」
一次移行(ファーストシフト)が終了した白式は最初とは打って変わって装甲は白が際立ち、カスタム・ウィングも大きく変わっていた。そして変わったのは機体だけではなかった。一夏に手にしているブレードが変わっていることに気づき、武器の詳細を投影ディスプレイで見る。
「雪片弐型・・・・・・・・・なるほどね。」
一夏は微笑むとセシリアに剣先を向ける。
「いくよ、オルコットさん!」
一夏はセシリアに瞬間加速(イグニッション・ブースト)で近づく。セシリアはスターライトmkⅢを放つが一夏は雪片弐型の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)である零落白夜を使用しレーザーを掻き消し、スターライトmkⅢを二つに斬る。
「い、インターセプ―――」
セシリアは近距離武器を展開しようとするがその隙も与えずセシリアのシールドエネルギーを零落白夜で削り0にする。
《セシリア・オルコット、シールドエネルギーがエンプシーとなりました。よって、勝者は織斑一夏。》
アナウンスと共に一夏の勝利宣言。それと同時に観客席から歓声が沸いた。
「負けましたわ・・・・・・・・・正直、ここまでできるとは思っていませんでしたわ。」
「ううん、セシリアさんもあの複雑なビット操作をよくやってたと思うよ。でも・・・・」
「わかっていますわ。織斑さんが言いたいことは。正直今まで必要ないと考えていたわたくしの汚点ですわ。」
「だったらさ、これから一緒に直していかない?」
「・・・・・・・・・・・え?」
一夏の言葉にセシリアは間抜けな声を出す。
「僕は今回たまたま勝てたけど次は勝てるかどうかわからないからさ。だから一緒に強くなろ。」
一夏は笑顔でそう言う。
「っ!///////」
セシリアはその笑顔に心を奪われ顔を赤くしてしまう。
「どうかした?」
一夏が首をかしげて聞く。
「な、なんでもありませんわ!わ、わたくしも一夏さんと共に切磋琢磨して強くなっていきたいですし・・・・・・・・・・その・・・・・・よろしくお願いします。」
セシリアは一夏に頭を下げる。
「うん、こちらこそよろしくね。」
一夏はそう言うと右手を部分解除し、手を差し出す。
「は、はい!」
セシリアも同じように部分解除し、一夏の手を握り握手をする。
(あ、意外と柔らかいですわ・・・・)
一夏の柔らかい手の感触に気を取られてしまうセシリア。しばらくにぎにぎしていた。
「オルコットさん、それじゃあそろそろ僕はピットに戻るね。」
「・・・・・・・・・セシリアで構いませんわ、一夏さん。」
「うん、わかったよセシリアちゃん。」
一夏はそういうとピットに戻って行った。
「勝ちましたね、織斑君。」
「まあ、まだ荒い点はあるがな。」
千冬は口ではそういうが顔は微笑んでいた。が、同時に内心ではこんなことを思っていた。
(馬鹿者め。また一人女を落としおって。お前は自分の可愛さとカッコよさに自覚が無いのか?いや、人への好意に関しては自覚があるからそこは問題ないが無自覚に相手に好意を引き寄せてはいつか後ろを刺されるぞ。)
弟のことを心配に思う姉である。
(まあ、そんなやつがいれば私が真っ先に生まれてきたことを後悔させてやるがな。)
訂正、ブラコンであった。
(ぐぬぬ・・・・・専用機を持っていない点からでもオルコットとの差がある。だがそんなことよりも一夏の隣に立ちたいのは事実。身内を利用する卑怯な手とはわかっているが・・・・・仕方ない。罵倒が来ることも覚悟してあの人に頼むしかないな。)
箒もまた一夏と距離を詰めたいと思い覚悟を決めた。
(は~、やっぱり織斑君強いですねー。強固なイメージによる飛行や機転が利いた戦術。国家代表に負けないほどの実力を持ってますねー。)
山田先生は一夏の強さを改めて認識した。