最弱無敗の神装機竜『藍き英雄』   作:ichizyo

1 / 10
プロローグ

「お母様……!」

 

 少年は悲痛な声で最愛の人を呼ぶ。足元に転がる瓦礫を飛び越えながら呼びかける。が、やはり返事は聞こえない。少年はその事実を信じたくないとばかりにさらに大きな声で叫ぶように呼びかける。

 

「お母様!」

 

 辺りを見渡し、母を探す。

 

 赤赤赤紅紅紅アカアカアカあかあかあか――。

 

 どこを見渡しても赤い炎で染め上げられている。

 

 あの大好きだった長く綺麗な黒髪。いつも来ていた豪勢な純白のドレス。あのお日様のような匂い。その中の一つでさえ、今は全く感じられない。感じるのは、赤い炎の熱と焦げた匂いだけだ。

 

 アストレア王国。世界の五分の一をを束ねる大国、アーカディア帝国のそばにある小さな王国であり、軍事力はそこまで高くないが、平和が維持できている国――であった。

 

 たった今、その平和なはずの王国はアーカディア帝国の装甲機竜によって、焼け野原にされていた。軍事力がもともとあまり高くなかったために突然の襲撃に対応できなかったらしい。

 

 残っている少しの軍事力でさえも帝国の装甲機竜には敵う訳もなく、全滅を免れることはないだろう。何せ敵の装甲機竜の数は――約千機。たとえ、軍事力が高くとも敵わないような、そんな絶望的な数。

 

 王城だけでなく、国全体が焼かれている。そんな中、被害の一番酷い王城では、少年がたった一人で未だ見つからない最愛の母を探していた。

 

「お母様!」

 

 十二歳になったばかりのまだ高い声で叫び、そして走る。必死に頭を振りながら辺りを見渡し、何か手がかりはないかと細部までしっかりと確認してまわる。

 

 ――え?

 

 そして大きな扉を開け、玉座のある大部屋を入った瞬間――濃い血の匂いが漂ってきた。

 

 焼け焦げた匂いがあるにも関わらず、その血の匂いは色濃く残っている。扉を開けた時の熱風で閉じてしまった目を開くと、広がっていたのは、

 

 

 

 ――――地獄絵図。

 

 

 

 何十人もの人が血を流して、倒れ伏している光景。小さい頃からお世話になってきた使用人の人達の死体。血だらけでその場に倒れていたり、瓦礫の下敷きになっていたり、それ以上に酷いものも沢山ある。そんな非情な光景に吐き気を覚えながらも顔を上げると――見つけた。

 

 玉座の前に見慣れた純白のドレスを着た女性。

 

 小さな体で走り出す。小さな小石は蹴飛ばし、大きな瓦礫は飛び越え、よじ登り、燃え盛る炎を掻い潜って。灰だらけ傷だらけになりながら、やっとの思いで最愛な人の元へたどり着いた。

 

 

 

 ――――酷い。

 

 

 

 走り寄り、母を見て最初に抱いたのはそんな感想だった。記憶に残る大好きだった綺麗な長い黒髪はボサボサで灰をかぶってくすんでおり、その身に着ている純白のドレスは所々が焼け焦げ、お日様の匂いなどは欠片もせず、ただ煙の匂いがするだけ。

 

 身体中傷だらけで、頭からも血を流し横向きに倒れている。少年はそれでも諦めず声を上げて、呼びかけた。

 

「お母様!起きてよ、お母様!」

 

 そんな少年の気持ちが伝わったのか、ゆっくりと開かれる優しげな目。

 

「……ユウ、キ……?」

 

「そうだよ、お母様!」

 

 思わず涙が流れる。もう助からないと諦めかけていたのに最愛の母親が目を覚ましたのだ。涙が出てきても何らおかしくはない。

 

「ユウ、キ……あ、れ……」

 

 掠れていて、途切れ途切れの声。少年の母は、最後の力を振り絞っているような、そんな声を上げて玉座の後ろに立ててある『それ』を指差した。

 

「お母様、あれが何?」

 

「あれを……もって逃げ、なさい」

 

 母が言ったのは、自分はいいから逃げろという言葉。

 

「何で⁉︎母さんも一緒に逃げるんだよ!」

 

「私は、もう……助からない、わ」

 

「そんなのわかんないじゃん!」

 

 少しだけだった涙がさらに溢れてくる。母は、そんな泣き叫ぶ息子の頭にゆっくりと手を伸ばし撫でる。

 

「お願い……あなた、だけは」

 

「嫌!嫌だよ!お母様……」

 

 無理矢理力を入れているのか、撫でている手が少し震えている。撫でているのがそんな手でも少年は、少し暖かい気持ちになっていた。

 

 しかし、辺りでは次々と爆発が起こっている。

 

「お願い……よ」

 

「お母様⁉︎」

 

 だが、それもほんの少しの間だけ。撫でていた手が再びダランと地に落ちてしまった。母は今にも閉じてしまいそうな目を必死に耐え、また少し開き、手を伸ばす。

 

 さっきより震えの酷い手は少年の頬を撫で、母は優しげに微笑んだ。

 

「あな、たは……あなただけは……生きて」

 

 ――――。

 

 ダランと手が落ち、今度は目も閉じている。もう全身から力が抜けて、ピクリとも動かなくなったはずなのに……その表情だけはもう悔いはないとばかりに微笑んでいた。

 

 その表情を見た少年は、ゆっくりと覚束無い足取りで玉座の後ろに立ててある『それ』を手に取り、再び母の元へ。

 

 跪き、横に『それ』を置く。

 

「お母様……ありがとう」

 

 少年は小さく呟いた後、両手を地につき、母の顔に自分の顔を近づけ――頬に優しく口づけを落とした。

 

 少年は『それ』を持ち、立ち上がって走り出す。出口の方へ、ただひたすらに。

 

 ――――その目に涙を浮かべながら。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 落ちてくる瓦礫には目もくれず、多大な喪失感と虚無感のみが占める心を誤魔化すようにただ走って走って走りまくる。それでもやはり誤魔化しきれず、涙は溢れるばかり。

 

 皇子としての正装として着ている白を基調とした服ももう灰で真っ黒になっていて、袖やズボンの裾なども焼け焦げて、所々には穴が開いている。

 

 しばらくの間走りまくって涙も流れ果てたのか、もう出てこない。少し頭が冷静になってきたので、辺りを確認してみると壁が壊れて外が見えるようになっている場所を見つけた。

 

 そこから見える外は

 

 

 

 ――――またしても地獄絵図。

 

 

 

 王城は街より高い位置にあるのでよく見える。あちこちから聞こえる街の人達の悲鳴。潰される人。燃えて崩壊した家や店。街中が絶望に包まれているのがよくわかる。わかってしまう。

 

 あっ……

 

 そして見つけた。装甲機竜の一体が少年に迫っている光景を。走っていたその少年は躓いて転んでしまう。

 

 間近に迫る死。その恐怖に少年は動けなくなってしまった。そして、死への鉄槌が振り下ろされ――――。

 

 そして俺は『それ』を腰に差し――

 

 

 

「――――。」

 

 

 

 ――詠唱を唱えた(呪詛を紡いだ)

 

 

 

 

 

 

 

 この日、クーデタによりアーカディア帝国は滅亡した。アーカディア帝国の総勢約二千機の装甲機竜をたった二機の神装機竜が破壊したという逸話を残して。そして、その二機はその機体の色からそれぞれ『黒き英雄』、『藍き英雄』と呼ばれることになる。

 

 

 

 *****

 

 

 

「はぁ……疲れた」

 

 大きな荷物を持った少年が気だるそうに目的地に向かって歩いていた。――一枚の手紙をその手に持って。

 

「……でも、あの人どうやって俺の住んでるところ知ったんだ?」

 

 少年はその手紙を自分のところに寄越した人物に戦慄した。その少年は、アティスマータ新王国の端の方でひっそりと一人暮らしをしていたのだ。知り合いだった人にも伝えずに。

 

 なのに手紙の差出人は、少年の家にピンポイントで手紙を送ってきた。これを戦慄せずにどうしろというのか。恐怖すればいいのか?そうなのか?

 

 少年は一本の藍色の機攻殻剣(ソード・デバイス)を腰の後ろに差し、もう一つの蒼い方を横に差している。

 

 機攻殻剣(ソード・デバイス)

 本体と一対で、十数年前に遺跡(ルイン)から発見された古代兵器。機攻殻剣(ソード・デバイス)のグリップのボタンを押して詠唱符(パスコード)を唱えることで、対応する機竜を召喚できる。

 

「でも、久しぶりだなー。レリィさんに会うの」

 

 どうやら手紙の主はレリィという名前らしい。

 

 少年が目指しているのは、城塞都市『クロスフィード』・王立士官学園(アカデミー)。王立であるこの学園は、装甲機竜(ドラグライド)に携わる人間を育成する場所である。

 

 どうして、そんなところに向かっているかと言われれば、呼ばれたからであるとしか言えないだろう。

 

 手紙の内容はこうだ。

 

『ユウキ・アストレア君へ

 

 こんにちは。

 そして、久しぶり。レリィ・アイングラムお姉さんよ。

 突然だけど三日後、城塞都市『クロスフィード』・王立士官学園(アカデミー)に来てほしいのよ。

 理由は、来てからのお楽しみ。

 

 とりあえず、何も考えずに来てくれるとお姉さん嬉しいわ。

 懐かしい人にも会えるかもしれないしね。

 

 じゃあそういうことだから、三日後よろしくね。

 

 ちなみに、何で私があなたの住所を知っているかっていう質問には一切答えないからね?

 

  城塞都市『クロスフィード』・王立士官学園(アカデミー)学園長

  あなたのレリィより♡』

 

 これもらった最初の俺の感想は、『あの人、もう二十代後半だよな?』でした。特に最初の方とか、最後の方とかについてだが。

 

 懐かしい人って誰だ?

 

 ユウキがそんなことを考えていると、もう間近に迫った目的地から巨大な火柱が上がった。

 

 俺、火嫌いなんだよな……。

 

 どうやら誰かが戦っているらしい。ユウキは模擬戦かな?と考えながら、門に向かう。

 

 どうしよう……。

 

 門に着いたはいいが、ここで問題が発生した。どうやって入ればいいのかわからないということだ。ここは確か機体制御の適性が男性よりも高い女性しかしない学園なのだ。

 

 よって、男のユウキが入ることはできない。

 

 はぁ……と深いため息を吐きながら、空を見上げると

 

 

 

 ――――黒い影が飛んでいた。

 

 

 

 途端に悲鳴に覆われる学園。結界も破壊され、侵入を許してしまう。

 

 

 空を呼ぶ黒い影の正体は幻神獣(アビス)

 

 遺跡(ルイン)から現れる幻獣が、何でこんなところに⁉︎

 

 ユウキはそう思いながらも腰の横に差している機攻殻剣(ソード・デバイス)のグリップのボタンを押す。

 

「――来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》」

 

 そして、詠唱符を唱えた。

 キィン、という音とともにユウキの周りに蒼い光の粒子が集結する。

 

接続(コネクト)開始(オン)

 

 さらに呟くと、ユウキの頭、両腕、肩、腰、両足を装甲が覆う。そして、翼、剣と出てきて終了。

 

 ユウキは飛翔し、学園の中に入る。

 

 すいません、無断で入って!

 

 そう心の中で謝罪し、アビスがいる演習場まで全力で飛ぶ。すると、《ワイバーン》を纏って戦っている生徒を見つけた。その動きはとても正確で、強敵の筈のアビスの攻撃を的確に避けている。

 

 しかし、次の瞬間――アビスの爪にやられて機体の右腕を失ってしまった。

 

 直後、先ほど見た巨大な火柱が上がった。それは見事アビスに直撃して――いなかった。

 

 左半身をほとんど失いながらも朱い機体に迫るアビス。その状況にユウキは幻創機核(フォース・コア)から送られるエネルギーを機動力にまわし、超加速する。

 

 そして、アビスの直前で機動力にまわしていたエネルギーを剣にまわし、斬る。

 

 超加速によるスピードとエネルギーを纏った剣の一撃。

 

『ァァァァアアアアアアッ!』

 

 それはアビスを真っ二つにし、破壊した。アビスは悲鳴のような声を上げてその場に落ちる。

 

 周りを見渡してみると、倒れた《ワイバーン》に朱い機体、観客席にはたくさんの生徒。ユウキはとりあえず、一言かけることにした。

 

「大丈夫か?怪我したやつはいないよな?」

 

 

 

 




第一話でした。どうだったでしょうか?

最弱無敗はやっぱり難しいですね。書くのがすごく大変です。

ですがこれからも頑張りたいと思うので、よろしくお願いします!

読んでいただきありがとうございました!
感想、評価よろしくお願いします!
それでは、また次回
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。