最弱無敗の神装機竜『藍き英雄』   作:ichizyo

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第九話 勝者――

 砲撃の雨。

 正面、右、左、そして上。

 全方位から機竜息銃(ブレスガン)と《ティアマト》の朱い大砲、機竜息砲(キャノン)による砲撃が放たれる。

 

 

「ふぅん、あれが空挺要塞(レギオン)か」

 

 

 しかし、ユウキが見ていたのは、砲撃の雨でも敵の配置でもなく、リーシャの神装機竜《ティアマト》の特殊武装(スペリオルズ)だった。

 彼女の周囲に浮かんでいる巨大な鏃型の物体――空挺要塞(レギオン)。それが四つ。しかもルクスによると、今は四つだが、最大はその四倍の数らしい。

 

 

(さて、どうするか……)

 

 

 そう考えているうちにも、多数の砲撃は迫ってきている。隣のルクスにちらりと視線を向けてみれば、手を前に出して咆哮(ロア)を発生させようとしていた。

 しかし、ユウキはそれを制止する。

 

 

「ルクス、任せろ」

 

「え? う、うん」

 

 

 ルクスが手を下ろし、ユウキの後ろにピタリとくっつく。

 それを確認し、ユウキが選択した武器は機竜牙剣(ブレード)だった。

 それを構え集中する。

 

 

「ゆ、ユウキ? まさかブレードで?」

 

「おう。まあいいから、黙って見てろって」

 

 

 そしてとうとうその時が来た。

 最初の弾丸がユウキの間合いに入る。――直後、弾丸の青い光が空中へと飛び去った。

 

 

『……え?』

 

 

 機竜の通信機能、『竜声』から『騎士団(シヴァレス)』全員の素っ頓狂な声が響く。

 しかし、ユウキはそれを無視し、一心不乱に剣を振り続ける。

 演習場の壁、空中、地面、あらゆる方向に弾丸が飛び、その場所を抉っていく。

 

 

「問題はこれだな」

 

 

 ユウキの声が聞こえ、ルクスが彼の見る方向を見ると、そこには見覚えのあるものが。

 リーシャの放ったレーザーだ。機竜息砲(キャノン)から放たれた朱色の熱線。

 

 

「ま、大丈夫だろ。ブレードまだあるし」

 

「え?」

 

 

 刹那。

 直径が自分の身長ほどもある熱線が少年二人を包み込む――より前に熱線が上に方向を変え、ただの炎柱と化した。

 

 

「きゃあぁぁ!?」

 

「……くうっ!」

 

 

 ……見事に『騎士団(シヴァレス)』の団員二人を巻き込みながら。

 

 

「二人、か。……ふぅ、疲れた」

 

「ユウキ、何で弾いたの?」

 

 

 息を吐きそう言うユウキに、ルクスがさほど驚いていない口調で聞いた。周りは未だにポカーンと口を開けている。唯一観客席のアイリだけは、なぜかため息を吐いていたが。

 

 

「いやだって、機竜咆哮(ハウリングロア)で防げる弾丸の数と範囲じゃなかったし」

 

「はぁ!? まさか今の全部弾き飛ばしたのか!?」

 

「ああ。証拠にほら」

 

 

 リーシャの驚愕したような問いにユウキは右腕を上げて、自分の持つそれをその場にいる全員に見せた。そこにあったのは一本のブレード。しかし、その形は本来の物とはかけ離れていた。

 先が欠け、刃が潰れ、熱線によって溶け、半ばまでヒビが入っている。

 

 

「……あ」

 

 

 ポキリ、と。

 動かした影響だろうか、銀色の刃は半ばから根元までを残して折れてしまった。無残に地面に転がるブレードの破片を見て、

 

 

(化け物だ……)

 

 

 その場にいる全員が、そう思った。

 

 

「いやいや。俺の場合こんな風にしてないと、ダメなんだって。だから俺の《ワイバーン》は空気抵抗あんまり受けないように、ちょっと尖った形してるんだよ」

 

「相変わらず無茶するよね……」

 

「いいだろ、別に。一発も当たらなかったんだし。ほら、リーシャ続き」

 

「……あ、ああ。そうだな、全員突撃!」

 

 

 リーシャの声で、未だ驚きの表情を残す『騎士団(シヴァレス)』団員約半数が二人に特攻する。それぞれ手に持つのは、機竜牙剣(ブレード)機竜息銃(ブレスガン)

 

 

「それじゃ俺、空な」

 

「はいはい。じゃあ僕は陸ね」

 

「いや、お前どうせ攻撃しないだろ」

 

「それはユウキもだよね」

 

 

 ユウキとルクスは互いに目も合わせず、二手に分かれた。

 空中戦と陸上戦。相手は《ワイバーン》と《ワイアーム》。

 

 警戒すべきは特装型の《ドレイク》だな。

 

 ユウキがそんなことを考えながら、予備のブレードを出し、空中へ飛び上がる。

 

 第二ラウンド。二箇所での戦闘が幕を上げた。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

「いいのか? 二手に分かれて」

 

 

 空中で朱い機竜を見に纏うリーシャが下から飛んできたユウキに訊く。そんな彼女の左右を抜けるようにして、《ワイバーン》二機がユウキに迫った。

 

 

「やあっ!」

 

 

 一人目の攻撃、ブレードの振り下ろしを足のブースターを吹かせて、少し後ろに飛ぶことで回避。しかし後ろには、もう一人がブレードを中段に構えて待ち構えていた。

 

 

(お、いい構え)

 

 

 隙がなくはないが、なかなか様になっている。

 その少女は、一瞬深く沈んだ後に加速してユウキに突撃した。ブレードを横からスライドさせるようにして、ユウキの懐を狙う。

 

 無駄のない動きから繰り出される一閃。

 

 

「だけど、少し遅い」

 

 

 懐に向かって振るわれるブレードを下から上に斬り上げるようにして、弾く。

 ギィン、と音がして彼女の持つブレードが空中に投げ出された。

 驚く少女をよそに、ユウキはブレードを後ろに向ける。すると、相手のブレードと当たる手応えが。

 

 

「油断してたら斬られてたな」

 

「後ろに目でもあるんですの!?」

 

 

「ありませんよ」と答えながら、ブレードを二度振るう。金属と金属が当たった時特有の音が鳴り響き――。

 

 

「ブレードが折れ……!?」

 

「悪いな」

 

 

 次は誰だ、とユウキが後ろを向いた刹那――目の前にブレード迫っていた。

 

 

「――っ!?」

 

 

 咄嗟に身を捩るが、完全な回避には至らない。

 左肩の装甲を少し掠ったその剣はそのまま真っ直ぐ飛んでいき、演習場と観客席の間に存在する障壁にあたり、地面に落ちた。

 

 

「Yes.当たったので、一応は成功ですかね」

 

「ノクト、か」

 

 

 しかし何時――あの時か。

 最初の少女のブレードを弾いた時。

 ノクトは空中に投げ出されたブレードを竜尾綱線(ワイヤーテイル)で回収し、ユウキに向かって投擲したのだ。

 

 そして、ノクトが纏っているのは翠色の機竜。特装型の《ドレイク》。

 

「流石、特装型の《ドレイク》だな。光学迷彩か? 集団戦では有利だよな」

 

「Yes.ご名答です。正直先程の弾丸全弾きを見た時点で、ユウキさんの『騎士団(シヴァレス)』入団に賛成……というか、推薦したいくらいなんですが、あそこでやめるのもどうかと思ったので」

 

「それはありがたい。『騎士団(シヴァレス)』に入団すると、正直動きやすいし。……というか三和音(トライアド)で攻めてこなくていいのか?」

 

 

 ノクトがブレードで斬り掛かる。ユウキは完全に攻めずの姿勢だ。金属のぶつかり合う音と火花を散らせながら、ノクトはユウキの問いに首を振る。

 

 

「Yes.今回は私個人の実力を知ってもらいたかったので」

 

「なるほど。――でも、ごめんな」

 

「え?」

 

 

 パキン、と。

 気づいた時には、自分のブレードが折られていた。驚きつつも、しかしノクトはそこで怯まない。竜尾綱線(ワイヤーテイル)を使い、飛び去ろうとするユウキを捕らえんとする。

 後ろから迫るワイヤーをユウキは一瞥し、そのまま大きく旋回。先程まで自分がいたところを一直線に飛んでいくワイヤーの上へ。そして上から翼のブースターを吹かせて、ワイヤーを半ばから断ち切った。

 

 そこに新たに迫る、狙ったように投げられた機竜爪刃(ダガー)三本。

 

 

(ノクトは強い。だけど……)

 

 

機竜咆哮(ハウリングロア)

 

 

 ユウキの《ワイバーン》の前面に、渦状の衝撃波が展開される。

 幻創機核(フォース・コア)から発生させた衝撃波により、敵の投擲を弾く、機竜使い(ドラグナイト)基本技術(スキル)だ。

 ノクトの投擲したダガーはいずれもその衝撃波に当たり、力なく地面に落ちる。

 

 

「No.強すぎますよ……!」

 

「そうならないといけない理由があっただけだよ」

 

 

 ユウキは再びノクトに背を向ける。

 今度はノクトにうてる手段がなかった。悔しさはある。それもかなり大きめの。しかし、今はそれよりも気になることがあった。

 

 

「ユウキさん。……どうしてそんなに悲しそうに笑うんですか?」

 

 

 その声はすでに遠くにいるユウキには届かない。

 視線の先には、もう何事もなかったかのように楽しそうに笑うユウキの姿がある。

 

 

 ――では、あの表情は一体……?

 

 

 ノクトはついこの間出会ったばかりの少年に言い知れぬ不安を感じてしまった。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 迫り来る五機の《ワイアーム》。

 ルクスは今、その全ての攻撃を防御、回避していた。

 

 

『おい、ルクス! なぜ攻撃しないんだ!?』

 

 

 ……竜声を介して聞こえる、リーシャの怒鳴り声を聞きながら。

 

 

「どうして当たらないの!?」

 

 

 一人の少女が苛立ったように声を上げた。それに残りの四機に乗っている少女達も頷いて同意する。

 現にルクスは未だに一撃も食らっていない。最初のユウキの弾丸弾きをカウントしてもしなくても、被弾数はゼロだ。

 

 ルクスは上手く彼女らを誘導し、ようやく竜尾綱線(ワイヤーテイル)で無力化する。

 

 

「いたっ!?」

 

「ちょっ、邪魔だって!」

 

「いっ!? 動かないでよ!」

 

「ルクっちー、ひどいよー」

 

「ふぅ、これで五機減ったよ……」

 

 

 最初の機竜息砲(キャノン)で二機、そしてルクスが捕らえた五機。計七機。残りはリーシャの神装機竜入れて、九機だ。しかもリーシャの他に三和音(トライアド)のシャリスとノクト、それにフィルフィもいる。

 正直、フィルフィが『騎士団(シヴァレス)』にいたのには驚いた。さらに神装機竜《テュポーン》の使い手だということにも。

 クルルシファーさん曰く、彼女は強いらしい。

 

 どう強いかはわからないけど、警戒はしとかないとね……。

 

 

「えいっ」

 

「考えてるそばから!?」

 

 

 振るわれる拳。

 回避したにもかかわらず、僅かに掠ってしまった。

 崩れた体勢を立て直しながら、攻撃の間合いに入らない程度に少し距離を置く。すると、その全体が視界に入った。

 紫色の機竜だ。翼がないことから、陸戦型だと思われる。乗っているのは、もちろんフィルフィ。彼女は眠そうな表情のままに大柄な機竜を使いこなしていた。

 

 

「ルーちゃん、ユーくんすごいね」

 

「え? ……うん、昔からね」

 

 

 フィルフィの言葉に頭の中に残る過去の記憶がちらついた。

 

 昔からそうだった。

 ユウキは習ったことはきちんと覚えるし、応用を聞かせることもできる。戦術、作戦の類を立てるのも得意だったし、機竜の操作も上手かった。まさに完璧超人だ。……ちょっと性格に難ありだけど。主に僕に対して。

 

 しかし、ユウキは

 

『本当の天才はお前みたいなやつのことを言うんだよ』

 

 と言った。

 その頃はただの嫌味にしか聞こえなかったが、後で知った。――ユウキがいつも努力していたことを。

 

 完璧超人だから、すぐに覚えられる。

 完璧超人だから、色々思いつく。

 完璧超人だから、何でもできる。

 完璧超人だから――僕はユウキのことなんて何も知らずにそう決めつけて、いつも逃げてきた。

 

 しかし、違ったのだ。彼は人一倍努力家で、負けず嫌いだった。そして間違ったことは許さない、そんな少年だった。

 

 対して僕はどうだろうか――。

 

 

「ルーちゃんは優しいよ」

 

「え?」

 

「優しいよ」

 

 

 いつもの表情から少しだけ頬を綻ばせて、目の前のピンクの少女はそう言った。まるでルクスの考えを読んだかのように――。

 

 

「ありがとう、フィーちゃん――」

 

 

 ドォン――と。

 言い終わると同時に空中から何かが降ってきた。

 それは土煙の中から、ゆっくりと出てきてルクスの肩を掴んだ。

 

 

「ルクス。次、俺が陸な」

 

「う、うん……いいけど?」

 

 

 ルクスはそんなユウキに首をかしげながら、演習場を見渡した。

 

 

 ――やっぱりユウキには敵わない。

 

 

 なぜなら、空中の《ワイバーン》は五機全部がワイヤーで拘束され、残りの《ドレイク》も拘束されていたから。その中にはシャリスの姿もある。ノクトだけは拘束されている他の団員の側に立っているが。

 

 しかしこれで、残るはフィルフィとリーシャだけ。

 

 おそらくユウキは、ルクスがリーシャと一度戦ったことがあるから、変わるように言ってきたのだ。

 ルクスはその意図をしっかり汲み取り、空中へ飛んだ。

 ユウキは、それを見送り――

 

 

「フィル。それじゃ、最終ラウンドだ」

 

 

 ――フィルフィに向けて、楽しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

「ルクスの戦闘スタイルはこの前の試合でわかっていたけれど、ユウキ君も随分と変わった戦い方をするのね」

 

 

 クルルシファーは朱と紫の神装機竜と戦う二機の《ワイバーン》を見ながら、小さく呟く。

 舞うように飛び回る蒼とそれを撃ち落そうとする朱と紫。朱色の弾丸と空挺要塞(レギオン)が飛び交う中、空の《ワイバーン》は、それら全てを紙一重で避け、避け、避けていた。そして、隙をついて飛んでくる弾丸には機竜牙剣(ブレード)を最小限に振るうことで、対処する。"避けること"が主の戦い方だ。

 

 しかし、地面を滑る《ワイバーン》の戦闘スタイルはそれと似ているようで、少し違った。

 

 はぁ――と。

 隣から小さなため息が聞こえた。

 

 

「……全く、ユウキ兄さんはまた無茶な戦い方して。そんなだから、機竜への傷が絶えないんですよ」

 

 

「仕方ないのはわかってるんですけど……」、と続ける銀髪は、それでも心なしか眉が上を向いている。どうやら少し不機嫌になっているらしい。

 

 

「アイリちゃん、ユウキ君達の戦い方には何か理由があるのかしら?」

 

「……さあ。私は知りません」

 

 

 僅かな間をおいて答えるアイリ。

 今話している最中も彼女はずっと試合に視線を向けている。正確には、試合が始まってからずっと、だ。そこにどんな感情があるかはわからない。しかし、クルルシファーには、ルクスの妹であるアイリに訊いておかなければならないことがあった。――それは自分に関すること。

 

 

「ねぇ、アイリちゃん」

 

「何ですか?」

 

「――『黒き英雄』と『藍き英雄』って知ってる?」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、アイリはその視線をクルルシファーの方に向けた。試合開始から一度も目を離さなかったにもかかわらずだ。しかし、それも一瞬。アイリはまたしても試合の方に目を向けた。

 

 

「確か五年前のクーデターの際に、旧帝国の装甲機竜(ドラグライド)約二千機をたった二機で破壊し尽くした神装機竜のこと、でしたよね?」

 

「ええ。貴方なら何か知っているかと思って」

 

 

 アイリはルクスの実妹であり、旧帝国の生き残りだ。

 そんな彼女なら、実際に見ているのではないか。クルルシファーはそう考えたのだ。――他の可能性もいくつか疑ってはいるが。

 

 

「私は何も知りませんよ。どうして、そんなことを?」

 

「少し興味があるだけよ」

 

 

 アイリは「そうですか」と言って、それ以降は口を開かなかった。

 

 

『試合、終了ー!』

 

 

 と、アナウンスから聞き慣れた学園長の声が響く。

 考え事をしていた頭を切り替え、演習場へ視線を向けると。

 そこには、悔しさ半分怒り半分のリーシャといつも通り無表情だが、どこか眠そうなフィルフィ、そしてハイタッチをしているユウキとルクスの姿があった。

 

 

『勝者……って言っていいのかしら? まあいいかしら。――勝者、ユウキくんとルクスくん!』

 

 

 最後に中途半端なレリィの声が演習場に響いた――。

 

 

 

 

 




第九話でした。
どうだったでしょうか?
今回は試合終了まで。次の次くらいで物語が動き出す予定です。
アドバイスや意見などありましたら、遠慮なくお願いします!

読んでいただきありがとうございました。
感想、評価お願いします!
それでは、また次回。
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