第一話 再会
「大丈夫か?怪我したやつはいないよな?」
後ろを振り返って言ったはいいものの、案の定誰も返事をしてくれない。
まあ当然だよなー……。
ガーゴイル型の
「おい!お前は誰だ⁉︎」
誰にも返事してもらえずに少しゲンナリしていると、先程最後にレーザーを撃った少女が声を荒げてユウキに聞いた。
その際、これまた先程墜落した《ワイバーン》の前に立って聞いてきてるあたり、ユウキのことを襲撃者か何かと勘違いしてるのかもしれない。
「えーとあの、ここの学園長に用事があって」
ユウキは戦闘の意思がないことを証明するために《ワイバーン》の接続を解除して話す。
「学園長にか?では、お前は襲撃者ではないんだな?」
――やはり襲撃者だと思われていたみたいだ。誤解が解けてよかった。このままじゃ、着いて早々拘束されるところだったからな。
ユウキは内心ホッとしながらも、平然と返事をした。
「ああ、襲撃者じゃない。来た時にガーゴイルを見て入っただけだよ。……無断で入ったのは謝るしかないけど」
「そうなのか……すまなかったな、いきなり剣を向けて」
ユウキは少し安心したような表情で謝る金髪の少女に「気にすんな」と返して、辺りを見回す。
ふぅ……これで一応何とかなりそうだ。後はレリィさんだけど……。
「ユウキ兄さん?」
ボロボロになった、おそらく
ユウキが声の主を確認しようとゆっくり横を向くと。
「やっぱり……!ユウキ兄さん!」
一人の少女が立っていた。
肩まである銀髪に少し潤んでいる、髪と同じ色の目。俺よりも頭一つ分小さいながらも、ほんの少しの色気を纏う身体つき。まだ幼さの残る顔。
ユウキはその少女に見覚えがあった。
「もしかして、アイリ?」
アイリ・アーカディア。アーカディア旧帝国の皇族の生き残りである彼女は、まだアーカディア帝国が健在だった頃のユウキの友人だ。正式には、友人の妹なのだが……まあ、友人と言っていいだろう。
皇族同士だったこと、そして国が隣同士だったこともあり、よく交流があったのだ。――ただそれも5年前のクーデターを境にパッタリと無くなってしまったが。
「久しぶり」
そんなユウキの声を聞いた途端――アイリはユウキに抱きついた。
「お久しぶりです――ではなく!いやまあ合ってるんですけど……あーもう!とにかく、ユウキ兄さん!今まで何処に行っていたんですか⁉︎ずっと探してたんですよ⁉︎」
アイリはユウキに抱きつくのをやめずにそのまま、声を荒げる。
――そういえば、この子が声を荒げているところはあまり見たことなかったな。
ユウキはそんなふうに考えながらも、至ってシンプルに応えた。
「え?何処って……アティスマータ新王国の中にいたんだけど」
「はい?――そうだったんですか⁉︎手がかりもなく、唯一の砦である学園長に聞いても知らないの一点張りで、もうどうすればいいのかと思ってたんですよ……?」
「ごめんごめん、許してくれって。それにしてもアイリ、大きくなったなー」
ユウキがそう言うと、アイリはやっと自分のしていることに気づいたのか、バッとユウキから離れ頬を染めた。
「5年も経てば、成長しますよ……。そう言うユウキ兄さんは、私よりも大きくなってるじゃないですか。5年前は背丈、ほとんど一緒でしたのに」
「あはは。まあ、男だからな。――ルクスは元気?」
ユウキが思い出したようにそう聞くと、アイリは一つため息をこぼしてある場所を指差した。
その先には、未だ倒れて動かない《ワイバーン》。
「あれがルクスなんだ……大丈夫か?」
「大丈夫でしょう。まあ何を言ったとしても、さっきのは兄さんの自業自得ですし」
アイリは澄ました顔でそう言った。――が。
「またまたー。ルクスのこと心配で心配で仕方ないくせに……相変わらず素直じゃないなー、アイリは」
「なぁ⁉︎素直じゃないとは何ですか!私が兄さんのことを心配するなんてありえません!」
ユウキに指摘され、澄ました顔が崩れてしまう。
――訂正。声を荒げるところ、結構な頻度で見たことあったな。
ユウキはそんなことを考えながら、さらに続ける。
「あーなるほど。信頼してるから心配する必要はないってことか。ごめんごめん、間違えた」
「そう言う意味じゃないです!曲解するのはやめてください!大体、ユウキ兄さんはいつもいつも――」
始まってしまった……アイリの説教が。
ユウキはちょっとやり過ぎたかな?と思い、少し反省する。
それからしばらくアイリの説教が続いたので、ユウキは周りの目を気にしてか、頭にポンと手を置いて優しく撫で始めた。
「――何ですか?いきなり。まだ説教は終わってないんですよ?」
「ごめんごめん、俺が悪かったから」
「全くもう、ユウキ兄さんはズルいです。昔もそうやって……まあいいでしょう。でもやはり罰としてもう少しだけ続けてください」
この子、周りの目があること忘れてんのかな?
ユウキはそう思ったが、ここで拒否するとアイリが拗ねるのを知っているので、おとなしく従うことにした。
「はいはい、わかりましたよお姫様」
「お姫様だなんて……もう、からかわないでくださいよ……えへへ」
周りからの好奇の視線。
ユウキはそれに微妙な顔をしながらも、アイリの頭を撫で続けた。
*****
「で?来て早々、アイリちゃんとイチャついてたユウキ・アストレア君。私からの
演習場での一件で頬を染めまくったアイリに案内してもらった学園長室に入ると、そこには一人の女性が座っていた。ピンク色の髪を一つにまとめて左肩の方に流していて、ジト目の奥に見える瞳は金色。久しぶりに見たその顔にユウキは若干の懐かしさと共にため息を一つこぼした。
「いきなりとばしてきますね、レリィさん。お久しぶりです。どこからツッコめば良いのかわかりませんが……とりあえず手紙は読みましたよ」
この人、5年前から全然変わってないな。
ユウキがレリィの顔を見た時に初めて抱いた感想はそれだった。
5年もの月日が経過すれば、大抵の人間に外見の変化は表れる。一番最近で言うなら、やはりアイリだろう。当時11歳だったアイリは、5年の月日を経てかなり大人びた。
そんな風にどこかに必ず変化が表れるはずなのに、レリィにはそれがない。ユウキは、何故か少し戦慄を覚えてしまった。
「イチャついてた方はスルーなのね――まあ良いわ。それより、手紙を読んだのなら話は早いわね。早速、本題に入りましょう」
やっとか……。
ユウキが内心ため息を吐く中、途端にレリィの顔は真剣なものに変わる。
「ユウキ君には、この学園に
「――へ?」
あまりにも意外なことにユウキは素っ頓狂な声を発した。
「いやね?本当はもう一人の子と一緒に協力者として定期的に通ってもらうはずだったんだけど……その子が編入生として認められちゃったのよ。だから、ユウキ君にも編入生として通ってもらうことにしたの」
人の良さそうな笑顔を浮かべるレリィをしばらく見ていたユウキの思考停止した頭は、レリィの頬が赤に染まると同時に一気に動き出した。
「い、いや!ちょっと待ってくださいって!そもそも俺、男ですよ⁉︎」
「あら?さっきも言ったけどもう一人男の子がいるんだから、問題ないわよね?」
「うぐっ……。じゃ、じゃあ!宿はどうするですか⁉︎泊まるところなんてないでしょう!」
「そのくらい私が考えてないと思う?」
「えーと……なら……あっ!まずこの学園の生徒達が許してくれませんよね⁉︎」
よし!これでどうだ!
「そうねー……」
レリィは両肘を机に乗せて、右手の人差し指を顎に添えながらうーんうーんと唸りだした。
やった……!この学園に通うのは何とか回避できそうだ!
ユウキがそう考えていると突然。
ガチャッという音とともに学園長室の扉が開かれた。
「学園長……おっ?お前もいたのか。丁度いい」
入ってきたのは、ユウキが
「君は……」
「学園長、頼まれたもの持ってきたぞ」
「ありがとう、リーズシャルテさん」
ユウキはリーズシャルテと呼ばれた少女が学園長の前にある机に置いた1枚の紙を見て首を傾げる。
「アンケート?」
ユウキは意外なものにさらに首を傾げてしまう。
そんなユウキを見て、レリィは自分は見たからもういいというように少しニヤつきながら、紙を差し出した。ユウキはそれを受け取り、書いてある内容に目をはせる。
「えーと……『もう一人の男子、ユウキ・アストレア編入アンケート』?何ですか?これ」
「たった今、決まったわ。ユウキ君も編入決定よ」
そのアンケートは丁寧な字で書かれており、賛否が分けて書かれている。結果は圧倒的に――賛成が多かった。
「な、何で……?」
いくら何でも、手が早すぎる……。
「うふふ、よかったわね。汎用機竜の《ワイバーン》で
レリィは5年前から成長しているユウキの黒髪や青色の瞳、体つきなどを見ながらそう言った。
「さっ!生徒達の承諾ももらったことだし、編入の手続きをしましょうか」
ユウキは必死に策を考えてみたが何も思いつかず――とうとう諦めた。
「……はい」
「そんなに気負うことはないわ。ルクス君も同じクラスだしね」
「……はい」
「あとユウキ君は整備の方もできるみたいだから、そっちもよろしくね?」
「……はい」
「女の子には優しくするのよ?」
「……はい」
「あっあと、ちなみに部屋は私と一緒だから」
「……はい」
ん?今なんて言った?部屋は私と一緒?
「――って!ええ⁉︎」
「あら、もう言質は取ったわよ?」
ああ――逃げ場がない。
ユウキはまたしても諦めた。
*****
「お前も苦労してるんだな」
リーズシャルテさんの声が耳に入るが、それは今のユウキにとっては追い打ちでしかない。
ユウキは深い深いため息を吐いた。
しばらく無言の時が流れる中。
「お、おい!」
「何ですか?リーズシャルテさん」
突然、リーズシャルテさんが声を荒げて呼びかけてきた。
何だろうか?
「そ、その……さっきは助かった」
「さっき?……ああ、
「し、しかし一応は礼を言う。ありがとう、本当に助かった」
「いえいえ」
学園長との話し合いが終わり、ユウキはリーズシャルテと廊下を歩いていた。ルクスのところに行くためだ。
「あ、あとな。これから級友になるんだし、私のことは『リーシャ』と呼んでくれ。敬語もいらないからな」
「はい――いや、わかったよ。これからよろしくな、リーシャ」
リーシャはそれに笑顔で答えると、ルクスのところに着いたのか立ち止まる。
「着いたぞ、ユウキ。ルクスはここだ」
おそらく医務室であろう部屋の中でルクスは、ベッドの上に座っていた。
「ルクス、久しぶり」
「ユウキ⁉︎やっぱりユウキだったんだ……。演習場でチラッと見たんだけど――本当に久しぶり。5年ぶり、だよね?」
「ああ。俺は何回か見かけたけどな。王都のコロシアムで」
「え⁉︎見てたんなら、声かけてよ!」
「あはは、ごめんごめん」
ルクスは久しぶりに会う友人に思わず笑みが溢れる。それはユウキも同じようだ。
「ルクス、編入するんだよな?」
「うん。もしかして、ユウキも?」
「……おう。レリィさんに一杯食わされた」
二人して暗い表情をしながら会話する。
「あの人、本当に強引だよね……」
「……ああ」
二人を見つめるリーシャも何か気まづそうに突っ立っていた。
しかし、考えたところで現実は変わらない。
ユウキはそう考え、切り替えることにした。――不安は山積みだが。
「まあ何はともあれ、これからまたよろしくな。ルクス」
「うん、またよろしく。ユウキ」
そう言って、笑い合いながら二人は握手を交わした。
「ところでルクス。俺、今日の夜ここで寝ていいか?」
「どうして?」
「色々あるんだよ……」
「ユウキ……お前は本当に苦労してるんだなぁ」
ちなみに余談だが、ユウキが『なぜ俺の住んでいるところが分かったのか』とレリィに聞いたところ
『教えないって言ったでしょ?……ただもしヒントを出すなら――私はアティスマータ新王国の女王であるラフィと顔見知りだということくらいね』
と答えが返ってきた。
それを聞いたユウキが『いや、それもう答え……』と思ったのは言うまでもないだろう。
――何せユウキ一人のために国まで動かしたということなのだから。
第一話でした!どうだったでしょうか?
次も色んな人と絡ませるつもりです!まだ最初ですからねw
読んでいただきありがとうございました!
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それでは、また次回