最弱無敗の神装機竜『藍き英雄』   作:ichizyo

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第二話 北の令嬢

「――というわけで、彼らが今日からこの学園に通うことになった、ルクス・アーカディアとユウキ・アストレアだ。皆、慣れないことも多いだろうが、よろしく頼む」

 

 翌日。

 ユウキとルクスは早速、学園への初登校を果たした。問題である男子用の制服については前日に受け取ったが、教科書までは用意できなかったらしい。現にルクスとユウキは今、完全に手ぶらである。

 

 学園の校舎2階に位置する2年生の教室。

 担任の女教官、ライグリィ・バルハートの紹介を受けた男子2名はそれぞれの表情を浮かべている。ルクスはなんとも言えない表情、ユウキはすごく疲れたような表情だ。

 

 何故ユウキがこんなに疲れているのか、と聞かれれば――やはり前日の夜の出来事が原因であろう。

 

 

 

 *****

 

 

 

 時は遡り、前日の夜。

 

「はい、これ制服ね」

 

 ルクスと別れた後、ユウキがレリィの部屋に行くと、白と青を基調とした男子用の制服を手渡された。

 

「ありがとうございます――って、サイズは……」

 

「うふふ、気にしちゃダメよ?」

 

 いかにも意味深、というような笑みを浮かべるレリィ。ユウキはそんな彼女の表情にため息を一つこぼす。

 

「さっ夜も遅いし、もう寝ましょう」

 

 そう言ったレリィはすでに寝る準備を済ませているのか、しっかりとパジャマに着替えていた。水色のパジャマに白い水玉の模様。このパジャマがまた似合っているのだから、いかに昔から変わっていないのかが伺える。

 

 本当に変わらないなぁ……。

 

 ユウキはそう思いながらも、表情には出さない。

 

「先に寝てていいですよ?俺はそのうちソファで寝ますんで」

 

 ソファを指差しながら、ユウキが言う。だが、何故かそれにレリィは不思議そうな顔で首を傾げた。

 

「ソファ?なに言ってるのよ、ユウキくんも一緒に寝るのよ?もちろんベッドで(・・・・)、ね」

 

「……はい?」

 

 ユウキが素っ頓狂な声を上げて呆然と立っていると、レリィは突然彼の腕を引いた。そして、そのままベッドへ。

 

「ちょっ!レリィさん⁉︎」

 

 レリィは寝転ぶと同時に抱きついてユウキを完璧にホールドする。

 

「おやすみなさい」

 

 レリィは自分の体をしっかりと密着させた。そんな彼女の表情はとても穏やかなもの。しかし、ユウキの表情はそれとは正反対のものだった。何故なら――レリィの女の象徴である豊かな双丘が、背中にその柔らかさをはっきりと伝えているからだ。

 

 や、柔らかくて気持ちいい……――じゃなくて!

 

「ね、寝ないで離してくださいよ!」

 

 ユウキは離れようとするが、なかなか離れられない。足まで絡みついているからだ。

 

「……くー」

 

「いや、寝るの早くないですか⁉︎」

 

 その後もどうにか脱出しようと試みたが、結局抜け出せず、理性を失わないようにして眠れない夜を過ごしたユウキであった。

 

 

 

 *****

 

 

 

「……帰りたい」

 

「僕もだよ……」

 

 ユウキはため息を吐かないように気をつけながら、横に立つ緑色の髪の女性を見る。

 

 ライグリィ・バルハート。

 彼女は、旧帝国時代、女性の身でありながら、唯一の機竜使い(ドラグナイト)として活躍し、クーデターの際には女性の味方として新王国側についた。

 そしてその美貌と凜とした性格は、女生徒たちの間では無二の人気を誇っているらしい。

 

 するとユウキの視線に気がついたのか、ライグリィがユウキを見た。

 

「?どうした?自己紹介をしろ」

 

「あっ、すみません。――ユウキ・アストレアです。よろしく」

 

「えっと……ルクス・アーカディアです。よろしくお願いします」

 

 少しぎこちなく挨拶をしたユウキは改めて教室を見渡す。席についている生徒は皆、女生徒。そんな、男なら当然のように喜ぶ状況で、男子2名は両名とも気まずそうな表情をしていた。

 まあ、それは当然だろう。何事でも『場違い』というのはしんどいものだ。それを2人は今実感しているのだから。

 

 ――それにしても、いくら『将来の共学化を検討しての試験入学』という名目があるからって、簡単に編入を許可するのはどうなんだ?……たとえ仮入学だって言ってもさ。

 

 それを言った時のレリィの笑みを思い出して、ユウキはまたしてもため息を吐きたい気分に駆られた。――まあ、なんとか耐えたが。

 

 ユウキがもう一度視線を教室内に向けると、今度は先日見た金髪が目に入った。よほど昨日の疲労が残っているのだろう。彼女は机に両腕を置いて、眠そうに舟を漕いでいた。

 

 静かだった教室内に小さなざわめきとひそひそ声が満ちていく。こちらをチラチラ見ながら隣の女生徒に耳打ちをしていたり、あからさまにこっちを指差していたり――正直いい気はしないだろう。むしろ不快感を覚えてもいいくらいである。

 

 ユウキとルクスはライグリィに促され、席を探し始める。空いている席は2つ。その2席はどちらにしても、隣が女生徒だ。まあこれは当然だ。

 

 ん?あれは――。

 

 机と机の間を進んでいく中、ユウキが『誰か』を発見する。

 

「ルクスはそっちな」

 

「え?どうして?」

 

「いいから。じゃ、また後で」

 

 ユウキは後ろの席を目指して一直線に進み、空いている席に腰を下ろした。そして、ルクスを見やる。

 

 

 

「……あ。ルーちゃんだ」

 

 

 

 俯きながら席についたルクスはその声に反応し、パッと頭を上げて横を向いた。

 

「――え?」

 

 ルクスがその視線の先に捉えたのは、とても久しぶりに会う少女だった。

 窓から入り込む風に揺れる桜色の髪。ふわりとしたその髪は頭の両側で2つにまとめられている。そして彼女が纏うどことなくぼんやりとした雰囲気は、その髪型とも相まってどこか小動物的な印象を見る人に与える。

 しかしやはり目立つのは、制服を大きく押し上げるほどの豊かな胸だ。その双丘はどこか幼さの残る顔の彼女に不思議な魅力をもたらしていた。

 

「久しぶり、だね」

 

 その少女は少しゆったりとした柔らかな声で、ルクスに微笑みかけた。

 ルクスはそんな喋り方と雰囲気に覚えがあった。

 

「もしかして、フィルフィ……?」

 

「うん、そうだよ」

 

 フィルフィ・アイングラム。

 大商家、アイングラム財閥の次女であり、ルクスの幼馴染でもある少女。さらには、学園長レリィ・アイングラムの実妹でもある。

 

 ルクスはそんな幼馴染との7年ぶりの再会に頬を緩ませた。

 

「学園に通うんだ?嬉しいな。よろしくね?ルーちゃん」

 

 あまり嬉しくなさそうに、さらに多少棒読み気味で言ってはいるが、彼女が感情表現の苦手な少女だということをルクスはちゃんと知っている。そして、口数が多くない分、彼女が正直な性格であることも。

 

 それを知っていることもあってか、彼女の柔らかな声とゆったりとした話し方にルクスは多大な安心感を覚えた。

 

「うん。こちらこそよろしくね」

 

 それを見たライグリィは「よし、2人とも席は決まったな。では、授業を開始する」と言って教科書を開いた。

 

 やっぱり彼女だったか……。

 

 そう思っているのは、ルクスより後ろに座るユウキだ。先ほどユウキが発見したのは、まさに彼女――フィルフィであった。

 ルクスが幼馴染だということは、もちろんユウキとも面識があるということである。そして、もちろん遊んだことも。

 

 フィルフィも大きくなったなぁ。

 

 アイリの時と同じような感情を覚え、なんとなく顔が笑顔になってしまうユウキ。

 そんなユウキを視界に捉える少女が1人いた。

 

「――――ニヤニヤしてるところ悪いけど、いいかしら?」

 

 ユウキの席は廊下側から二列目の一番後ろ。声が聞こえたのは、廊下側からだ。

 

 凜とした透明感のある、授業ということもあってか少し抑えられた声がユウキの耳に響く。

 ユウキがそちらを向くと、そこには――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――妖精がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 いや妖精ではなく――妖精のように美しい相貌の少女、というのが正しいだろう。

 

 水色の髪に髪と同じ色の瞳。その凜とした雰囲気は鋭くなく、むしろ柔らかい印象を与える。要するに親しみやすそうだ、ということである。

 彼女は腰あたりまである髪を揺らしながら、ユウキを見ていた。

 

 そんな彼女にユウキは少しの間、見惚れてしまう。

 

「な、何ですか?」

 

 しかし、流石に返答しないのは失礼と思い、慌てているのを表情に出さないようにして返答した。

 

「あら?ニヤニヤしてるっていうのは否定しないのね」

 

「まあ否定はしませんよ?何せ、幼馴染の久しぶりの再会なんですから。不快にさせてしまったのなら、謝ります。――それで、何か御用ですか?」

 

「別に不快ではないから安心して。――私はクルルシファー・エインフォルク。よろしくね」

 

 ユウキは自己紹介をするクルルシファーと名乗った少女に少し苦笑を込めて返答する。

 

「ユウキ・アストレアです。よろしく。意外とお茶目なんですか?エインフォルクさん」

 

「どうして?」

 

 クルルシファーは心底不思議そうに、しかし少し楽しそうにユウキに聞く。

 

「いえ、いきなり挑発してきたなと思ったので。違ってたのならすみません」

 

 ユウキのその言葉にクルルシファーは少し驚いた後、くすっと笑い。

 

「あなた、見かけ通り鋭いのね。面白いわ」

 

「……ありがとうございます」

 

 ユウキは何とも言えない表情で、一応お礼を言った。そんなユウキにクルルシファーは、また話し出す。

 

「ユウキ君。あなた教科書はあるのかしら?」

 

「ありませんよ、エインフォルクさん。――できれば、一緒に見せて頂けると助かります」

 

「いいけど、条件があるわ」

 

 ユウキは『教科書を見せてもらうのには条件があるのか』と思いながらも、やはり表情には出さない。そして、代わりに首を傾げた。

 

「私のことをエインフォルクと呼ぶのはやめて。他の呼び名なら構わないから」

 

 そう言うクルルシファーさんは、どことなく悲しそうな雰囲気を醸し出している。

 

 何かあるのか……?

 

 しかし、ユウキは今聞くのは野暮だと思い、その考えを頭の片隅に追いやった。

 

「わかりました。クルルシファーさん」

 

 そう呼ぶと、クルルシファーは薄く笑みを浮かべ教科書を差し出した。ユウキもそれに合わせて机をくっつける。周りの生徒が何やらザワついているが、まあ気にしても仕方がないだろう。

 

 すると、いきなり教室内にくすくすと笑い声が響いた。授業をしていたライグリィまでも笑いを堪えている。

 

 何だ?

 

 ユウキはそう思って周りの声に耳をすました。

 

「かわいー」「フィーちゃんだって」「あの2人、そういう仲だったんだ」

 聞こえてきたのはそんな声。

 ユウキは『フィーちゃん』という単語を聞いて、何となく事情を察してしまった。

 そして、顔を真っ赤にしてこっちを見ているルクスにアイコンタクトで『どんまい』と伝えて、前を向いた。

 

 

 

 *****

 

 

 

「少し話、いいかしら?」

 

 昼休みになると、クルルシファーがそう声をかけてきた。周りの女生徒は、チラチラとこちらを伺っている。ユウキはそれに笑顔で返すと。

 

「いいですよ」

 

 と返答した。

 

「じゃあ、行きましょう」

 

 クルルシファーはユウキの腕を掴んで、教室の外へ。

 

「――まさか、クルルシファーさんが興味を抱かれるなんて」

 

「あの人は一体何者なのかしら?」

 

 後ろから聞こえてきた女生徒の声に、何となく不安を抱きながらユウキはクルルシファーについて行くのだった。

 

 

 

 

 

「それで、話って何ですか?」

 

 教室から出て、廊下を歩き階段を上がった。そして、今は無人の屋上。クルルシファーが手すりに近づき、そっと眼下を見下ろした。ユウキはそんなクルルシファーに要件を聞く。

 

 屋上からは広い学園敷地内の景色が一望できる。緑の生い茂る中庭に、大きな校舎。少し遠くには、女子寮や機竜演習場、他にも色々な建物があった。

 

「――じゃあ、まず1つ」

 

 ユウキは口を開いたクルルシファーに集中する。

 

「あなた、一体何者?」

 

「……どういう意味ですか?」

 

 少しの間を空けて応えたユウキにクルルシファーはそう聞いた理由を話す。

 

「そのままの意味よ。1つ目、あなたは汎用機竜《ワイバーン》で幻神獣(アビス)を倒した。――負傷していたとはいえ、そう簡単にできることじゃないわ」

 

 ユウキは表情を変えない。それを見てクルルシファーはさらに続ける。

 

「2つ目、立ち振る舞いよ。午前中見た限り、あなたがただの庶民とは思えないのよ。3つ目、あなたの知識。教科書をほとんど見ずに質問に答えていたわ。――――理由としてはこんな感じかしら?」

 

 クルルシファーは全てを言い切り、ユウキの反応を見る。ユウキは少し間を空けてゆっくりと口を開いた。

 

「……すごい洞察力ですね。だけど――」

 

「わかってるわ。無理に聞き出そうとは思ってないから」

 

 ユウキはそのクルルシファーの言葉に多少の驚きと戸惑いを覚えた。

 

 ――無理に聞き出す気がないのに、何でこの人はそんなことを聞いてきたのだろうか?

 でも、助かった。これで無理にでも聞き出されていたら――まあそれでも答える気はないが。

 

 ユウキがそんなことを考えていると、クルルシファーが1つ息を吐いて口を開く。

 

「まあいいわ。――ただ1つ言わせてもらうなら、見惚れている時の顔は可愛かったわよ」

 

 ――っ⁉︎見惚れてたの、バレてたのか……。

 

 ユウキは自分の顔が赤くなるのを止めることができなかった。当然だろう。本人にそのことを指摘されれば、恥ずかしくもなる。

 

 それを見たクルルシファーはまたくすっと笑い。

 

「よかったわ。あなたが無害そうな男の子で」

 

「……クルルシファーさんはちょっと、お茶目すぎですよ」

 

 互いに冗談を言い終えると、無言の時間が流れ出す。

 

 心地いい風がクルルシファーの髪を揺らした。

 

「私はユミル教国から留学でこの学園に来たの」

 

 風が止むと、クルルシファーが突然話し出す。ユウキはとりあえず黙って聞くことにした。

 

「目的を果たすために、ね」

 

「目的?」

 

「ええ、目的。いくつかあるのだけど」

 

 クルルシファーは屋上から見える景色に向けていた視線をユウキに移す。ユウキが見たクルルシファーの表情は真剣なものだった。

 

「……ねえ、『黒き英雄』と『藍き英雄』って、あなたは知ってる?」

 

「……え?」

 

 ユウキは予想外の質問に少し驚いてしまう。

 

「たった2機で――帝国の装甲機竜(ドラグライド)約二千機をほぼ全て破壊して、敗北へと追い込んだ怪物達。所属も目的も不明。使い手は――新王国にさえ、確認されていない。故に旧帝国にとっては滅びの悪魔、新王国にとっては、伝説の英雄として語り継がれている」

 

「……聞いたことくらいはあります」

 

 ユウキは返答に困った。クルルシファーの意図が読めないからだ。

 

 何せその片方は――――。

 

「……」

 

 クルルシファーはただ静かに、ユウキを見据えている。

 暫くそうしていると。

 

「ユウキ君は、ルクス君みたいに雑用はするのかしら?」

 

「え?わ、わかりませんけど……」

 

「そう。――もし雑用をすることになったら、私から依頼があるわ」

 

 クルルシファーは真剣な表情を崩さずに言う。ユウキはそんなクルルシファーに多少たじろぎながらも、聞き返す。

 

「……内容は?」

 

「『黒き英雄』と『藍き英雄』を探して」

 

「……⁉︎」

 

 ユウキが驚き、息を飲むと同時に。

 ゴーン!という大きな鐘の音が時計塔から聞こえてきた。

 

「午後の授業が始まるわね。次は、装甲機竜(ドラグライド)の実技演習だから、急いだ方がいいわ」

 

 クルルシファーはそれだけ言うと、屋上から降りる階段へと向かう。それにユウキも続こうと歩き出すと、クルルシファーが突然立ち止まり、ユウキの方を振り向いた。

 

「それともう1つ。堅苦しい敬語はなし、よ?」

 

 そう言って、また歩き出す。

 

「りょーかい」

 

 ユウキも頷き、ゆっくりと階段を降りるクルルシファーに続いた。

 ――多少の不安を抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、ユウキが屋上から教室に帰ってくるとすぐに箱を渡された。中身は沢山の雑用依頼書。それを渡したルクスは。

 

『なんかごめん……どんどん話が進んじゃって。いつの間にか、ユウキの分まで出来てたんだ……』

 

 と、申し訳なさそうに話した。

 

 

 

 

 

 

 

 その日、校舎中に響き渡る絶叫を全生徒全職員が聞いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第二話でした!どうだったでしょうか?

今回は完全に原作沿いでしたね……。すみません。
そしてクルルシファー登場。
何気にまだオリ主とフィルフィが絡んでいないという……次こそは!
次はもっと多くのキャラと絡ませたいです!

ところで夜架はどうしましょうか……悩みどころです。

読んでいただきありがとうございました!
感想、評価待ってます!
では、また次回
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