「間桐君。貴方、そんな下らない理由で私を呼びつけたの?」
屋上でとある二人の男が慟哭の涙を流している事、数時間。
アーチャーのマスターの遠坂凜は放課後の夕暮れの中、相手を値踏みするような冷たい目で自分を呼びつけた男を見詰めていた。
その目と言葉にプライドを傷付けられたが自分が手に入れた力を思い返し何とか自尊心を守りながら言葉を返すのは…………
「下らない? 何を言ってるんだ遠坂。これは僕なりの優しさだぜ?
お前が僕と同盟を組めば向かうところ敵なしだし、この結界も解いてやるよ。
これはお前に対する見せしめだったしな。
お前が僕の言うことを聞くなら不要だ。
これは魔術師の契約さ。お前との同盟の対価に僕は結界を解く。お前は僕と契約し僕と一緒に聖杯を求めて戦う! 僕とお前は対等さ」
間桐慎二だった。彼は必死に凜に言葉を投げ掛けるが凜のその目は相変わらず冷たい。
何故なら彼、間桐慎二には魔術回路は無い。いや、正確には開いている魔術回路は無い。それはどう頑張っても開く物ではない。
それは例え彼が魔術師の名家の生まれだろうとだ。
そんな彼が魔術師であろう筈もない。確かに今、彼には魔力の気配がある。
だがそれは本人の魔力ではなくサーヴァントの魔力だ。この気配は学園に張られている物と同一の気配だった。
だがその時点で彼女から言わせるなら彼との同盟は駄目だった。
少なからず彼女にとってここに手を出すのはタブーだった。
「そう。間桐君。いいわ。認めましょう。貴方と私は今から魔術師として対等として見るわ。只のクラスメイトではなくね」
彼女の言葉を聞き自分との同盟を受諾したのだと思ったのか口に喜悦を滲ませる。
「だったら…………」
「今すぐサーヴァントにここの結界を解かせたあとサーヴァントを自害させなさい。慎二」
「な! 何を言ってるんだ遠坂!? 冗談だろ!? ふざけるなよ!」
まるで慌てたように慎二は喚くが彼女は更に突き放す。
「ふざけているのは貴方よ。貴方に魔術師の心構えなんか無い。貴方にサーヴァントなんて不相応だわ。慎二、貴方に魔術師なんてできない」
「なんだと!? 僕が魔術師に相応しく無いって言いたいのか!?」
「そうよ。貴方と一緒にいるくらいなら衛宮君と組んでる方が百倍増しだわ」
その瞬間、慎二の頭は空白になった。この言葉は少なからず彼の心を違う意味で砕く物だった。
衛宮君と組んでる方がまし? 衛宮と遠坂が同盟? あの衛宮が魔術師だって? あの中二病が? あの中二病の方が自分より優れている? あり得ない。あり得る訳がない。
そんな怒りを傍にあった樹に拳をぶつける慎二を冷めきった目で見る凜。
ここで凜は気付かないが二つのミスを犯していた。
一つは衛宮士郎が魔術師であると言ってしまった事。
そして二つ目は間桐慎二のプライドをズタズタにしてしまった事。
凜はそれに気付く事もなく慎二に何も言わず歩き去った。
凜がその時、考えていたのは自分の言葉でもなく自分のミスでもなく衛宮士郎の自分のサーヴァントも傍に連れて置かない危機感の無さだけだった。
それが後にどれだけ響く事になるのかも気づかぬまま。