死体探偵   作:チャーシューメン

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 ナズ「り、りろんはしってる」

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 ※置いてあるのは同じです。



ニトリ・ボンバイエ

 

 速足で沢を渡り、迷彩色のテントに近づくと、そのドアを無造作に開け放ち、ずかずかと中に侵入した。テントの主は食事中だったらしく、胡瓜を半分口にくわえたまま、仰天して目を見開いていた。それにも構わず、私はその河色のツナギの胸元をぐわしと掴んだ。

「おい。舐めてるのか」

「え? え? なにが?」

 口にくわえた胡瓜をポロリと落とし、河城にとりは目を白黒させるばかりだった。ガラクタに囲まれて無頓着に暮らしているから鈍くもなるんだ、まったく。

「すっとぼけもその辺にしときな」

「へ? は?」

 アルコールランプの灯りの下、私がジロリと睨みつけても、にとりはぽかんとしている。

「いきなりやって来て、何に怒ってるのさ? ナズーリン」

 これだから河童って奴は。

「決まってるだろ。これだよ、こ・れ!」

 私は背負ってきた無意味に重いその機材をにとりの目の前に下した。ドスン、とおおげさな音がするが、重さのほうも大げさなので釣り合いが取れている。

 にとりはその機材を見ると、あーあとしたり顔で唸った。

 この機材。名前をネオレアメタルディテクターと言う。私がにとりに特注した、特定の金属を探知するための機械である。にとりが唸ったのは、一目見て分かるほどに壊れているからだ。上部に付いていた操作盤は吹っ飛んで内部基盤を晒しているし、探知結果を表示するためのパネルにもヒビが入っている。おまけに金属製の本体はベッコベコにひん曲がり、黒い煤で覆われている始末。

「操作したらいきなり爆発したぞ。どうなってるんだ、一体」

 にとりは私の文句を鼻で笑った。いかにも無学な輩を見下す潔癖症のインテリみたいな眼をして。なにこいつすごく殴りたい。

「ったく、素人はすぐそういう事言うんだから、困っちゃうよなぁ。あんたが悪い癖にさぁ」

「何ぃ?」

 溜息交じりに私の胸を小突いて。

「押したんだろ? 自爆スイッチ。爆発するのは当然じゃないか」

 私はめまいを覚えて、よろよろとふらつき、ネオレアメタルディテクターという名前の粗大ごみに手を付いた。

 数秒後。呼吸を整え、私はあらん限りの大声を振り絞った。

「なんでそんなの、つけてるんだよ!」

 

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 依頼人である肥満気味の中年男性は、額(正直、禿げて額なんだか頭なんだか分からないが、たぶん額)の汗を手拭いで拭きながら、心配そうに言う。その気持ちもよく分かる。なにせ前回は爆発したからな。そりゃ怖いよ。

「今度は大丈夫ですよ」

 依頼人の家の広い庭の真ん中で、背負っていたネオレアメタルディテクターを下ろした。

 庭は広いが、これと言って手入れされているものではなく、鑑賞に耐えるものではなかった。ただ単に空き地の隅に池があると言った具合だ。家主の性格が伺えるというもの。先代の家主は有名な道楽者だったので、少し期待していたのだが。妖夢の造った白玉楼のあの見事な庭と比べると、月とスッポン……いや、比べるのも失礼だな。

 今回の探し物はなんと、死体ではなかった。先代の形見を探して欲しいという依頼だ。

 先代が貴重な金属で作らせたという美術品が見当たらないらしい。私は盗難を疑ったが、家主は違うと言う。先代が死ぬ前に埋めたに違いないと。なんでも、先代は人をからかうのが趣味の悪戯好きで、よく貴重な物を庭に埋めて隠しては、下男にそれを探させて面白がっていたという。子供か。

 という訳で私は庭の探索を行う事になったのだが、人間の里でおおっぴらにロッドや鼠を使う訳にもいかず。ダウザーの私としては非常に癪だが、今回は機械の力に頼ったという次第である。

「また爆発なんてされたら……」

 小心の家主が汗を拭きながら言う。肌寒いと言うよりもう寒い季節だと言うのに、汗っかきな家主だ。少しは節制したらどうだい……なんて、依頼人じゃなかったら言ってるんだけどな。

「大丈夫ですよ、自爆スイッチは外させましたから」

「えっ、自爆?」

「とにかく、スイッチオン」

 操作盤上で一番目立つ赤いボタンを押すと、ウィィンと音を立てて、ネオレアメタルディテクターが震えだした。ひぃぃ、と叫びながら家主は庭の松の影に隠れた。小心だな。無理も無いけど。

 ネオレアメタルディテクターは景気よくガタガタと震えていたが、それだけだった。パネルを見ても、何も表示されていない。

「動かないな……」

 赤いボタンは単なる電源ボタンなのかもしれない。私は操作盤を覗き込んで見たが、無機質なボタンが並ぶのみで、眺めるだけで頭痛がしてきた。

 まあこういうのは適当に押してみるに限るな。押しちゃいけない自爆スイッチは取り外させたことだし。

 私は適当にポチポチとボタンを押してみた。

 すると、にわかにパネルに光が灯った。

 パネルの中心の光源がこのレアメタルディテクターの位置を示しているのであろう。しかし他には何も映らない。感度設定が低すぎるのだろうか。設定を変えようと、私はいろいろなボタンを押し続けた。

 途端、目の前がまっ白くなり、熱風が私の体を吹き抜ける。

 数瞬後、ボォン! という爆発音が響き渡った。

「だ、大丈夫ですか? やっぱり爆発しましたけど」

 家主が慌てて駆け寄ってくるのを煤だらけの手で制して、私は言った。

「……ちょっと出かけて来ます」

 ベッコベコになった粗大ごみを担いで、私は風になった。妖怪の山の裏の滝、にとりのテントへと急ぎに急いだ。

 沢で釣りをしていたにとりは、ゴミを担いで煤だらけの私を見やると、腹を抱えてゲラゲラ笑った。

「なにその格好、イメチェン? イメチェン?」

 なんてムカつく顔だ。ぬえの煽り顔にも匹敵する。

 私が無言で釣り竿を蹴折ると、流石のにとりも黙った。折れた釣り竿が、がらりと岩場に転がった。

「おい。外せって言ったよな? 自爆スイッチ」

 私は出来るだけ冷静に、声を押し殺して言った。

「そりゃ、外したよ」

 あっけらかんとにとり。

「じゃあなんで爆発するんだよ!」

 にとりはふふんと鼻で笑った。みすぼらしい農民を見下す浪費家の女王様みたいな顔して。

 反射的に出そうになった手を、息を飲み込んで誤魔化した。私の自制心は自慢するに値すると思う。すごい。

「ったく、素人はすぐそういう事言うんだから、困っちゃうよなぁ。あんたが悪い癖にさぁ」

「何ぃ?」

 溜息交じりに私の鼻っ面をちょんと小突いて。

「どうせ入力したんだろ? 自爆コマンド。爆発するのはあったりまえじゃあないか」

 ……私は確信した。

 河城にとりは天才である。

 話しているだけで人を頭痛にさせるとは、よっぽどの天才に違いない。

「なんでそんな機能つけてんだよ! 要らないんだよ、ぜんっぜん! 外せ!」

 温厚な事で有名なこのナズーリン様が声を荒げてしまうのも、無理はないだろう?

「馬鹿言うな。自爆装置のない機械なんてロマンがない。それに、にとりと言ったら自爆、自爆といったらにとりじゃないか。オーディエンスもそれを期待してるんだぞ」

「私は期待してない!」

「大体な」にとりは私の胸に指を突き付けて、責めるように眉をくねらせた。「あんたが悪いんだろ? 取説も読まないような輩に、文句言われたくないね」

 取説……。

「もらってないぞ、そんなの」

「欲しいって言わなかったじゃん」

 しれっと言い放つにとりに私の右ストレートが飛ばなかったのは、ひとえに修行の賜物である。やっててよかった仏門式。

 私は溜め息と一緒に怒りを吐き出した。

「……まあ、いい。早くこの粗大ごみを直せ。ついでにその自爆コマンドとやらを解除しろ」

「へーへー。けっ、ロマンを解さない奴だよ……」

 にとりは口を尖らせながら吐き捨てたが、私は頑張って聞いてない振りをした。

 

 

「本当に、本当に大丈夫なんですか?」

 小心の家主が言う。いやまあ、小心じゃなくても怯えるだろうな、二回も爆発すればさ。私も怖いよ。

 だが今回の仕事は、絶対に完遂したいのだ、私は。そのためには、にとり謹製の自爆ロボでも使いこなしてみせる。

「大丈夫です。……たぶん」

 たぶん、の部分が小声になってしまうのは、仕方なかろう。

「それに今回は取説もらってきましたから」

「ぜ、前回は持ってなかったんですか」

「それじゃあスイッチオン!」

 操作盤上でキラキラ輝く赤いボタンを押すと、ウィィンと音を立てて、ネオレアメタルディテクターが震えだした。ひえぇ、と叫びながら家主は庭の松の影に隠れた。

 ネオレアメタルディテクターは景気よくガタガタと震えていたが、やはりそれだけだった。パネルを見ても、何も表示されていない。前回と同じだ。

 だが今回は大丈夫。何と言っても、私には取説がある。

 私は操作盤に向かい、取説を開いた。

「なになに……まず電源オンとな。そりゃ、やってる。次にやるのは……え、ユーザー認証?」

 な、なんでそんな機能つけてんだ、あの河童野郎!

 操作盤の前でおろおろしていると、心配したのか、家主が声を掛けてきた。松の影から。

「た、探偵さん、大丈夫なんですか?」

「大丈夫、大丈夫です! なんとかします!」

「探偵さん……もしかしてメカ音痴なんじゃ……」

「そんなことはありません!」

 舐めるなよ、私だってスマホくらいなら使えるぞ。ただちょっと、録画予約とか苦手なだけだ。

 針のような家主の視線で背中が痛い。私は慌てて取説を見返したが、ダメだ、さっぱり頭に入らない。頭の中が焦りとにとりへの怒りでいっぱいになって……。

 キイキイキイ。

 賢将の鳴き声で我に返った。

 いつの間にか盤上に登った賢将が、操作盤の一角を尻尾で指している。小さな金属面がむき出しになったそれは、どこかで見覚えがある。きっと指紋認証装置だ。

 さすが賢将。

 あっぱれ賢将。

 録画予約はいつも賢将。

 私は意気揚々と親指を押し当てた。すると、ブブーっと音が鳴った。認証に失敗したらしい。

 それならばと今度は人差し指を当ててみる。しかし、またもやエラー音。

 そんなに言うならと、私は靴と靴下を脱いで、足の親指を金属面に押し当てた。

 途端、目の前がまっ白くなり、熱風が私の体を吹き抜ける。

 数瞬後、ボォン! という、もはやおなじみの爆発音が響き渡った。

「だ、大丈夫ですか? 今度も爆発しましたけど」

 家主が慌てて駆け寄ってくるのを煤だらけの手で制して、私は言った。

「すぐ戻りますんで」

 私が妖怪の山へと駆けるその速度、きっと天狗にも負けない事だったろう。

 にとりは河原で焚き火をしていた。よだれを垂らしながら、胡瓜を炙っている。今も昔も、河童のセンスは分からない。

 私はバケツで水をぶっかけて、焚き火を消してやった。

「なにすん……ぶふっ」

 文句を言いかけたにとりだが、煤だらけの私と賢将を見て笑いを堪えられなかったようだ。腹を抱えて転げまわった。

「何回同じことやれば気が済むのさ、ナズーリンったら」

「それはこっちの台詞だ……」

 焚き火も掻き消せそうなほど冷たい声で私は言う。正に怒髪天を突く勢いで私は怒っていた。そりゃそうだ。何回同じ事させられればいいんだよ。

「ユーザー認証とか、いらない機能付けてんじゃねぇよ……」

 にとりは私の文句を鼻で笑った。いかにも田舎者を見下す都会の若者のような眼をして。純粋に、腹立つ。

「何言ってんだ、時代は今まさに、セキュリティ戦国時代だぞ。ユーザー認証くらいつけなきゃな」

「ちっとも認証されなかったぞ」

「そりゃあんた、ユーザー登録してないからだろ」

 悪びれも無くにとりが言う。

「……登録? 聞いてないぞ」

「したいって言わなかったじゃん」

 この時ほど、自分の忍耐力の強さを恨めしく思ったことはない。嗚呼、この小生意気なゲス顔を力一杯ひっぱたけたならば、どれほど気が晴れるだろうか……!

 私は脱力して、その場にうずくまってしまった。

 流石に悪いと思ったのか、にとりは頭を掻いた。

「あー……うん、まあ、認証の件は、言わなかった私が悪かったな。ってか私も忘れてたわ、認証機能の存在」

 あっはっは、とにとりが笑う。

 私はもう、不満で息も絶え絶えである。

「なあ。最初に言ったろ。私はこの仕事、絶対成功させたいんだ。私が里でなんて呼ばれてるか、知ってるだろう」

「死体探偵、だろ」

「そうだよ。いつもは死体探しばっかりさ。気が滅入るよ。だけど今回は違うんだ。探してるのは死体じゃない。私が死体探偵なのを知って、それでも仕事を依頼してくれた依頼人の期待に、私は絶対に応えたいんだ。頼む。力を貸しておくれよ」

 私が見つめると、にとりは目を伏せ、分かったよ、と呟いた。

 泣き落としは成功。今度こそ、と言ったところだろう。

 ついでに、私は追加注文をつけた。

「今度はユーザー認証とか、いろんなボタン押したりとかの小難しいのはいらん。取説が要らないような奴に改造してくれ、ボタンひとつで全部済ましてくれ」

「ボタンひとつで? 一から十まで全部オートでやるってこと?」

「外の世界じゃ大体そうだぞ。何事もボタン一個、ワンタッチで済むもんだ」

「まあいいけどさ。機能追加ってんなら」

 にとりはおもむろに右手の平を上にして差し出した。

「……なんだい、その手は」

「決まってるだろ、金だよ、カ・ネ!」

「この上、金銭を要求なさると?」

「当たり前だろ? こちとら遊びじゃねえんだよ」

 私の鉄の自制心は、振り上げようとした拳を留めることに成功した。自分で自分を褒めてあげたい。

 ……でも、足は出た。

 私の飛び蹴りがにとりの腹に突き刺さり、にとりの花のような唇から胡瓜色の液体が飛び出したのは、避け得ぬ運命だったに違いない。

 仏の顔も三度までだ。

 

 

「あの……もう、やめたほうが……」

「大丈夫、大丈夫です! 三度目の正直です!」

「もう四度目なんですけど……」

 家主の私を見る目が、明らかに胡散臭いものを見る目つきになっている。

「大丈夫、今回は絶対大丈夫です!」

「毎回そう言ってますけど……」

 松の影に隠れながら家主はそう言う。まるで私自身が爆発物みたいじゃないか、信用が無いな。……無理もないけどさ。

 この期に及んでしまったらもう、勢いで押し切るしかない。

「大丈夫です! 今回はなんと言っても、全自動ですから! ワンタッチです、ワンタッチ! だから絶対、大丈夫です!」

「そ、そうですか」

「行きます! スイッチオン!」

 操作盤上で燦然と煌めく赤いボタンを押すと、ウィィンと音を立てて、ネオレアメタルディテクターが震えだした。ひょえぇ、と叫びながら家主はアーク溶接用マスクを眼前に構えた。どこからそんなものを……。

 ネオレアメタルディテクターは景気よくガタガタと震えていたが、やがてその震えがおさまると、パネル上に光点が表示された。

 一つはこのネオレアメタルディテクターの位置を示す中心点。そしてもう一つが目標物か。

 ……はて。

「ちょっとコレを見てください」

 私が機材を引っ張ってゆくと、家主は怯えて逃げ出そうとしたが、先回りした私が腕を捕まえたので、それは叶わなかった。しぶしぶパネルを覗き込む家主に、私は指差して説明した。

「この光点が現在地で、こっちの点が目標物らしいですが。明らかに庭からはずれていませんか?」

「おや……確かに」

 光点の示す方角へ向かってみると、屋敷の縁側にぶち当たる。

「ということは、縁の下かな?」

 家主は首を捻っていた。

 私は何の気無しに庭から障子の空いた書斎内を眺めたが、ふと妙に輝く物体を卓袱台の上に発見した。

「失礼」

 家主に断って屋内に上がり、それを手にしてみる。

 見た目は只の灰皿だが、その光沢は異様だった。触り心地はひやりと冷たく、表面に映った私の影は揺らいで見える。

 試しにそれをネオレアメタルディテクターの側に持ってゆくと、光点がまばゆく点滅し始めた。

 これだ。

「この灰皿、まさか。緋緋色金製ではないですか?」

 私がそう口にすると、家主は目を剥いた。

「ああっ、ま、まさか親父のやつ! あの剣を溶かして、灰皿になんかしていたのか! 全然気づかなかったぁ!」

 ……いや、気付けよ。明らかに異様な風体じゃないか、この灰皿。なんてつっこみ、依頼人じゃなかったらしてたんだけどな。

 つまり家主は目的の物を最初から所持して、しかも日常的に使用していたわけだったのだが、そうなると私の苦労は一体なんだったのかと思う。

 だが、

「いやあ、ありがとう。一時はどうなることかと思ったけど、依頼してよかったよ、探偵さん」

 手放しでそう言われては、悪い気がしない私だった。

「ところで。なんかその機械、さっきからピーピー鳴ってますけど……」

「エッ」

 確かに先ほどから、やかましい機械音が鳴り響いている。

 慌ててネオレアメタルディテクターを見やると、ブスブスと黒い煙を吐いていた。

「やばい、離れて……!」

 私が振り向いた時には、家主は既に松の影。

 私が呆気に取られていると、目の前がまっ白くなり。熱風が私の体を吹き抜けて。

 数瞬後、ボォン! という、今ではもう親しみすら感じてしまう爆発音が響き渡った。

 

 

 にとりは川縁に座って、新聞を読んでいた。

 煤だらけの私を見ると、笑うよりも呆れていた。

「またかよ。あんたもしかして、機械音痴?」

 断じてそんなことは無い。

「あのな。オートでワンタッチって、自爆するとこまでオートにしなくていいんだよ!」

「あんたが言ったんじゃないか、一から十まで全部ってさ」

「自爆しろなんて言ってない!」

 私は溜め息を吐いた。

「まあ、いい」依頼は完遂できたのだからな。「今日は代金を払いに来た」

「ほっ」

 途端にほくほく顔である。

「へっへっへ。持つべきものは金払いのいい上客ですなあ」

 その台詞はゴマすりしながら言う台詞じゃあないだろうに。

 私は持ってきた紙袋をにとりへと放り投げた。

「ほら。代金だ」

 紙袋を開けたにとりは、あっ、と声を上げた。

 そりゃそうだ。中身は金ではなく、胡瓜だったのだから。

「河童なんだから、それで満足だろ」

 あれだけ迷惑掛けられたんだ、金なんてビタ一文払ってやるもんか。河童のあんたはそれでも齧ってるがいいさ。

 そう言外に言ったのだ。

 にとりはぶるぶると震えている。怒っているのだろうが、私だって怒っている。弾幕勝負をしようってんなら受けて立つさ、スペルカードも持ってきているしな。

 だが、顔を上げたにとりは満面の笑みだった。

「ねえ、この胡瓜、もしかして! 太陽の畑産?」

 顔を輝かせて、鼻息荒く私に迫るのである。

「そうだけど……」

 確かにそれは、風見幽香に譲ってもらった胡瓜だった。

「マジか! やったぜ! ひゃっほぅ! ありがとう、ナズちゃん!」

 紙袋を抱きしめて、にとりは小躍りしている。

 何故だ。納得行かない。

「そ、そんなに喜ぶ程かい」

「ぶっちゃけ、グラム単価は金を超える」

「え!」

「あそこの胡瓜はめちゃくちゃ美味いんだけど、畑の主が怖くて滅多に手が出せないからねえ。それをこんなにくれるなんて……ナズーリン、やっさしい!」

 私に抱きつき、キスまでしてくる始末である。ええい、うっとおしい。

 喧嘩を売ったつもりが、逆に感謝されるとは……。

 非常に納得が行かない。

 一から十までにとりの思い通りじゃあないか。

 まったく、これだから河童って奴は。

 

 

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