死体探偵   作:チャーシューメン

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 あのセリフはやっぱり言ってもらいたかったので。

 そそわはこちら→http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/210/1459344512
 ※置いてあるのは同じです。


ガールズ・タイフーン

 

 ……何しに来たんだ、こいつ。

「きゃっ、ネズミネズミ!」

「君ぃ、自分から訪ねて来ておいてその言い草はなんなんだい。……って、痛たた! おい、人様に向かって米粒投げつけてんじゃないよ、散らかすなよ、片付けろよ」

 星鼠亭の売り台に座り、青空の下、私は頭を抱えていた。

 いくら「常識に囚われない」がキャッチコピーであっても、人様の店の前でうなるほど米粒撒き散らすってのはどうなんだ。常識云々以前に、只の迷惑な馬鹿じゃあないか。

「まったく、レア度ゼロの人間の癖に」

「ネズミの方がレア度低いですよ、マイナスです、マ・イ・ナ・ス!」

「そうさな、君みたいに脳味噌の配線が繋がってない人間ならレア度も高そうだな。なかなか居ないぜ、君みたいなの」

「ふん、おだてたって、ネズミなんかには米粒一粒だって分けてあげませんからね!」

「ツッコミどころが多すぎて面倒だな、まったく」

 飽食の巫女、東風谷早苗は相も変わらず、私を敵視してくる。敵視だけならされ慣れているから別にいいのだが、問題はこいつの頭のネジが二・三本ブッ飛んでいるところにある。ぬえは会う度おめかしさせられて写真を撮られるとぼやいていたし、小傘なんて出会い頭に脳天唐竹割されると恐れていた。こいつ、絶対頭おかしい。

「用が無いなら帰れよ、私は君たちとは関わり合いになりたくないんだ」

 幻想郷の巫女は、みんなブッ飛んでいるからな。大風みたいな女達なんだ。

「そうは行きません! 貴女のような性悪ネズミを放っておいたら、どんな悪さをするか分かったもんじゃありませんからねっ!」

「別に迷惑かけてないだろ。ちゃんと人間のフリしてるじゃないか」

「そうやって己を偽るのは、悪巧みをしているからに決まってます!」

「じゃあ耳と尻尾出して表を歩けってのかい」

「なんたること! 妖怪が天下の往来を堂々と行き来するなど、たとえお天道様が許しても、この私、東風谷早苗が許しませんよ!」

「どうしろと」

 早苗はイライラと貧乏ゆすりしながら、ウェーブの掛かった長い髪をもてあそんでいる。髪に挿した白蛇の髪飾りが嫌な感じだ。蛇はネズミの天敵でもあるんだ。

「私は人間に敵対するつもりはないぞ。だからこうやって、人間の形や生活を真似ているんじゃあないか」

「どうだか」

 早苗は大幣をブンブンとフルスイングし始めた。

 なんなのこいつ、ホント怖い。ヒステリーかよ。

「命蓮寺が商売敵だからって、敵視するだけなのは賢いやり方じゃあないな。それに私を痛めつけたところで、命蓮寺の信仰には蚊ほどの打撃も与えられんぞ。むしろ君の名とともに守矢の名も貶めるだけなのではないか」

「そんなんじゃありません!」

「じゃあ一体、君は何がしたいんだ」

 早苗は売り台をバンバンと叩くと、涙目になり、顔を真っ赤にして駄々っ子のように喚き始めた。

「だからさっきから言ってるじゃないですか!」

「ひとっことも言ってないから」

「言ってますぅー! ネズミの耳が悪いだけですぅー!」

「子供か、君は」

「子供じゃありません! 私だって彼氏の一人や二人いますぅー! 貴女の信仰する毘沙門天なんかより、ずっといい男ですぅー!」

「おーおー、言うじゃないか、なら連れて来てみな。君の男がどの程度のもんか、このナズーリン様が直々に検分してやろうじゃないか」

「それを探してくれって言ってるんでしょ!」

 ……あ?

 

 

 宝石、財宝、掃除に説法、人生相談から恋人探しまで、なんでもござれの探し屋「星鼠亭」。

 然れども、何の因果か死体探しばかりを依頼され、誰が呼んだか、死体探偵。

 今宵も半ばやけくそ気味に、迷える死体を探しておったという次第で御座います。

 

 

「だってだってだって、ちゃんと売り文句に書いてあるじゃないですか! 嘘ですか! 嘘吐きですか!」

 ……つまりはだ。

 この「人生相談から恋人探しまで」の文句に、早苗は食いついたらしい。

 いやさ。確かに謳ってるけどさ。

 ホントに食付いてくる奴がいるとは……。

「嘘じゃない。依頼だって言うなら、全力を尽くすさ」

「ホントですか!」

 仕方無しに私がいうと、雨が上がるように、パッと顔を明るくする早苗。機嫌が悪かったのは、恋人探しなんて依頼を頼むのに恥を感じていたからだろう。

「しかし、意外だな。君ほどの器量があれば、いい人なんざ、すぐに見つかりそうなもんだけどな」

 顔とスタイルだけ見れば、早苗は間違いなく美人と言えるだろう。性格はまあ、置いておくとして。

 幻想郷の男たちだって馬鹿じゃあない、いくら山の上の巫女で畏れ多い現人神とはいえ、こんな美しい年頃の娘を放っておくはずがないのだが。

「私だって、努力してるんです。道行くイイ男に声かけたり、イケメン店員のいる蕎麦屋に足しげく通ってみたり……」

「巫女のくせにそんなことしてんのかい」

「でもでもでも、なぜかみんな、私を避けるんです! 最初はイイ感じなのに、すぐに冷たくなるんです~!」

 ボロボロと涙をこぼしながら言うので、流石の私も、少し気の毒になってきてしまった。

「災難だなぁ。でも、天女も男に縁が薄いと言っていたよ。器量が良すぎると、逆に縁遠くなってしまうのかもしれないな」

「つまり、ちんちくりんでぺったんこのナズーリンさんのほうが、逆に経験豊富なオトナだと?」

「依頼受けるのやめようかな」

「嘘ですごめんなさいすいません!」

 早苗が慌てて頬ずりしてくる。もしかしてこれ、媚びてる合図なのか? この女の考えることはよくわからん。

「しかし、恋人探しか。どうやって探すかなあ」

 早苗を引っぺがしながら、私は頭をひねった。

「考えてなかったんですか、謳ってるくせに」

「正直、今の私にそんなことを頼む奴がいるとは考えもしなかったよ」

 何せ私は、人々に忌み嫌われる死体探偵なのだから。

「大体、君はどんな人が理想なんだい」

「もちろん、イケメン・高学歴・高収入です! ああ、憧れの玉の輿……」

 ぐっ、と握りこぶしを作る早苗。

「君は実に馬鹿だな」

 高学歴て。そんなん、この幻想郷にいるわけないだろうが。

「里の寺子屋がここの最高学府なんだぞ。全員同じ学歴じゃないか」

「うっ……な、ならイケメン・高収入ってことで……」

「ハッキリ言って、里のほとんどの蔵には、君んとこほど米は無いと思うぞ」

「じゃあもう、イケメンなだけでいいですよ!」

 プンスカ怒って早苗が言う。

 イケメンね……。結局そういうのは相性の問題に帰結するのだが。まあ、若いうちはそれだけでもいいのかもしれないな。

「そこまで言うからには、誰か目を付けている人がいるのかい?」

「目を付けた人には全員、振られました!」

 ぐっ、と握りこぶしを作る早苗、涙目で。

 ああ、くそ、何だこの、無性に保護欲が掻き立てられる娘は……。

「なら、町に繰り出して探そうか」

 私はほっかむりをしてボロい着物を羽織り、死体探偵の時とは別の変装をした。

「なんでまた変装なんか」

「死体探偵なんかとつるんでると、君にも変な噂が立っちゃうだろ」

「ふん。べ、別に、ナズさん優しい! なんて思いませんからね!」

「勘違いするな、依頼の為だよ。これ以上君に男が寄り付かなくなったら困るだろ」

 目貫き通りまでやって来ると、早苗はやおらキョロキョロとしだした。

「あっちの彼、カッコいい! でも向こうのおじ様もなかなか……。ああっ、あのお蕎麦屋さん、いつ見ても渋いなぁ……!」

 早苗が黄色い声を上げている奴らを見てみると……まあ、言うほどでもなかった。面食いと言いつつ、割とハードルは低いらしい。つまり君達にも十分チャンスはあるという事だ、良かったな。

 私はさっと目を配り、出来るだけ人畜無害そうなやさ男を見繕うと、早苗に耳打ちした。

「あいつはどうだ?」

「むっ、むむむ。中々やりますね、ナズーリンさん」

「お眼鏡に叶ったんなら、声掛けて来な」

「えっ、ちょ、手伝ってくれるんじゃ?」

「馬鹿、デートに誘うんだよ。そしたら裏から色々サポートしてやるから」

「な、なるほど」

「ほらほら、早く行く!」

 気後れする早苗の背中を押し出した。私は物陰に隠れて、早苗の様子を伺う。

 目当ての男の方へふらふら歩いて行った早苗が、声を掛けて呼び止めると、男の顔がぽっと赤らむのが見える。

 緊張してガッチガチの早苗が大袈裟な身振り手振りで何か言うと、男の方も乗り気なのか、歯を見せて笑った。いい感じだ。

 わやわやと喋っていた早苗は、やさ男が頷いたのを見ると、パッと手を取った。おお、早苗、中々大胆だな。私は感心したが、そこで事態は一変した。途端に青ざめた男は首を振りつつ、早苗の手を振り払って、駆けて行ってしまった。

 しょんぼりと肩を落とした早苗が戻ってくる。

「誘い出す前に撃沈か……」

「うう……強引にいったのがいけなかったんでしょうか……」

「いや、うん、まあ、その、なんだ、あれだよ。次、頑張ろう」

 とは言ったものの、早くも私は手詰まりに陥っていた。早苗の話では本人も努力しているらしいのだが、その悉くが失敗しているらしい。

 原因は一目瞭然だったが、いかんせん、今はその原因を取り除く事が不可能である為、打つ手が無い。どうしたものか。

「こうなったら、とっておきのあの手を使うしかありませんね」

「あの手?」

「イケメンさんの目の前で、私が暴漢に襲われるんです! そしてそれをイケメンさんに助けてもらう……ああ、乙女の憧れのシチュエーション……!」

「そう上手くいくかなぁ」

「絶対大丈夫です!」

「き、気合い入ってるな」

 妙にやる気まんまんの早苗に、今度は私のほうが気遅れしてしまう。どう考えてもうまくいきっこないからだ。

「大体、暴漢役がいないじゃないか」

 ポン、と私の肩を叩く早苗。目をらんらんと輝かせている。

「アホか、私みたいな小さい奴に襲われて逃げる奴がいるか」

「んー。じゃ、なんかごっつい凶器を持つとか」

「博麗の巫女に殺されるだろ。なんで私が自分の命懸けてまで君の恋路に協力せにゃならんのだ」

「そこをなんとかするのが貴女のお仕事でしょうが!」

「まったく、我儘だなぁ、君は」

 仕方無い。結果が見える故あまり使いたくなかったが、アレを使うとしよう。あまりこの娘を傷つけたくはないのだが、根本的な解決の為だ。心を鬼にせねばなるまい。

 私は懐をまさぐると、こういう時のためにとっておいたアレを出した。

「なんです? これ。このなんていうか、こう……形容しがたい物体は」

 早苗はそれをのぞき込むと、首を傾げた。

「これは正体不明の種だ」ぬえから借りておいたものである。「これを使うと、見た目がなんだかよくわからんものになるらしい」

「なにそれ怖い」

「これを使って、君の作戦を実行するとしようか」

「だ、大丈夫なんですか?」

「まあ、何とかなるだろう。ホレ、さっきの男を追うぞ」

 私たちは先ほどのやさ男が走って行った後を追った。

 程なく、空き家の路地裏にて一息つくやさ男を見つけた。丁度良いことに、人気も少ない。

「手早くやるぞ。時間を掛けて寺子屋の教師か博麗の巫女が来たらヤバいからな」

「は、はい!」

 緊張した面持ちで、早苗が頷く。

 私は正体不明の種を肌に押し当て、念を込めた。

「ひっ、ひえぇーっ!」

 途端、早苗が素っ頓狂な声をあげる。

 試しに両手を掲げてみると、早苗はすっ転んで尻餅をついた。一体どんな姿に見えているのだろう。

「ぎゃー! 動いた! キショい! ナズーリンさんだって分かっててもキショい!」

 演技どころか本気で腰を抜かしたのか、わたわたとその場でもがく早苗。

 声に釣られて、なんだなんだと人が集まってくる。ターゲットのやさ男も路地裏から出てきた。私の姿を何に見間違えたのか、人々はそれぞれ個性的な悲鳴を上げている。

 嗚呼、視線が怖い……。

「がおー」

 とか言ってみつつ、戯れに早苗の足をつかんでみる。

「ひぃぃ! 触手がっ! 触手が絡みつくぅ!」真っ青な顔で、縋るようにやさ男のほうを見やる早苗。「も、もし! そこの御方! 助けてくださいまし! この怪物をやっつけて!」

 ……なんでいきなり時代劇風になるのだろうか。

 ともかくも、やさ男はそれを聞くと、雷撃に撃たれたように飛び上がり……そのまま回れ右して、走って逃げていってしまった。

 まあ、そりゃ、そうなるよなあ。

「そっ、そんな! 皆さん、誰か、助けてください! 誰かーッ!」

 取り巻きに手を伸ばすが、私が「がおー」と脅すと、彼らも一目散に逃げた。

「えっ……うそ、そんな……」

「失敗、だな」

 私は正体不明の種に込めた念を止め、肌から放した。

「ナズーリンさん……」

「立てるか?」

 私が手を差し伸べると、早苗はボロボロと涙をこぼした。

「あんまりです、こんなの……」

 ボロボロ、ボロボロと、止めどなく。

「すまん。やり過ぎた」

「ナズーリンさんの所為じゃありません……けど、こんなの、あんまりです……」

 女の涙は美しいと人は言う。

 幻想郷の男達は、美を解さない奴らばかりのようだな。こんなにいい女を放っておくなんて。例え神に抗ってでも手に入れる、そんなロマンスを、女は求めているものさ。

 私は泣き咽ぶ早苗を背負って、ひとまず星鼠亭に戻った。

「ハーブティーはいかがかな。最近、ハマっていてね。心が落ち着くぞ」

 茶を沸かして淹れてやると、早苗は放心状態でそれを啜っていた。その様を見て、胸が痛む一方、この女にも少女らしい心があったのだなぁと、大変失礼な事を思ったりしてしまう。

「私、嫌われてるんでしょうか……」

 ぽつり。早苗が漏らした弱音は、彼女の本心か。この娘もこの娘なりに、虚勢を張っているのかもしれない。

「そんなことはない、今日は日が悪かっただけさ」

 別に慰める気なんて、さらさら無い。

「でも、私、外の世界でも……」

 その俯いた瞳が、気に入らないだけだ。

「思い通りにいかない時には、そんな風に思うこともある。それだけさ。今の自分の気持ちを真実だと思わない方がいい」

 少女の瞳は、前を向いてしかるべきものだろうから。

「そう……でしょうか」

「そうさ。言い方は悪いが、みんなそんなに他人に興味を持っていられないんだよ。自分が生きることで精一杯だからな。この幻想郷も、豊かになった外の世界でだって。魔法の森もコンクリートの森も、変わりはしないのさ」

 誰にでも優しい桃源郷なんて、何処にも無いのだ。茶を啜りながら、かつてそれを探していた自分を思い返す。忘れたいけど、忘れたくない記憶。

「ナズーリンさんは、大人なんですね……」

「伊達に長く生きてはいない」

 早苗は不思議そうな顔で言う。

「それにしてもナズーリンさんは、まるで見てきたかの様に外の世界を語るんですね……あれ?」

 早苗が目をやったのは、束ねて置いておいた雑誌。私や星が店番している時に読んでいる奴だ。

「これ……外の世界の、少女漫画雑誌じゃないですか」

「少年漫画もあるよ。読むかい?」

「読みます! ……って違います、何でこんなの持ってるんですか?」

「来る時に持って来た奴だよ」

「え? ……って事は。もしかしてナズーリンさん、外の世界に居たんですか?」

「そうだよ」懐かしいあの頃を思い浮かべながら、私は頷いた。「私とご主人様は、外の世界から幻想入りしたんだ。聖を復活させる為にね」

 早苗は目を丸くして驚いている。

「はぁ、やけに話の通じるネズミだとは思ってましたが……」

「だから、君の事も知っているぞ。昔、特撮の子役でテレビに出てたろ」

「どげげ! な、何故それを!」

「観てたからな」

 顔を真っ赤にする早苗。私は笑った。元気が出たようで何よりだ。

「だからさ。私が探せるのは、何も幻想郷の中だけじゃないのさ。今日は君の依頼に応えられなかったけれど、今度は外の世界も含めて、探索を継続しようじゃないか。ま、気長に待てよ。君がいい女であろうとすれば、どこかに必ず応えてくれる人はいるものさ」

「はい……」早苗は目を潤ませている。「でもあの、ヤバいです。私、ナズーリンさんに惚れちゃいそうです……」

 ぞわっ、と体中の毛が逆立つ。

 何言ってんだこいつ。

「待て待て待て。私にその気は無いぞ」

 こいつ、悪い男に騙されやすいタイプだな。

「ちょっと永遠亭行きません? それかモロッコでも」

「君は実に馬鹿だな、本当」

 熱っぽい顔で私ににじり寄る早苗を、外に放り出す。

 早苗はちらちらと名残惜しそうにこちらを見ていたが、私がひと睨みすると、ふわりと飛び上がり、山の方へ戻って行った。

 私は溜息を吐いた。

「まったく。いい迷惑ですよ」

 本当にな。嫌な役を引き受けてしまったものだ。

「泣いてましたよ、あの娘。過保護も大概にして下さい」

「う、うム……」

 草葉の陰から出てきたのは、守矢神社の二柱神である。幻想郷において、この二人は実質的に早苗の保護者役をしている。

 早苗がモテないのも無理は無い。後ろで荒ぶる神々が物凄い形相で睨んでいたら、誰だって震え上がるだろうに。困ったデコボココンビである。まあ、その気持ちはよく分かるがな。関わるまいとしていても、つい助けてやりたくなってしまう。早苗は見ていると危なっかしいんだ。

「ホラ、小鼠も言ってるじゃん。神奈子は過保護過ぎるんだよ。もー、毘沙門天に作らなくていい借り作っちゃったじゃんか」

 力の一部だけ飛ばしているのか、姿が妙に見えにくい。帽子を被った小さいほう、おそらく洩矢諏訪子が言う。

「でも早苗はまだ子供だし……」

「あれ位、今時は普通だよ。まったく神奈子はもうさあ」

「何言ってんの、諏訪子が面白がってミシャグジなんか使うから、みんな怖がっちゃったんでしょ!」

 ああもう、かちゃましい。

 やっぱりこいつらは苦手だ。

「何でもいいけど、少しは自重して下さいよ、ご両人。年頃の娘を泣かせるなんて、そりゃ、悪い男のする事ですよ」

「でも」

「でももストライキもありません。信じて待つのも親の務め」

「はぁい……」

 シュンとして項垂れる、八坂神奈子。その昔、戦神と恐れられた大和の神も、変われば変わるものだな。

 ここぞとばかりに、私はたっぷりとお小言を言ってやった。最初は他人事のようにゲラゲラ笑っていた諏訪子だったが、私の説教が飛び火すると、神奈子と同じくしおらしくなり、終いには二人揃って正座していた。

 もちろん、鞭の後には飴を用意してやらねば、単に反感を買うだけで終わってしまう。恩を着せるために、私は一連の出来事を天狗にリークしない事を約束した。分かりやすく貸しを作ったわけである。これで少しは命蓮寺の布教活動もやり易くなるだろう。

 二人はそれを聞いて、泣いて喜びながら去って行った。なんて単純な奴らだ。

 ようやく喧しいのが去ったので一息つける……と思ったが、星鼠亭の周囲が早苗の撒いた米粒だらけになっていたことを思い出し、私は頭を抱えた。

 大人は辛いな、まったく。

 

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