緋弾のアリアドス   作:くものこ

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第10弾

 ジャロバイに乗って羽田空港へ向かう途中、携帯に着信があった。キンジからだ。

『糸丸。今どこだ』

「羽田に向かってる途中」

『羽田……糸丸もか。気付いたんだな、武偵殺しの真相に』

 何だかキンジの雰囲気がいつもと違う。ヒスった? そういえば、理子とクラブ・エステーラに行ってたな。……な、何をしたんだ、キンジ!

「——ん? 武偵殺しの真相? 何の話だ?」

『糸丸は知らないのか? 武偵殺しの事件はバイクジャックに始まり、カージャック、チャリジャック、バスジャックときた』

 それは知っている。バイクジャックとカージャックは別の武偵が被害にあったものだ。チャリジャックの前に起きている。武偵殺しについて調べた際に出てきた情報だ。

『でもな、可能性事件ってのがあるんだ』

「可能性事件?」

『事故ってことになっているが、実際は武偵殺しの仕業で、隠蔽工作で分からなくなっているだけかもしれないという事件。そのうちの一つが——シージャック。その事件では死者も出た』

「それで? それがどうしたんだよ」

 まったく、ヒスったキンジの悪い癖だ。もったいぶる。もう少しさっさと話してほしい。

『問題はシージャックのタイミングだ。それはカージャックの次に起きた。分かるよな、糸丸。バイク、車、船と次第に規模は大きくなり、その船で武偵殺しはついに武偵を仕留めたんだ』

 おい、まさか。

「キンジ、まさか次は自転車、バスときて——」

『飛行機で武偵を仕留める。直接対決でな』

「直接対決? どうしてそう言いきれる?」

『シージャックをアリアはおそらく知らない。可能性事件だしな。なぜか? それはアリアが武偵殺しの電波をキャッチしてヤツを追っていたからだ。つまりそのシージャックでは電波が出ていなかった、だからアリアは知らなかった』

「直接対決だから、爆弾を遠隔操作する必要がなかったってわけか!」

『正解だ、糸丸』

 だとしたら、全ては武偵殺しの手の内だったってわけか? そしてまんまとアリアは今、飛行機に乗り込んだ。武偵殺しも乗っている飛行機に。

 キンジとの通話を終了した後、俺は運転手に怒鳴る。

「ジャロ! もっととばせ!」

「無茶言わないでくれよ! これでも結構な速度で走ってるんだ!」

「ああ、もう! 役に立たないな!」

「ひどいなぁ、糸丸君」

 仕方ない。どうすれば飛行機に乗り込めるのか考えよう。武偵の権力で無理やり乗り込むか? うーん、それで捕まってしまったらアリアのもとに駆けつけるどころではなくなるぞ。

「何かいい案はないか?」

「ふっ、糸丸君。君は僕を誰だと思っているんだい。任せなよ」

 ジャロはバイクを片手で運転しながら、ポケットから携帯とは違った、端末を取り出す。何それ?

 ジャロは画面を数タッチした後、その機械を顔の横に当てた。

「あ、僕だよ。蔦時仁郎。うん、ちょっと急用でね。午後7時発のチャーター便の個室を一つ開けてほしいんだ。……うん、それくらい払えるよ。……芦長糸丸って名前でよろしく頼む。……ありがとう」

 俺はジャロの行動を見て驚く。いや、マジか。

「おっ、おい。今、何した?」

「君のために個室を一つ開けてもらったよ」

「それで電話したか⁉︎」

「そこかい⁉︎」

 いやー、これはタマゲタケ。この機械、携帯と同じなのかよ。でもボタンが一切ないし、どうやって扱うんだよ?

 俺がジャロから機械を取って眺めていると、前で溜息が一つ。

「……君は本当に素直だね」

 

 

 ジャロが大金を出して取ってくれた個室、というよりこの飛行機。やばいぞ。

 二階建て構造の飛行機。一階は広いバーになっていて、二階は個室が並んでいる。

 その個室が高級ホテルのような個室なのだ。ベッドやシャワー室を完備した個室が、全12室。いったいいくらかかるんだ、これ。

 ダブルベッドに一人で腰掛けながら、俺はジャロに感謝する。やっぱり持つべきものは金……じゃない、友達だな。

 どうせなら、俺のインドメタシンやエムに対する支払いも払ってくれたらいいのに。

 グラッと飛行機が揺れる。羽田を出発したな。そういえば、キンジは乗ったのだろうか? ヒスっている状態なら、キャビンアテンダントを口説いて乗っちゃいそうだが。

『お客様にお詫び申し上げます。当機は台風による乱気流を迂回するため、到着が30分ほど遅れることが予測されます』

 機内放送の直後、機体が再び揺れた。そこまで強い風が吹いているのか、今日は。

 雷鳴も轟く。まさに最終決戦にふさわしい感じだな。そろそろアリアやキンジと合流でもしようか?

 そう思い、扉に手をかけた瞬間。

 

 パン! パァン!

 

 聞き慣れた音。銃声だ。誰かが撃たれたのか! 武偵殺しとの戦闘はもう始まったのか?

「アリアか? それともキンジが?」

 慌てて部屋を飛び出す。すると、斜向かいからキンジが飛び出してきた。

「糸丸! やっぱり乗ってたんだな!」

「ああ! 銃声はあっちから聞こえた!」

 俺たちは銃声の聞こえた機体前方へと向かう。

 銃声に驚いて個室から出てきた乗客たちや数人のアテンダントでごった返す通路を掻き分けていくと、コクピットから小柄なアテンダントが二人の人間を引っ張り出しているところだった。

「——動くな!」

 隣でキンジが拳銃を構える。俺もホルスターに手を伸ばし、いつでも銃を取り出せるように身構える。

 こちらに気付いたアテンダント。彼女はにいッ、と笑うとウィンクを一つした。

「Attention Please. でやがります」

 あの日のセグウェイと同じ調子で喋った彼女—間違いない、武偵殺しだ—はコクピットに引き返しながら、カンを一つ放り投げてきた。

「キンジっ!」

 背後でアリアの声がした。やっぱりいたんだな。

 俺らの足元に転がってきたカンが、音を立てて気体を発生させる。

「——みんな部屋に戻れ! ドアを閉めろ!」

 キンジはそう言うなり、自分もアリアの元へと走る。なるほど、ガス缶か。こいつは猛毒の可能性があるってわけか。

でも!

「関係ないね!」

 俺は前方のコクピットへと突っ込む。俺は毒タイプ。つまり、「猛毒? 何それ美味しいの?」というわけだ!

「おい、武偵殺し!」

 コクピットをぶち破って中に入る。中ではアテンダントがコクピット内の機械を一部破壊しているところだった。何をしようとしているのか知らんが、止めさせてやる。

「おりょ? バレちゃった?」

「何がだよ」

 俺は拳銃を抜いて構える。しかし下手に撃てないな。誤って大切な部分を壊してしまったらマズイだろうし。俺は飛行機の操縦席の知識なんか持っていないからな。

「ふーん……どうやら毒が効かないでやがりますか。これは困りやしたねぇ」

 なおも作業を続けるアテンダント。彼女はよく分からない機械をコクピット内に設置する。

「止まれ。動くと撃つぞ」

「おっと、これは爆弾でありやがります。撃ったら——」

 ちっ。やっぱり武偵殺しは爆弾魔ってわけだな。

 彼女は悠然と俺の方へと歩いてくる。カチッ、と引き金にかけた指が音を立てる。

「止まれと言ってるだろッ!」

 俺は武偵殺しに拳銃を突き付ける。けれど、トリガーを引けない。武偵法9条で、武偵は殺人を禁じられている。腕とかを狙うにも——

「乗客全員で心中したいなら撃ちやがれ」

「くっ……」

 卑怯な。この機体の乗客全員を人質に取ったってわけかよ。

「バーにお越しください、でやがります」

 結局、俺の横を素通りする武偵殺しに俺は撃てなかった。

 

 

 爆弾の解除でもしようかと思ったが、どうやらあれは爆弾ではなく、何かを操縦する機械のようなものだった。見事にハメられたわけだ。ちくしょう。

 操縦室を出ると、通路は来たときより暗かった。明かりは床の誘導灯だけ。

 その明かりを頼りに、俺は一階のバーへと向かう。

 豪華に飾り立てられたバー。そのバーのシャンデリアの下。カウンターに足を組んで座っている女がいた。さっきのアテンダントだ。が、彼女の服装は。

「ゴチルゼルファッション……!」

 これは理子のよく着ている服装だ。そんなまさか。武偵殺しの正体は——

「理子、なのか?」

「くふっ、Bon soir, イートン」

 アテンダントが自らの顔をぺりぺりと剥がす。その下から現れたのは紛れもなく、理子の顔だった。

 武偵殺しは理子。でも、納得できないことではない気がする。チャリジャックもバスジャックも、こいつが調査の代表だったな。その際に証拠の隠滅とかやっていたのかもしれない。それにももまんの件もある。コンビニの袋の中に盗聴器でも仕掛けたのだろう。

 しかし、疑問点も残る。今日、キンジと理子は密会していた。その後だ。キンジがハイジャックが起きると推理したのは。つまり、理子がトリガーとなっていたのは確実。

「どうしてキンジにこのことを教えた?」

「それはね。キンジがいないと理子が理子であることを示せないからだよ」

「は?」

 意味が分からない。何が言いたいんだ、こいつは。時間稼ぎか? いや、その必要性すらない。時間が経てば、キンジやアリアが来るだろうし。そうなれば、有利になるのはこっちだ。

「でもまさかイートンが来るとは思ってなかったね」

 カクテルを回しながら、理子がいう。

「イートンってもしかしなくても結構優秀? じゃあイ・ウーに来たりしない?」

「誰が犯罪者なんかと」

「ざーんねん」

 理子はちっとも残念じゃなさそうに舌を出す。まあ俺は勧誘しない方が良いだろう。ここに来たのもタマタマだし。

 と、後ろから誰かが駆けてくる音がした。

「武偵殺し! 来てやったわよ、って⁉︎」

「なっ! 理子⁉︎」

 二階からアリアとキンジがやって来る。二人とも武偵殺しの正体にやはり驚いているようだ。さすがのキンジでも正体までは見抜けてなかったようだ。

「やっと来たね、オルメス」

「あんた……一体……何者……!」

 アリアが眉を寄せる。と、理子はカクテルを飲み干し、にやり、と笑った。

「峰・理子・リュパン4世。それが理子の本当の名前」

 リュパン。聞いたことがある。この世界ではかなり有名な大泥棒だったはず。その子孫? 理子が?

「でも、家の人はみんな理子を『理子』とは呼んでくれなかった。お母様がつけてくれたこの可愛い名前を。呼び方がおかしいんだよ」

「おかしい?」

「4世。4世。4世。4世さまぁー。どいつもこいつも、使用人どもまで……理子をそう呼んでたんだよ。ひっどよねぇ」

「それがどうしたのよ。4世の何が悪いのよ!」

 少しアリアの声がハッキリとしている。そういえば、アリアも4世だったっけ。H家の。

「悪いに決まってるんだろ! あたしは数字か⁉︎ あたしはただのDNAか⁉︎」

 激昂する理子。そっか、おやからつけてもらった名前か。

たしかにそれは特別だ。ポケモンだって、おや以外の人間が好き勝手に名前を変えることは許されない。

でも、だからって。他人の命を危険にさらすようなことをしていいのか? 自分の目的のために、他者が犠牲になるのは仕方ないことなのか? そんなの、悪の組織のやってることそのまんまじゃねえか。

「100年前。曾お爺さま同士の対決は引き分けだった。だから理子はアリアに勝てば、理子は曾お爺さまを超えられる! 理子は理子になれる!

ねぇ、アリア。あんたの曾お爺さまには優秀なパートナーがいた。それをキンジにやってもらおうと思ってたんだけど」

 理子は俺を見る。どうやら決闘に俺を参加させたくないらしい。

「糸丸、あんたは手を出さないで。あっちはあたしとキンジのペアとの戦闘を望んでいるみたいだし」

「了解。でも、いざとなったら手を出すからな?」

「ええ」

 俺は一歩下がる。分かってるさ。俺は誰かの補欠。下位互換的な存在だ。こうなるのも——。

「キンジもキンジで理子がやったお兄さんの話を出すまで動かないし」

「やった? 理子が? 兄さんを? お前が……⁉︎」

「そう。今は理子の恋人なんだぁー」

「ふざけるな! いい加減にしろ!」

 キンジが僅かに動いた。ベレッタを撃つ、その瞬間。

 ぐらり。飛行機が揺れた。

 がしゃん、と音を立ててキンジのベレッタが床を滑り、壊れた。向こう側では理子が小ぶりな拳銃、ワルサーP99を構えている。この瞬間に撃ったのか。

「ノン、ノン。ダメだよキンジ。今のお前じゃ戦闘の役には立たない。そもそもオルメスの相棒は戦う相棒じゃないの。パンピーの視点からオルメスにヒントを与えて、オルメスの能力を引き出さなきゃ。だから糸丸はダメなんだよ」

 偉そうに語る理子。と、その瞬間。アリアが飛び出した。床を蹴り、理子へと襲いかかる。攻め時だと感じたようで、彼女は弾丸のように突っ込む。

 今、戦いの火蓋が切って落とされた!

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