緋弾のアリアドス   作:くものこ

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最終弾

 武偵同士の戦いにおいて、拳銃は一撃必殺の刺突武器にはなりえない。打撃武器なのだ。なぜなら、武偵は常に防弾服を着ているから。

 だから、モノを言うのは総弾数だ。

 ワルサーP99は通常16発。一方、ガバメントは7発。チェンバーにあらかじめ入れておくか、エジェクションポートから手で1発入れておけば8発。二丁で16発。つまり互角。

 だからアリアは勝機があると思って仕掛けたのだろう。

「アリア。二丁拳銃が自分だけだと思ってる?」

 理子はカクテルグラスを投げ捨てるともう一丁、スカートからワルサーP99を取り出した! これで32発!

 まずいぞ。弾の数ではアリアが不利だ!

「くっ、アリアッ!」

 しかもパートナーのキンジはヒステリアモードではないらしい。これでは加勢するのは厳しいだろう。

「この!」

「あはっ、あははははっ!」

 武偵法9条。武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない。

 その法を遵守するためにアリアは理子の頭部を狙えない。理子も、それに合わせるようにアリアの頭部を狙わない。

 まるで格闘技のように、射撃戦を避け、躱し、あるいは相手の腕を弾く。これが近接銃撃戦。

 ババッ、ガガン!

 総弾数の少ないアリアのガバメントが先に弾切れを起こす。その瞬間、アリアは両脇で理子の両腕を挟んだ。理子の銃撃が止む。

「キンジッ!」

 その隙をついて、キンジがバタフライナイフを手のひらの中で開き、理子へと接近する。射撃線に入らないよう、慎重に。

 けれど、理子は余裕に満ちた顔で言った。

「奇遇よね、アリア。理子とアリアは色んなところが似ている。家系、身の丈、ツインテール、それと双剣双銃(カドラ)

 その時、キンジの足が止まった。理子の髪が、動いているのだ!

「でもアリア、あんたの双銃双銃は完全じゃない!」

 理子のツインテールの片方が背後に隠していたのであろうナイフを持ち、アリアへと襲いかかる。

 一撃目はなんとか避けたアリア。しかし、反対のテールに握られたもう一本のナイフが、アリアの側頭部を斬った。

「アリア! アリア!」

 テールに突き飛ばされたアリアのもとにキンジが駆け寄る。俺は彼女に追撃が及ばぬように理子との間に立つ。

「キンジ、ここは俺がやる。アリアを連れて一旦引け!」

「邪魔すんな、糸丸。殺すぞ」

 普段のふざけた調子からは想像もつかない殺気を放つ理子。でも、悪いな。このまま見殺しにするわけにもいかないんだ。

「すまん、糸丸」

 キンジがアリアを抱いて部屋を出ていったのを確認すると、拳銃を構える。

 アリアの傷は心配だが、キンジとて武偵である。応急処置や止血の方法は知っているだろうし、気付け薬の一つや二つくらい持っているだろう。きっと大丈夫だ。

 だから俺は、まずはあの厄介な髪からなんとかしなくちゃな。

 2点バーストで銃弾を撃ち出す。狙いは右のテールで、銃弾は理子本人にはまったく当たらない軌道をとぶ。理子が外れると思って動かなければ、俺の勝ちだが——

「おおっと!」

 理子が横っとびをする。糸弾は空を切り、背後のバーのワインを割る。狙いを読まれた⁉︎

「その銃の仕組みは知ってるよ。バスジャックの現場検証をやっちゃったもんね。

 何かによって切断されたUZI。変な傷跡が残っていたバスの車体。色々と予想をたてたんだけど、TNKワイヤー付きの弾丸とは。誰に作ってもらったんだ?」

 ふふっ、ふふふ。敵はこちらの手の内を把握しているらしいぜ、アリアドス。どうするんだよ、おい。

 敵の手数は4。こちらの手数は2。明らかに不利である。強襲科Sランクのアリアが負けたんだから、俺なんかが勝てる勝負ではない。

 では、手数を同じにしたら?

「仕方ないな、少し試してみますか」

「試す?」

 俺は背中のナイフを二本抜くと、宙に放り投げた。

 ナイフは俺の頭上まで上がると、物理法則に従って落下して——

 

 フッ

 

 俺の腰の高さで宙にとどまる。

「⁉︎」

 目を見開く理子を尻目に、軽くナイフを手を使わずに動かしてみる。右、左、上、下。俺の意識通りにナイフは動く。よし、いける。

 拳銃二丁とナイフ二本。これで俺の手数も4だ。

「さ、本当の双剣双銃同士の戦い、始めようぜ」

 床を蹴って理子の懐まで跳躍する。ナイフと一緒に。

「なんだよ、それ!」

 理子のワルサーの射撃線を掻い潜り、拳銃を突き出す。両側から迫るテールに握られたナイフは、空中を自由に浮遊するこちらのナイフで受け止める。

 ババッ!

 糸弾を連射した拳銃の銃口を理子が手で弾く。糸弾は理子の横を流れていき、数本の金髪が舞った。

 理子が蹴りを入れてくる。俺は腰のワイヤーを上方のシャンデリアに打ち出して引っ掛け、回避する。

 今度は鍔迫り合いをしていたナイフを動かし、理子の手元を狙う。こちらのナイフの動きに合わせてテールを動かす理子。

「そこだ!」

 そのテールを糸弾で狙い撃つ。

 理子がバックステップで躱す。その回避先に靴の足裏のピックを刺突武器として射出。それを理子はテールを動かしてナイフで弾く。

 銃弾を撃ちながらシャンデリアから飛び降りて、理子へと突撃する。

「ちっ!」

 理子がバーの向こうへと飛び込みながら、鉛玉を放ってる。俺へと飛んでくる銃弾をナイフで弾き、バーのカウンターに飛び乗る。

「うわっ、と!」

 突き出されたテールの先のナイフ。それをヘイガニ反りして避ける。上体を戻せば理子がワルサーを二丁、こちらへと向けていた。

 バッ! ババッ!

 向こうの発砲に合わせてこちらも糸弾を撃つ。糸弾の糸がワルサーが放った銃弾を真っ二つにする。糸も衝撃で切れてしまったが。

 カウンターに上がってきた理子。俺らは先程のアリアと理子のような近接銃撃戦を繰り広げる。

「高等な遺伝子持ってるらしいけど! その程度かよ、4世!」

「黙れ!」

 ガキイイイッ!

 ナイフとナイフ、銃身と銃身がぶつかり合う。非常灯と窓から差し込む月光だけが頼りの薄暗い部屋で、理子の目が妖美に光る。

「どうやってる? お前はどうやってナイフを操っている? トリックはなんだ? ワイヤーか?」

「自分で考えろ。言っておくが、俺はレベル50をとっくに超えてるぜ」

 わけが分からないという顔をした理子に、膝蹴りを繰り出す。理子がバックステップで躱すと、俺らは互いにカウンターから飛び降りる。

 今度は俺がカウンターの内側、理子が外へ。積まれたグラスに映った自分の顔。アリアドスの身体のように赤い髪。尖った顎。普段は若干紫色が混じった黒目は、今は緋色に染まっている。

 耳を澄ます。物音はしない。理子は動いていないのか。ならばこっちから仕掛ける!

 カウンターを飛び越し、周囲を見回す。ワルサーを構えた理子が目に入った。

 バババッ!

 回転して受け身をとる俺の後を銃弾が追う。インドメタシン服用のおかげで、だいぶ素早さが上がっているな。弾を回避できている。

 ナイフを先行させ、その後ろから理子へと接近する。ナイフで動く髪を抑え、もう一度近接銃撃戦を仕掛ける。

 激しくお互いの手が交差しあい、ぶつかり合う。背後ではビンやグラスが割れる音が響く。

 そろそろ理子のワルサーが弾切れになる頃合いだ。その予想は的中、ワルサーからは弾が出なくなる。

 糸弾を乱射する。敵はもう弾が切れたのだから、有利なのはこっちだ!

 ヒュン!

「あっ!」

 理子の両手を糸が掠める。二丁のワルサーを落とし、一瞬だけ顔を顰めた理子のその一瞬の隙をつき、腹に銃口を突き付ける。もちろん、テールのナイフはこちらのナイフで封じ込めている。

「さあ、俺の勝ちだ。4世、お前を逮捕する」

「だから理子をそう呼ぶな!」

「そうそう。武偵殺しさんや。イ・ウーってどんな組織なんだ? 一体何人の人間が属している?」

「お前なんかに教えるかよ」

 理子の髪が揺れ動いた。なんだ? 次の武器か?

 ぐらり。

「っ!」

 飛行機が揺れた。俺はバランスを崩してしまう。その隙に理子は距離を取る。ただ、ワルサーを拾い上げる余裕はなかったらしい。素手のままだ。

「理子は理子になるんだ。お前なんかに負けてる暇はない」

「あっそ。言っている意味がよく分からんが、残念ながらお前の望みは叶わんよ。俺が捕らえる!」

 ダッシュ。どうせ理子には銃火器がない。ツインテールが握っているナイフさえ注意しておけば、俺の勝ちは揺るがない。

 拳銃を構え、照準を合わせる。狙いは左胸、心臓の位置。防弾服を着ているのだから死ぬことはないだろうが、それでも衝撃はかなりのものになるはずだ。

 引き金を引こうとした、その瞬間——

 ズキンッ!

「ゔ⁉︎」

 頭に鋭い痛みが走る。それは持続し、同時に視界が揺らぐ。吐き気も催して、俺はその場に倒れこむ。——限界かよ。

「おっ、ラッキー!」

 撃たれる。虫の知らせで俺は跳ね起きる。けれど、激しい頭痛と吐き気に襲われている俺はろくに動けず。

 目の前には理子。左胸には金属の冷たい感触が防弾制服越しに伝わってきた。彼女が持っているのは

 パァンッ!

「くっ!」

 ゼロ距離から撃たれた。防弾制服の上からといえども、アリアドスは防御が弱いんだ。効果今ひとつでも急所に当たれば落ちてしまう。

 よろめきながら、拾ったワルサーに弾を詰める理子の服の裾を掴む。

「おい、まだ……」

「往生際が悪いよ、イートン」

 俺の手を振り払った理子は、バーから消える。甘い香りが漂ってきた。フレフワンの香水のような。

「……バカ、だな……」

 俺は力尽きた。

 

 

「……ん……」

 体を起こす。周囲を見渡すと薄暗いバーだ。あちこちにガラスが散乱し、ワインが飛び散っている。そうだ、俺はここで武偵殺し——理子と戦ったんだ。

 そして、()()()()()()

 理子は俺を殺しはしない。そう考えてわざと負けたのだ。本気で勝とうと思っているのなら、理子のワルサーが弾切れになった状態でPK(サイコキネシス)の使用をやめている。あれはこの世界だと超能力(ステルス)という扱いになるらしい。使うと精神力が削られるのだ。

 理子こと、武偵殺しは狙いの武偵以外の人間を殺そうとはしていない。コクピットで俺に攻撃をしなかったし、機内の通路にまいたのも毒ガスではなくただの煙。キンジがピンピンしていたからな。バスジャックではバスが一時減速したにもかかわらず爆発しなかった。標的のアリアとは本気で殺り合っていたが。

 立ち上がり、窓から外を見る。東京の夜景が見える。……何? 東京だと?

「おいおい、ロンドンに行くんじゃなかったのかよ」

 少し残念である。初の海外だったのに。まあ、今後の事故処理に関してはこっちの方が楽だけど。帰る手間が省けた。

 携帯を取り出すと、電話をかける。

『はい、エムです』

「あ、エム? 俺だよ、俺」

『詐欺ですか? 切りますよ?」

「ま、待ってくれ! 糸丸だよ、芦長糸丸! アリアドスの!」

『何でしょう?』

「糸は引っ掛けた。辿ってくれ」

『今からですか?』

 眠そうな声のエム。悪いな、よくよく考えればもう夜だよな。

「ああ、頼む。報酬は弾ませるからさ」

『……高いですよ』

 プツッ、と電話は切れた。高いってどれくらい高いんだろう。この間の慰謝料よりも高いのだろうか?

 参ったな、金欠ぎみなのに。

 

 

 夜の道をトボトボと一人、寮へと帰った。武偵殺しによるハイジャックは、キンジとアリアで解決したらしい。事の詳細を話すキンジは妙にキザだったな。ヒスったみたいだ。

 理子には逃げられたそうだ。まあ、そっちの方が好都合である。俺がわざと負けた意味もなくなるしな。

 しかしすごいな、アリアとキンジは。やっぱり二人はお似合いだ。アリアのパートナーの適任は俺ではなく、キンジ。これからは二人で末長く頑張ってほしいものだ。

 サイコキネシスを使ったことによる頭痛を抑えるため、大瓶に入った沙那特製の秘伝の薬を水に溶かして飲む。銃撃を食らった左胸にキズぐすりを吹きかけ、俺はベッドへと倒れこんだ。眠くないし、眠れないけども寝たい。今日は戦闘続きで疲れた。人の寝たいという欲求がよく理解できる。このまま休みたい。

 しかしやることは山積みだ。武偵殺しの追跡、イ・ウーの調査、玲の捜索、キンジ観察記の作成。あ、ブリガロンの件の処理もしないと。

 何から手をつけようか。そう思った時——

 ……ピン、ポーン……

 慎ましいチャイム。星伽さん? こんな時間に?

 重たい体を起こして玄関へと向かう。鍵を開けてドアノブに手をかけて、回した瞬間に俺は気付いた。星伽さんは今、SSRの合宿で恐山だ——

 急いで鍵をかけようとしたが遅く、強引にドアを蹴破られる。そして、相手の顔を確認する間もなく。

「センパーーーーーイ!」

「グフッ⁉︎」

 そいつは大声を出しながら、頭突きをかましてきた。

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