緋弾のアリアドス   作:くものこ

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萌える(ように描写を頑張りたい)


萌える銀爪
第1弾


 玄関を開けるなり、俺に頭突きをかましてきたそいつは勢いそのまま俺を床に押し倒す。ドアが閉まる音が聞こえなくなるほど、そいつは大声を出した。

「先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩! 良かったぁーーーー!」

 俺の制服に顔を埋めてくる馬鹿を引き剥がす。そいつのもともと幼い顔は、涙と鼻水でいつも以上にぐちゃぐちゃで子供っぽかった。

「先輩! 死んだかと思ったじゃないですか!」

 うわーん、と泣き喚く少女。俺は頭突きされたせいで催していた吐き気をなんとかこらえると、彼女に問いかける。

「どうして来た」

「これです。ここ! ほら、先輩の名前! 私、もう心配で心配で涙が出そうでした〜」

 出てるけどな。ついでに鼻水も。そのぐちゃぐちゃな顔は、決して女の子が他人に見せる顔ではない。

 彼女が俺に見せようとした紙を取ろうとすると、彼女はそれを引っ込めた。そして——

 ズビーーー!

 その紙で鼻をかんだ。おい、何してる! その紙を見せろよ!

 彼女は服の袖で涙を拭いながら、

「でも良かったです。先輩、無事だったんですね」

「なあ、なんでその紙で鼻をかんだ。俺に見せるんじゃなかったのか? え?」

 鼻をかみ、涙を拭いたおかげで少しはマシになった彼女の頬を思いっきり抓る。

「ひはひひはひ! やふぇてふだはい、へんはい!」

 ビヨーンと横長に伸びた顔で訴える彼女を見ていると、少しイライラが収まった。俺は手を離す。

 みゅー、とかよく分からない声を出しながら自分のほっぺを撫でている少女。よほど痛かったのか、頬は真っ赤である。少しやり過ぎたらしい。反省は少しもしてないけど。

 波堂莉央(はどう りお)。強襲科のCランク武偵。1年生。俺の戦妹である。

 身長は140センチに満たず、チビ。顔もあどけなさが残り、子供っぽい。もちろんどこかのピンクツインテールみたく、身体に凹凸なんてものはない。

 髪型も黒髪ツインテールと子供っぽさを増す要因の一つである。声もまだまだ幼く、色気の"い"の字もない。

「痛いですぅ〜。先輩のイジワルー!」

 涙目で睨んでくる莉央。けれども、全然怖くない。むしろさらに弄りたくなるような何かを感じる。

 でも、それよりもだ。その紙とやらを見せてもらいたい。

「それで? その紙は?」

 俺は莉央の手から鼻水と涙でまみれた紙を奪い取る。慎重に開くと、どうやら何かのリストらしい。

「ハイジャックされた飛行機の乗客リストです。ここにほら、先輩の名前が!」

 デーン、と口で効果音まで付けて指差した莉央。なるほど、たしかに濡れてて読みにくいが、"芦長糸丸"と書いてある。少し上の欄にはアリアの名前もあった。

「で? 俺の安否を確認しに男子寮に来たと?」

「はい!」

 満面の笑みで答える莉央。無い胸を張って、「どうです? 偉いでしょ?」って感じで誇らしげな顔をして俺を見る。たぶん褒めてもらいたいんだろう。子供だな。

 よし、はっきりと言ってやろう。

「今すぐ帰れ」

「ひどい⁉︎ 先輩ひどいです!」

「いいから帰れ!」

 まったく、こんな時間に男子寮に来るとか何を考えているんだ。この上の階に住む根暗くんみたいに変な噂が立ったらどうしてくれる。

「ううっ」

 クリクリした可愛らしい真紅の瞳(幼稚園児みたいな目ともいう)を潤ませる莉央。ああ、もう。泣かれたら面倒なんだよ。

「わかったわかった。しばらくいろよ」

「い、いいんですか……!」

 歪めていた顔をぱあっと明るくさせる莉央。う、うそなき?

「先輩大好きー!」

「んぐっ⁉︎」

 莉央が人の顔に抱きついてくる。俺は再び後ろに倒れ込む。お、重い。あと痛い。柔らかさというものが感じられないんだ、こいつの鉄板からは。

「おっじゃましまーす!」

 勢いよく跳ね起きると、人の家のリビングへとダッシュしていく莉央。元気がいいな。

 首が痛い。

 たぶん寝違えた時ってこんな痛みがするんだろうな、と思いながら俺もリビングに入る。そこには人のベッドでゴロゴロ遊んでいる莉央がいた。

「じゃまだ、どけ。俺は疲れているんだ。寝させろ」

「えー? 先輩不眠でしょー?」

 莉央はこんなベッド要らないでしょー、とかほざきながら枕に抱きつき、毛布にクルマユ。おい、人の寝具で遊ぶな。

「そうだ、先輩! 私に譲るなんてのは——ゔっ」

 トランセル状態になった莉央が俺の顔を見上げて、顔を強張らせた。今、俺は非常に"こわいかお"をしているだろう。どれくらい怖い顔かって? そうだな、素早さが二段階ぐらい下がるんじゃないか?

「せ、先輩怖いです……」

 縮こまる莉央。ふん、いい気味だ。

「ううっ」

 フルフルと莉央の肩が震える。何でだろう、罪悪感を感じる。

 い、いや! ダメだ、糸丸! 罪悪感を感じたらお前の負けだ!

「莉央。うそなきはするな。俺は騙されないぞ」

「う、うそなきなんかじゃないもん……ヒック。わ、私、うそなきなんてできないもん……ヒック」

 そ、そうだっけ? 覚えなかったか……って!

「俺は騙されないぞ! 莉央、お前の特技はまねっこ! どうせ誰かの真似をして習得したんだ——」

「スピー……」

 ——ろう。残念ながら莉央はもう既に寝てしまっていた。早すぎだろ。てか——

 あどけない寝顔。毛布からはみ出した生足。毛布の隙間からちらっと見えるはだけた胸元。

「ったく、無防備すぎだろ」

 まあこんなガキを襲ったりなんかしないが。普段は9時には寝るというお子ちゃまである。こんな夜遅くまで起きていたんだから、よっぽど眠かったのだろう。

 俺は部屋の電気を消すと、静かに家を出た。今日もジャロにお世話になろうかな。

 

 

 翌朝。自分の寮部屋に戻った俺を待っていたのは、今だにベッドの上で寝続ける莉央だった。

「ぐへ、ぐへへ。ポフレの山だぁ……」

 しかも涎を垂らしながら。おい、俺のベッド!

 叩き起こそうと思ったが、起きたら起きたでさらに面倒なことになること請け合い。俺はスルーをしてパソコンラックの椅子に座った。

 予想通り、エムからメールが来ていた。

『海上を移動、停滞後、信号喪失(シグナルロスト)。おそらくは香料切れ』

 なるほど、海上を移動したのか。ということはイ・ウーは船か飛行機の移動手段を持っているということだな?

 キンジ曰く俺たちの乗っていた飛行機にミサイルを撃ち込んできたらしいし、大型のものと思われる。

 俺は昨日、理子に"においぶくろ"型追跡機をつけたのだ。それが香りを出す限り、居場所の特定が可能という代物。つけられた人物からはフレフワンの香りがする。結構きついんだけどな、フレフワンの香り。

 理子にわざと負けたのはこのためである。俺ことアリアドスはそういう手段を常套手段とするのだ。獲物を見つけたらそいつに糸をつけ、その糸を辿って巣を発見、その巣ごと襲撃する。同じ要領でイ・ウーの本拠地を叩いてやろうと思ったんだが。

「海上を移動するのかー。何かしらの飛行手段が必要だな」

 かなえさんに多くの冤罪を着せている組織だ。中には強力なプレハブがいるとふんでいる。何とかして潜入したいのだが……。

「エムやジャロに相談してみるか」

 装備科のエムに、車輌科のジャロ。二人なら何か良い案を持っているかもしれない。

「むぎゅ……ふわぁ……」

 背後で誰かが欠伸をした。莉央だな。起きたみたいだ。

 俺はパソコンの電源を落とす。これを見たらあいつも一緒に戦うとか言い出すかもしれないし。

「おはよう、莉央。よく眠れたか?」

「せん、ぱい?ぉはようございます……」

 眠そうに目をこする莉央。そのままポケーとベッドの上に座り続ける。おい、いつまでそこにいるつもりだ。

「ほら。さっさと支度しろ。学校に遅刻するぞ」

「ふぁーい」

 欠伸と混じったような返事をしながら洗面所に向かう莉央。が。

 ガンッ!

「みゃっ⁉︎」

 閉まっているドアに気付かずに正面衝突する。……おいおい、大丈夫かよ。

 俺は彼女についていき、洗面所の中に入る。鏡の前でポケーッと突っ立っている莉央がいた。

「ほら、歯ぁ磨け」

 俺は彼女の口に歯磨き粉をつけた歯ブラシを突っ込むと、しょうがないから髪を梳かしてやる。嬉しそうに目を細める莉央。

「へんはいやはひいへす!」

「ごめん、何言ってるか分からない」

 

 

「それでね! あかりったらすっごいドジなんだよ!」

「そうかい。分かったから、口に物を入れた状態で喋るな」

 キャスター付きの椅子に座って、俺らは仲良く莉央に買わせてきたコンビニ弁当を食べる。

 莉央はキャスター付きの椅子に乗ってあっちに行ったりこっちに行ったりしながら楽しそうに最近できた強襲科の友達の話をしている。

 でも良かった。こいつにも友達がいたんだな。毎日毎日放課後はすぐに俺の部屋の掃除をしに来るから、もしかしてぼっちなのでは、と心配していたのだ。

 世の中にはニドラン♂はニドラン♀を呼ぶ、なんて諺があるが、このドジな莉央にも同じくらいドジな友達がいるらしい。

「先輩冷たいですー!」

「あのな。昨日いろいろあって疲れてんだ」

 ブリガロンとの戦闘と理子との戦闘。連戦だぞ? しかも、サイコキネシスまでフル活用して。さらに言えば自宅でゆっくりと休めなかったし。

「甘ちゃんなお前とは違ってAランク武偵は忙しいんだ」

「あ、甘ちゃんじゃないです!」

 莉央はムスッと頬を膨らませる。しかしその丸い顔。クリクリの目。園児みたいに柔らかそうなほっぺた。どこからどう見ても赤ちゃん……じゃなくて甘ちゃんだ。決してこいつが赤ちゃんだなんて思っちゃいない。

「この間だって、あかりちゃん達と一緒に犯人逮捕したもん!」

「偶然だろ」

「ぐ、偶然じゃないもん!」

 足をじたばたさせる莉央。そのうちバランスを崩して、「わひゃあっ⁉︎」なんて叫びながら後ろにひっくり返る。弁当もひっくり返る。あーあ、もったいない。

「ちゃんと片してから学校に行けよ?」

「先輩、助けてー」

 コンビニ弁当のスパゲッティを頭から被った莉央を放置。俺は一人で先に学校に登校することにした。

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