緋弾のアリアドス   作:くものこ

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第6弾

 魔剣(デュランダル)

 こいつは世間でもなかなかに有名な犯罪者——誘拐魔だ。

 でも、誰これかまわずに誘拐するわけではない。標的は超能力を使う武偵、"超偵"だ。

 そういう意味では俺も標的になりうるわけだが、まあ他の人には知られていないし問題ないだろう。それに俺なんかよりもっと大物の超偵を狙うだろうし。

 それこそ、星伽さんのような。

 星伽さんに関して詳しい能力は分からなかったが、彼女は武偵校の秘蔵っ子らしい。青森の星伽神社出身の巫女さんで、主にキンジ的な理由により東京まで出てきたらしい。

 超偵の超能力は、G(グレード)という単位で表される。星伽さんはG15以上あるらしい。俺は計測したことがないからGいくつなのか分からんが。

 この星伽さんのようなレベルのGは、この世に数人しかいないほど高い数値らしい。でもいったいどんな力なのかはいくら調べても出てこなかった。よほど厳重に星伽が情報を管理しているのだろう。

 閑話休題。魔剣だが、その実在自体がデマなのでは、という噂すらある。

 誰も魔剣を見たことがないのだ。だから、誘拐されたという超偵も実は他の事件で失踪したのだという見方が最近出てきた。

「だからそこまで頑張らなくてもいいんじゃないか、アリア」

「バカ言わないで。魔剣は存在するわ。あたしは直感でそう感じてるの。ヤツはすぐ近くまで来てるわ」

 根拠なく、そう言い張るのはアリア。何としても魔剣の情報を手に入れたいということで、諜報科に来て資料を漁っている。

 でもまあ、直感を否定するつもりはない。俺だって虫の知らせで今まで何度もピンチを切り抜けてきたからな。

「あんまり無理して風邪ひいたら元も子もないだろ?」

「うるさい! 黙って手伝わないと風穴!」

 最近アリアはストレスが溜まっているらしい。それもそうだろう。キンジと二人で暮らしていたところに、ライバルの星伽さんが現れて一緒に住むことになったんだから。

「どうしてそこまで魔剣に拘るんだ?」

「あいつの罪もママの罪になってるのよ」

 ……そうだったのか。ということは、魔剣もイ・ウーの構成員ということか? これまたイ・ウーについて調べるチャンスだな。

 イ・ウー。分かっているのは武偵殺しや魔剣ら、無法者が多く在籍する組織だということだけ。どれくらいの規模なのか、組織の長は誰なのかは分からない。

 もしかしたら、プレハブがいるかもしれない。だから俺はそこを調べる必要があるのだ。

「それよりも。聞いたわよ、糸丸。アドシアードに狙撃競技で出るんですって?」

「ああ。少しワケありで」

「そう。それでレキに指導を受けてるのね。……でも、気を付けなさい。あんたに関して、変な噂が立ってるわよ?」

「噂?」

「そう。糸丸、あんたがレキと付き合っているっていう噂。結構諜報科の連中が言ってるわよ?」

 誰だよ、そんな変な噂を流した奴。

 明日は同級生どもを糸で吊るし上げてやろう、そんなことを考えながら作業を続ける。ネットを漁り、書類を読み耽る。そんなことを淡々と繰り返す。

 しばらく時間が経ったが、ろくな情報が出てこない。諜報科の情報の特徴はガセが多いということだ。魔剣に関する情報はあるにはあるが、それが正しいのかどうなのか一切わからない。

「アリア、そっちはどうだ?」

「ダメ。何もない」

 分厚い資料ファイルが大量に収まっている棚の陰から顔を覗かせるアリア。不機嫌そうに目を吊り上げる。

「お腹すいた。糸丸、ももまん!」

「へいへい」

 まったく、本当にわがままな貴族様だな。

 神崎・H・アリア。そのミドルネームのH。武偵殺しの理子はオルメスと言っていたが、これは"ホームズ"である。

 探偵科の教科書にのっているほど有名な、あのシャーロック・ホームズの子孫、それがアリアだ。オルメスというのはホームズのフランス語読み。

 こんなホームズがいていいのかと言いたくなるが、実際にいるのだから仕方ない。

 腕時計を見る。もうすでに夜の9時だ。

「アリア、もう遅い。帰ろうぜ」

「ももまん、忘れないでよ?」

「分かってるよ」

 

 

「ありがとうございましたー」

 松本屋でももまんを購入、その紙袋をアリアに渡す。

「ありがとう、糸丸」

 袋からももまんを一つ取り出すと、アリアはそれを頬張りながら歩き出す。えっ、代金俺持ちですか?

「今度からキンジには奇襲をしかけることにしたの。あっ、真剣白刃取りの話ね」

「へぇ、キンジも大変だな」

「それでもやってもらわないと困るわ。魔剣の使う武器、聖剣デュランダルはどんなものでも斬るという洋風の大剣(クレイモア)だって多くの資料に書いてあったわ。真偽は定かじゃないけど、真剣白刃取りで受け止めてもらうしかないのよ」

 なるほど、たしかに刃を止めれば斬ることはできないな。

「そしてキンジにはそのタイミングで覚醒してもらうの。あたしの推測ではキンジは戦闘のストレスか何かで人格が入れ替わる二重人格のようなものなのよ」

「そうなの?」

 残念ながら違うんだが。少しキンジの中学時代の友人関係とかを調べれば簡単に出てくる情報なんだけどな。

 これがホームズ家の末裔の推測ですか。……あまりその辺りは遺伝されてないのだろうか。

「戦闘狂、みたいなものかしら? まあ、キンジの場合は狂うというよりスマートになるんだけど。優しくて、強くて、賢くて」

 熱っぽく語り始めるアリア。うわぁ、お惚気ですか?

 そんな俺の視線を感じたのか、アリアが少し頬を染める。

「ち、違うわよ? 別にこ、恋なんてしてない。ただ、憧れっていうか。理想の武偵像っていうの、そういう感じなだけ」

「何も言ってないだろ。何で俺がそう思ってるって考えたんだい、アリア」

「っ〜〜〜!」

 顔を一気に紅潮させるアリア。分かりやすすぎだ。

「まあ応援はしてやるよ」

「う、うるさい! あたしは別にキンジはただのパートナーとしか思ってないわ! す、好きとかありえない!」

「そーですか」

 アリアが拳銃を取り出して風穴と叫ぶ前に、俺は早歩きで寮へと向かう。

「絶対違うんだから! 分かってんの⁉︎」

「はいはい。分かってますよ」

「分かってないでしょ! 風穴!」

「何でだよ!」

 そんなやり取りをしていたら、あっという間に寮まで辿り着いてしまった。

「じゃあ、俺は一つ下の階だから」

「ええ、そうね。また明日」

 アリアと別れ、自分の家へ。玄関のドアを開けて中に入り、鍵を閉めた、その瞬間。

「バカキンジぃいいいい———!」

 バスバスッ!

「こ、この! 強猥魔! 死ね!」

 バッ! バリッ! バリリッ! バリッ!

 ……上から罵声と銃声が聞こえてきた。音は次第にベランダの方へと移動している。いったいナニをしていたんだ、キンジ。

 俺は状況を確認するためにパソコンの電源を入れようとして——

「くそっ、今は使えないんだった!」

 ええい、こうなったらベランダからワイヤーを使って上に行く!

 俺はダッシュで窓際まで移動、窓を開けてベランダへと出た。

 その直後。

「浮き輪はあげない!」

 ばぎゅんっ! チュインッ!

 何かが切れた音。そして、目の前をキンジが落下していった。

 東京湾へ。

 しかもキンジは上半身裸だったな。

 ……。

 …………。

 ………………何をやっているんだよ、お前らは。

 

 

「本っ当、ありえない! あのヘンタイッ! 次やったら絶対に風穴開けてやる!」

 翌日。今日も今日で俺はレキの部屋にて星伽さんの見張りのパシリ、もとい狙撃競技のための訓練を受けている。なぜか後ろにはレキではなく、カンカンに怒っていらっしゃるアリアがいるが。

「あ、あの男! あたしの次は白雪にまで手を出すなんて……! 何で白雪なのよ、じゃなくて! どうしてボディガードが依頼人とそういう、ふ、服の脱がし合いなんてするのよ!」

 アリアの話を聞いて整理するに、昨日俺と別れた後、アリアが帰宅すると廊下で上半身裸のキンジと巫女服を着た星伽さんが絡み合っていて、キンジが星伽さんの服を脱がそうとしていたらしい。

 そしてそれを見て嫉妬、ではなくてキンジの武偵としてのあり方のようなものに苛立ちを覚えたアリアが発砲。ベランダまでキンジを追い詰めた挙句、ワイヤーを使って逃走しようとしたキンジのそのワイヤーを切って東京湾に叩き落とした、と。

 さらにそのキンジ。上半身裸で夜の海に落とされて風邪をひいたらしい。今はベッドで横になっている。

 先程まで星伽さんも一緒にいた。キンジの看病をするために学校を休むといって聞かなかったのだが、キンジに言われてやっとこさ学校に向かったところである。

「何よ、何が合意の上よ! う、嘘に決まってるんだから!」

「論点がズレてきてないか?」

「う、うるさい! 風穴開けるわよ!」

「いや待って!」

 ジャキジャキ、という音の後にアリアの携帯が鳴る。

「レキ?」

 レキからの電話のようだ。ありがとう、レキ。おかげで風穴を開けられずに済んだ。

「そう。標的を捉えたのね? 分かった、糸丸に監視をやめさせるわ」

 どうやらレキの方で星伽さんの見張りの用意ができたらしい。

 俺は学校に向けて歩いていた星伽さんから目を離し、安物の狙撃銃をケースに片付け、それを背負う。

「学校に持っていくの?」

「ああ。レキが常に銃とともに生活しろってさ」

 俺は狙撃科じゃないんだけど。

「ねえ、糸丸」

「何?」

 アリアとともにレキの部屋から出て、レキから預かっているカードキーで鍵をかけるとアリアが声をかけてきた。

「キンジのやつに薬を買ってあげたら、喜ぶと思う?」

「まあそうなんじゃないか? でも、キンジは薬があまり効かない体質だからな。上野の——」

「大和化薬の"得濃葛根湯"でしょ? 前にキンジから聞いた」

「そうか」

 なんだ、知ってたのか。

「午前中の授業は休んで買いに行こうかしら?」

「いいんじゃないか?」

 アリアのことだ、どうせ単位はもう揃えているんだろう。だったら1日くらい休んでも平気だよな。

「じゃあ一緒に行きましょ、糸丸」

「えっ、俺も?」

 

 

 電車を乗り継いでやって来たのは上野駅。平日の昼間だというのに、多くの人で賑わっている。そんな中、狙撃銃を入れたでかいケースを背負って歩く俺は明らかに異様である。

 人々の多くが歩いていく先にあるのは上野動物園。

「動物園? ああ、サファリパークのような施設のことか」

「パンダが可愛くて人気らしいわよ」

 パンダ? ああ、白黒のヤンチャムみたいな生き物だっけ。たしかに可愛いよな、ヤンチャム。今度見に行ってみるか。

「アメ横はえっと……こっちね」

 アリアについて上野のアメヤ横丁を歩いていく。やはりここも多くの人で賑わっていて、左右から威勢のいい店員の声が飛び交ってくる。

 中ほどまで歩いたところで、目的の薬屋を見つける。

「あたしが買いに行くから、糸丸はここで待ってなさい」

 近くに立っていた電信柱を指差し、店内に入っていくアリア。俺は飼い犬か何かか?

 まあ、これでキンジとアリアは仲直りしてくれるんだろう。

 それならいいんだけど。

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