緋弾のアリアドス   作:くものこ

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第4弾

 キンジとアリアの潜入、及び俺が盗みに入る日程が決まり、その場は解散となった。

 別の日、理子はその大泥棒大作戦という作戦に向けた特訓を行うと宣言。その特訓の一環として、俺らは今、救護科棟1階の第七保健室なちいる。

「だよねー」

「ですよねー」

「あれはクサいよねー」

「でも、なんであたしたちだけ再検査なんでしょうかね?」

「しらなーい。めんどいよねー」

 女子たちの声が鋼板に開けられたスリット越しに聞こえてくる。

「おい、糸丸。どうして俺らはこんな状況に置かれているんだ?」

「知るか。理子に聞け、理子に。声でその辺にいるのはわかるだろ」

「見れねーよ。なんで女子の下着姿なんか拝まなきゃならないんだ」

 保健室で理子を待っていると、女子たちがやってきたのだ。集団で。

 群れでやってくるものというのは恐ろしいもので、俺らは逃げるように部屋の奥の物陰へ。

 そしたら、女子たちはいきなり制服を脱ぎ始めたのだ。

 そしてやむをえず、この狭いロッカーの中に避難したわけだ。

 本当に狭すぎるぜ、このロッカー。

「お前らも、女子の再検査を覗きに来たんだろ? さすが、分かってるぜ」

 俺の隣で涎を垂らしている、ツンツン頭の大柄な男。車輌科のAランク武偵、武藤剛気だ。

 大柄の武藤含む3名が入るには本当に狭すぎるんだ、このロッカー。

「てか違う。覗きになんか来ていない。ハメられたんだ」

 キンジの言う通りだ。理子に俺らはハメられたのだ。どうせキンジのヒステリアの特訓なんだろ? なぜ俺を巻き込む。

 その時、マナーモードにしておいた携帯にメールが来た。

『イートンは泥棒をするからね! 管理人に見つからないための特訓だよ!』

 よかった疑問が解消されたよ。代わりに怒りが沸々と沸き上がってきたが。別にこんな風にマジで命を危険に晒してまでやる必要ないよな?

「おっ! 今日は大漁だなぁ。平賀文に峰理子、諜報科のふぅか。あ、キンジ! お前のアリアもいるぞ!」

「俺のってなんだよ」

 顔を伏せながらキンジが囁く。どうやらヒスらないように頑張っているっぽい。

 俺も、女子の下着姿を盗み見るような趣味はあいにく持ち合わせていないのでスリットの方に背中を向ける形で目を閉じる。

 と、袖を引っ張られた。

「おい! 糸丸、お前のカノジョもいるぞ!」

 誰だよ。俺に彼女なんていないっつーの。

 それでも、ちょっとだけ気になったので覗いてみる。

 女子。女子。女子。左を見ても女子、右を見ても女子。しかもみんながみんな下着姿だ。

 うむ。たしかにバレたら大変まずそうなことをしてまで見る価値はあるな。趣味はなくても興味はあるのだ。

 でも、中には少々おかしい格好の人もいた。

 例えば、莉央みたいに背の小さくてあどけない女子。いかにも無邪気な小学生、みたいな雰囲気を醸し出し、それを莉央みたいに隠そうともしない彼女はバックプリントのパンツをはいている。

 その隣では俺と同じ諜報科に所属する一年生でキンジの戦妹、風魔陽菜が褌をはいている。こいつは忍者の子孫で、それゆえに忍者らしくしているらしい。喋り方も自分のことを"某"とか言ったり、語尾に"ござる"をつけたりしている。

 あ、アリアもいる。トランプ柄の子供っぽい下着を着ている。でも、見なかったことにしよう。見たことが知られたら後で風穴を開けられるだろうし。

 レキもいた。その辺で安売りしてそうな、木綿の純白インナー。武藤が言っていた俺の彼女とはたぶんレキのことだな。アドシアード前のあの変な噂が原因だろう。他に俺の彼女と誤解されそうな人もいないし。

 と、体重計のそばにいる理子の姿が目に入った。髪の色と同じ金色のランジェリー。彼女は携帯をいじっているな。誰かとメールでもしてるのか——

「ど、どけお前らっ!」

 ガツンッ、と俺は顔をロッカーの扉にぶつける。後ろからキンジに頭を押さえつけられたのだ。頭がジンジンと痛む。

 キンジにやり返そうかと思ったが、もし大きな物音をたてて女子にバレたら大変面倒である。ここは大人しくしておこう。

 金属の冷たい感触をおでこで感じながら、俺は少し考えてみる。

 今日のこの再検査に呼ばれた女子。その中に俺と同じタイプの人間はいなかった。そう、前世が元ポケモンでこの世界に祖先を持たないもの。

 だから何だ、という話にもなるかもしれない。けれどそういうことが結構重要だったりすることもあるのだ。

 よくよく考えてみると、今見た女子たちは優れた血統のお嬢さんたちばかりだ。

 アリアと理子は言わずもがな、ホームズとリュパンの子孫である。風魔はさっきも言ったが高名な忍者の末裔。レキは詳しくはわからないが、ウルスという一族の人間らしいし、おそらくすごい一族出身と思われる。あの無邪気な女子ももしかしたら、偉人を先祖に持つのかもしれない。

 ということは、ここにこの女子たちを集めたのは実は再検査じゃなかったとか? 本当は、何かわるだくみでもしているのでは?

 ヤバいな、今日の俺は頭が冴えてるぜ。

 ——ガラッ。

 誰かが扉を開けて入ってきた音。同時に、女子たちが色めき立つ。

「誰が入ってきたんだ?」

 俺はキンジに小声で聞いた。

「小夜鳴先生だ。講師の」

 ああ、一般科目の生物とかを教えている先生だっけ。

「あいつかよ。善人面して……女子に手ぇ出すとか、そういうウワサがあんだぜ? 小夜鳴が間借りしてた研究室から、女子生徒がフラつきながら出てきたって目撃証言があんだ」

 少し苛ついた声で武藤が言った。それに反応したのは俺ではなく。

「それは聞き捨てならないな」

「キンジ?」

「もしその話が本当なら、俺は小夜鳴先生を赦すことはできないな」

 こいつ、ヒスってやがる。まあ、仕方ないか。あの女子の中には理子のような出るとこは出てる子もいたし。

 まあ仮に小夜鳴先生がそういう奴だったとしても、ロッカーで女子の下着姿を盗み見ている俺らも大して変わらないと思うけどな。

「ぬ、脱がなくていいんですよー? 再検査は採血だけですから。メールにも書いたじゃないですか。はい、服着るっ!」

 なかなかにジェントルマンじゃないか。電気鼠とかを手持ちにしていそうだ。

 この対応を見るに、小夜鳴先生に関するウワサはどうやらガセらしい。どうせ諜報科(うち)が出したガセネタだったんだろう。もしそんなレポートを発見したら、名誉毀損で訴えられる前に破棄しておこう。ついでにそのレポートを書いたヤツからいくらか頂戴するか。

 と、俺が金稼ぎの方法を考えていたら誰かに二の腕を叩か(タップさ)れた。トンとツーを繰り返すこのリズム。指信号(タッピング)だ。

 俺はキンジか武藤かはわからない指(まあたぶんキンジだろ)のから伝えられるメッセージを読み取る。

『バレタミタイダ』

「……っ⁉︎」

 思わず出しそうになった声を慌てて押さえる。

 俺もその手に指信号で返す。

『ダレニ』

『レ——』

 答えが返ってくる前に、ばんっ! と外からロッカーの扉が開かれた。

 もともと扉に頭を押し付けられていた俺は転がるように外へと放り出される。回転受身をとりつつ、俺は扉を開けた人物を確認——木綿の純白インナーの下着姿。レキだ。

 レキはロッカーの中にまだいる武藤とキンジのネクタイを掴み、外へと引っ張り出そうとしている。俺たちみんなそろって処刑されるのか、そう思った時だった。

 がしゃああああんっ!

 窓ガラスが割れる音。そして——

 ドオンっ! という衝撃がロッカーを襲った。キンジは間一髪で抜け出していたものの、武藤はまだ完全に出れていない——!

 ロッカーごと武藤が吹っ飛ぶ。

 俺はすぐさまホルスターから拳銃を抜き、ロッカーを襲ったヤツに照準を合わせて——

「ぽ、ポケモン?」

 思わずそう呟いてしまった。でも、すぐに違うとわかる。ポケモンにこの分類はまだ存在していない……!

「ウソ、だろ……?」

 ロッカーに片足を潰されながらも、リボルバー式の拳銃、パイソンを自らを襲撃したものへと向ける武藤が、そう呟いた。

 ロッカーの上にのしかかる動物。銀色の美しい毛並み。圧倒的な殺気。気品を感じさせる逞しい肉つき。100キロはあるのでは、という巨体。

「コーカサスハクギンオオカミか」

 ヒステリアモードのキンジが言った動物の種名に俺は驚く。たしかそれ、絶滅危惧種だろ? どうしてこんな所に……?

 いや、そんなことを気にしている場合ではない。

「早く逃げろ!」

 武藤が大声で叫んだからと思うと、ドォンッ!

 天井へ向けて威嚇射撃を行った。

 動物は通常、大きな音に弱い。ポケモンだってそうだ。音を利用した攻撃は身代わりすら貫通する。

 しかし、この狼は武藤の銃が放った轟音に全く怯まなかった。莉央並みの精神力だ!

 なら直接当てるしかないか。

 俺は拳銃を狼の足へと向ける——が、その銃口をキンジが手で掴む。

「糸丸、武藤、銃を使うな! 跳弾の危険性がある! 女子が防弾制服を着ていない!」

 言うが早いか、キンジは狼に飛びかかった。そして、狼共々薬品棚へと突っ込んでいく。狼を女子から遠ざけるように。

 たしかにキンジの言う通りだ。女子たちはまだ服を着ていない。あの狼のするどい爪。あんなのに引き裂かれたらひとたまりもないぞ。

 ぐるるおうんっ!

 狼がテラキオンのような吠え声を上げる。その剣山のように荒い毛を逆立てる。

 そして、キンジの胸に爪を立てて——どんっ!

 真後ろにジャンプをした。キンジがうまくカウンターを入れたらしい。さすが、ヒステリアモードだ。

 しばらくキンジを睨んでいた狼は急に方向転換すると、部屋の向こう側で立ちすくんでいた小夜鳴先生めがけて体当たりをかます。

「——あっ!」

 跳ね飛ばされた先生は身長計を倒しながら転倒する。

 しまった。小夜鳴先生は武偵高の先生とはいえ非常勤講師。戦闘訓練を受けていない、一般人なのだ。

 俺らの判断ミスだ。同じ丸腰の人間でも、武偵高の女子たちは戦い慣れしている。まずは小夜鳴先生を保護するべきだったのだ。

 いや、悔やんでいる場合ではない。今にも狼がおいうちをかけるかもしれないのだ!

「キンジは女子を頼む!」

 ヒステリアモードのキンジはどうしても女子を優先させてしまう。だから、女子の保護はあいつに任せる。

「先生、伏せて!」

 俺は踵のワイヤーを牽制代わりに狼と先生の間に撃ち込む。

 壁にワイヤーが刺さる。背中のナイフを取り出すと、狼めがけて振る。

 狼は軽やかに後方にジャンプしてかわし、窓の外へと逃げていく。

「糸丸、追いかけなさい!」

 制服を着たアリアが俺のそばに来る。手には保健室に置いてある救急箱。どうやら、先生の手当てを受け持ってくれるらしい。

「キンジ!」

「悪い。変な薬品を被ったみたいで、頭がクラクラするんだ」

 キンジが倒されたロッカーの上に座りながら答えた。その側でロッカーの下から救出され、衛生科の手当てを受けている武藤が俺に何かを投げてよこした。

 俺はそれをキャッチして確認する。何かの鍵だ。

「糸丸、俺のバイクの鍵だ! そこの茂みの中に隠してある! 使え!」

 バイクか。使ったことはないし免許も持ってないけど、ジャロが乗るのは何度も見たことがある。だから何となくなら乗り方は分からなくもない。

 見よう見まねでやってみるか。

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