緋弾のアリアドス 作:くものこ
ジャロに連れてこられたのは、路上駐車しているジャロのキャンピングカーを改造した大型車両——その名も、ジャノ・ビークル。遠くへの遠征に出かけたり、大型の武装を運んだりするのに使ったりする。
その中からジャロが何かを取り出す作業に入る。
「実は名古屋帰りでね。たまたま横浜で夕食にしようかと思ってたら、君を見かけたものだからさ。そしたら、全身ずぶ濡れでランドマークタワーに走っていってるじゃないか。驚いたよ」
「そ、そうだったのか。ありがとう、おかげで助かった」
「いやいや、礼には及ばないさ。それでね、
「悪い、ジャロ。急いでいるんだ」
興奮した様子で名古屋での楽しい思い出を語り始めようとするジャロに釘をさす。
「あ、ああ。そうだったね。で、僕が名古屋まで行ったのはこれのためなんだが——」
ジャロが取り出したのは、モーター付きハンググライダーを武装したようなもの。赤と白のカラーリングを施されたそれは、まるで戦闘機。とあるドラゴンポケモンを彷彿とさせる。
「これはthe Latest Armed Transport-aircraft for Itomaru to Assist Strike ——糸丸専用最新式攻撃支援型武装航空機、略して
「は? いや、どう考えてもシシコっていう略称は相応しくないだろ⁉︎」
それくらい次世代感のあるハンググライダーなのだ、これは。そんな略称、俺は呼びたくないぞ。だったらその長ったらしい英語をフルで呼ぶ。
「冗談だよ、冗談。正式な略称はLatias ——ラティアスだ。
だよな。そうじゃないかと思った。
「最新のカーボン素材にリフレクター効果を付属させたパイプの骨組みに、バリアーと光の壁の合成繊維で作られた
「これはなんだ?」
俺は翼の内側に取り付けられている砲塔を指差す。今は砲身が折りたたまれているが、展開すればハンググライダーの先端から飛び出そうだ。
「それは
腕部は赤い装甲に白いマニピュレーターが取り付けられている。すごいな。本当にラティアスをモデルに作っているのか。
「でも、俺はハンググライダーなんて操縦したことないぞ?」
「大丈夫。これはサイコミュ式だし」
「さ、サイコミュ? 俺はエスパータイプではないんだが」
たしかにサイコキネシスは使える。でも、威力は低めなのだ。とてもこれを操縦できるとは思えない。せいぜい飛ばすのが関の山だ。
「問題ないよ。はい、これ」
ジャロが差し出してきたのは縦笛。
「これは?」
「むげんのふえ。君の脳波を増幅して発振するアイテムだよ。君の脳波を音に変換してラティアスに送ってくれるんだ。そのためには吹かないとダメだけどね」
「なんだか頭の痛くなる話だったが、要は笛を吹けば自由に操縦できるんだな?」
「そうだよ」
俺は縦笛を受け取る。この笛、中の空洞が何かを入れられそうなくらい広いな。何か入れておこうかな?
「現段階の最高時速は100キロ。開発中のMG装備とか、ラティアスに搭載された糸丸君をサポートするすごい機能とか、いろいろ話したいことはまだまだあるけど今は時間がないからね」
ジャロは俺に赤いハーブを手渡した。パワフルハーブだ。
「ハンググライダーはまず人力で飛び出さないといけないんだ。そのために、これを使ってくれ」
なるほど。アリアドスが使えるため技、アレを使えってことだな?
「でも、ちょっと待てよ。時速100キロって、俺の体がもつのか? Gとかってどれくらいかかるんだ? それと、潜水だってそうだ。生身だと数メートルも潜れないんじゃないか?」
「それも心配ないよ。ラティアスがしんぴのまもりを施してくれる。ラティアスが時速何キロで飛ぼうが、水深何メートルに潜ろうが、君の体には何の変化ももたらさないよ」
そうなのか。なんかすごい機能だ。
「あ、あと。ラティアスにはハーネスがない。君のワイヤーで何とかしてくれ。まあ、だからこそ糸丸専用なんだけど」
「分かった」
なるほど、ハーネスがないのか……ところで、ハーネスって何?
ジャロから渡されたパワフルハーブの香りを嗅ぐ。すると、体の芯から力が漲ってくる。これならすぐにやれそうだ。
「いくぞ——とびはねる!」
俺は強く地を蹴り、横浜の空へと飛び上がった。
ドガースとキャモメはそう遠くへは行ってなかった。油断していたのかそれでも全速力だったのかは知らないが、随分とゆっくり飛んでいる。
俺は機体を加速させると、二人の背後へとつける。
「おい、待て!」
「は⁉︎ アリアドスが空を飛んでる⁉︎」
驚いたドガースとキャモメめがけて——
バラララララララ!
俺はアームのマシンガンを掃射する。散開したキャモメとドガースのうち、遅いうえに武器がないと思われるドガースの方を先に落とすことにする。
「こ、このやろう!」
口ではそう言いながらも、ドガースは逃げるだけで仕掛けてこない。やはりもう武器はないと見た。
「落ちろっ!」
ワルサーを発砲。ドガースの服がパンッ、と破裂した。
「ぬわあああああッ!」
穴が空いた風船のようにヒュルルルル……、と下に落ちていくドガース。俺はそれを追って急降下をする。
「大人しくボールに捕まれ!」
巾着袋から取り出したモンスターボールを投げつける。
ボールが触れる瞬間、俺とドガースの目が合った。
「恨んでやるッ!」
カチッ、バシュン!
モンスターボールにドガースが吸い込まれる。そして、ドガース入りのボールは下へと落ちていく。
「ジャロ、ドガースを捕獲した」
『了解。回収に向かうよ』
インカムでジャロと連絡を取った直後——
「——来るッ!」
ラティアスを急旋回させる。直後、空中に水鉄砲が走る。
「ちっ、高機動かよ」
「キャモメ!」
俺の後方から襲いかかってきた空飛ぶサーフボード。それに乗ったキャモメが水鉄砲を連射してくる。狙いは正確、まっすぐ俺を狙ってきている。
ならば!
腰のワイヤーをコントロールバーに引っ掛けると、俺はラティアスを宙に浮かせたまま下へと落下する。
ガラ空きとなったトライアングルの間を水鉄砲が通り抜ける。
「ちょこまかと!」
俺の方へと体の向きを変えたキャモメ。
「おっと、上方注意だぜ!」
俺は笛を吹く。
バラララララッ!
無人のラティアスがマシンガンを掃射した。
「なんでっ!」
慌てて回避運動に入るキャモメ。俺はそこをラティアスに突進させる。
ラティアスと衝突し、キャモメが水鉄砲から手を離した。
水鉄砲が横浜の街へと落ちていく。
「ち、ちくしょう!」
旋回したキャモメは逃げるように飛んでいく。
「逃がすか!」
ワイヤーを巻き戻してラティアスのコントロールバーに戻ると同時に、笛を吹いてキャモメを追いかける。明らかに向こうのサーフボードよりこっちのラティアスの方が速い。すぐに追いつける!
「キャモメ! 投降しろ!」
「誰が!」
キャモメが高くジャンプをすると、サーフボードだけが後方へと飛んでくる。
俺はマシンガンを掃射してサーフボードの針路を変えながら、機体を上昇させて回避。
ドンッ!
「上を取った!」
ハンググライダーが一瞬沈む。急に重みが増した。どうやらキャモメに翼の上に乗っかられたらしい。でも、それは無駄だ!
俺は笛を吹き——
「ぬわっ⁉︎」
ラティアスを一回転させてキャモメを振り落とす。ボールを構えたところ、邪魔をするように間にサーフボードが入ってくる。
バラララララ——カカカカ!
マシンガンを撃って退かそうとするも、弾切れ。
でも、まだ霧弾砲の射線上。霧弾砲、威力を試させてもらいますか。
シュウウウウウウ……。
近くの空気が砲身の反対側から吸収される。そして——ボムッ!
直径10センチくらいの真っ白い弾が発射される。カーブを描いて飛んだ弾は、サーフボードの中央に直撃。サーフボードが真っ二つに割れた。す、すげぇ。
「う、嘘だろ⁉︎」
飛行手段を失ったキャモメは、真っ逆さまに落ちていく。死なせるわけにはいかない。武偵は人を殺してはならないし、あいつからは色々と聞き出さないといけないことがある。
霧弾によって作られた霧を突き抜け、キャモメを追う。隣に並んだところでボールを投げる。
「ちくしょう、覚えてろよ!」
最後にそんな捨台詞を残しながら、キャモメはボールへと吸い込まれた。
「ジャロ、キャモメも捕獲した。ボールを落とす。回収しておいてくれ」
「糸丸君? もう敵はいないだろ?」
「いや、いるさ」
俺はラティアスを旋回。目指すのは高度296メートルの高層ビル。だいぶ近くまでコクーン、じゃなくて黒雲を立ち込めたその屋上。
「横浜ランドマークタワーにね」
ものの数十秒で目的地の近くまで着いた。僅かながら、屋上の様子が見えた。
……あれは、俺の目の錯覚だろうか? 屋上でアンテナが動いているんだが?
俺は高層ビルの側面に沿って上昇する。
あともうちょいで屋上に出る、その時——
ビャアアアアアウヴァイイイイイイイ——!
耳を劈く突然の大音響にブンッ、と衝撃がやってくる。
反射的に耳をふさいでしまい、俺はコントロールバーから手を離してしまう。
「しまった!」
急いで踵のワイヤーを射出、ラティアスに引っ掛ける——が、そのラティアスまで落下をしている!
「笛!」
俺は胸ポケットにしまっておいた笛を取り出して吹くが、音がさっきの大音響の余波に掻き消されているのか、ラティアスは動かない。
「この不良品!」
止むを得ず、高層ビルのガラス窓にもう一方のワイヤーを撃ち込む。おかげで、俺の落下は止まった。けれど、ラティアスは俺より下に落ちていき——ガクン。
「痛——!」
や、やばい。股間が裂けそうである。ほぼ150度近く開脚している俺の足。床に座った状態での開脚なら、これくらい大丈夫なのだがなにせ片足には数十キロの重りがついている。
「ファ、ファイトォ!」
俺は無理やりラティアスと繋がっている片足を上げようとする。が、さすがに無理があった。全然上がらない。
「ふ、笛を……」
気付けばあの大音響は止んでいた。俺は胸ポケットから笛を取り出して吹く。
ピィ——!
すると、ふわりとラティアスが浮上してきた。足が楽になる。た、助かったぁ。
ラティアスのコントロールバーを掴み、体勢を整える。
そこへ、上から何かが落ちてきた。
初めは理子のもう一丁のワルサーかな、なんて思っていたんだが。
近づいてくるにつれてハッキリしてくる。あれは拳銃なんてサイズじゃない。人だ。たぶん、男子高校生くらいの。
「い、糸丸⁉︎ 糸丸なのか⁉︎ た、助けてくれ!」
俺に助けを求める防弾制服姿の男子。いつもはネクラでやる気のなさそうな顔をしているのに、今はかなり緊迫した表情をしている。
——なあ、空からキンジが降ってくると思うか?