緋弾のアリアドス   作:くものこ

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第3弾

 ジャロとの通話を終了し、リビングへと戻った俺。その俺を待っていたのは——

 パーン!

 クラッカー代わりのおもちゃのエアガンの発砲だった。部屋中に紙吹雪が飛び散る。

「先輩! 退院おめでとうございます! 今夜はパーティにしましょう! 莉央が食材を買ってきました!」

 莉央がいた。妙にテンションの高い彼女は、両腕にコンビニのレジ袋を大量に提げている。それは食材というか、すでに調理済みのものだろう。

「先輩はどっち食べます? カルボナーラとミートスパゲッティ。莉央はどっちでもいいので、先輩が先に決めてください!」

「えっと、悪いんだけどご飯はもう食べた」

「そうなんですか? ——でもたしかにそうですよね。数日間ずっと眠ってたんですもん。お腹すきますよね。じゃあミートソースはあのタコに送りましょう。退室祝いです!」

 スキップなんかしながらキッチンへと入る莉央。冷蔵庫を開けてモーモーミルクの瓶を取り出し、ゴクゴクと飲み始める。

「えっとだな、莉央。大変言いづらいことなんだが——」

「先輩、今夜は二人ですね。その、私、かかか覚悟はできてますので!」

 覚悟? 何の?

「この間は混乱っていうか、途中までで……だから、その……」

 モーモーミルクを飲み干した莉央は、それを洗おうとしてシンクを見た。そして、硬くなる。

「……随分と食べたんですね。フルコースですか? しかも2人分も」

「えっと、だからだな。説明すると長くなるんだが——」

「あー! お腹が空きすぎていたんですね! 分かります、莉央もそういう時あります! ちょっとおやつ食べ過ぎたりとか、冷蔵庫に入っていた先輩のハートスイーツを食べたりとか!」

 おい。食べてたのかよ、人のデザート。

「すみません、先輩。莉央がもう少し早く帰って来れればよかったのに。あ、じゃあ莉央が食器を洗いますね!」

 無理やり作ったような、不自然な笑顔を見せた莉央は食器洗いを始める。ガチャンガチャンという音を聞いていると、皿を割らないか少し心配。

「ありがとう。じゃあ洗いながらでもいいから聞いてほし——」

「あれ? 何でフォークが二つも……?」

 莉央の表情が明らかに曇る。

「だからだな。俺はご飯を——」

「ああ、わかりました! 急いで食べようとして、両手を使って食べようとしたんですね! ナイス推理でしょ! 先輩、莉央、探偵科に転科しようかな。先輩もどうです?」

「莉央! いい加減にしろ! 人の話を聞け! てか気付いてるんだろ、俺が一人でご飯を食べてなかったってことくらい!」

 莉央が黙り込む。しばらくして、かなりテンションの下がった声で彼女は喋りだした。

「……分かってますよ。あれですよね、キンジさんですよね。彼と一緒に食べたんですよね」

「違う。俺が一緒に食べた相手は——」

「ああ、じゃあ奥田ですね。私に追い出された奥田が、私のいない間に先輩と密会しようとしたんですね」

「違う。莉央、少し話を——」

「じゃあ蔦時さん。彼とこの間の横浜の思い出を語りながらゆっくりと食事を——」

 いい加減にしろ、とまた怒鳴ろうとした時、莉央が口をぽかんと開けたまま停止した。その目が見ているのは、廊下の方。俺もそちらを見ると——

「ご主人様、どうかされましたか? 先程、ご主人様の怒鳴り声が聞こえてきたのですが」

 バスタオル一枚の明日香がいた。

「はい?」

「あっ、すみません。私の声、聞き取りにくかったんですね。ではもう一度」

「いや、違う。その格好は何だ?」

「この格好の方がこの後の行為をやりやすいかと」

 ……なんてヘドロ爆弾発言。莉央から(主に首より上から)ボンッ、て爆発音がしたぞ。

「後の行為って……」

 ウルウルと目を潤ませて俺を見る莉央。爆弾を落とされた首から上は真っ赤っか。

「違うんだ、莉央。こいつが勝手に言っているだけで——」

「あっ! すみません、ご主人様。ご主人様は普通にやるよりメイド調教の方が良かったんですね」

「そういうことじゃなくて!」

「せ……先輩のバカーーーー!」

 莉央はそう言うとキッチンから玄関へと走っていき——

 

 バタンッ!

 

 出て行ってしまった。

 残ったのは俺と裸体にバスタオルを巻いただけの明日香。

「……明日香、色々と言いたいことはあるが、まずは服を着てくれ」

「ではご主人様。すぐに着替えますので」

 そう残すと、明日香は脱衣所へと戻っていった。

 

 

 明日香が着替えている間、俺は莉央の置いていったレジ袋の中身を確認していた。カルボナーラ、ミートソーススパゲッティ、唐揚げ、たこ焼き、ポテトチップス、ポッキー、その他いろいろのお菓子。本気でパーティをするつもりだったらしい。

「何だこれ?」

 その中から、何重にも袋に入れられたものが出てきた。中身は二粒の錠剤。何だろう。別に莉央は持病は持っていなかったはずだが……。

 でもまあ、これだけ何重にも袋に入れられていたという事は、よほど大切なものなのだろう。俺はそれを制服のポケットにしまっておくことにする。今度莉央にあったときに返しておこう。

「お待たせしました」

 リビングに明日香が戻ってきた。彼女はたしかにメイド服を着ていたが、さっきまでの茶色いロングスカートではなかった。

 黒と白のメイド服。全体的にフリルが多く、彼女が動くたびにヒラヒラと揺れ動く。ミニスカートの下から覗く生足は黒いニーハイと絶対領域と呼ばれるものを作り出し、その艶かしい太腿に付けられたガーターリング(しかも片側だけ。絶対に本来の用途で使用していない)が随分とまあ扇情的だった。

 これ、キンジだったらヒスるんだろうな。

「さあ好きなようにしてください」

 両腕を広げる明日香。『さあ、飛び込んできて!』とでも言いたげに。

「じゃあ何もしない」

 俺は袋の中に入っていたものをすぐに食べないとダメなもの、保存のきくものに分別する。

「どうしてですか? 女の子が自分を好きなようにしていいって言っているのに、何もしないんですか?」

「じゃあ聞くけどな。お前はいいのか、そんなふうに自分を簡単に捨てちゃって」

「そういう契約ですから」

「どんな契約だよ。しかも他人が俺の名義で勝手にやった契約だし。それに、俺はそんな契約望んでない」

 作業を続ける俺の目の前に明日香が腰を下ろした。体育座りで。黒いニーハイを履いた細く長い脚が嫌でも目に入る。そして奥の方が見えそう。

 俺は彼女から目を逸らした。

「怒ってます?」

「そう思うんだったら話しかけるな」

「怒ってるんですね。どうしてです? あなたはあの小さい子の行動が嫌に感じる時もあるはずですが。そういう感情を私は感じ取りました」

 たしかにあいつが人のハートスイーツを勝手に食べたことを聞いた時には苛ついたが。

「たしかに莉央はちょっとわがままというか、なんかよく分からない行動をすることもある。けれども俺の大切な戦妹なんだよ。彼女に助けられたことだって何度もある」

「妹が欲しいんですね? そして、自分を助けてくれる存在が。——でしたら、私がなります」

「は?」

「これでも妹の素質はあると思います。(ラティアス)ですし。サポート要員としての手助けはお任せください。()よりも補助技が豊富に使えますよ」

「そうじゃない。お前と莉央は違うだろ? そもそも()が違う。いいか、この世界では向こうの世界よりも絆がモノを言うんだぞ」

「なつき度の話ですか? それなら大丈夫ですよ——」

 そっと食べ物を詰め込んだビニール袋を持つ手に自分の手を重ねる明日香。彼女は俺の耳にそっと囁く。

「私はテレパシーで人と気持ちを通わせられますから。連携プレーでもなんでもできます。それに、私の方があの子よりずっと役に立ちますよ? あなたを乗せて空を飛ぶことも海上を移動することもできるんですから」

「それとこれとは話が別だろ」

「別じゃありません。パートナーは一人にしましょう? 複数持ちなんて良くないです。外に連れ歩けるポケモンだって手持ちの先頭だけですよ」

「悪いけど俺はトレーナーの手持ちになったことがないからわからないな」

「じゃあ私が手取り足取り教えてあげます」

 俺の手からビニール袋を奪った明日香は、その中からポテトチップスの袋を取り出す。

「まず、古い女の子のことは忘れちゃいましょう」

 明日香が手に力を込めた。

 ポテトチップスの袋がパリパリッと音を立てた。中で砕けたのだろうな。

「あっ、お風呂に入ってくださいね。()()()()()()()()

 明日香は口だけで微笑むと、そう告げるのだった。

 

 

 バスルームの脱衣所に入った俺は風呂には入らずに考え込む。

 まだ温かいうちに。これは多分、自分が温厚に接しているうちに覚悟を決めろと言っているのだろう。

 どうして彼女はそこまでして俺の元に居座るのだろうか? 彼女の目的は何だ? 彼女の行動は全て契約が原因らしいが……。

 そもそも契約の内容は何だ。ここまでやるということは、よっぽどヤバい内容なのか?

 明日香かジャロに確認するしかないか。教えてくれるかどうかは別として。

 とりあえず風呂に入ろう。彼女の言うように温かいうちに。

 と、服を脱いだ時に携帯が鳴った。メールだ。

 画面を開く。差出人はキンジだった。

『芦長君、今すぐ空き地島に来て』

 ……キンジから、だよな?

 いや、分かってる。俺のことを芦長君と呼ぶ人は一人しかいない。遠山カナ。

 キンジの携帯からメールを送ってきたということは、その場にキンジがいるということだよな? やっぱり彼女はキンジの姉なのだろうか?

 しかし俺は今、家を出れるかどうか分からない状態にある。明日香が俺の外出を許可するのか否か。いや、ここはむしろカナさんに助けを求めてみるか?

「ご主人様、どうかしましたか? 先程からシャワーの音が聞こえないのですが」

「あああ明日香⁉︎」

 脱衣所の扉の向こうから明日香の声がした。

「開けますよ?」

「ばっ、バカ! 俺は今裸で!」

 急いで下着と室内着の下だけを着る。直後、扉が開いた。

「お湯が冷めてましたか?」

「なんで開けたんだよ! 誰も開けていいなんて言ってない!」

「はっ! 失礼致しました!」

 深々と頭を下げる明日香。こいつ、もし俺が素っ裸だったらどうするつもりだったんだ。

「まあいい。それよりも、少し外出をしたいんだが」

「外出ですか? わかりました。すぐに私も出かける準備を——」

「いや、俺は一人で行きたいんだ」

「えっ……」

 しばらく明日香は俺の目を見つめる。よく嘘をついている時は目を逸らすとか言うし、なんだか逸らしたら負けな気がしたので、俺も見つめ返してやる。

「いいですよ」

「えっ、いいの?」

「行きたいのでしょう? それなら私は止めません」

 思ったよりもすんなりと認めてくれた。ダメだと言われるかと思ったんだが。

「私はご主人様の望むことなら何でもしますし、ご主人様がやりたいことは何であろうと止めません」

「じゃあ出て行ってくれ」

「それは無理です」

 おい。いきなり言動が矛盾してますよ? 有言実行してくださいよ……もしかして、むげんだから無理なのか?

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