緋弾のアリアドス   作:くものこ

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第13弾

「……んん……」

「あっ、イートン。起きた?」

 目を覚ますと、ハート型の眼帯をしたナース姿の理子が目に入った。

「なんだ、その格好は」

「これ? これはキーくんのために……って何言わせてるのかな⁉︎」

 ごんっ! 拳骨された。イミフ。

「コホン。時間がないから手短に話すとね、イートンにはこれからウルップ島沖の公海に行ってもらうの!」

 ……はい?

「ごめん、よく分からないんだが。そもそもここはどこだ? というより、俺は白井と戦って、火傷状態にされて……」

 周りを見回してみる。機械の部品だらけの部屋だ。俺が寝ていたのは床に敷かれた布団。壁にかかっている時計が、現在午後3時であることを示している。

 どうやらカジノ警備は昨日の出来事らしい。ということは、あの後は何とか場の収まりがついたのか? でも、どうやって?

「ここ? ここはエミューの寮部屋だよ?」

「エミュー?」

「私です」

 と、部屋に入ってきた一人の女子。銀髪ショートカット。エムだ。ああ、エミューってエムのことか。また理子の変なあだ名だったのか。

「エム。どうして俺はここに? 白井との戦闘はどうなったんだ?」

「コートを着た男の人がやってきて、レシラムを追い払っていきました」

 コートを着た男の人? 切里玲か? いや、それなら沙那が気付くはず。コートを着た男の人という表現はしないだろう。

「女子寮の屋上で待ってます」

 エムはそう言い残して部屋を出ていった。屋上? そこに何かあるのか?

「ほら、イートン。急いで急いで!」

 理子に急かされるがまま、俺はエムの部屋を出た。いつの間にか服は制服に交換されている。

 玄関のドアの先。今度は松葉杖をついたジャンヌがいた。

「芦長。目が覚めたようでよかった。状況はリュパンの代わりに私が教えてやろう。あいつ、どうせろくなことを説明してないだろう?」

「まあ」

 理子からバトンタッチされた(というか勝手に入れ替わった)ジャンヌは、俺に説明を始める。

「カジノ警備の最中、お前は船を見たな?」

「ああ。なんか金銀で飾られた豪華な船だったぞ」

「それの持ち主——パトラというんだが、そいつがアリアを攫ったのだ」

 攫った? そうか、あの時撃たれたアリアはそのまま拉致されたのか。

「でもなんで俺が?」

「あのラティアスとかなんとかいう装備。あれを使いこなせるのはお前だけだと車輌科の人間が言っていてな」

「俺が一人で行くのか?」

「ああ、心配はいらない。キンジはオルクスで先に向かっている」

「オルクス?」

「私が武偵高に潜入する際に使用した潜航艇だ。元は3人乗りだったが、改造した結果2人までしか乗れなかったのだ。しかも白雪、レキはどちらも負傷。私たちもな。誰も一緒に行ける人がいなかったのだ。ゆえに、キンジは一人で向かった。

 1人で敵地に潜入しに行ったキンジ。漢だな。

 とにかく、俺はアリアの救助に向かったキンジの支援に行けばいいんだな。大まかな状況は分かった。そもそもどうしてアリアは拉致されたのかなどの疑問もあるが、好奇心ニャースを殺す。聞かないでおこう。

「いいか、芦長。アリアは午後6時までに助け出さなければならない。そうしなければ死んでしまう」

「えっ?」

 アリアが死ぬ? 今は午後3時だからあと3時間しかないじゃないか。

「ジャンヌ。Latiasの最高時速は100キロだ。とてもじゃないが間に合わない」

「その辺は問題ない。問題はパトラだ」

 いや、問題だろ。ウルップ島まで300キロ以上は確実にあるぞ。どうしたって間に合わない。

 そんな当たり前のことを考えられないほど焦っているのか、はたまたただの天然なのか。もしくは、何か策があるのか。ジャンヌは別のことを説明し始める。

「パトラは魔女(マツギ)だ。それも推定G25。お前の超能力なんて比じゃないぞ」

 G25だって? 俺どころか、白雪よりも高いじゃないか。

「しかも奴はピラミッド型の建物がそばにあると、無尽蔵に魔力を使える。気をつけろ。これから向かうのは敵地だ。確実にピラミッドがある」

 チートだな。こころのしずくを所持したラティアス並みに強いんじゃないか?

「パトラはスカラベという虫を使い魔とする。その虫がつくと、不幸になる呪いがかかるのだ」

「虫……? もしかして……」

「ああ。私のこの足はやつの呪いのせいだ。理子の目もな」

 ジャンヌが理子の眼帯を指す。そうか、理子もか。すると、パトラとやらは随分と入念に今回の計画を推し進めていたらしいな。

 でも、何のために?

「さらに厄介な話を聞いた。パトラはボディガードを雇ったらしい」

 まじか。まさかプレハブだったりしないよな?

「お前がイ・ウーについてどこまで知っているのかは知らんが、パトラは次期イ・ウーの教授候補、アリアを人質にとって現在の教授と交渉をしようとしている」

「可愛いひ孫のためなら譲ると踏んだということか?」

「……教授の正体を知っているのだな?」

「まあ。それしか知らないけど」

「それだけで十分だ。現在のイ・ウーは絶対的な存在である教授がいるおかげで内部分裂をせずにいる。しかし教授の死期が近いのだ。そのためイ・ウーでは現在、意見が研鑽派(ダイオ)主戦派(イグナテイス)の二派に分かれている。私や理子は研鑽派。パトラは主戦派だ」

「なんだ、組織の内部対立に俺らを利用するのか?」

「違う。この内部抗争は世界に影響を及ぼすぞ。我ら研鑽派はただ自らを高めることを目的とする。しかし主戦派は違う。彼らは世界征服を企んでいるのだ」

 ……なんか、悪の組織そのものだな。大概、強いやつに解散させられるのがオチだが。この世界でいうと、キンジか?

「説明はこれくらいでいいだろう。屋上にもついたしな」

 俺とジャンヌ、理子は女子寮の屋上に出る。

 風の吹く棟の屋上。そこにいたのは。

 着替えていないのか煤まみれの沙那。腕をギプスで固定しているレキ。頭に包帯を巻いている白雪。

 ヘリポートに用意されていたのはヘリではなくてハンググライダー。でも——

 そのハンググライダーは、つい昨日見たハンググライダーとは違った。いや、そのハンググライダーに追加装備を施している。

 前方に取り付けられた首のような細長い金属パーツ。機体の翼部には大型のジェットエンジンが搭載されたウイング。後方には巨大なプロペラントタンク。

 それらの装備の色合いは、すべて薄い青紫色。まるでラティアスとラティオスの色を混ぜたような感じだ。

「これがMG装備です」

 その大かがりな装備を施されたLatiasの影からエムが顔を出した。

「MG装備?」

「はい。これにより、最高時速はマッハ4になります」

「マッハ4⁉︎」

 それってもしかしてピジョットの倍の速度じゃないか?

 すごいな。MG装備。先端科学兵器ってこういうのを言うのか? かがくのちからってすげー!

「ところでこの先端の突起物は何だ?」

「霧弾砲の砲身兼空気の取り込み口です。ハンググライダーの前方にある空気を吸収してしまうことで、空気抵抗をなくそうという発想のもと作られました。試運転(テスト)はしていません」

 テストしてないのかよ。大丈夫なの、これ?

「糸丸さん」

「沙那?」

 沙那から渡されたもの。それはポーチだった。

「秘伝の薬、作っておきました」

 渡されたポーチの中身は携帯版の秘伝の薬。小瓶が5本。俺はそのうちの一本を飲む。

「ありがとう」

「いえ。私たちが無理に決闘させてしまったわけですから……」

 沙那が申し訳なさそうに頭をさげる。

「いやいいって。どのみち負けてたんだ。でもどうして俺らは無事だったんだ?」

「黒いコートを着た男の人が現れたんです。すごい殺気でした」

「そうか……」

 誰だろう。俺の知り合い、なんだよな? 黒いコートを着ている男なんていたかなぁ……。

「イートン、それってたぶん遠山カナじゃないかな?」

「カナさん? カナさんは女だろ?」

「あっ——そうだねー。くふふ」

 何か面白いものを見つけたようににんまりと笑う理子。な、何だ? 俺が何か変なことを言ったのか?

 その辺を確かめておきたいところだが、今は時間がない。無事に帰ってきたら聞くとしよう。

 俺はコントロールバーを握り、飛び跳ねるために足に力を蓄える。

「糸丸君、キンちゃんをお願いします」

「白雪。ああ、分かってる」

「糸丸さん。風はあなたについています」

「ありがとう。追い風が吹いてるってことで受け取っておくよ」

「イトマル!」

 その時、ドアを蹴破って屋上に入ってきた男が1人。武偵高の制服を着たそいつの顔はのぼせているかのように赤い。

「奥田?」

「良かった、間に合ったぜ。ほら、これ」

 奥田哲。元オクタン。その奥田に渡されたのは1発の銃弾。

「自家製の煙幕弾(スモーク)だ。煙幕を張れる。きっと何かの役に立つぜ」

「いいのか? まず武偵弾を自分で作れるところに驚きたいが、だいぶ苦労したんじゃないのか?」

「何言ってんだ。俺はお前の情けで今もこうしていられるわけだからな、これくらい当然だろ」

 奥田は制服を摘んでヒラヒラと振る。そうか、武偵高の生徒になったんだっけ。

「あとこれはリオルからの伝言。『帰ってきたらお説教ですっ!』だそうだ。今、単位稼ぎで忙しいらしい」

 お説教かい。そりゃ楽しみだ。逆にこっちが怖い顔してやるからな? まったく、どうして単位不足なんてなるんだか。

「てか、お前ら親しくなったのな」

「まあな。共通の敵ができれば誰だって仲良くなるさ」

「敵?」

「イトマルは気にしなくていい。さ、早いとこ飛んじまえ」

 奥田は俺の背中をポンッ、と押すと、後ろに下がる。代わりに前に出てきたのはエム。その手に青のストライプ柄のスカーフを持っている。

「糸丸さん、これを」

 彼女はそれを俺の巾着袋の中にしまう。

「生地から製法まで、とことんこだわって作ったスカーフです。身につければ体が軽く感じられるでしょう。しかし——」

「分かってる。同じ技しか使えなくなるんだろ? 大丈夫、身につけるタイミングくらい見極められるさ」

 こくり。エムが頷いた。そして、彼女も後ろへと下がる。

 もう一度俺はみんなを見渡す。理子、ジャンヌ、沙那、白雪、沙那、エム、奥田。

「あれ? ジャロは?」

 そういえば姿が見えない。まさかまだ目が覚めてないとか……?

「蔦時さんなら車輌科のクルーザーで少し前に出航しましたよ? 遠山さんのオルクスも、糸丸さんのハンググライダーも、どちらも燃料は片道分しか積んでいないので」

 特攻ですか。いのちがけで行ってこいということだな、覚えないけど。

 

 

 2時間超の飛行の末、俺はウルップ島沖についた。そしてクジラたちが群がる海の向こう、見えてきた船は——

「何だあれ……」

 元々は豪華客船か何かだったのだろうが、かなり改装されている。沈みそうな程に低い喫水線。タンカーのような甲板には巨大なピラミッドが増設されていた。さらに船の前方には大量の砂でできた陸のようなものがあり、そのにはハダカと見まごうほどに過激な衣装を着たおかっぱ美人の座像が4体そびえていた。

 まずやるべきことは一つだ。パトラの魔力の源であるピラミッドの破壊。

 俺は笛を吹く。

 強化された霧弾砲が、ここまで来るまでに吸い込まれた水蒸気で巨大な霧の砲弾を形成し——どんっ!

 白い砲弾はまっすぐピラミッドへと飛んでいく。これは直撃コースだ!

 その時、船の直前の水面から——

 

 っざあああああああ!

 

 巨大な水柱が上がった。その水柱で霧弾は消え失せる。

 クジラだ。ホエルオーみたいな巨大なクジラが、盾となったのだ!

「くそっ、このクジラはパトラが呼び寄せたのか!」

 クジラが船を守る盾ならば、ここにいては攻撃はピラミッドに当たらない。

 俺はハンググライダーをさらに船へと接近させる。クジラは俺には攻撃してはこない。守ることしかできないようだ。

 甲板の上空に出ると、ピラミッドの周りを回る。ここで霧弾砲を撃てば、確実にピラミッドを破壊できるだろう。

 無限魔力のパトラ。呆気なかったな。

 俺は笛を吹いた。再び水蒸気が霧弾を形成し——しゅううううう……。消えた。

「故障した⁉︎」

 このタイミングで⁉︎ テストしてないから調子に波があるのか?

「——いや、違う!」

 甲板に置かれている物。それを見つけた瞬間に気付く。かなしばりだ。パトラが最近雇ったというボディーガードにかなしばりをかけられたのだ。

「やっぱり元ポケモンだったのかよ……!」

 ピラミッド。その時点で予測しておくべきだった。パトラ。こいつは名前からクレオパトラの子孫だと推測できる。

 船の甲板に置かれた物。それは——黒で縁取られた、金色の棺桶。

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