緋弾のアリアドス 作:くものこ
金縛りで
俺はハンググライダーから甲板に飛び降りる。
すると、その棺桶が突然立った。そして、開いた。中から出てきたのは背の低い女の子。金色の、目がチカチカするようなロリータファッション。胸元には青いネックレスのようなもの。頭には大きい青いリボンをつけている。
その後ろから、ドサッと何かが出てきた。包帯とティッシュに包まれた人だ。ミイラ?
「ごきげんよう」
服の裾を摘んでお辞儀をする女の子。長い黒髪が生きているかのように揺れ動く。——理子みたいな能力だな。
「デスカーンだな?」
「正解。あなたは神聖なるピラミッドに墓荒らしに来たのね?」
「違えよ」
俺はホルスターから拳銃を抜くと、デスカーンに向ける。
「そうなの? まあ、ここに来た目的は何でもいいわ——どのみち、私があなたをこの棺桶に入れてあげるんだから」
「誰が入るか、そんな狭くて暗いところ」
「ゴキブリに似ているあなたには似合っててよ?」
ゴキブリ? どちらかというとお前だろ。もしくはドラン。
「悪いが俺は蜘蛛だ」
「数分後にはミイラになるけど。ねぇ、私と一緒に棺桶に入りましょう? いーーーっぱい、楽しいことしてあげる。あなたが
にこっと笑うデスカーン。背筋がぞくっとする。それってそこの包帯人間のような状態になるってことか? やだなぁ。
「私の好きなものは
「悪いが俺は
「そっちじゃないわよ……ふふっ。もしかして未体験? じゃあ、教えてあげる。棺桶の中ってね、とっても心地いいの。2度と出たくなくなるくらいに、ね。それくらい
何だかよく分からない話をデスカーンがしている間に、俺は作戦を練る。デスカーンの特性はミイラ。直接攻撃をすると相手の特性を消してしまうのだ。つまり、ナイフによる近接攻撃はNG。虫の知らせは俺の生命線でもあるのだ。消されては困る。
さらにかなしばりを使えることも判明している。拳銃を使って、切里玲の時のようになってしまっては俺に勝ち目はない。
あれ、詰んでるの?
いや、諦めるにはまだ早い。今現在デスカーンが最後に使った技はかなしばり。
つまり、俺が今、もしかなしばりを使えば——!
イメージするのは切里玲。あいつが使ったかなしばり。俺だって覚えられる可能性はある技なんだ。遺伝技だけど、でも——!
俺は腕を伸ばす。秘伝の薬は飲んである。超能力は使える!
目には目を、歯には歯を! かなしばりにはかなしばりを!
「やられたらやり返す!」
パチン!
俺は指を鳴らした。デスカーンが首を傾げる。
「何をしたの?」
「さあな!」
俺は糸弾を撃つ。デスカーンは棺桶を自分の前に動かすと、その影に隠れて弾を防ぐ。
「不意打ち? 卑怯な人。そういう技は嫌いよ」
棺桶の影から身を出したデスカーンは、指を鳴らそうとして——
「う、そ⁉︎」
身が硬直する。決まった! アリアドスはかなしばりが使えるようになった!
「くらえっ!」
ババッ! 俺は拳銃の引き金を引く。その瞬間、デスカーンの目がカッと見開いて——ギィンッ!
彼女の髪が動いたと思ったら、その先にはナイフが握られていた。やっぱり理子と同じ能力か。まあ、もともとデスカーンは手っぽいのが4本あるポケモンだ。これくらい予想できていた。
「そう。私と一緒に棺桶に入らないのね。なら——死になさいな!」
タッ! デスカーンが接近してくる。でも!
「遅い!」
デスカーンの素早さ種族値は30。俺は40。しかもインドメタシン服用者。素早さでは俺が勝っている!
彼女の攻撃を躱して数歩下がると、背中のナイフを二本、宙に放り投げて、サイコキネシスでそのナイフを飛ばす。
ババッ! 同時に拳銃で追い打ちをかける。
「その程度、守りきれるわ!」
デスカーンは棺桶を呼び寄せると、その中に入る。
ガガガッ!
棺桶にナイフがぶつかり、糸弾が命中する。しかし傷一つ付いていない。やはり防御値が高い。一筋縄ではいかなそうだぞ。
——と、棺桶が開いた。
ぼっ、と火の玉が飛んでくる。
「鬼火!」
俺はバックステップでそれを躱す。
「次はこれよ!」
ブゥンッ!
そこに撃ち込まれる黒い球体。シャドーボールか。だが、やはり遅い!
俺はサイコキネシスを自らにかけて高速移動、デスカーンの横側に回り込み、糸弾を放り込む。
「ッ⁉︎ 横から⁉︎」
デスカーンは身体を捻り、それの直撃を避ける。が、糸弾の糸が彼女の腕を掠めた。
服が切れ、彼女の肌に一筋の血が流れる。
「ああ、もう頭にきた!」
パンッ! デスカーンが一つ、手を叩いた。彼女を中心に、濁った空気が拡散していく。
「うっ⁉︎」
肺に吸い込まれたその空気。やけに重い。
「やられたらやり返すんでしょう?」
その時、デスカーンが動いた。髪に握られた二本のナイフを振り回しながら、接近してくる。しかも、さっきよりも速い⁉︎
「ほらっ!」
「くっ!」
宙に浮かせているナイフを駆使してナイフ同士をぶつける。デスカーンの両手に蓄えられたエネルギーの小球体が俺へと撃たれる。変則版の近接拳銃戦か!
ブゥンッ! ババッ!
至近距離から放たれるシャドーボールを虫の知らせ頼りで避け続ける。反撃とばかりに糸弾を撃つものの、それらはすべて避けられる。
「ナイフ!」
俺のナイフを弾き飛ばしたデスカーンのナイフが、突き出される!
「ちっ!」
拳銃でそのナイフを受け止める——と、腹に当てられたデスカーンの右手。
「ごめんなさいね!」
全然そう思ってなさそうな、恍惚の表情をデスカーンが浮かべたその瞬間——どんっ!
シャドーボール。俺は後方へと弾き飛ばされる。
「いってぇ……」
起き上がりながらシャドーボールを撃ち込まれた腹を、シャツをめくって確認する。青黒い痕ができている。たぶん、特防が下がったな。
しかしそこは今はどうでもいい。問題は、あのデスカーンの素早さだ。さっきまでは俺の方が速かった。しかも高速移動まで積んだ。それなのに、こいつとの近接拳銃戦ではこいつの手に追いつけなかった。
「この仕組みがわからないの? ダメな子」
デスカーンは高笑いすると、再びシャドーボールを撃ってくる。俺は横に回転してそれを躱す。
身を起こすと同時に、拳銃を撃つ。しかしそれは再び棺桶に防がれる。その棺桶を回り込むようにナイフを飛ばすも、ガキンッ、というナイフで防がれる音しかしない。
「学習しなさいな。あなたの火力では足りないの!」
「白井と同じようなことを!」
「白井? 誰かしら?」
棺桶の影から飛び出してきたデスカーンは、やはり俺よりも速いスピードで走ってくる。
「くそっ、どうしてだよ!」
どうして俺より遅い奴が先に行動できるのだ。これじゃあ素早さの逆転じゃないか——そうか!
拳銃を撃って牽制しながら俺は後退する。そういうことなら、ここは一旦退いて、効果が切れてから——
「逃さなくてよ!」
カッ! とデスカーンの目が黒く光った。その目に見据えられた俺は、足が竦む。黒いまなざしか!
「自分の弱さを呪いなさいな!」
その隙をついて火の玉が飛んでくる。
ジュッ、ジュッ!
「あちっ!」
それは俺の左腕に命中し——
「一気にたたみかけてあげる!」
複数個のエネルギー体が、俺の方へと飛んでくる。
「がっ、ぐっ!」
たたりめ。状態異常の相手に一気に技をかけることで、相当量のダメージを与える技。鬼火で火傷を負った俺、しかもシャドーボールで特防が下がった状態には特大ダメージ。
甲板の上をパチンコ玉のように転がっていった俺は、縁にぶつかって止まる。
カシャッ、と何かが制服の胸ポケットから落ちた。なんだ、これ? ワイヤレスイヤホン?
よく分からないが、とりあえず耳にさしておく。俺に制服を着させた人が入れておいたのかもしれない。
「追い詰めたわよ」
カツカツ、とヒールを鳴らしながら歩いて近づいてくるデスカーン。その後ろからは棺桶もついてきている。
「どうして私の方が早く行動できるか、おわかり?」
「……トリックルーム」
「正解。空気が薄れてしたし、もう少しで効果も切れてしまう……だから、その前にやらないと」
デスカーンはナイフを捨てると、髪で棺桶を俺の目の前に差し出し、開いた。
「ほらほら。今ならまだ許してあげる。だから、ね? 一緒に棺桶に入りましょう?」
棺桶の中を覗き込むと、意外と広い。確かにこれなら心地よさそうではある。
でも、俺はこんなところでミイラになんかなっていられないんだ。それに、空気が軽くなってきた。トリックルームの効果が切れたのだ!
「誰がッ!」
俺は起き上がると空に向かってワイヤーを射出する。それは、ちょうど俺の真上に飛んできていたラティアスに引っかかる。
「逃げる気?」
「まさか!」
ピイイイイッ!
笛を吹いてラティアスを旋回。そのまま夕日を背にするようにしてデスカーンの前へとおどりでる。
バラララララッ!
ラティアスのマシンガンを掃射。デスカーンは棺桶の中に入り、身を守る。
よし、下準備は整った。守るは連続使用すると失敗しやすくなる技。チャンスは一度きり。一度これを見れば、向こうはこの技を警戒するだろうからな。これから使う一発は、確実にあいつに当てなければ——!
俺はハンググライダーに引っ掛けていたワイヤーを外すと、棺桶めがけて飛び降りる。すると、デスカーンはのこのこと棺桶から出てきてシャドーボールを撃つ体勢に入る。馬鹿。甘く見てるんじゃねぇ。
たしかに俺は攻撃力が低いのかもしれない。デスカーンの防御に負けるくらい。
それに、火傷も負っている。火傷状態になると攻撃力が下がるのは常識。
でも。それでも、俺にはダメージを与える手段が残っている。夕日を影にした今、俺の目の前には俺自身の影ができていて——!
デスカーンがシャドーボールを放ってくる。それは緩やかなカーブを描きながら、俺に迫ってくる。
「明日香!」
「はい!」
空中のハンググライダーが消えて、代わりに明日香の姿が現れる。彼女は目を閉じ、祈るように手を合わせた。
「ご主人様を——糸丸を守るのは、私の仕事ですッ!」
キッ! シャドーボールが俺の目の前で一時停止する。壁にぶつかったかのように。
「光の壁⁉︎」
驚きの声をあげるデスカーン。だがもう遅い!
光の壁に衝突したことで、エネルギー体は形を維持できなくなり、靄のように空中に散っていく。その靄の中に飛び込む俺。まるで邪なオーラを纏っているかのようなシチュエーションに、少し厨二心がくすぐられる。これから使う技にも合ってるしな。
俺は持てる超能力全てを集中させて、前方にできている自らの影を動かす。それは巨大な化け物のような形になり、伸びてデスカーンへと襲いかかる——!
「ナイトヘッド!」
「それくらい……!」
デスカーンは棺桶の中に入るが——
「いやああああ!」
彼女は慌てて飛び出してきた。棺桶の中でも幻影を見たらしい。
「う、嘘でしょう……!」
デスカーンがそう呟くが、嘘じゃない。ナイトヘッドは種族値無視の固定ダメージを与える技。棺桶の防御力なんか度外視だ。もちろん、俺の攻撃力もな。
やがて俺の影は元にもどった。
「ひ、ひい! こ、来ないでー!」
ナイトヘッドを喰らったデスカーン。彼女は、今も何かの幻影が見えるのか、大変怯えた表情で何かから逃げている。……お前、ゴーストタイプだろうに。
とりあえず、あんなに高飛車だった彼女がこんな姿をさらし続けるのはきっと酷だろうと思うので、着地するとすぐにボールの中にしまってやる。
「糸丸!」
と、上から女の子が降ってきた。
俺は彼女をディアンシー抱っことか言われる抱き方で受け止める。火傷している腕が痛んだが、そこは我慢。
「光の壁、ありがとな。おかげで助かったよ」
俺は腕の中の明日香にお礼を言う。
「えっと、糸丸……。あの……」
徐々に頬を染めながら、俺を見つめてくる明日香。俺を見上げるような感じで。な、なんだろう。胸が変な感じがしてきた。
「そ、そうだ! 胸! 明日香、胸の怪我は大丈夫なのか?」
「は、はい。この通り……」
明日香は自分の着ている武偵高の制服をめくり——
「ば、馬鹿! 見せなくていいから!」
「そ、そうですよね。ごめんなさい」
素直に止める明日香。あ、あれ? なんか違和感。しかも、さっきより頬が赤いような——
『パトラッ! アリアはどこだ!』
「いっ⁉︎」
その時、耳に挿しておいたイヤホンからキンジの怒鳴り声が聞こえてきた。耳がキンキンする。キンジだけに。
それはともかく、これ、盗聴しているのか?
『トオヤマキンジ。ここは神聖なる王の間ぞ』
知らない女の声。たぶんパトラ。どうやらキンジはパトラと対面しているらしい。
甲板に増設されたピラミッドを見上げる。この中に、キンジとアリアがいるのか。
「明日香、俺らも中に入ろう」
俺は明日香を下ろした。
「あっ……」
その時、明日香が少し残念そうな声を漏らした。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもありません。あっ、突入の前に……」
明日香は俺の左腕を掴むと、制服をめくる。赤く腫れている火傷した腕が露わになる。
「気付いてたのか」
「当たり前です」
制服の内側からなんでもなおしを取り出した明日香は、それを俺の腕に吹きかけるをコールドスプレーのようなそれは、冷たくて気持ちよかった。
「では、行きましょう」
「ああ」