緋弾のアリアドス   作:くものこ

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第15弾

 ハンググライダー状態のラティアスに掴まり、俺は再び空へ。ピラミッドに沿って上へと上昇する。

 その間も、イヤホンからキンジとパトラの会話が聞こえてくる。

『ブラドを呪い倒したのは妾なのに、イ・ウーの奴らは妾の力を認めなんだ。ブラドはこのアリアが仲間と共に倒したものだ、人によってははアシナガイトマルとやらが一人で倒したなどと云いおる。ぢゃからアシナガイトマルは殺してやったのぢゃ』

 生きてるけどな。そうか、あの狙撃はパトラがやったのか。

 フツフツと怒りがこみ上げてくる。パトラってやつ、許すまじ。

『イ・ウーの次の王はアリアではない。妾ぢゃ!』

『知るか! イ・ウーの次の王が誰だか知らんが、それに俺やアリアを巻き込むな!』

『黙れ、トオヤマキンジ。妾はお前が嫌いぢゃ。お前はトオヤマキンイチに面影が似ておる』

 見えた。ピラミッドの最上階。そこだけ黄金ではなく、ガラス張りになっている。

『ぢゃから、お前は今ここで——殺す』

「させねえよ!」

 がしゃああああん! ガラスを突き破り、俺はラティアスごと室内へと突入する。

 そこは、何もかもが黄金でできた広間だった。豪華な絨毯が敷かれた床石も、室内を取り囲む石柱も、奥に据えられている巨大なスフィンクス像も、すべてが眩いばかりの黄金で作られている。

 そして、そのスフィンクス像の前に置かれた黄金櫃。おそらく、その中にアリアがいるのだろう。

「ぼ、亡霊ぢゃ! ゴーストぢゃ!」

「人を勝手にゴースト扱いするな!」

 俺を勝手にゴーストタイプのポケモンにした女、パトラ。彼女は肌もあらわな金細工つきのビキニを着て、白く長い足を組みながら玉座に座っていた。あの座像と同じ人物だ。

「糸丸! 来てたのか!」

 キンジもいた。手には寸を切り詰めたデュランダルを持っている。ジャンヌから借りたっぽい。

 俺はキンジの隣に降り立つと、ハンググライダーを空中に静止させる。

「まあよい。ここでトオヤマキンジと共に死んでもらおう」

「糸丸は殺させません!」

 空中のハンググライダーが消えて、俺の隣に明日香が現れた。

「ほう。お主、容姿が優れておるの。しかも変な機械に変身できるときたか。妾は将来、女王になったら側近は美女で固めたいと思っておるのぢゃ。銀氷の魔女(デュランダル)とリュパンの曾孫を呪ったのもそのためぢゃ」

 パトラは明日香の爪先からつまじまでを這うように見る。

「お前も侍らせたいのう」

「わ、私は糸丸のものです!」

 キリッと宣言する明日香。いや、何言ってるんだ。俺の物でもないだろ。

「糸丸、お前……」

 キンジが変な目で俺を見てくる。ほら、誤解を生じたじゃないか!

「そうかそうか。では、イトマルとやら。お前を殺す」

「誰が殺されるか!」

 俺は拳銃をホルスターから抜くと、早撃ちする。その弾は、空中で黒煙を撒き散らした。

 煙幕弾(スモーク)。奥田からもらった自家製武偵弾。

 一気に真っ暗になる広間。俺はキンジに向けて叫ぶ。

「キンジ、アリアを!」

「あ、ああ!」

 キンジに指示を出した後、俺は自らにサイコキネシスをかけて、高速移動をする。

 そして、パトラがいると思しきところにナイフを持って突っ込み——ギンッ!

「甘いのう」

「ちっ!」

 パトラは何か武器を持っている。このままではこちらの攻撃が通らない。

 ざざあ。足元の床が砂へと変わり、足が沈む。くっ、この広間の黄金、すべて砂で作られているのか!

 足元をすくわれた俺はその場から動けない。そして——すっ。

 晴れてきた煙幕の中から姿を現したパトラ。そいつは刀——イロカネアヤメを振りかぶっている!

「たあっ!」

 俺はナイフを投擲し、パトラの腹に突き刺した——血が出ない!

「偽者か!」

 そいつは砂となって崩れ落ち——

「男は嫌いぢゃ!」

 その砂の中から姿を現した本物のパトラが、落ちていたイロカネアヤメを拾い上げて——

 ドスッ!

「糸丸⁉︎」

 俺の腹を貫通した。俺はイロカネアヤメをつかみながら、その場に膝をついた。

「弱いのう、裏をかかれるとは。さて、女。これでお前の主人は死んだ。妾に奉仕するがよい」

「わ、私は……」

 刺された俺に近付こうとした明日香の足が止まる。パトラが、彼女へと歩み寄っているのだ。

「それにしても実に素晴らしい容姿をしておるの。是非とも妾の伴侶に迎えてやってもよいところなのぢゃが——」

 さっきは側近として侍らすとか言っておいて今度は嫁か? いや、もしかしたらパトラは召使い的な意味で伴侶という言葉を使っているのかもしれない。ほら、パートナーにも色々な意味があるし。だったら、俺もそう言った方がパトラによく伝わるはず——!

「明日香に触れるなッ! 明日香(ラティアス)は——俺の嫁だッ!」

「何⁉︎ 生きておるのか⁉︎」

「ふぇ⁉︎」

 イロカネアヤメを刺されたはずの俺が声を出した。その声に、パトラと明日香が驚きの声を上げる。特に明日香なんて顔を髪と同じくらい真っ赤にさせているよ。可愛い。

 そんな二人の様子を確認してから、俺は"俺"に刺さっていたイロカネアヤメを引っこ抜くと、()()から飛び出す。同時に、かけていた防塵ゴーグルを外す。そう、俺は以前エムからもらったこのゴーグルをつけて砂中に潜んでいたのだ。パトラと同じように!

「パトラ、覚悟ッ!」

 むしのしらせによる戦闘能力上昇の恩恵を受けた俺は、一気にパトラに斬りかかる。とっさにサイドステップで躱したパトラは、地に横たわる"俺"を指差す。

「あれは何の術ぢゃ?」

「身代わりだ」

 "俺"の体がぼやけ、やがて消えた。残ったのはセミの抜け殻。俺がレキと行った夏祭りで拾ったものだ。

 この身代わり、体力を削るかわりに別の物に自分の分身として攻撃を受けさせることができるのだ。

 しかも、体力を削るのはデメリットだけではない。おかげで今、むしのしらせが発動されているのだからな。

「このイロカネアヤメ、白雪のだよな?」

「お、おのれ! 返すのぢゃ!」

「お前のじゃないだろ!」

 俺は拳銃とイロカネアヤメで一剣一銃(ガン・エッジ)の構えを取る。

「こやつ、もう許さんのぢゃ! 妾が直々に屠ってやろう!」

「さっきからそうしようとしてるだろうに!」

 俺はワイヤーで後方へと逃げる。

「逃げるのか! 妾を冒涜しておいて、逃げると申すか!」

 パトラの足元の砂金が飛び上がり、無数のナイフに形を変えていく。うわ。俺のサイコナイフのパクリじゃん。

 砂のナイフは俺目掛けて飛んでくる。俺はそれを、イロカネアヤメで全て斬り伏せる。

「ぐぬぬ……! これならどうぢゃ!」

 しゃあっ! パトラの周りの砂金が大量に飛び上がった。竜巻のように渦を巻いたそれは、次第にこちらへと接近してくる。砂嵐か。

 俺は防塵ゴーグルをかけ直す。

「明日香、ハンググライダーを!」

「はははは、はい!」

 砂嵐の到達直前に、妙に動揺している明日香の姿が消え、ハンググライダーが現れる。俺はそのコントロールバーを掴むと、飛び跳ねる力を溜める時間がないのでサイコキネシスでハンググライダーを飛ばす。

 砂嵐を避けるように大回りをすると——

「ナイフ!」

 俺はハンググライダーから飛び降りて、拳銃を撃ちながらパトラへと斬りかかる。同時に、パトラの背後の砂の中から、先ほど投擲したナイフが飛び出す。

 がぎんっ! シュッ!

 イロカネアヤメは砂で作られた盾のようなものに防がれた。しかし、後方から飛んできたナイフにはパトラも反応しきれなかったらしく、その白い足をナイフが掠めた。

「わ、妾の足に傷が……!」

「もう一撃!」

 俺は跳躍してパトラに迫ると、イロカネアヤメを振り下ろす。

 ぎぎんっ! 再びパトラは砂の盾でそれを防ぐ。それを見たパトラは少し余裕を取り戻したようで、

「アメンホテプの昊盾をも突き破れぬとは!」

「——ッ!」

 俺の両脇の砂が盛り上がり、ナイフが作られた。

 左右から飛んでくるナイフを、ワイヤーを頭上のハンググライダーに引っ掛けて上昇することで躱す。

 と、キンジがアリアのもとへ忍び足(スニーキング)で向かっているのが見えた。パトラもそれに気付いたようで——

「下郎! 柩に触れるでないッ!」

 金切り声を上げる。すると——

 ず、ずずず……!

 アリアの柩のすぐ後ろの、黄金の巨大スフィンクスが動き始めた。

「動くのかよ、そいつ!」

 10メートルはゆうにあるスフィンクス。まるで超巨大グラードンのようなそいつを前に、キンジは足が止まる。今のキンジはヒスっていない。残念ながら、ヒスる対象もいない。

 仕方ない。ここは俺がやってやるか!

「キンジ、デュランダルを貸せッ!」

「あっ、ああ!」

 俺はハンググライダーをスフィンクスの方へと操縦しながら、足のワイヤーを射出。キンジの手からデュランダルを絡め取ると、拳銃をホルスターにしまって一剣一刀を構える。

「明日香、手助けしてくれ!」

 俺はコントロールバーを利用して体操選手のようにくるりと宙に飛び上がり、ハンググライダーの翼の上に乗る。そして、そこから助走をつけてジャンプ。

「了解しました!」

 空中でハンググライダーを消し、姿を現した明日香がパンパンッ! 手を叩いた。すると、体に力が漲ってくる。

 デスカーン戦の疲労やみがわりを使ったことにより、俺はむしのしらせで戦闘力が上昇している。さらに明日香のてだすけ。

 今は不眠なんていらない。俺が狙うのは急所突貫——そう、特性スナイパーを!

「うおおおおおおおっ!」

 まるでここを狙えと神から言われているかのように、頭に明確に斬る場所が浮かび上がる。そうか、急所はそこか!

 イロカネアヤメとデュランダルをX字状に交差させて——

「——シザークロス!」

 スフィンクスの首に斬りつけた!

 

 ドガアアアアアアンッ!

 

 スフィンクスが大爆発を起こして、砂金へと崩れていく。超能力で動く砂の塊。タイプはネンドールと同じとみた。つまり、効果抜群。

 俺はアリアの柩のそばに着地する。

 キンジも走ってきて、柩に手を伸ばし——

「動くでない! この女がどうなってもよいのか!」

 パトラが声を荒げる。振り向くと——

「明日香!」

 明日香がパトラに捕まっていた。おそらく、着地の瞬間を狙われたのだろう。抵抗できない明日香は、なす術もなく捕まった——!

「武器を置くのぢゃ、お前ら。妾は人体から水分を抜き取る聖秘術(わざ)を持っておるでの」

 にい、と笑うパトラ。その手に捕まっている明日香の体から、どんどん水蒸気が出ていく。

「あ……あぁ……」

 苦しげな、明日香の声。でも、わざを受けたということは……。

 ぽっ。明日香の体が光り始める。

「な、なんぢゃ⁉︎」

 思わず明日香から手を離すパトラ。そして——

「テメェ! ふざけてんじゃねえよ! 俺の妹をミイラ化だぁ? お前を3分で死体(ミイラ)にしてやるッ!」

 目醒めた飛鳥がパトラに突撃する。隣でキンジが、『兄さんの逆……?』とか何とか呟いている。逆? 何の話?

「おらっ!」

 飛鳥が念じると、足元の砂金がある程度の大きさを持つ塊を形成。そしてそれらが大量に浮遊し——

「竜星群ッ!」

 砂金の塊たちが一斉にパトラへと降り注ぐ。まさに流星群。

 ガガガガガッ!

 それらの攻撃を、アメンホテプの昊盾で守るパトラ。しかし、形成された六つの盾は全て粉々に粉砕される。

「上等! 俺は両刀だッ!」

 赤黒いエネルギー体を腕に纏った飛鳥がパトラに接近、殴りつける!

「はうっ⁉︎」

 砂上を吹っ飛ばされるパトラ。飛鳥は追い討ちをかけるように、マシンガンを取り出す。

「お前は万死に値するッ! 一万回死ねッ!」

 ——バラララララッ!

 掃射されるマシンガン。それは無情にも、無防備なパトラに降り注ぎ——

 

 ごおおおおおおっ!

 

 ガラスの外から注ぎ込まれた炎。それが、マシンガンの銃弾を全て焼き払った。

「誰だよ! 邪魔をするなッ!」

「悪いけど。あなたのその竜星群、嫌いなのよ」

 割れたガラスの淵に立つ美少女。彼女を中心に、緋色のオーラが広がっていく。マジか。ここでこいつの登場とは。

「白井! なぜここに?」

「プレートを追いかけてきたの。負けた人には賞金を払ってもらわないと。それと——」

 俺を見据えた白井はウィンクを一つすると、俺の方へと手をかざす。

「実って呼んでって言ったでしょ!」

 白井は青い炎を飛ばす。俺はバックステップでそれを避けると、背中のナイフを取り出し——

「主! それ借りるぜ!」

 飛鳥に取られた。って、おい!

「飛鳥⁉︎ パトラは⁉︎」

「あんな雑魚、興味ねえ! 俺はあの(ドラゴン)と戦いてえんだよ!」

 サイコキネシスで宙に浮遊した飛鳥は、白井へと突っ込んでいく。ああ、もう。俺のことを主とか呼ぶんなら、言うことくらい聞けよ。

 と、その時。床の砂が揺れた。

 ず……ずずず……!

 砂中から現れたのは巨大なスフィンクス。その頭上にはパトラがのっている。2体目かよ! 俺には今、てだすけしてくれる存在がいないのに!

「お前たち……神聖なる覇王(ファラオ)に対して無礼が過ぎるのぢゃ! 潰して砂と化してくれようぞ!」

 足を振り上げたスフィンクス。それは、俺らへと下される——!

「くそったれ!」

 俺とキンジはそれを避ける。と、頭にパラパラと砂金が降ってきた。

 上を見上げれば、飛鳥と白井が竜の波動を撃ち合っている。それが広間の天井やら石柱やらに当たるたびに、それを崩している。

「糸丸! 時間がない!」

 スフィンクスの踏みつけ攻撃を避けながら、キンジが叫ぶ。

 俺も腕時計を確認してみると——午後6時5分前。まずい、まだアリアを助ける方法すら分からないのに!

 

 どおおおおおおんっ!

 

 その時、空中で爆発が起きた。その爆発音で空気が震える。

 どさっ。上から武偵高の女子用制服を着た男——飛鳥が落ちてきた。制服のあちこちが破れ、その筋骨隆々の体があらわになっている。

「飛鳥⁉︎ 大丈夫か⁉︎」

(あま)ぁ! まだ終わってねぇぞ!」

 主たる俺を無視し、飛鳥は白井に向かって吼える。

「終わりよ。第一、竜星群を撃った後に私に竜の波動の撃ち合いを仕掛けるとか……馬鹿としか言いようがないわ」

「るせぇ!」

 飛鳥は目を閉じると瞑想を始める。

「積ませると思って?」

 パチン。白井が指を鳴らすと——どんっ! どどんっ! 足元で爆発が起きた!

「ぬわっ⁉︎」

「ぐっ!」

 大地の力。地面タイプの技は、宙に浮いている飛鳥にも命中する。これが彼女のオーラ(ターボブレイズ)がなせる業……!

「ふふっ、ふふふ。元最速竜さん。地を這いつくばっちゃって……」

「くそっ!」

 ガラスの淵に立つ白井を睨みつける。どうすることもできない。せめて飛鳥がハンググライダーになってくれれば——

「——ッ!」

 虫の知らせが走る。瞬時に、俺は飛鳥を掴むとその場から離れる。直後——ズンッ!

「虫けら。思ったよりすばしっこいのう」

 俺らのいた場所に振り下ろされたスフィンクスの足。そのスフィンクスの頭に立つパトラ。彼女は高笑いをする。

「しかし所詮無理なのぢゃ。ただの人間が覇王たる妾に勝とうなど! 無理無理無理無理無理なのぢゃ!」

 パトラの言う通りなのか? 俺らは何もできないのか?

 何か、何か手はないのか——!

 ——ガンッ!

「?」

 その時、ピラミッドの外から何かの音が聞こえた。

 がんがんがんがんざざあぁ——ッ!

 その音はまるでピラミッドの斜面を登るような音で——がしゃあああん!

「きゃっ!」

 白井の上のガラスを割って室内に乱入してきた潜水艇。それに驚いた白井は砂の中へと落ちる。

 潜水艇はキンジのそばまで来ると、停止。ハッチが開く。すると、中から女性の声が聞こえてきた。

「じゃあ、もう少し、無理させてもらおうかしら?」

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