緋弾のアリアドス   作:くものこ

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第6弾

 莉央に肩を借りながら、寮へと帰る途中。なんかよく似たことが前にもあった気がすると思っていたら——さささ!

「ッ! 誰かいますッ!」

 莉央が警戒態勢に入る。俺も虫の知らせで感じ取ろうとするが——ダメだ。頭が痛くてうまく感じ取れない。

 周囲には普通の通行人(まあ、武偵高関係者だけど)も多くいる。こんなところで戦闘したら、被害が及ぶかもしれない。俺らを狙っているということは、おそらく元ポケモンのはず。戦闘力は普通の武偵よりも高いかもしれないのだ。

「先輩、人の少ないところに行きます」

「ああ。そうしてくれ」

 俺らは人の少ないところ——中断された工事現場に移動する。

 積まれた土嚢に身を隠しながら、援軍を呼ぼうと携帯を取り出し——あっ、壊れてる。そうだ、自分で壊したんだっけ。

「莉央。携帯は?」

「携帯ですか?」

 莉央が制服のポケットから携帯を取り出すと——ヒュン!

「あっ!」

 どこからともなく飛んできた手裏剣が、その携帯を手から弾いた。

 敵だ。しかも手裏剣。忍者系に違いない。

 莉央が土嚢の影から周囲の様子を窺うのに対し、俺は飛んできた手裏剣を調べる。

 水手裏剣ではない。星型をしている手裏剣だ。星……スピードスターか?

「先輩、来ますッ!」

 莉央が土嚢から飛び出し、手甲鉤を装備した両手を構える。その莉央に正面から何かが接近し——ガキッ!

 手甲鉤に挟まれた刀。反りのない日本刀、忍刀だ。

「カウンター!」

 莉央が蹴りを入れるが、その忍装束の男は軽やかにバックステップしてそれを躱す。

「またしても邪魔が入るか」

「テッカニン!」

 ピラミディオン台場以来だ。こいつ、しつこくもまた仕掛けてきたのかよ!

「アリアドス、確か糸丸というNNだったか? たまむしプレートを渡せ。雇い主が欲しているのだ」

「誰が渡すか。それと、その雇い主って誰だよ」

 俺の質問には答えず、テッカニンが動いた。左右へと揺さぶりをかけるように動き、結果的には正面から突っ込んでくる。

「忍ッ!」

 忍刀による突き。莉央がそれに合わせてしゃがみ込み——

「せいやっ!」

 スカイアッパーを放つ。しかしそれを平然と宙返りして躱したテッカニンは、忍装束の懐から星型の手裏剣を複数取り出して投げつける。

 莉央が手裏剣を側転で躱したため、それらが土嚢に刺さり、砂が大量に溢れ出てくる。

 その砂地に降り立ったテッカニンは足で砂を飛ばす。

「きゃあっ!」

 莉央は腕で目を守ったものの、その隙にテッカニンが接近する。だめだ、目をやられた莉央は対応できない!

 痺れが取れてきていた俺はナイフを持つと、莉央の前に飛び出す。

 高速で迫るテッカニン。さっきよりも速い!

 繰り出された忍刀による斬撃をナイフで防いだ——と思いきや、続けざまにもう一撃、テッカニンが繰り出す。

 俺の太腿を狙った一撃、それを避けることができない。防弾制服のおかげで斬られなかったが、衝撃は防げない。

 バチッ!

 さらに、その衝撃でポケット内の物——モンスターボール——から火花が飛び散り、ボムッ!

「しまった!」

「なんだ?」

 0と1だけの大量の数字の羅列。それが壁のように、俺とテッカニンの間に流れ出ていく。モンスターボールを壊されたのだ。そのせいで捕獲していた堀が飛び出してしまった!

 数字の軍団は工事現場の自動販売機に入り込む。くそっ、逃げられた!

 いや、そっちに気を取られている暇はない。目の前には今だに、刀を持ったテッカニンがいるのだから!

 突然のことに驚いていたテッカニンの両腕を掴む。動かなければ、素早さがどれくらい高かろうとどうということはない! 似たようなことをこの世界のアニメで誰かが言っていた!

「莉央!」

「はい!」

 莉央がテッカニンの忍び装束の襟を掴む。それを確認した俺は、自分の足をテッカニンの足に絡みつかせ、テッカニンのバランスを崩す。

「ともえなげですッ!」

 莉央が真後ろに身を投げ出し、その短い足をテッカニンの下腹部に当てて蹴り飛ばす。

 ぶんっ! と投げ飛ばされたテッカニンは、工事現場脇の林の中へと吸い込まれていく。はい、戦闘強制終了……ってわけにもいかないんだよな。

「莉央、テッカニンの追撃を頼む! 俺は堀を追いかける!」

「はいです!」

 ビシッと敬礼をしながら威勢良く返事をすると、莉央は林に向かって駆けていく。俺は自動販売機へと向かう。

 と、堀が自動販売機から出てきた。その指先に電撃を纏いながら。

「アップグレードしてくるから待ってやがれ!」

 バチバチッ!

 チャージビームが放出される。それを俺が避ける間に、堀は工事現場の外へと走っていく。

「逃がすか!」

 拳銃をホルスターから抜き、堀の足を狙う。が、堀は角を曲がってしまった。

「くそっ!」

 俺も急いで角を曲がると——

「あばよ」

 窓の空いたトラック、その中のカーナビに吸い込まれるように、堀がトラックに乗り込むところだった。ちょうど反対側から運転手が乗り込もうとしている!

「そこのトラック、待て!」

 俺が制止をかけると、不思議そうな顔をしてトラック運転手が振り返る。よし、発車さえさせなければ——プルルルル!

 携帯が鳴った。俺のではない。俺のは壊れているのだから。

 鳴ったのはトラックドライバーの携帯だ。ドライバーは何も知らずに携帯を取り出す。

「ダメだ! それを取り出すと」

 バチバチバチィッ!

「う、うわぁ!」

 案の定、トラックの中から眩い光とともに数字たちが飛び出し、携帯の中へ入り込む。驚いたトラックドライバーが携帯を投げてしまい——携帯は窓が開いていた対向車の後部座席に。白い軽自動車。車には詳しくないから車種はわからん。

 通りすぎる車の黄色いナンバープレートを確認。"名古屋 516 あ 6449"。すぐに手帳を開き、走り書き。

「先輩!」

 そこへ莉央が走ってきた。

「すみません、逃げられました」

「そっか。俺もだよ」

 ちくしょう。2ミミロル追うものは1匹も得ずってやつか。

 

 

 2週間後。俺は0.2単位分の諜報科の依頼を軽くこなした後、車輌科棟に来ていた。そこのエムの作業室に俺は呼び出されたのだ。携帯はもちろんすぐに新調した。また出費だぜ。

「それで? 何の用?」

 俺は細々とした字が書かれた書面と睨めっこするエムに訊ねる。彼女、俺を呼び出しておきながら、何も話さないのだ。困るよな、そういうの。

「先日、ラティアスを製作した研究チームの代表者と会ったのですが」

「そうなの⁉︎」

 なんだ、いきなり。さっきからのエムの真剣な顔つき、その書類。まさかラティアスを返せと言われたのか?

「俺は明日香を手放さないぞ! 絶対に返さないからな!」

 明日香は家事をきちんとこなしてくれるいい子なのだ。だらしない私生活を過ごす俺には必要不可欠の存在なのだ。しかも暴力を絶対に振るわないし。

「……随分とあの女に惚れ込んでいるようで」

「ほ、惚れ⁉︎ 違うよ!」

 ジト、と俺を見るエム。な、なんだよ。惚れてないっつーの。というか惚れていたとしてもエムには関係ないだろうに。

「まあ確かに彼女は美少女です。惚れても無理はないでしょう。私とは違って」

「愛想もあるしな」

「……」

 何だろう。室温が急に下がった気がする。いや、暑いからありがたいのだけれど。

 空調の設定温度を確認。うーん、体感温度より高く設定されている。

「もしかしてエアコン、改造でもしたのか? もしよかったら俺の寮部屋のエアコンも改造してくれない? こなゆきが出るくらいな冷却パワーを」

「しません」

 ギロ。エムに睨まれる。怖い。蛇に睨まれた蛙だな、こりゃ。元・鋼飛行タイプのエアームドは俺の天敵なのだ。

「ま、まあいいや。それより本題に入ろうぜ」

「……」

 エムは俺を睨みつけながら(やばいぞ。どんどん俺の防御力が下がっている気がする)自分が見ていた書類を俺に渡す。

 研究チームの代表と会ったと言っていたから、明日香に関する話だろう。そう思っていたのだが、違った。

 そこに描かれていたのは新装備。白黒のイラストなので色は分からないが、直方体の箱にベルトを取り付けられた形状の武器。どうやら腕に装着するっぽい。盾?

「俺の紙耐久を補う武装か?」

「それもありますが、本来の用途は銃です」

「銃?」

 銃って形ではないよな、これ。縦25センチ、横12.5センチ、高さ7.5センチの直方体だし。グリップないし。

「よく読んでください」

 俺はエムが指で示したところを読む。……ふーん、展開(スライド)するのか、この箱。中に大型拳銃が内蔵されているらしい。

「口径は?」

「……読んでください」

 わ、分かった。読むから、そんな鋭い目で見ないでくれよ。

 俺は必死に何枚もの書類に目を走らせる。どこに必要な情報があるのか分からん。活字じゃなくて手書きなのも読みづらいポイント。

 あ、あった。弾は——ん、んん? 特殊弾? 何だこれ?

 弾に関する記述に、マガジンはベルトに付属させると書いてあったので、そこも確認してみる。

 マガジンのイメージ図。なんか新品の消しゴムのような形状だな。小さい。……本当にこれ? どちらかといえばUSBメモリなんだけど。

「この武器、本当に信頼できるのか?」

「それを修学旅行I(キャラバン・ワン)で確かめるんです」

 修学旅行I。9月にある、二年生の行事だ。京都・大阪方面に行って自由に研修を行うのだ。

「俺も同席するってことでいいんだな?」

「いえ。私と蔦時さんとで」

 ……まーた俺のいないところで勝手に話が。

 俺は書類を見る。これ、明日香みたいなことがあったりしないよな?

「それと、頼まれていた武器が出来上がりました」

「本当か!」

 エムが取り出してきたのは——二本の鞘。小太刀だ。

 イロカネアヤメを使っていて、ナイフより長い獲物も使いたくなったのだ。戦闘していて、ナイフはサイコキネシスによる遠隔操作が多かったのも、別の近接武器を欲した理由の1つ。

「でもさ、これ、それぞれサイズが違わないか?」

「わざとです」

 エムはまず、若干短めの方を抜く。銀色に光る刀身。峰は紫色の怪しげな光を放っている。

「注文通り、峰の部分にはアレを施しておきました」

「ありがとう。それで? 銘は?」

「こちらの短い方が奪眼(ウバメ)、長く太い方が拍断(ハクダン)です」

 奪眼。拍断。どちらも森の名前だな。

「斬れ味はどうなんだ?」

「試してみますか?」

 そう言うとエムは奪眼を俺の首筋に当てる。えっ?

「いや、待てよ! 何してんの⁉︎」

「斬れ味を試したいのでは?」

「誰が俺の首で試せと言ったんだよ!」

 首を傾げながら刀を鞘に収めるエム。まったく、危ないやつだ。

 俺は受け取った鞘を、同時に渡された紐で背中にクロスにかける。ふむ。悪くない。

「それと、とりもち弾です」

 エムに渡された箱。その中には、白いペイントを施された弾丸がいくつか入っている。

 とりもち弾。クモのすが糸弾を大量消費してしまい、効率が悪いので新たに作ってもらった銃弾。これを撃つと、途中で破裂してネバネバの網を張れるらしい。モデルは鳥黐。

「あ、そうだ。急で悪いんだけどさ、毒針一本余ってない?」

「なぜです?」

「この間折れちゃって」

 エムは机に付属しているラックを漁り——なんか大量の赤い糸を取り出した後——ケースを引っ張り出した。

「まだ毒は塗ってないうえに、普通の針とは違うのですが」

 エムがケースの中から取り出した針。その先端にはキャップが付いていない。

「まあ大丈夫だろ。毒なら他のもので付与できるし」

「では、どうぞ」

 俺は針を受け取ると、それを右足の爪先、もともと毒針を収納していた場所に収める。

「では代金になりますが」

 エムが紙を一枚、渡してくる。そこに書かれていた金額は——0、0、0、0、0……えっと……こんなに0がたくさんなんて、まるでポリゴンみたいだな。

「来週までに私の口座に振り込んでおいてください」

「……はい」

 

 

 また蔦時へと借金が増えてしまうな。これはもう、前までの借金は踏み倒そうか?

 そんなことを考えながら男子寮へと帰宅する、その道中。俺はこの場にそぐわない格好で、キョロキョロと辺りを見回す女の子を発見した。

 五芒星の家紋入りの風呂敷包みを背負い、赤い唐傘を日傘にした、黒髪セミロングの女の子。白雪の着ていたような巫女装束を着ている。白雪か?

「白雪?」

 俺は白雪と思しき女の子を発見、声をかける。すると、その声に反応して女の子がくるりと振り向いた。

 白雪と同じぱっつん前髪。しかし、優しげな目をしている白雪と違って、この子は少々キツめの目つき。ただ、美少女だということには変わりないが。

「誰ですか」

「お前こそ誰だよ」

「あなたに語るいわれはありません」

「俺もだ」

「では、急いでいるので」

 女の子はたどたどしい足つきで俺が来た方向——つまり、車輌科棟の方へと歩いていく。そっちに用があるの?

 とりあえず、白雪という言葉に反応したことや、巫女装束という格好から白雪の関係者であることには間違いないので——

「学生の寮はこっちだけど?」

 ピタッ。

 女の子が足を止めた。

 道案内でもしてやりますか。

「迷子だったんだろ?」

「違います。決めつけないでください。第一見知らぬ女の子に話しかけるなんて、怪しいです。危険な男に違いありません」

 なんだ、こいつは。人を誘拐魔みたいに言いやがって。

 少しイラッときた俺は、案内するのをやめることにした。

「そっか。じゃあ俺は帰るから。白雪に会えず路頭に迷い、お腹をすかせても知らないからな。青森がどうかは知らないが、東京は治安が悪いんだ。泣いても知らねえぞ」

 俺は女の子に背を向けて、足を踏み出して——がしっ。袖を掴まれた。

「そ、その。良ければお姉様……星伽白雪に会わせてもらえないでしょうか?」

「ああ。依頼、承りました」

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