緋弾のアリアドス   作:くものこ

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第6弾

 女子寮の屋上には、強襲科のC装備をしたキンジとアリア、それと狙撃銃を背中に提げたヘッドホン女子がいた。階段の廂の下で雨を避けている彼女に近づき、声をかける。

「レキか。久しぶりだな」

「……」

 無視された。ヘッドホンをつけているから聞こえなかったのだろう。そうだ、そうに違いない。

 軽くヘッドホンをつつく。すると、彼女はこちらに気付いたようで、ヘッドホンを外した。

「糸丸さんですか」

「レキも呼ばれたのか?」

「はい」

「今日はよろしくな」

 コクリと頷いたレキは再びヘッドホンをつける。

 レキ。武偵校の狙撃科に所属する2年生。ランクはS。細い身体、身長はアリアより頭半分高い。Sランクの腕前に、ショートカットの美少女という外見。さらには無感情のロボットっぽい性格。エムに似ている。

 このレキに関してはある疑惑を抱いているのだが、今はそれを気にしている場合ではないだろう。さっきからアリアががなりたてているし。

「糸丸、あんたはこれだけ付けておいて!」

 そう言ってアリアは俺に武偵校の校章入りの無線インカムを手渡す。

「それじゃあ、事件の概要を説明するわ」

 アリアの言葉に俺、キンジの二人が耳を傾ける。レキは相変わらずヘッドホンをつけたまま、虚空を見つめている。いや、前もってアリアから聞いているのかも。

「バスジャックが起きたの」

「バス? どの?」

「武偵校の通学バスよ。男子寮前に7時58分に停留したハズのやつ」

 それって普段キンジが通学に使っている、チャリジャックの日にキンジが乗り遅れたバスだよな?

 キンジを一瞥する。ここにいるってことは、今日も乗り遅れたのか。そういえばお茶かなんかを飲んでのんびりしていたな。

「犯人は車内にいるのか?」

「分からないけど、たぶんいないでしょうね。バスには爆弾が仕掛けられているわ」

 爆弾。ここ最近何度も聞く単語だな。例えば、チャリジャックの時とか。

「武偵殺しか……」

「そう。あんたたちのチャリジャックと同一犯の仕業よ」

「武偵殺し?」

 キンジが眉を寄せる。

「武偵殺しはもう捕まったんじゃないのか?」

「そいつは真犯人じゃない」

 アリアに目配せする。彼女は驚いたようで、赤紫色の目を見開いている。

「糸丸。あんた、もしかして」

「どういうことだよ、糸丸!」

「それは——」

 言っていいのか。アリアの確認を取った方がいいよな?

 と、空から激しい音が聞こえてきた。それは次第に大きくなってきた。

 ヘリだ。青色の回転灯を付けた車輌科のシングルローター・ヘリが女子寮の屋上へと下りてきている。

「説明している時間はないわ! 爆弾の仕掛けられたバスは今も走行中! 中には武偵校の仲間がたくさんいるの。助けないわけにはいかないわ!」

 武偵憲章1条『仲間を信じ、仲間を助けよ』。そうだな、やるしかないか。

 

 

「あれ、ジャロ?」

『やあ、糸丸君』

 ヘリの運転席にいたのは鮮やかな緑色の髪をした男子。少しつり目気味の赤い目に、黄色いフレームの眼鏡。知的な印象を受ける彼の名は、蔦時仁郎(つたじ じろう)。俺はジャロと呼んでる。だってまあ、あれだし。

 ジャロは車輌科のAランク武偵である。どうやらヘリの運転を頼まれたらしい。

『本来は僕は空を飛ぶものの扱いはそこまで上手くないんだけどね。でも、剛気君が今バスだから』

 剛気君ってあの武藤のことか。車輌科のAランク、たしか今年は同じクラスになった気がする。キンジの親友の一人だったな。乗り物なら何でも乗りこなせるとか言っていた。

『まあ僕もAランクだからね。これくらい造作もないけど』

 フッとキザに髪をかきあげるジャロ。ぼんぼんが気取りやがって。ただ、この間お世話になったのは事実。お礼は述べる。

「この間はありがとな。泊めさせてくれて」

『気にしなくていいさ。親友を一泊させるくらい、大したことない』

 ジャロはお金持ちのぼんぼんである。俺みたいな野生生まれの野生育ちではなく、研究所育ちである。ポケモン研究所ではさぞかしいい育て方をされていたのだろうし、その後もトレーナーの手に渡ることが決まっている。エリートなのだ。そのためか少し気取った態度が鼻につくこともあるが、基本的にはいい奴である。

『またいつでも遊びに来てくれたまえ。君なら大歓迎さ』

 ついでに言うと、友達が少ない。たぶん研究所に閉じこもってたからだな。

『警視庁や東京武偵局は動いてないのか?』

『動いてる。でも相手は動くバスよ? それ相応の準備が必要だわ』

『じゃあ俺たちが一番乗りか』

『当然よ。ヤツの電波を掴んで通報より前に準備したんだもの』

 自慢げに話すアリア。キンジとのやりとりを軽く聞き流しながら、状況を整理してみる。

 ジャロの友達の武藤たちを乗せたバスは、男子寮前の停留所以降、暴走を始めたらしい。定員オーバーの60人を乗せたバスは現在、青海南橋を渡って台場を走っているらしい。

『見えました』

 隣のレキの声に、俺らは窓の外を見る。しかし、車なんて点にしか見えない。どれがバスだよ。

『ホテル日航の前を右折しています』

「だとよ、ジャロ」

『いちいち言わなくても分かるさ』

 ヘリがレキの指摘したポイントへ向かう。するとバスがいた。かなりの速度で走っている。次々と一般車両を追い越しているのだ。

『糸丸! あたしとキンジがバスに突入するわ! あんたはレキといつでも出れるように準備しておいて!』

「了解」

『キンジ、あたしがバスの外で爆弾を探すわ。あんたは車内を探して』

『おい、もし犯人がいたらどうするんだよ!』

 今になってごちゃごちゃ言い争うキンジとアリア。こいつらに任せて本当に大丈夫か?

 しばらくして、二人は豪雨の中飛び降りて行った。ヘリに取り残された俺は、インカムからの情報を聞きながら、外を眺める。

 防弾窓を打ち付ける雨。それは激しさを増してきている。

 腰のワイヤーの動作の確認をする。ちゃんと動くな。

 ふと隣を見る。レキが窓の外を眺めていた。耳には相変わらずヘッドホン。

 以前、そのヘッドホンで何を聴いているのか聞いたことがある。"風"だそうだ。

 俺がレキに関して抱いている疑念。それは、実はこいつは元ポケモンなのでは、というものだ。

 別にこれといった決定的な根拠はない。ただ、こいつはウルスという民族の出身らしい。

 たいようポケモンというポケモンがいた。そいつは、銀色の風とか熱風、暴風に風おこしと色んな風にまつわる技を覚えたはずである。

 レキ。……太陽暦とか?

 少しこじつけが過ぎたな。特にこいつは俺や社会に害をもたらしているわけではなく、真っ当に武偵ライフを過ごしているのだから、こんなふうに疑うのは良くないだろう。

『糸丸さん』

 と、そのレキが俺に声をかけてきた。彼女は開いたままの状態のヘリのハッチからバスの方を見下ろしている。

『赤いルノー・スポール・スパイダーです。UZIを載せています』

「蜘蛛?」

 赤い蜘蛛ってどっかの誰かみたいだ。具体的に言うと、今車輌科のヘリに乗っている諜報科の武偵。

『車種名です』

 レキの隣からハッチの外を覗く。たしかにバスの脇を赤いスポーツカーが並走している。

『みんな伏せろっ!』

 インカムからキンジの声。直後、バリバリバリバリッ! というチャリジャックの時にも聞いた銃撃音が轟く。UZIの発砲音か。

 と、バスが減速を始めた!

「まずくないか? 武偵殺しの爆弾って減速したら爆発するんだよな?」

『はい、たしか』

 しかし爆発は起きない。そうこうするうちに、バスの速度が戻る。とりあえず爆発がなかったことに安堵すべきか。

「いや、ルノーだ! あれを何とかしなくちゃ!」

 さっきからアリアの無線が入ってこない。ルノーにやられたのかもしれない。アリアはバスの外を調べると言っていた。そこをルノーに襲われたのなら……。

 バスは急カーブを曲がってレインボーブリッジへと向かう。幸い、他の車は一台も走っていない。警視庁か何かが規制をかけたのだろう。

「ジャロ! ヘリをバスの前方に!」

 逆立ちをして左足裏のピックをヘリの天井に突き刺す。しっかり刺さったことを確認すると、ワイヤー装置を稼動させてヘリの外へと飛び出す。

 実は靴にもワイヤーが仕込まれているのだ。

 ただし、腰のワイヤーよりも長さはない。やはり今の高度だとバスまで届かない。

「ジャロ、もう少し高度下げて!」

『無茶言わないでおくれよ!』

 そう言いながらも高度を下げてくれるジャロ。さすが車輌科のAランク。

 バスの数十メートル前方へとくる。両腰のワイヤーを左右の橋の支柱へと撃ち込み、ヘリと繋がったピックを巻き戻して宙吊り状態になる。ワイヤーを緩めて地面すれすれまで降りる。

 前方から迫り来るバス。その下には明らかに大きすぎる爆弾。運の良いことに、UZIを載せたスポーツカーはバスの前方に陣取っている。ちょうど良い。狙い撃ちしてやる。

 と、バスの上に誰かがいる。アリアとキンジだ。二人は何か口論をしていて、UZIに気付いていない。何やってんだよ、あいつら!

 しかもUZIの銃口は二人に向けられている。まずい!

 拳銃を取り出すと二発撃つ。間に合ってくれ!

 

 バリバリバリバリッ!

 

 しかし、俺の銃弾がUZIに届く前にそこから弾が掃射される。遅かった。間に合わなかったのだ。

 バスに当たらないように撃った銃弾はUZIに当たることもなく、何もない空間へと吸い込まれていく。

 

 ザシュ!

 

 が、UZIは真っ二つになって銃座から転がり落ちた。一丁上がり。

『爆弾は私がやります』

 インカムからレキの声。なるほど、じゃあ俺は蜘蛛さんを片付ければ良いんだな?

 ワイヤーを巻き戻して、バスよりも高い高度へと上がる。そして、銃を真下に構え——

 一撃。俺の下を通り過ぎようとしたスポーツカーに直撃し、それはスピンしながら道路の脇へと転がっていく。

 次の瞬間、バスが高速で走り抜けた。一瞬だったが見えた。額から血を流して倒れているアリアと、それを抱きかかえているキンジ。

 ダメだった。俺はやっぱり鈍いまま。全然早くなんかなってない。

 後方で爆発音が轟いた。同時に水柱が上がる音も。レキはうまく爆弾を処理したらしい。これがAランク武偵とSランク武偵の差か。

 宙吊りで逆さまの状態のまま、俺は雨に打たれ続ける。

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