緋弾のアリアドス   作:くものこ

75 / 79
日と追風の剣舞
第1弾


 ハイマキと一緒に走り、俺らがやってきたのは砦のような建物。

 どこかで見たことある紋様が付いている門の前で、武装した巫女さんが立って周囲を警戒していた。

 和弓を持っている彼女。走ってきた俺らに気付くと駆け寄ってきた。

「どうしたんです?」

 血塗れの俺に話しかけてきた武装巫女。スラっとした美女で、どことなく白雪に似ている。白雪をクールにした感じだ。

 ああ、この紋様。星伽だ。粉雪の風呂敷に同じ紋様があったはず。星伽……星伽は火を使う。それならフィアは——!

「フィアが……えっと、彼女が死にかけているんです! 中に入れてください!」

「あなた……もしかして、芦長様ですか?」

 血塗れの俺とハイマキを見ても顔色1つ変えない美女は俺をじっと見つめてそう言った。

「え? たしかに芦長ですけど……まあ、様がつくほどの者ではないと思います」

「やはりそうでしたか。私は風雪と申します。芦長様の話は粉雪から聞いております。どうぞ中に」

 粉雪? ああ、なるほど。どうやら星伽において粉雪が俺に関するプラスな発言をしたっぽい。そういえば星伽はもともと男子禁制。唯一の例外が遠山家だったはず。そこに入ることを許されたということは、すごいことなのかも。

 俺がハイマキとともに中に入ろうとすると……

「あっ、しっしっ!」

 武装巫女の風雪さん(いや、星伽の姉妹は白雪が長女のはずだから俺より年下か?)が和弓でハイマキを追い払おうとする。

「あの風雪さん。それは俺の連れです」

「そうなのですか?」

「えっと、正確にはレキという女の子の……」

「レキ? 蕾姫(レキ)のことですか?」

「レキを知ってるんですか」

「こちらに」

 風雪さんはハイマキを追い払うのをやめて、俺とハイマキを連れて建物の奥を指差した。

「先刻、遠山様が彼女を連れて中へ」

 

 

 見張りの任務があるらしく、風雪さんは奥には行かずに門に残った。

 一方、奥に進んだ俺とハイマキが入った部屋。そこでは白雪とキンジ、ジャンヌがいた。ただ、キンジは寝ていた。

「糸丸君!」

 俺に気付いた白雪が駆け寄ってくる。

「何があったの⁉︎ 全身血まみれだけど……」

「白雪、超能力は使えるか? 今すぐフィアを温めてほしいんだ」

 俺は畳の上にフィアを下ろした。力なく畳の上でのびるフィア。健康的な肌色だった顔が病人のように白くなっている。間に合うのだろうか……?

「冷たい……。わかった。けれど今は力が安定しないの。時間がかかるかもしれないけど……」

「構わない。白雪しかもう頼れる人がいないんだ」

 頷いた白雪はフィアに手を当てた。お札を取り出し、フィアに向かって何かを唱えている。

「どうしたのだ、芦長。見た感じ、お前の顔や服の血は凍りついているみたいだが?」

 ジャンヌが俺に聞いた。

「お前のような氷使いだ。魔女じゃなくて、男だけどな。それよりもレキは?」

「レキなら峠は越えた。星伽の嘱託医が治療したからな。今はそこで寝ている」

 ジャンヌが奥の部屋を示した。そうか、よかった。死んでないんだな。

「だってよ、ハイマキ。あ、ジャンヌ。誰かにハイマキの治療を頼んでくれ」

「うむ。そうするのがいいだろう」

 ハイマキはゆっくりとレキのいる部屋に向かった。ご主人様の元に行くつもりらしい。忠実なしもべだな。どこかのラティオスとは大違いだ。まあ俺のトレーナーとしてのレベルが低いだけなんだけどさ。レキはバッチ8個持っているのだろうか。

「腹が減っているだろう、芦長。よかったら星伽の者に食事を用意してもらえ。私も食べたが、うまいぞ。それに腹が減っては戦ができないからな。その男がいつ再び襲ってくるとも知れんだろう?」

「ああ」

 キュレム。俺は一時的にあいつとフリージオの大群を混乱させただけに過ぎない。もうとっくに混乱状態は治っていてもおかしくはないのだ。

 見た感じだと、この星伽は相当な戦力を保有しているっぽい。ここにいる間は襲われることはなさそうではあるが……そうだな、いつでも戦えるように準備しておいた方がいいだろう。

 

 

 軽い食事をした後、フィアの容態も落ち着いてきたということもあり、俺はキンジの隣で睡眠を取った。

 起きた頃はもうすでに修学旅行2日目の午後。隣にキンジの姿はない。

 近くを通りかかった籠巫女にフィアの居場所を聞いて(レキのいる部屋と同じらしい)、俺はそこに向かった。

「失礼します」

 襖を開けて中に入る。眠っているレキとフィア。フィアには目立つ外傷はないが……レキ。体のいたるところに包帯を巻かれていて、痛々しい。レキをこれほどまでに傷つける敵。そんな敵もいるのか。

「キンジ。昨日は何があったんだ?」

「お前こそ何があったんだ。制服、血塗れだったんだぞ?」

 俺は縁側に干されている制服を見る。白雪が洗濯してくれたのだ。俺は渡された寝間着を着ている。キンジとおそろ。誰得。

「ちょっとばかし、バケモンと戦ってたんだ。どのくらいバケモンかと言うと、キンジよりは弱いレベル」

「俺はそんなに強くないぞ」

 ブラフ。キンジが強くなかったら、俺なんて虫けらじゃないか。もともと虫だけど。

「キンジは? お前らの方は何があったんだ?」

「ココと狙撃戦をやったんだ」

「ココ? 誰?」

 ココドラ? ココロモリ? その辺しか思いつかないな。

「香港からの留学生だよ。万武の超人を自称する14歳。容姿はアリアに似ている。その戦闘力はありえないほどだ。格闘、拳銃戦、狙撃。これらをすべてこなすんだ」

 なんだそれ。ポケモンにおいて、物理も特殊もどちらもこなし、さらには耐久も可能と言っているのと同じようなことじゃないかここでサポートもできたら文句なしだな。

 しかしそれは無理だ。どんな努力値配分したらそんなことが可能になるんだ。そもそもそれら全てを同時にこなすように技構成を組むのも無理だろ。

「ありえない」

「ありえるんだよ。現に俺はココに徒手格闘で殺されかけた。アリアはアル=カタで引き分けた。レキは重傷を負ったんだ」

「……」

 言葉が出ない。一体どんなやつなんだ、そのココっていうのは。

 俺は広げた和布に並べられた銃弾を眺める。どれもコピーしたかのように均一。すごいな、レキ。そこまでこだわっているのか。

 それをキンジが弾倉に詰め直している時。

「——美しいものだな。日本の魔女は(パピヨン)を使い魔にしているのか」

 という声に、俺とキンジは顔を上げた。ジャンヌが縁側にやってきていた。中庭にはアゲハ蝶が何匹か舞っている。

「パピヨン? ビビヨンだろ?」

「なんだ、それは」

「いや、何でもない」

 バタフリーでもいいんだけど。いや、それは少し違うか? アゲハントだな、多分。

「遠山。あまり役に立てなかったが、私は間もなく京都を立つ。神崎かなえの弁護士と裁判の事前打ち合わせがあるからな」

 ああ、そういえば修学旅行明けにそんなものがあったな。俺もブラドを倒した人物として少し関わっている。アリアは夏に忙しく色々と準備きていたらしい。そのせいか、最近はほとんど会ってない。

「ああ。わざわざ呼んで悪かったな」

「気にするな。それと遠山。芦長でもいい。ゲンジとは何だ」

「四天王じゃないか?」

「糸丸、違う。源氏だ、源氏。有名なのは約千年前の日本に武家政権を作った侍の一族だ」

 なんだ、そうなのか。俺はてっきりドラゴン使いの人だと思ったぜ。

「そうか、ウルス族のルーツはサムライだったのか……。遠山。お前は先月、レキに結婚を無理強いされたな?」

「ああ」

「サムライの文化では、確か女は男の所有物という建前があったらしいな。蒙古帝国にも似た文化があったのだ。女は財宝の1つ。金銀財宝のように掠奪してくるものだとな」

「蒙古? どうして蒙古?」

 俺は気になったことをジャンヌに聞いた。

「後で遠山に聞いてくれ、芦長。私は時間がない。遠山、お前はレキに掠奪されたのだ。長い時間の中で男女の文化が融合・転化することは珍しくない」

「特にウルス族にはもう女しかいないからな。優秀な異性をどこからか掠奪して子孫を残そうとする文化を女が継承していても、無理はない。それと……」

 ジャンヌがレキを見た。俺とキンジもつられてみる。

「ウルスには、サムライの切腹と同じ文化がある。『最後の銃弾』——残弾が一発だけになって、それを使っても活路が見出せないほどに追い詰められた時、あるいは自分が主人の足手まといになったと判断した時、その弾で自決するのだ」

 それは……レキがキンジのために死すこともあるということか。

 ポケモンにも、自らが瀕死になってでも他のポケモンのためにという技はあるな。自爆・大爆発、癒しの願い、三日月の舞など。それが役割として与えられているポケモンもいるのだ。

 自らの命を犠牲にして(ひんしになって)でも主人(トレーナー)を勝たせる。その精神がレキにあるということか。

「彼女らは一発の銃弾のように、目的に向かって一途に生きる。そして戦い続けるのだ。最後の銃弾で——己の人生を閉じるまで。遠山、レキとはそういう女だ。気をつけておけ」

 ジャンヌはそう言い残すと、星伽の運転手が待つ廊下の先へと立ち去った。

 ジャンヌの言葉が本当なら……レキは今度同じような状況に陥ったら自分を撃つのでは?

 俺はキンジの手からドラグノフ狙撃銃を取った。

「糸丸? 何をする気だ?」

「決まってる。これを使えなくするんだ」

 俺は巾着袋から目的物——試験管を取り出した。その中に入っているのはくろいヘドロ。

「こいつを銃身に入れておくんだ。レキの残弾は何発だ?それによって分量を変えなければならないんだが」

「ま、待て! このヘドロって……お前がやったものだったのか⁉︎ イ・ウーでのアリア戦の時、アリアのガバメントにヘドロが詰まって発砲ができなくなったんが⁉︎」

「そうだけど?」

 くろいヘドロ。毒タイプ以外のポケモンが持つと、ターンを追うごとにダメージを受けるアイテムだ。それを銃身に詰めれば、一発撃つごとに銃がダメになっていく。それを7月のイ・ウーでの戦闘の際、俺がアリアのガバメントに仕掛けておいたのだ。おかげでキンジは勝てたという話だったはず。感謝するでしゅ。

「や、やめろ! 今すぐやめろ! あれを取り出すのに、後でどれだけ俺がアリアにこき使われたと思ってるんだ! 汚いし臭いし、もうこりごりなんだよ! レキにその苦痛を体験させるつもりか!」

「仕方ないだろ! そのおかげでお前だって助かったんじゃんか!」

「わ、わかってる! でもあれだ、今回は別の方法もあるんだよ!」

 キンジは慌てて俺の手からドラグノフ狙撃銃を奪い返すと、弾倉に入れ直した銃弾を取り出した。

「何をするんだ?」

「昔、兄さんの同僚に教わったんだ。銃弾を不発弾にする方法」

 キンジはポケットからバタフライ・ナイフを取り出した。カナさんが渡したという緋色に輝くナイフ。

「一般的な銃弾の薬莢には雷管という点火装置が付いている。その雷管がなければ弾が発射されることはない。つまり、不発に終わるんだ」

 ご丁寧に解説しながら、器用にナイフで銃弾の雷管外すキンジ。雷管を外し終えると、その不発弾を弾倉の一番最後に入れた。

「その雷管はどうするんだ?」

「念のため俺が持っておく。万が一、レキが最後の銃弾を攻撃に使用しないといけなくなった時のためにな」

 キンジが雷管をポケットの中にしまった。そうだな、もしかしたら俺が奥田の超音波弾を使用した時みたいに、必要になる時があるかもしれない。

 キンジはレキに向き直る。

「レキ。お前は銃弾なんかじゃない。人間なんだ」

 そうだな。昨晩、旅館で混浴温泉に入った時。レキには確かに感情があったように思えた。やはりレキとて人間なのだ。心があるのだ。

 お前の成長を見守ってきた人間の1人として、認めないからな? 自殺なんて。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。