緋弾のアリアドス   作:くものこ

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第4弾

 新幹線の線路上をラティアスに乗り、高速で駆け抜ける。

 最高時速はさすがに出せない。カーブが曲がれなくなるからな。

 それでもラティアスは十分に速いスピードで飛行する。もうそろそろ名古屋だ。

 日も沈んだ。やはり9月になり、日が沈むのが早くなっているな。まだ6時過ぎだというのに。

 新幹線ジャック。自転車、バス、飛行機ときて次はこれかよ。まさか理子がやったんじゃないよな?

「やばっ、車両!」

 緊急停止している新幹線の車両を避けるために迂回する。新幹線ジャックの影響で新幹線は現在全線で運転見合わせ。いちいち避けるのも面倒だ。

 ここは少しスピードを落として下を飛ぶしかなさそうだ。

 腕時計を確認する。これだと追いつくのは6時半過ぎくらいか?

 それで間に合えばいいのだが……。

 

 

 

 俺はハンググライダーをとばしていた。時刻は6時45分。未だに新幹線は見えてこない。

「くそっ、何でだ!」

 新幹線が加速しているのか? それが犯人の狙い?

 理子が以前仕掛けた爆弾は速度を落とすと爆発するタイプだった。もし加速しなければ爆発するタイプなら、理子よりも技術力のある敵ということだ。

 格闘、拳銃戦、狙撃ができてさらに技術力もある? チートだろ。

 今回の敵は一体どんなやつなんだ。万武の超人って自称しているらしいが、本当に全てこなせるのか……?

 

 ……バラバラバラバラ……!

 

 その時、上空からヘリの飛ぶ音が聞こえた。気になった俺は笛を吹き、ハンググライダーを上昇させる。

 あれは……川崎重工の高速ヘリ、OH-1だ。陸自での愛称はオメガとかニンジャとかいう。たしか星伽の分社のガレージにもあった。

 じゃああれは星伽の……? 星伽も、白雪の援護のために駆け付けたのか?

「あれは!」

 ヘリが向かう先に目をやると、新幹線が見えた。あれだ、のぞみ246号!

 俺は笛を吹き、ハンググライダーをさらに加速させる。このまま一気に近づいて、屋上に飛び乗る!

 近づいてくるにつれて、16両編成の新幹線の全貌が見えてくる。

 速い。設計上の限界速度を出しているのではと思えるほどのスピード。その超速で走る新幹線の先頭車両の屋上に、3人の人影。

 防弾制服を着た男、キンジ。そして残りの2人は……知らないな。中国の民族衣装っぽいものを着ている女の子2人なんだが、2人の顔はそっくりだ。双子か?

「キンジ!」

 キンジが敵に接近をゆるした。長い黒髪のツインテールの女の子が、その髪をキンジに巻きつけて締め上げているのだ。

 俺はワイヤーを先頭車両に打ち込み、着地を試みるが——ビシュッ!

「しまっ!」

 キンジを締め上げている奴とは別の女の子が、打ち込まれたワイヤーめがけてマシンガンを撃った。弾丸が打ち込まれたワイヤーを破壊し、俺は風に煽られて新幹線の屋根の上をハンググライダーごと転がる。まずい、このままだとあっという間に最終車両から転げ落ちるぞ!

 ハンググライダーに体を固定していたワイヤーを外し、代わりに新幹線の屋根にさして何とか新幹線の上に留まる。

 代わりにラティアスは——がしゃがしゃん!

 高速で走る新幹線上から落ち、バラバラに砕け散った。

 破片たちが泡のように消えるとすぐに俺の隣に明日香が現れ、俺の腕に抱きついてくる。俺はさっきよりも新幹線の屋根の上で踏ん張る足の力を強める。

「糸丸! ラティアスが壊れてしまったじゃありませんか!」

 風に負けないように明日香が叫ぶ。

「悪い!」

 しかし参った。飛行手段を失ったからには、この屋根伝いに先頭車両まで進まないといけないぞ。

 でも明日香を連れて行くわけにはいかない。こいつは非戦闘要員。救護科の生徒だ。自衛すらできない。いざとなれば飛鳥に変わるのだろうが……それでもそれは一度明日香を傷付けることになる。

 それに今気付いたが俺には今、弾がない。バカか、俺は。銃なしでどうやって戦えと?

「糸丸君!」

 と、新幹線の側面から声がした。ワイヤーでしっかりと体を固定し、側面を確認すると……

「ジャロ⁉︎」

 新幹線の非常用の扉を手動で開けたらしいジャロが、顔を出していた。風で整えられた髪がバサバサと激しく揺れている。

「君のワイヤーを1つ使って、明日香君をこっちに!」

「わかった!」

 俺は腰のワイヤーをまだ使える腰のワイヤー装置を外すと、明日香に手渡す。明日香はそれをジャロのいるところに打ち込んだ。

「糸丸君、君にはこれだ! エム君!」

 ジャロの声の後、扉から別の人物が顔を覗かせた。銀髪のショートカット、エムだ。

 エムはその手に何かを持っていた。毒々しい紫色の、ラグビーボールを潰したような形のそれは——ゲノセクト。自己何とかかんとか支援装備だ。

 エムが扉から身を乗り出し、新幹線の屋上にそれを投げた。

 さっきのラティアスと同じように屋上を転がり、ゲノセクトは俺の元へとやってくる。

 俺はそれを受け止めると、付属していたアームバンドを左腕に巻きつけ、ゲノセクトをそこに固定する。側面をタッチすると——ガシャン! 中から拳銃のグリップ部が飛び出してきた。

 テクノバスター。特殊攻撃が可能な新武装。よし、これで銃は確保できた。戦える。

「ありがとう、エム!」

「——」

 エムが何か言った。ただ、風の音が強すぎて全く聞こえなかったが。でもわかる。エムはきっと、頑張れ的なことを言ったんだろう。……違うかな? なんか俺を睨んでいるような気もしなくもない。心なしか、俺の腕にしがみついている明日香の腕の力が強まった気がする。

 エムからの謎の睨みは一旦放置。とりあえず俺に抱きついている明日香を何とかしよう。

「明日香。お前は車内に入れ」

「はい。必ず生きて戻ってきてくださいね?」

「わかってる」

 明日香が俺から離れ、ワイヤーで落ちないようにしながら非常用の出入り口に向かうのを確認してから、俺は前へと進み出す。

 風に逆らいながら新幹線の車両の屋上を一歩ずつ先頭車両へと向かい始めた、その時。

 

 タァン……タァン……!

 

 発砲音が背後から聞こえた。これは……ドラグノフ狙撃銃。レキだ!

「レキ!」

 俺は後ろを振り向いた。新幹線に背後から迫る星伽の高速ヘリ。その開け放ったハッチから身を乗り出した包帯だらけの身体の狙撃手。

 タァンッ!

 俺が振り向いてすぐに、ドラグノフの銃口が一閃した。

 銃弾を追うように前方に顔を向けると、敵の1人が倒れていた。すごい。揺れるヘリからここまで正確な狙撃を……!

 再び後ろを向くと、ヘリが電車の最後尾にかなり接近してきている。まさか飛び乗るつもりなのか⁉︎

 ババババババッ!

 新幹線の先頭車両の方から、マシンガンが撃たれる。レキが飛び乗るのを阻止しようとしているらしい。

 俺は流れ弾に当たらないよう、ゲノセクトを盾のように構えながらヘリを見上げる。

 ハッチの取っ手に爪先をかけて逆さ吊りの姿勢になったレキ。その姿勢のままドラグノフを構えて——タァンッ!

 撃った。それは敵に命中したらしく、マシンガンの発砲音が聞こえなくなる。

 その時、ヘリが機首を上げた。なぜだと考える間もなく、レキがヘリから飛び降りた。

 ——ざんッ!

 俺のすぐ後ろに銃剣を突き立てて、レキが新幹線に降り立った。

「レ——」

 ——ゴオオッ——!

 その時、新幹線がトンネルに突入した。一気に強まった気流に、肺が破裂しそうになる。なるほど、だからヘリは機種を上げたのか。

 トンネル内に等間隔に灯された電灯が次々と後方へ流れていく。まるでりゅうせいぐんだ。

 それとは逆の方向へ、レキは進み始める。先頭車両へ。

 俺もそれを追いかける。

「レ……キ!」

 呼吸すらままならない空間で、俺はレキに話しかける。

「ダメ……だッ……! お前は、戦える、体じゃない……!」

 しかし俺の声には耳をかさず——いや、もしかしたら本当に聞こえてないだけなのかもしれないが——レキはただ進む。

 バッ——!

 ついに新幹線がトンネルを抜けた。俺とレキは最後尾の車両の次の車両に渡っている。

「レキ!」

 レキが振り向いた。鳶色の瞳で、まっすぐ俺を見てくる。

「行くな!」

「行きます」

「そんな体じゃ無理だ! 死ぬぞ!」

「構いません。私は主人を仇なす者には一発の銃弾となり、必ずや滅びを与えん事を誓いましたから」

「……死ぬ気か?」

「……」

 レキは答えない。ジャンヌの話が本当なら、レキは最後の銃弾で自決することだってあるだろう。それにそもそも、こんな傷だらけの体じゃそこまで保つかどうかもわからない。

 そうこうしているうちに、俺らは新幹線の車両を1つ、また1つと乗り移っていく。

 400メートルほどあった先頭車両との距離は、あっという間に縮まってしまう。

「レキ。どうしてそこまでしてキンジを……?」

「駆けてくれましたから」

 駆けて……?

「昨日の夜。キンジさんは私のために走ってくれました。だから今度は私が走ります。キンジさんのために」

 だっ! レキが駆け出した、次の瞬間。

 シャンッ!

 新幹線の先頭車両とその次の車両との連結部から、ガスバーナーのような緋色の光が何本も迸った。

 同時に、新幹線が——いや、先頭車両を除いたその他の車両が、後退を始める。

 連結部を切断したのか⁉︎

 あの炎。もしかして白雪の技かもしれない。キンジが白雪にそうしろと命令したのでは? そしておそらく、爆弾が仕掛けられている先頭車両と一般客とを離れさせるために。

 まずい。急がないと、渡れなくなるかもしれない!

 速度が落ち始めているおかげか、風の抵抗は少ない。俺と少し前のレキが先頭車両めがけて走る。

 なんとか間に合いそうだ。レキはどうなのか知らんが、俺にはワイヤーがある。ある程度距離が離れていても渡ることはできる。

 ——と、レキがくるりと一回転した。その際に何かをこっちへと放り投げる。

「逃げてください」

 レキは勧告すると、再び全力疾走しだした。

 俺はこちらへと転がってくる物を確認する。着色されたそれは——武偵弾。その炸裂弾だ。大爆発を巻き起こす、超小型の燃料気化爆弾——!

「う、嘘だろ、レキ——!」

 そりゃ警告してたけど。逃げてくださいって言ってたけど。

 全力で走ってて、急に反転して逃げられるわけねえだろっ!

 炸裂弾が光り始める。うあっ、爆発する——!

 

 ——ドウウウウッッッッ!

 

 炸裂弾が紅蓮の炎を巻き上げる。その爆風にレキは先頭車両側へ、俺は後方へと突き飛ばされる。

 数回バウンドした後、俺は屋上の上を転がる。

 止まった後、フラつきながらもなんとか立ち上がる。もう先頭車両はだいぶ先へと進んでいた。今からじゃ乗り移れないだろう。

「けほっ、けほっ。レキの奴……! 呪うぞ!」

 鈍いだけなんだけどさぁ。

 煤まみれになった全身をはたく。身体のあちこちが痛い。顔や手がヒリヒリする。

 爆発に巻き込まれたのはこれで2度目だ。炎は嫌いなのに。

「熱いのは苦手だって言ってるだろ……」

 しばらくして、新幹線は停止する。ラティアスもないし、前の車両を追いかけることはできない。俺にできるのはここまでだ。

 とりあえず、ここから下りよう。

 俺は車両の屋上、その端に足を運んで——つるっ!

「ぬわっ⁉︎」

 滑りかけて、慌ててナイフを車両に突き立てる。あ、危ねぇ。もう少しで落ちるところだった。

 万が一線路の外にでも落ちたりしたら、死ぬ可能性だってあるかもしれないからな。

 ……おい。どうして滑った? なぜ屋上がツルツルしていたんだよ。

 嫌な予感しかしない。

 耳をすませば——ほら、やっぱり。ひゅんひゅんという音が聞こえてきた。

 京都からわざわざ、ここまで追っかけてきたのかよ。どっかのじゃりんこを追いかける2人と1匹並みのしつこさだ。

 俺は屋上によじ登ると、踵のワイヤーを鉤爪代わりにして滑る屋上に立つ。テクノバスターを構え、暗い空を見上げる。

 ひゅんひゅんという音の正体。やはりフリージオたちだ。

 無数のフリージオが束になって飛んできている。——いや、違う。フリージオたちは繋がって、空飛ぶ絨毯のようになっているんだ。

 そしてその絨毯に乗っているのは——

 右腕の機械の背部に巨大ブースターを連結させた男が、かなりのスピードで接近してきている。フードの下から、糸目が覗く。

「キュレム……!」

 どうやら、向こうに渡れなくて正解だったみたいだな。

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