緋弾のアリアドス   作:くものこ

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第7弾

 その後、アリアは病院に入院して色々な検査を受けた。検査の結果、銃弾は額をかすめただけで重傷には至らず。脳などに損傷はなかったらしい。ただ、額の傷は一生残るんだと。

 アリアの病室はVIP用の個室。イギリスの貴族様だからな、当然か。

「キンジは見舞いに来たのか?」

 病室のでかいベッドの上に座ったアリアに問いかける。頭に巻かれた包帯。少しずれていて、付け外しをしていたように思われる。何をしていたのかは知らんが。

 病室の小さいロビーに白百合が飾られている。『レキより』というカード付きで。レキも見舞いをするんだな。意外である。俺はその隣に見舞い品のハートスイーツを置いておく。

 しかし、キンジからの見舞い品は何も見当たらない。

 今日はバスジャックの翌日。キンジは報告書を教務科に提出した後に見舞いに行くと言っていたのだが。

「バカなら来たわよ」

 アリアが部屋の隅に置いてあったゴミ箱に目をやる。俺もそこを見ると、コンビニの袋とクリアファイルが入っていた。あのファイル、キンジが今朝持っていた気がする。

「なぜゴミ箱に?」

「あいつがゴミ箱にでも捨てろって言ったのよ」

 本当にそう言ったのか? ……まあいっか。

 ゴミ箱からクリアファイルを拾い上げる。アリアが読まないなら、俺が読ませてもらうだけだ。貴重な情報だからな。

「これは貰っていくな」

「糸丸は知ってるのよね? どこまで知ってるの?」

 ファイルにざっと目を通しながら、アリアの質問に答える。アリアの母親の名前は神崎かなえであるということ。その神崎かなえさんが武偵殺しとして逮捕されていること。しかしそれは冤罪であるということ。アリアがその冤罪を晴らすために本物を追っているということ。

「ふーん。あいつらのことは知らないのね」

「あいつら?」

「気にしなくて良いわ。知ったら知ったで普通の武偵生活は送れなくなるでしょうし」

 何だか危険そうなやつらだな。しかし、それだけ危険ということはもしかしたらプレハブもいるのかもしれない。足を踏み込んでみるか?

「糸丸。あたし、今度の日曜日にママと面会するために新宿警察署に行くの。あんたも一緒に来なさい」

「何で?」

「あんたも武偵殺しの被害者の1人だわ。ママの境遇も知っているし、一応ママに会ってもらおうかなって。それに決めたのよ」

「決めた? 何を?」

「あんたをあたしのパートナーにするの。キンジはダメ。あいつは使えないわ」

 使えないって。なかなかひどいこと言うよな。まるでポケモントレーナーじゃないか。

 あいつは使えない。持ってる技が貧弱すぎる。あいつはゴミ。種族値低すぎ。あいつ? ははは、論外。鈍足で紙耐久、火力もイマイチとか誰得?

「随分と勝手なんだな。そのうち俺もクビか? そういう考え方、嫌いだな」

「違う、そうじゃないわ。キンジとは事件一件だけっていう契約だったの。これで良いのよ、これで」

 サイドテーブルに置かれた拳銃を手に取り、整備を始めるアリア。でもどこか上の空という感じで全く作業が進んでいない。

「あいつは違ったの。あたしが探していたのはキンジじゃなかった」

「そうかなぁ」

 本当に良いのだろうか? 武偵殺しの事件はまだ終わっていない。つまり、この一件はまだ終わっていないんじゃないのか? だとしたら、キンジとの契約はまだ切れていないはずだ。

 それに、キンジとアリアのコンビはなんだかんだで良い気がする。事前の打ち合わせ無しで俺にだましうちを食わせたりしたし。

 ほら、あれだ。俺としてもいつプレハブと戦うことになるかも分からないのに、戦力の低下は避けたいのだ。そう、そうだ。だからキンジとアリアにはまた契約してもらわないと。

 それになんだかんだ言ってなかなかお似合いである。サイドテーブルの上のアリアの携帯にはレオポンのストラップが付いているしね。

 お節介かもしれないが、何とかできないだろうか?

 

 

「というわけなんだ。何か良い案はない?」

「そうですね……。デートなんかはどうです?」

「デートなぁ」

 デートといったって、今は言葉を交わさない関係なんだから難しいよなぁ。

「女子は総じて、デートに誘われるのは嬉しいものです。私だって……」

「いつか見つかるといいな、良い相手が」

「……」

 ん? なんだろう、強烈な殺気を感じた。

「ううむ、難問ですねぇ。理子的にはキーくんとアリアがくっつかないと困るんだけどなぁー」

「……何でお前がいるんだ、理子」

「くふっ、イートン照れてる?」

 照れてねーよ。本当に何でいるんだ。俺はこいつを呼んだ覚えなどない。

「沙那、お前が呼んだのか?」

「いえ。私は何も」

 女子寮前の温室。そこにて俺は、沙那にアドバイスを求めようとしたのだ。そしたらなぜか、いらないおまけが付いてきた。今日も金髪をツーサイドアップにツインテールを増設し、よく分からないゴ、ゴ……ゴチルゼル? ファッションをしている理子である。正直言ってその服装のどこがいいのかさっぱり分からない。

 しかし、武偵殺しの現場調査を行ったのはこの理子を筆頭とした探偵科と鑑識科の人たちだったはず。その点には感謝しなければならない。だけどこうもふざけた調子ならなぁ。

 本当、面倒な人種である。普段はちゃらんぽらんでやる時はやる。扱いが面倒なことこの上ない。

「デートか。でもデートってことは場所のセッティングとかしないといけないよな? 面倒だな」

「イートン、イートン! それならいいデートコースがあるじゃん! 今度の日曜日!」

 今度の日曜日? それって……。

「おいおい、まさか警察署……って、なぜ理子がそれを知っている?」

「うーん、何でだろうね?」

 悪戯っぽく笑う理子。恐るべし理子の情報網。怖いな、いつ俺の情報が漏れるか分かったもんじゃない。

 いや、そのレベルの話ではない。あれはあの病室でだけ行われた会話である。盗聴器でも仕掛けられていたのか? しかしどこに?

「因みにサナたんのスリーサイズも教えちゃおうか?」

「いらない」

 そんな情報を得たところでどうするんだよ。というか、サナたんって沙那のことか? 沙那のスリーサイズ……。

 ワンピース姿の彼女を見る。華奢な腕相応の細いウエスト。座っているのでヒップは分からないが、胸は78くらいとみた。

 何てことを考えていたら、沙那が顔を真っ赤にする。

「な、何考えてるんですか! それに、もう少しあります!」

「へえ。どのくらい?」

「はちじゅ、って何言わせてるんですか!」

 顔をどこかのタコぐらいにまで真っ赤にさせ、目を潤ませる沙那。そんな目で見られても困る。自滅しただけじゃないか。第一なぜ毎回毎回俺の思考をトレースしているんだ。

「とりあえず、何とかしてキンジも警察署に連れて行くか」

「うんうん、それがいいと思うよ!」

 万歳三唱をする理子。意味が分からん。——と、理子の服から紙切れが一枚落ちてくる。

「何だこれ……レシート?」

 日付は今日。買ったものはももまん5個。ももまんって、理子も好きなのか? アリアが好きだったけど。

「ああ、ごめんごめん。キンジの代わりに買いに行ったんだ。色々とバスジャックの処理で忙しそうだったからね」

 ふーん。

 まあ、とにかく。警察署デートの線で行きますか。

 

 

 日曜日。俺は学園島の片隅にある美容院の前で携帯をいじっている。

 ガラス窓から美容院の中を覗くと、アリアが髪型を変えている真っ最中である。といっても、ツインテールはそのまま。

 前髪を作っているのだ。以前は自慢げに見せびらかしていたおでこを隠すために。

 バスジャックの際にできた額の傷。一生残るらしいその傷。それを隠すために前髪を作る。これをキンジのやつが聞いたらどう思うのだろうか。あいつはかなり義理深い人間だ。きっと心を痛めるだろう。

 だが、アリアが許しそうにない。どいつもこいつもプライドが高いからな、貴族のエリートさんは。アリアといい、ジャロといい。

 この間、キンジも一緒に連れて行ってくれと頼んだところ、拒否された。あいつも武偵殺しの被害者なのに。

 これでもう手詰まりか。そう考えていた矢先である。

 やはり俺には天の恵みがあるようだ。

 美容院の隣のクリーニング店。基本的に俺みたいなだらしない私生活を送っていることが多い武偵たち。そんな彼らの(ただし、俺は一度も利用したことはない)御用達の店なのだが、その中にキンジが入っていくのを先程発見した。

 2人が同じようなタイミングで出てくれば、ばったり鉢合わせパターンじゃないか?

「待たせたわね」

 美容院からアリアが出てくる。普段は着ないようなよそ行きのワンピースを着たアリア。普段は制服か強襲用の装備姿だから新鮮である。俺は制服だけど。

 アリアは白いサクランボのようなファーのついたミュールをカツカツと鳴らしてモノレールの駅へと歩き出す。俺は慌てて追いかける。

 キンジが気付いたのかどうか、気になって後ろを振り返る。

 いた。電信柱の後ろから俺らの方を見ている。……尾行のつもりか? 下手すぎるぞ。それでも探偵科かよ。あ、でもEランクだっけ?

 俺とアリアはモノレールで新橋に出て、JRに乗り換えて新宿へ。オフィスビルの間を抜けて、俺らは目的地へと到着する。

 こうして一緒に歩いてみてわかったが、アリアはやはり可愛い子の部類に入るみたいだ。すれ違う男たちがアリアを見て、そして俺を見て溜息を吐くか、舌打ちをする。——別に俺はアリアの彼氏でも何でもないんだが。

 もしかしたら、男避けのために俺を連れてきたのかもしれない。そんなことを考え始めたら、アリアが警察署の前で立ち止まった。

「中に入らないのか?」

「その前に一つだけ。……下っ手な尾行。シッポが見えてるわよ」

 振り返らずにキンジにそう告げたアリア。俺に気付かれていたくらいだからな、アリアにバレていて当然だろう。

「何で尾行なんてしてるのよ」

「お前が武偵なら自分で調べろって言ったんじゃんか」

 若干キレ気味でキンジが言う。怒ってるの? 何に?

「……そう。じゃああんたも一緒に来れば? どうせ言っても帰らないんでしょ」

 ミュールを鳴らして署内へと入っていくアリア。追いかけようとする俺にキンジは問いかけてきた。

「なあ、お前らって付き合ってるのか?」

 付き合う? ああ、もしかしてキンジが怒っているのって……。

「妬いてるのか?」

「違えよ!」

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