そしたら急に易者に負けたキャラ達が惨めに見えてな。
SSを書こうと思ったんだよ。
というわけで98位のキスメちゃんです。
釣瓶落としとは、日本の様々な場所で語り継がれる妖怪で、特に近畿地方、京都周辺にその話は多い。釣瓶火と同一視されたり、釣瓶おろしと呼ばれることもあるそうな。
釣瓶落としは大木の梢に住み着き、下を人が通り掛かると突然落ちてきて、人を驚かしたり、食べてしまう恐ろしい妖怪である。その見た目は人の生首であるとか、そのまま釣瓶であるとか、火の玉であるとか、様々な言い伝えが残っている。
「あ"あ"っ!う"んっ!!あーあー」
でも案外、言い伝えとはいい加減なもので。人間二十もいれば伝える内容が変わっていく様に伝承もまた、良いように改変された内容である事は少なくないのだろう。
「あーあー、うん。よしっ!スゥー...」
でなければ、この小さくて可愛らしい少女があの釣瓶落としなんて信じられない。ツインテールをフワフワ揺らして小さく桶に座り込む、少し大き目の白い着物を着た彼女はどこからどう見てもただのお子様にしか見えない。
「おらぁっ!首ぃ寄越せええええぇぇっ!」
「喧しいっ!!」
その手の物騒な鎌と言動さえ無ければの話であるが。
〇
「あっはは!何、それであんた一発ボコられて帰ってきたの?」
「....」
今、先程博麗の巫女に頭を叩かれて、たん瘤作った私を大声で笑っているのは黒谷ヤマメ。地上からここへ続く大穴の入口に巣を張ってる土蜘蛛だ。私は本来、木の上とかで人を待つのだが大穴にはそんな
「人里の方へ行けばいいのに。ああ、いや彼処は手出しちゃ駄目なんだっけか」
「私だってあれが霊夢だって知ってたら手なんか出さなかったもん」
最近何も落ちてこないせいで私も暇してたのだ。というわけで大穴から出てフラフラしていたら、お誂えむきな木の下の井戸で水を汲んでいる黒髪の女がいた。しめしめと思い、静かに喉を整えた後、襲いかかったまでは良かったのだが、その女が振り向くとやけに見覚えのある顔だった。と言うか霊夢だった。げえ、と思った時にはもう遅い。私は思いっきり頭を叩かれて大穴送りである。
巫女超怖い。
「はあぁ〜。ついてないなぁ」
「くっくっく」
「何笑ってんのさ」
「他人の不幸は蜜の味。友人の不幸はそりゃもう絶品さ」
こいつ性格悪いな。でも、明るくてサバサバしてるから憎めない。私と違ってヤマメには友達が沢山いる。
「でもまぁ、愚痴に付き合ってやってんだからいいでしょ?地底のアイドル、ヤマメちゃんがお酌してくれるなんて中々ないよ」
「それを自分で言っちゃう所がなぁ」
確かに私の数少ない友人の一人。こうして自棄酒に付き合ってくれているだけでありがたいはありがたい。でも素直に認めるのは癪だから言ってやらない。友人の不幸を肴に大喜びするような奴は友人に泣かされるという事を思い知らせてやる。
〇
「ちょっと、ヤマメ。まだ話は終わってないらよ」
「ええぇー。もういいよぉ、私疲れたぁ」
地底の居酒屋に座り込む二人の女。酒瓶持って呂律の回っていないキスメは隣で嫌そうに顔を顰めるヤマメの肩を無理矢理、押さえ込んでいる。
「らからぁっ、わらひが思うにぃっ地上の人間どもはぁ」
「あぁっもう、それさっきも聞いたってぇ」
ヤマメが酔っ払いの処理を初めて、かれこれ四時間。一向に処理は終わりそうにない。いっそ、さっさと爆発してもらった方が楽だなとヤマメは思い始めていた。
「いいからっ聞きなさぁいっ!」
「痛い!」
哀れ、ビンタを食らうヤマメ。他人の不幸を煽る者はこうなるのである。
「はぁ。分かったよ。こうなったらとことん付き合ってやるよ」
「それでこそヤマメらっ!」
楽しそうに拍手するキスメ。酔い潰れるのを待つが早いか、ヤマメの目からハイライトが消えるのが早いかと言ったところか。
「んで、人間が何だって?」
「そうっ人間はねぇえええぇ...」
ふんすと意気込んだキスメの元気な言葉は尻すぼみに消えていった。
「何、どしたの?」
「えへへ〜トイレぇ」
「自由すぎるわ!あぁっもうほら、早く行っといで」
「はいっ!行くでありますっ!ヤマメ教官」
ユラユラと上機嫌に敬礼するキスメ。酔っ払いは何処までも楽しそうである。絡まれる方はうんざりした顔で手をヒラつかせているが。
「よっこい...あれぇ?えへへ、おかしいな。ほれっ...うん?どっこい、ふんっ!」
「あんた一人で何してんの?」
「....いやぁ、ちょっと待ってねぇ。ほいっ!あれ、えへへ...」
笑ってるはずのキスメの目に徐々に涙が溜まってきた。
「?」
「...ね、ねえヤマメ」
妙にしっかりとした口調に戻ったキスメはギギギと錆び付いたロボの様に首をヤマメの方へと向けて弱々しく呟いた。
「どうしよう。体が抜けない」
どうやらハイライトが消えたのはキスメの方だったらしい。
〇
「はあ?」
「いや、抜けないの」
「意味がわかんない」
何で分からないし。
「いや、だからさ。体がギッチリ嵌ってるせいで動かないの」
割とマジで動かない。気付いたら足先の感覚が無いとか全然笑えない。酔いだって冷めるわ。
「もうさ、帰っていい?」
「!?」
言うに事欠いて帰るとか言い出した。それが困っている友人に対する態度かコノヤロー。
「私は野郎じゃないし、ウザ絡みされてた上にわけわかんない事に巻き込まれたくないんだよね」
「ちょ、ちょっと待って。マジでこれヤバイ奴だからっ」
「じゃ!頑張れ!」
そう言ってヤマメは席を立ち、出口の方へと進んでいく。ここでヤマメに置いていかれると拙い。何が拙いって主に私のトイレ事情が拙い。
「待って待って!わ、分かった謝るからっゴメンって!だから御願いしますっわだじをだずげでえええええっ!!」
「あああっ五月蝿いっ!分かった、分かったから泣かないで一旦黙りなっ!!」
取り残される不安感に泣くとヤマメは戻ってきて私の涙と鼻水で汚い顔を拭ってくれた。
「私も疲れてんだから、さっさと解決して帰るよ」
「有り難うございますっ!ヤマメ愛してるっ!!」
「分かったから、まとわりつくな!」
やっぱり持つべきは親友だな。当の親友は嫌そうな顔しているけれども。
「さて、じゃあ抜くよ」
「う、うん」
ヤマメが胡座をかいて私の桶を固定。私が万歳して持ち上げてもらう形である。
「「せーーのっ」」
「ふんっ!」
「あああああああっ痛い痛い痛い痛いっ!!ちょっとタンマタンマ!」
これダメな奴だ。すんごい痛い。もうなんかこの世ならざる痛みを感じる。
「ちょっとくらい我慢我慢」
「痛い痛いっあかんあかんあかんっあかああああん!」
「じゃあどうするのさ 」
「ど、どうしましょうかね...」
息もたえだえである。
「因みに、後どれくらいならトイレ我慢できる?」
「分かんないけど...そんなに長くなさそう」
私の尊厳的な意味で残されたタイムリミットはそう長くない。私の膀胱がそう語っている。
「うーん。じゃあ、こうしようか」
「?」
「で、なんで私の所に来るわけ?」
「別の感情に気を取られてる間に無理矢理引っこ抜こう大作戦」
ヤマメの笑顔に頭を抑えるパルスィ。ヤマメが言うには嫉妬心を使って痛みを無視させようという事らしい。
いやぁ、やっぱり持つべきは賢い友人かも知れない。私は相談相手を誤ったのだ。
「下らない。ほらさっさとやるわよ」
何だかんだ言って手伝ってくれるらしい。お優しいものだ。
「おおっ、なんかゾクゾクする!」
私の体に緑色のオーラみたいなのが立ち上っている。何となくモヤモヤとした感情が喉元まで登ってきているのがわかる。これが嫉妬心なのだろうか。
「よし、じゃあせーので抜くよ」
「「せーーのっ」」
「ああああああああんんんんっ!痛い痛いっ!妬ましいし痛いしっ!何コレ何コレ!?新感覚だよっ!?とにかくいたああいっ!!」
ものの見事に頓挫。いや、まあ予想はしてたけども。痛い上に無性に羨ましくて妬ましくて、これは精神衛生上、全く良くないことだけが分かった。
「どうするのよこれ」
「そろそろ飽きた」
「うおいっ!」
今回の事で分かった。友達なんて無意味だ。
「キスメ、トイレはどう?」
「も、もう...キツイ....」
そう、私はもう一歩で悟りへ至る。いや、地霊殿のあれではなく。
最早、私の頭上からは小便小僧っぽい天使が三匹程、爆笑しながら私を指差しながら降りてきているのだ。
「ヤ、ヤマメ...最後にひ、一言」
「死ぬわけじゃあるまいし、大げさな」
「私が死んでも悲しまないで...」
「いや、悲しまないって。逆にこれで死んだら笑ってやるから安心しな」
ああ、神様。妖怪にも天国はあるのでしょうか。お母様、こんな詰まらない事で先立つ不幸をお許し下さい。お母様なんていないけど。
「おお、パルスィに...ヤマメとキスメ?何してんだ?」
「キスメが桶から抜け出せないんだって」
「へえ」
私の死体はどうして貰おう。ああ、そうだ。消毒も兼ねて地霊殿で焼いて貰おう。ちっちゃいから燃料にもならないけれどまあいいだろう。
「外に出られればいいのか?」
「ええ」
「何だ簡単じゃないか」
私が天へ祈りを捧げていると傍らに大きな影が立った。
「ちょいと失礼」
「えっ、何何、何するの」
勇儀は桶ごと私を横に倒して、左手で桶を固定した。
「ふんっ」
「おおう!?」
無造作に振り下ろされた勇儀の鉄拳が桶を粉砕。
「あっ?や、やったああああっトイレえええええ!!!」
晴れて私は自由の身となった。殴られると思って身構えた時にちょっと漏れたのは内緒。
今回、私が得た教訓は「持つべきは力」という事だ。少なくとも友人のピンチを笑う様な友人はいらない。
〇
「お前ら何してたんだ?」
後方で手を打つヤマメとパルスィに勇儀が振り向いた。
「いや、その発想はなかった」
「ええ、全く」
ニヤニヤと笑う二人。本当に桶の破壊を考えていなかったかどうかは二人にしか分からない事である。
「程々にしてやれよ、全く」
一本角の鬼が溜息を吐いたのはいつぶりの事であったろうか。
〇
「じゃーんっ!」
「あんたも懲りないね。それ何?」
「段ボールって言うんだよっ!これならいざと言う時にも自分で破って出られる、画期的な私の部屋!」
こうして暫くの間、地上と地底を結ぶ大穴には橙文字でミカンと書かれた段ボールに座り込む少女の妖怪が現れるようになったという。
雨の日の翌日、グズグズに壊れた段ボールを引き摺っている少女の姿を見た土蜘蛛はそれを豪快に笑いとばしたのだった。