新米提督苦労譚~艦娘たちに嫌われながらも元気に提督してます~   作:ぬえぬえ

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『人』としての行動

 営倉――――現在の刑務所でいうところの懲罰房だ。そこには、軍規を犯した者や敵に内通していた者、捕虜などを逃げられないよう閉じ込めておく場所。また、場合によっては内通者、捕虜から情報を聞き出すための拷問に使われることもある。

 

 営倉は軍事施設なら必ずあると言ってよく、この鎮守府も例外に漏れない。しかし、人間の軍隊と違って拷問等に用いられることはなく、主に軍規を犯した艦娘を一時的に隔離する場所と言う意味合いの方が強い。故に、軍独特の血なまぐさい匂いがしないのが唯一の救いだ、と感じた。

 

 そんな営倉へと続く階段を、俺は下りている。

 

 コンクリート製の階段を踏み締める毎にカツーンと言う乾いた音が鳴り、それは波紋のようにゆっくりと反響を繰り返す。壁にかかる電灯がか細い光を放つだけで、それ以外の光源が存在しない。罰を犯した者を収容する場所故、そこに温かみと言うものは一切感じなかった。

 

 不意に足元に違和感を覚えた。すぐに見下ろして目を凝らすと、靴と階段の間に血で汚れた布切れが挟まっていた。屈んでそれを摘まみ、じっくりと眺めてみる。まだ血が乾ききっていないのを見るに、つい先ほど引き剥がされて捨てられたものとみていいだろう。よく見ると、血で黒く染まった皮膚のようなものまでこびり付いている。傷口に構わず思いっきり掴んで、無理やり引き剥がしたのだろうか。

 

「おっと……」

 

 手の布きれ―――とある艦娘の応急処置に使ったそれに気を取られていて、脇に抱えるモノを取り落しそうになった。ここでこれを落とせば中身がぶちまけられて拾うのが面倒になる。その一心で何とか抱えなおし、そして人知れず安堵の息を漏らした。

 

 

 『持ってきてよかった』――――思わず漏れた息には、落とさずに済んだと言うことよりもその想いの方が強かったような気がする。まぁいいだろ、と気を取り直して再び階段を下り始める。

 

 

 何故、提督とあろう俺が営倉なんぞに向かっているのかと言われれば、そこに目的の人物がいるから、と答える。

 

 つい先程、上官である俺の命令を無視して単独行動を行い、味方の艦娘を砲撃して甚大な被害を引き起こした艦娘――――――曙に会いに来たのだ。

 

 階段がようやく終わり少々低い通路を通り抜けると、そこには無骨な鉄格子が壁に取り付けられた、営倉と言うよりは牢屋と言うべき空間が広がっていた。

 

 営倉は分厚いコンクリートの壁を挟んで2部屋に分かれており、どちらも頑丈な鉄格子と大きな錠前が取り付けられている。鉄格子の隙間から見える中は打ちっぱなしのコンクリートの床が広がっており、簡素なベッドと机、椅子、本棚、洗面台、その奥には個室トイレがあった。

 

 

 そんな冷たい牢屋の主は、簡素なベッドの上で頭から毛布を被って寝ころんでいた。心なしか、その身体が微か震えている。毛布の隙間から見える白かったであろうシーツはうっすらと赤みを帯びており、時折血だまりのような赤いシミが見受けられた。

 

 なによりも、毛布の隙間から微かに聞こえるすすり泣く声。本人は必死に堪えているのだろうが、それが止むことはない。そう確信が持てた。

 

 

「曙」

 

 静まり返る営倉で、その名を呼んだ。俺の声に震えていた毛布の塊がビクッと大きく動いてそのまま固まる。次の瞬間、その毛布は宙を舞っていた。

 

 

 

「潮は!? あの子は大丈夫なの!?」

 

 毛布がフワリと床に落ちた時、俺の目の前には鉄格子に食いつかんばかりに顔を近づけてそう吠える曙の姿があった。

 

 営倉行きを言い渡したときと同じボロボロのセーラー服のまま。その間から見える火傷の傷口からは血がにじみ、青アザが痛々しく刻まれた腕。その腕で鉄格子を掴み、今にも飛び掛かろうとしているのではないかと錯覚しそうなほど気迫のこもった視線を向けてきた。

 

「……命に別状はない。ただ、腕を再生させるには時間がかかるそうだ」

 

「今後の生活に支障は!? 不自由になるとかは無いのね!?」

 

「再生後に少しリハビリが必要らしいが、それが終わればいつもの生活に戻れる」

 

「……そう、そっか……」

 

 俺の言葉に、今にも飛び掛かる勢いだった曙の表情が緩む。彼女は小さく呟きながら鉄格子から手を離し、足元に落ちた毛布を掴んでベットに向けて歩を進める。

 

「…あけ――」

 

「帰って」

 

 その後ろ姿に思わず声を掛けようとしたが、それは抑揚のない彼女の言葉によって掻き消される。一切こちらを見ずにそう言い放った曙は何事もなかったかのようにベッドに戻り、再び毛布に包まった。

 

 

「あんたに話すことなんてない、帰って」

 

 またもや、こちらを見ずにそう言い放つ曙。その言葉に先ほどの弱弱しさはなくむしろ人を寄せ付けない刺々しさがあった。

 

 

「お前になくても、俺にはあるんだよ」

 

 その言葉にそう返しながら、俺はポケットから鍵を取り出した。それはここに来る前に大淀から拝借した営倉の鍵。それを、先ほど彼女が掴んでいた鉄格子の扉を施錠する錠前に突っ込む。

 

 カチリ、と言う音と共に錠前が外れ、キィーッと言う金属音を発しながら扉が開かれる。その音に曙は微かに反応するも、その顔がこちらに向けられることはない。明らかに歓迎されていないムードの中、鉄格子の向こう側に足を踏み入れる。

 

 

「入ってこないで」

 

 一歩、中に踏み入れた時に曙からそう声が飛んでくる。しかしそれに俺の足が止まるわけもなく、再びもう一歩、もう一歩と踏み出す。その一言以降曙が声を発することはなかったが、代わりに自身を包む毛布を掴む手に力が込められたのが見えた。

 

 カツカツ、と言う軽い音が営倉に響く。それを響かせながら俺は曙が寝ころぶベットの脇に近付き、そこに腰を下ろした。同時に、固い金属音と複数の物がぶつかる音が聞こえる。その音を聞いても、曙は振り返ることはなかった。

 

 

「……謝りに来たの?」

 

「……い―――」

 

「いいのよ、別に」

 

 俺が腰を落ち着けて一息ついたとき、曙が小さな声で問いかけてきた。その言葉にどう答えようか考えていたら、曙自身がその問いに答えを返してしまう。

 

 

「大方、あの時周りにいた艦娘たちの信頼を得ようとしたんでしょ? あたしが潮の言動を糾弾している辺りから艦娘たち、北上が呼んだ護衛部隊が集まっていたのに気付いたわ。あの時の場面だけ見れば、あたしが潮を罵っているようにしか見えなかったでしょうね。そして、そのままあたしがあの子を砲撃した。どこからどう見ても、悪者はあたしよね?」

 

 そうつらつらと語られる曙の声は抑揚のない平坦なものであった。しかし、先ほど俺に向けられた刺々しさの代わりに、自嘲を含んだ暗さがあった。

 

「あの場面であの子への応急処置して、そしてあたしを糾弾すればさぞ周りからの評価はうなぎ上りでしょうね? 大怪我を負った潮を助けて、そしてあの子を罵った挙句砲撃したあたしを罰したんだから。あんたの判断は正しいって、素晴らしい提督様が来てくれたって思われるでしょうね……成り上がるには最高の舞台だと思わない?」

 

 曙は最後に俺に問いかけてくる。その問い、いやそこに至るまでの間に、彼女の声色は自嘲から震え声へと変わっていた。そして、ここまで自身を蔑み、糾弾されること望んでいるのかと、自らが言った言葉を肯定してほしいのかと言う思いを感じ取れた。

 

 そうでなくては、彼女自身が納得できない、と言うように。

 

 

 

 

「思わねぇよ、んなこと」

 

 だからこそ、その言葉を否定した。それが、彼女の琴線に触れることだとを分かっていながらだ。

 

 

 

「……なんでよ」

 

 俺の言葉に、曙が呟く。先ほどと同じ震え声ではあるが、明らかに怒気が孕んでいるのが分かった。

 

「……そうなんでしょ? 自分を持ち上げるためにあたしを利用したんでしょ? だからあの時あたしを糾弾したんでしょ? そうでしょ!! 違うの!? そうだって言いなさいよ!! 認めなさいよ!!」

 

 曙の呟きが、叫び声へと変わっていく。いや、叫び声と言うか、悲鳴と言った方が正しいかもしれない。自らが納得した理由を否定され、それにより今まで堪っていたモノが溢れ出してきたのだろう。

 

「……取り敢えず―――」

 

「今更綺麗事を言いに来たの!? 言い訳を並べに来たの!? そんな言葉なんかいらない!! いいから早くかえ……」

 

 俺の言葉をかき消すように叫びながら曙は飛び起きて俺に掴みかかる。しかし、その勢いは俺の横に鎮座しているモノを目にすることで急速に弱まった。

 

 

 

 

「……救急箱?」

 

「ほら、とっとと患部を診せろ」

 

 傍らの救急箱を見つめながら小さな声で呟く曙、俺は掴みかかってきた彼女の腕を取る。

 

 先ほどの布きれを引き剥がした際に水ぶくれが破れたのか、傷口は赤い皮膚が見えていて血がにじんでいる箇所も見受けられる。青アザは前よりも青みが広がっている。そして、新たに切り傷や擦り傷が至る所に刻まれている。それらを確認して、傍らの救急箱を引き寄せる。

 

 まず、火傷部分を水分を含ませたガーゼで血を、それ以外を消毒液を含ませたガーゼで血や汚れを拭きとる。その後、火傷部分には水分の蒸発を防ぐ特殊なフィルムを優しく貼り付ける。次に切り傷や擦り傷には絆創膏を、青アザにはちょうどいい大きさに切った湿布を貼る。最後に包帯を使って全体を覆い、包帯が取れないようにテープで止めた。

 

 片腕の治療が終わったので今度はもう片方の腕を取り上げて、同じような処置を施す。その間、曙は呆けた顔のまま俺が進める治療を眺めていた。

 

 

「なんで……」

 

 片腕が終わり、次に両脚に処置を施している最中、曙が口を開いた。それに、俺は手を休めることなく耳を傾ける。

 

「なんで治療しているのよ……? こんな傷、ドックに入れば治るわよ……」

 

「そのドックに入れてやれないから、代わりに出来ることとして治療してるんだよ」

 

 曙の言葉に、俺は包帯を巻きながらそう返してやる。その言葉に曙はまたもや呆けた顔を向けてくるだけだった。まぁ、腕が吹き飛ぼうがドックに入ってしまえば治るんだ。彼女の傷ぐらい、どうってことないだろうよ。

 

 でも、俺は曙に一週間の営倉行きを命じた。その際、ドックに入ってからと言いたかったのだが、あいにく今は深海棲艦の襲撃により怪我人で溢れかえり、ドックもフル稼働している状態だ。そこに懲罰を受けた曙が優先的にドックに入れるとなると、少なからず他の艦娘から不満が出るかもしれない。それに曙に腕を吹き飛ばされた潮がドックに入っていることも考えると、あまり一緒にさせるのは良くないだろう。

 

 足の包帯を結び終え、取り敢えず一息つく。本来なら全ての傷を診たいのだが、見知らぬ男に体の隅々まで見られるのは嫌だろうから止めておいた。あとで大淀辺りに頼んでおくか。

 

「申し訳ないが、ドックが空くまでは応急処置(これ)で我慢してくれ。他の傷は大淀辺りに頼んでおくわ。んで、たぶん色々と貼ったから傷口周りが痒くなると思うが、あまり掻き毟るなよ。特に火傷の部分は絶対だ。服は後で雪風辺りに持ってこさせるとして……そんな汚れたシーツじゃ嫌だろ。毛布と一緒に新しいのを持ってくるわ。それと……」

 

「ねぇ……」

 

 救急箱を片付けながら次にすることを考えていると曙から声がかかる。先ほどの呆けた顔から、何故か不安げな顔に変わっていた。

 

 

「何で……あたしを営倉送りにしたの?」

 

「逆に聞くぞ。お前は今、他の奴らと一緒に居たいか?」

 

 俺の切り返しに、曙は俺から目を逸らして床を見る。その横顔に、ありありとした恐怖が浮かんでいるのを見逃さなかった。

 

「さっき、お前自身が言ったよな? 自分は周りから見たら潮を罵った上に砲撃した“悪役”だって。でも、何で潮が運ばれていった時、縋る様な目で俺を見た? か細い声で『クソ提督』って言いながら手を伸ばしてきた? あれ、誤って引き金を引いちまっただけで本当は撃つ気なんて更々なかったんだろ。それとも撃つつもりだったか?」

 

 俺の言葉に曙は弾けたように顔を上げ、すぐさまブンブンと首を横に振った。

 

「撃つ気が無かったのに誤って撃っちまった。でもそれが周りにどんな風に映ったかは、さっきお前が言った通りかもしれねぇ。そんな風に勘違いされた奴らと一緒に居れるか? どうせ、居た堪れなくなるのがオチだ。それに、あの時のお前の立ち位置も悪かったしな」

 

 その言葉に、曙は一瞬呆けた顔をして、すぐに理由が分からないと眉を潜めて首をかしげる。

 

「あの時、お前は俺の前に、潮からしたら俺を狙おうとするのを遮る様に立っていた。ここの艦娘だ、潮みたいに的確な指示を出せたのが深海棲艦と繋がっていた、なんてとんでもない発想に至る奴もいる。そういう偏見を持った奴の目から見たら、お前は潮から俺を守ろうとしているように見えただろうよ。するとどうだ? 偏見によってどんどん話が膨らんでいくのは目に見えてるだろ。たぶん、お前まで深海棲艦側の斥候だ!! なんて根も葉もない噂を流されるかもしれない。だから―――」

 

「少なくともクソ提督側ではない、って印象付けるためにわざと……?」

 

 俺の言葉が終わる前に、曙が問いかける様に声を漏らした。本当は『深海棲艦側ではない』って言おうとしたんだが……まぁいいや。

 

「まぁ、そんなところだ。本当ならもっといい方法があったと思うんだが、馬鹿だから咄嗟にこれしか思いつかなかった。それでお前をそこまで追い込んじまうとは……本当にすまないと思ってる」

 

 そう言って、曙に頭を下げる。彼女のことを助けようとしてやったことが、逆に自暴自棄に追い込んでしまうこととなった。新任とは言え一軍を預かる身として部下の気持ちをくみ取ることが出来なかったのは、単に俺の力不足による部分が大きい。上官……と言うか人として、至らない点で負担を掛けたことを謝るのは当然だろう。

 

 深海棲艦との戦闘を艦娘たちに依存している提督(おれ)からすれば、尚更のことだ。

 

「……あんたはそれでいいの? その話が本当だとしたら……」

 

「元々、俺への信頼なんて底辺みたいなもんだろ? 今更下がったところで変わらんさ。むしろ、曙の信頼が下がって深海棲艦との戦闘で支障が出る方が避けたい。それに――――」

 

 俺はそこで言葉を切って背筋を伸ばして曙に向き直り、その目を見据えた。突然態度が変わったことに、曙はキョトンとした顔になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪風を救ってくれて、本当にありがとう」

 

 そう言って、俺は先ほどよりも深く曙に頭を下げた。下げてから大体3秒ほど、曙からの反応がない。不思議に思って頭を上げると、今日一番の呆けた顔で固まっている曙。その顔に、思わず吹き出してしまった。

 

「な、なに笑ってるのよ!!」

 

「す、すまんすまん。曙が見たことない顔してたから……つい」

 

 そう言ったら、曙は不満げに頬を膨らませて横を向いてしまった。そんな子供っぽい姿に苦笑しながら、改めて表情を正して曙に向き直る。

 

「あの時、俺の足では絶対に間に合わなかった。仮に間に合ったとしても人間の俺だ、雪風を守り切ることはできなかった。最悪沈んでしまう可能性もあった。でも、あの場にお前がいて、砲撃してくれたことで雪風は被害を受けずに、まぁ仮に間に合っていたら確実に死んでいた俺も無事にここにいる。恩着せがましいかもしれないが、曙は雪風と俺の二人を救ってくれた。だから、本当に感謝している」

 

「べ、別に感謝されるようなことでも……」

 

 もう一度、深々と頭を下げる。すると、目の前にいるであろう曙から焦ったような声が聞こえ、それはブツブツと言う呟きに変わる。頭を上げると、そっぽを向きながら顔を赤くさせている曙の姿があった。

 

 

 

 

 

 その姿に、もう一度噴き出してしまったのは許してほしい。

 

「一度ならず二度も噴き出すとはどういうことよ!!」

 

「悪い……悪いって……」

 

「仲がよろしいようですねぇ」

 

「「いッ!?」」

 

 いきなり横から声がして俺と曙はその場で飛び上がる。すぐさま声の方を見ると、ニヤニヤと笑っている雪風が立っていた。

 

「おまっ!? いつの間に!!」

 

「しれぇの信頼が底辺だ……のところからです。しかし、しれぇがそんなにも雪風のことを想っていてくれたとは知りませんでしたよぉ~」

 

 俺の問いにそう応えながらニヤニヤとした顔を向けてくる雪風。めっちゃ前じゃん!! しかも一番こいつに聞かれたくなかったところをバッチリ聞いてるじゃねぇかぁ!! 

 

「てててて、てかあんたは何しに来たのよ!?」

 

「まぁまぁ曙さん、落ち着いてくださいよぉ。雪風はしれぇを探していたんですから」

 

 雪風の言葉に悶絶していた俺であったが、俺を探していたと言う彼女の発言に応えるために何とか気持ちを落ち着かせて雪風に目を向ける。

 

 ん? よく見たら何か持って…………鍋?

 

「先日、しれぇが作った『かれぇ』を雪風なりに作ってみました!! 味見をお願いします!!」

 

 そう言って、雪風は鍋を置くと何処からか食器を取り出して見せてくる。てか、『かれぇ』ってカレーのことか? 確かに雪風に作っているところを見られたが、まさかあれだけで作り方を覚えたわけじゃねぇよな。

 

 と言うか、何で雪風はわざわざ鍋を持ってきたんだ? 俺を探すのに鍋を持ち歩く必要はないし、ご丁寧に食器を3人分(・・・)も…………。

 

「おっと、雪風としたことがスプーンを忘れてしまいました!! しれぇ、大至急取ってきます!!」

 

「ちょっと待て! ちょうど雪風に頼もうとしていた所だ。スプーンのついででいいから曙の部屋に行って服を持ってきてくれ」

 

「そんなのお安い御用ですよ!! では、しれぇはシーツと毛布ですか?」

 

「…………ああ、そんなところだ。何処にあるか分かるか?」

 

「ドックの横に新しいシーツと毛布が置いてある部屋があります。そこに行けばもらえますよ!!」

 

「ドック横だな、分かった。曙、悪いが少し待っていてくれ」

 

「え、あ、わ、分かった!」

 

 突然振られて驚きのあまり言葉足らずになる曙を置いて、俺と雪風は営倉を後にする。階段を上りきって廊下に出た時、俺は雪風に問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、本当はもっと前から居たんじゃねぇ?」

 

「さぁ? どうでしょうねぇ?」

 

 俺の問いに、雪風はイタズラっぽい笑みを浮かべてそう答えた。


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