新米提督苦労譚~艦娘たちに嫌われながらも元気に提督してます~   作:ぬえぬえ

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待ち構える者

 最初に深海棲艦が現れたのは、今から4年前だ。

 

 その年、人類は突如として襲ってきた深海棲艦に対処すべく前線基地である鎮守府を建て、最新鋭の兵器を配備して奴等の侵攻に対抗した。しかし軍は深海棲艦に大敗、全ての制海権を奪われ、更には陸の侵攻をも許した。

 

 兵器が充実しているこの時代に何故ここまで壊滅的な大敗を喫したか、最新鋭の兵器を配備した軍は何をやっていたのか、と言われるかもしれない。が、奴等に人類の兵器が一切効かなかったのだ。こればかりは許してほしい。

 

 まぁ、そんなわけで人類は一時、滅亡の危機に陥った。しかし、突然うちの国のとある鎮守府から深海棲艦撃滅という報が軍部に伝わった。

 

 

 一人の少女が何処からともなく砲門を具現化し、最新鋭の兵器で傷一つ付かなかった深海棲艦を撃滅した、と。

 

 当時の軍部はこの報を戦意向上のデマだと処理したが、それから次々と砲門を具現化した少女たちによる深海棲艦撃滅の報が至るところから上がり始める。これら全てをデマと処理していた軍部も、深海棲艦を撃滅したとされる少女が面会を求めてきたことによって、それを認識することとなった。

 

 軍部を訪れた少女は自身を太平洋戦争で沈没した戦艦の生まれ代わりであると発言。その発言に難色を示した軍部であったが、彼女が具現化した砲門が生まれ変わりだと称した戦艦に搭載されていた砲門そのものであったことによって、否が応でも認めざるを得なくなったとか。

 

 少女の出生を調べると、深海棲艦に襲われるまでは何のへんてつもないただの少女であったが、彼女の街が襲われた際に突然砲門を具現化してこれを撃破。戦闘後から彼女は人が変わったように言動や振る舞いが古風化、自身を戦艦だと言うようになったのだとか。その後、彼女は周りの反対を振り切って鎮守府へ戦闘員として志願し、襲ってきた深海棲艦を撃破、更には陸に駐屯していた敵を撃滅してしまったのだ。

 

 兵士のような振る舞いと気迫、そして深海棲艦を撃滅する火砲と戦闘力を持つ少女たち。軍部は、深海棲艦を退けるには彼女たちの力を使うしかないと言う意見に満場一致し、彼女たちに協力を仰いだ。

 

 その後、軍部は彼女たちを戦艦の生まれ変わりの娘―――――艦娘と名付け、深海棲艦との戦闘における主力として各鎮守府に配備、その侵攻に備えた。また、艦娘の素質を持つ少女たちを厚待遇で召集し、戦力強化に心血を注ぐこととなる。

 

 

「っと、それから4年も過ぎたんだよな……」

 

 一人しか客がいないバスの中、そんなぼやきをこぼしながら艦娘の戦果がデカデカと載せられた雑誌を閉じた。

 

 俺は今、配属された鎮守府へと向かっている。

 

 上官から配属通知を受け取ったその日。部屋に押し寄せた憲兵から即刻配属される鎮守府へと移動せよとの旨を受け、そのまま吐き出されるように寮を追い出されたのは記憶に新しい。

 

 寮を追い出された俺は最低限の荷物を持ってそのまま軍が用意したホテルに一泊、今こうして鎮守府へと向かっているわけだ。因みに、手持ちで持っていけないものは宅配で送ってくれるとのこと。

 

 とまぁ、割と長い時間の暇潰しに購入した雑誌を読んだのが、殆ど学校で教えられた事ばかりだから暇潰しにもならなかったな。戦果報告も、侵攻してきた敵艦隊を撃滅したって記事ばかりで、制海権を奪い返したって言うのは何処にもない。

 

 まぁ、奪ったところですぐさま奪い返されるのが関の山と言うものか。と言うのも、深海棲艦はその強さは去ることながら、もっとも驚異なのはその物量にあるからだ。

 

 全ての源である海を支配するんだ。海には人類が手を付けていない豊富な地下資源を有しているのは明白。それを使い放題なのだから、あちら側が圧倒的物量を誇るのは想像するに易い。やろうと思えば、奴らはいつでも人類を滅ぼせる、と言うのは分かり切っている。

 

 では、何故深海棲艦が大挙として襲ってこないのかと言えば、数年前に艦娘という天敵が突如出現したためだ。

 

 突如現れ、多くの仲間が彼女たちによって撃破されたのだ。あちらも慎重にならざるをえないのであろう。無駄に侵攻したら彼女たちに返り討ちに遭う、最悪捕まりでもしたら俺たちによって研究されてしまう恐れもある。深海棲艦がどんな弱点を有しているかは知らんが、それが俺達に知られたらあちら側としては致命的だろうな。

 

 まぁ、人類もやつらにとって脅威みたいに言っているけど、実際は艦娘さえいなけりゃ今ごろ人類は全滅していると言っても過言じゃねぇけど。

 

「お客さん、着きましたぜ」

 

 そんなことを考えている間に、目的地に着いた。結局、雑誌の内容を思案している内に時間を潰してしまった。暇潰しになったお礼に購読でもしてやろうかな。

 

「ありがと」

 

「あいよ」

 

 運転手に料金を渡してお礼を告げると、運転手は被っていた帽子を胸に当てて頭を下げてきた。昔、紳士のお礼の仕方だって何かで見たな。

 

 まぁ、帽子の下に隠れていたサバンナが御開帳されて雰囲気も全部ぶっ壊しだったけどよ。

 

 俺を下ろしたバスは茶色い煙を上げながら走り去っていく。それを見送りながら、上官から投げつけられた地図を広げて現在位置を確認した。

 

 今いるのは、配属された鎮守府から数㎞程離れた丘だ。ここから海沿いに山道を下っていくと鎮守府に1番近い街があって、その先に目的の鎮守府があるみたいだな。

 

 時間は午後3時を回っている。この分なら、今日は鎮守府に着いて軽く挨拶回りをして終わりそうか。

 

 とにかく、善は急げだ。左遷に近い着任だし、赤字で書かれたあの文の真相を知るのも早いに越したことはない。

 

 そう思い、荷物を肩にかけて気持ち早足で山道へと足を踏み入れた。

 

 

◇◇◇

 

 

 

「旗艦吹雪、及び第3艦隊、無事帰投しました」

 

 資料の山の隙間から見える場所で、自身を吹雪と名乗るセーラー服に身を包んだ中学生ぐらいの少女が軍人顔負けの綺麗な動作で敬礼した。

 

 それを敬礼を返し、戦果の報告を促す。

 

「第3艦隊はバシー沖海域で発見した補給艦3隻を含む敵艦隊と交戦、これを全て撃沈しました。被害は敵護衛艦の砲撃により、駆逐艦曙が中破、並びに潮が小破。他の艦は多少の損傷を受けるも大事には至らず、です。補給艦から奪取した資材は、鈴谷によって倉庫に運び込まれております」

 

 まずまずの戦果、と言ったところか。しかし、資材が枯渇気味のうちにとっては補給艦の物資を手に入れたことは大きい。

 

 取り敢えず、損傷の激しい者をドックに、そうでない者は応急措置を受けてそのまま補給に行くよう指示を出した。

 

「はっ。では、失礼します」

 

 そう言って再び敬礼をして出ていく吹雪を敬礼で見送る。彼女が出ていくのを確認してから、思わず溜め息をこぼして椅子に座った。

 

「少しは休んだらどうですか?」

 

 座ったとき、そんな声と共に横から湯気を上げるティーカップが差し出される。声の方を見ると、先程とまた違ったセーラー服に身を包み、利発的な眼鏡をかける高校生ぐらいの少女が心配そうな表情を向けていた。

 

 それに大丈夫だ、と言いながら差し出されたティーカップを傾ける。

 

 最初は紅茶の入れかたさえも分からなかった彼女が、今では誰もが旨いと言わせるほどの腕前になってくれてうれしいことだ。まぁ、しつこく美味しい紅茶が飲みたいとせがんだおかげかもしれない。

 

「まぁ、貴女が大丈夫と言うのであれば止めはしません。でも、こちらに関してはそうも言ってられないですよ 」

 

 諦めたような口ぶりの彼女であったが、すぐさま目つきを鋭くさせて分厚い茶封筒を差し出してきた。

 

 差出人は大本営。またいつもの招集命令か、と思いながら茶封筒を開ける。中には写真が貼り付けられた履歴書と、当鎮守府に新たな提督が着任するという報告書が入っていた。

 

 それを見た瞬間思わず立ち上がってしまい、その拍子に資料の山を崩してしまった。辺り一面に資料が飛び散るも、そんなことなど眼中にない。

 

「……また、やるんですか?」

 

 飛び散った資料をかき集めながら、少女―――――――大淀は悲しげな目を向けてくる。その視線を真っ正面から受け止め、にっこりと笑顔を返す。そして、履歴書に貼られている写真を剥がし、そこに写っている男をじっくりと眺める。

 

 

「もちろんデース」

 

 不意に自らの口から言葉が漏れ、それと同時に写真をグシャリと躊躇なく握り潰した。

 

 

「彼には、早々に退場してもらいマース」


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