新米提督苦労譚~艦娘たちに嫌われながらも元気に提督してます~   作:ぬえぬえ

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不安の始まり

「……歓迎しているのか?」

 

「ハイ、もちろんデース」

 

 俺の問いに金剛は朗らかな笑顔で返すも、砲門はしっかり俺に向けたままだ。いや、明らかに歓迎してないだろ。

 

「あいさつ代わりに砲撃とは、随分過激な歓迎方法だこと」

 

「それはテートクが紛らわしかっただけデース」

 

 正論過ぎて何も言えないぜ。まぁ、今まで提督が居なかった鎮守府に見知らぬ男が歩き回っていたら不審にもなるか。

 

 それに、問題ありと聞いていたんだ。これもまた許容範囲と言うものだ。

 

「まぁいい。じゃあ、今後ともよろしく頼む」

 

 そう言いながら手を差し出す。先程の少女のことも考えてこちらから友好的に接しない方がいいかもしれないけど今後世話になってくるんだし、そんなことも言ってられなくなるなら早めに打ち解けた方がいい。

 

「では、部屋に案内しマース」

 

 しかし、金剛は俺が差し出した手を見向きもせずにくるりと背を向け、先に執務室を出ていってしまった。

 

 無視デスカ。スガスガシクテ逆二怒ル気モ失セマシタヨ……。

 

 一人残された俺は差し出した手を引っ込め、熱くなる目頭を押さえて彼女の後を追った。

 

 振り向きもしない金剛の1歩後ろ。その距離を保ちながら黙って後を追う中、様々な艦娘たちを目にした。

 

 入った当初も何人か見たが、その時よりも人数が増えているな。不審者が現れたって騒いでたし、それを聞き付けて集まったってのが妥当か。

 

 にしても、学生服っぽいのから女性用海兵服、OLような制服、割烹着、海軍のお偉いさんが着ているような服、弓道の道着に胴当て、某時空警察っぽい戦闘員服、本当にいろんな艦娘たちがいるんだな。

 

 まぁ、彼女達が向ける目に友好的な雰囲気はないのが玉にキズか。多分失踪する原因はここに配属する艦娘たちの提督に対する態度かもな。

 

 鎮守府の問題点を垣間見ていると前方の金剛が立ち止まり、こちらを振り向きながら横の扉を指差した。

 

「ここがテートクの部屋デース。必要なモノや本部からの荷物は昨日のうちに届いてるので、確認お願いしマース」

 

「おっ、ちょ、待って!!」

 

 金剛はそれだけ言うとさっさと帰ろうとする。それに思わず引き留めると、明らかに嫌そうな顔をこちらに向けてきた。少しは隠そうとしろよ。

 

「こ、ここの説明とかそう言うのは無いのか? 何分、初めてで左も右も分からないんだが……」

 

「その資料も中にありマスので読んでくださいネ。では、ワタシは用があるので失礼しマース」

 

 俺の問いに金剛はそれだけ言うと俺の手を振り払って行ってしまった。冷たすぎやしませんか? 軽く泣きそうなんだけど……。

 

 ……まぁいいや、新任で頼りにならないって思われているのは事実だし。取り敢えず今日は出来ることをやるだけやっておこう。

 

 そんな風に自らを落ち着けながら、俺は自室のドアを開けた。

 

 その瞬間、俺の身体は一人でに部屋に走り込んでいた。

 

 

「んだよこれ!!」

 

 部屋に入った俺は真っ先に中央へと走って座り込んだ。

 

 

 その前には泥や土、木葉などでぐちゃぐちゃになった茶色い塊――――俺が本部に届けさせた荷物が散在していたからだ。

 

 近くにあった本を手に取り汚れを落とすも、中のページまで泥水が染み込んでいて使い物にならない。俺が持ってきた本全てがそんな状態だ。

 

 本を放り出し側にあった茶色い塊――衣類が入っている鞄を開けると、そこには大量の泥が詰まっていた。しかも、ご丁寧に下着に至るまで泥を塗り付けてある。

 

 鞄の表面や本の表紙に靴底の跡痕が残っているのを見るに、人為的にやられたものと見て間違いないだろう。

 

「っ!! 金剛!!」

 

 俺は真っ先に頭に浮かんだ人物の名前を叫びながら荷物を引っ付かんで外に飛び出す。

 

 

 

「待てよ」

 

 しかし、出ていこうとした扉には二人の艦娘が立ち塞がっていた。

 

「誰だ」

 

「天龍型軽巡洋艦、一番艦の天龍」

 

「同じく、二番艦の龍田でーすぅ」

 

 自分なりに低い声で脅すように問い掛けたが、天龍はびくともせずに冷たい目を向けてくる。傍らの龍田は笑顔を浮かべているものの、その目は笑っていなかった。

 

「退いてくれないか?」

 

「今から金剛の所に行くなら尚更退けねぇな」

 

「はぁ?」

 

 天龍の目が冷めたものから刃物のような鋭いものに変わる。なんだ。俺の荷物があんな状態にしてあるのに、提督代理のアイツが気付かないハズないだろ。

 

 平然と案内してた辺り、アイツも一枚噛んでいるのは分かってんだよ。

 

「提督命令だ、そこを退いてくれ」

 

「俺らはあんたを提督なんぞと思っちゃいねぇ。だから、その懇願(・・)を受ける気はねぇ」

 

 命令って言ったハズだが。提督と思っていないヤツに従う義理は無いってか。

 

「お前がそう思わなくても、俺がお前の上司であることは事実だ。従ってもら――」

 

「てーとくぅ」

 

 俺の言葉は、龍田の甘ったるい声によって掻き消された。いや、正確には目の前に鋏の刃が掠めたからだ。

 

「あんまり我が儘言ってると、その舌切り落としますよぉ?」

 

 先程の笑顔から考えられないほど冷えきった表情の龍田が低い声で囁いてきた。その低さに、口からこぼれる息が白く見えたのは見間違いだと思いたい。

 

「……ね?」

 

 最後にそう言い残した龍田は壁に突き刺さる鋏を更に捩じ込みながら笑顔を向けてくる。先程の表情からコロッと変えれる辺り、慣れている。

 

 だが、

 

「……我が儘言ってるのはどっちだ? もう一度言う、そこを退け」

 

 壁に突き刺さる鋏を掴みながらそう凄む。伊達に軍学校で叩き上げられた訳じゃねぇ。その手(・・・)の脅しには慣れてんだよ。

 

「っ!? てめぇ龍田を――――」

 

「やめるんだ」

 

 俺の言葉に激昂した天龍が胸ぐらを掴んでくるが、その後ろから鋭い声が飛んできた。

 

 天龍は胸ぐらを掴みながらゆっくりと振り返る。そこには、白いベレー帽を深々と被った白髪の駆逐艦が立っていた。

 

「響、何のようだ?」

 

 天龍は舌打ちをしながら響に問う。天龍の向ける剣幕に同じ年頃の子なら泣いてそうだが、響は臆することなく無言のまま俺たちの元に近付き、一枚の写真を見せてきた。

 

 響が見せた写真には、天龍と龍田、そして名前が分からない駆逐艦らしき少女が俺の鞄に泥水をぶっかけている姿が写されていた。

 

「響っ!!」

 

「これをやったのは天龍たちだ。金剛は関係ないよ」

 

 天龍が写真を奪おうと手を伸ばすも、響はスルリと避ける。そのまま彼女は俺の手に写真を握らせると、風のように去っていった。

 

「……で、これをお前らがやったと言う証拠だが?」

 

「行くぞ、龍田」

 

 俺が写真を見せながら再度問おうとするが、それよりも前に天龍が俺の胸ぐらを離し、背を向け歩き始める。それを追おうとするも鋏を向けてくる龍田によって防がれてしまう。

 

 そのまま、二人は廊下の向こうに消えてしまった。消えた瞬間、安堵にも似た溜め息がこぼれたのは言うまでもない。

 

 

 ……なかなか壮絶な対応だったこと。これを着任初日にやられたら、そりゃ逃げ出したくなるわけか。上が左遷場所として選ぶのも頷けるな。

 

 取り敢えず、この事は上に報告しとこう。ついでに、とんでもない場所に飛ばしたってことで融通の利くよう揺さぶりかけておくのもいいな。

 

 そんなことを考えながら部屋のベッドに腰を落ち着ける。しかし、次の瞬間身体の力が一気に抜けてベッドに倒れ込んでしまう。

 

 流石に疲れが溜まってたか? 少し寝てから飯食う………………かぁ……………。

 

 なんて思案する暇もなく、俺の意識は深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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