新米提督苦労譚~艦娘たちに嫌われながらも元気に提督してます~   作:ぬえぬえ

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棚に上げた『汚れ』

 私たちはいつも一緒だった。

 

 いや、正確には一緒にさせられたと言った方が正しい。潜水艦は他の艦娘と一線を画す少々特別な艦娘であったからだろう。

 

 

 少ない燃料、弾薬で出撃が可能、傷付いても入渠時間がすこぶる短く、戦艦などの大型艦種からの攻撃を受けないなどの優位性。反面、対潜装備をこしらえた敵に対しては駆逐艦だろうが容赦なく大破させられる装甲、耐久の致命的な低さ、潜航ゆえに海面より上の状況を把握することが難しく、把握するにはわざわざ海面へと浮上し、飛行甲板を展開、発艦と言う手間がかかるため浮上した際に敵と遭遇しようものなら海の藻屑となる危険性が高い、などの欠点がある。しかし、それを差し引いても十分な強みと言えるだろう。

 

 

 その特別扱いは、私に『伊号第一六八潜水艦』 の適性があると判明した時から始まっていた。審査前に与えられた部屋から一回りも大きな部屋に変えられ、全艦娘対象の基礎訓練の他に潜水艦専用の訓練日程を与えられ、更には潜水艦専用のドックも与えられた。その中で特に印象深いと言うかインパクトが大きかったのは、修復液が作用する特殊な生地で作られたスクール水着だ。まぁ、そのインパクトと言うのは屈強な軍人がそれを手にしてやってきた光景だったが。

 

 ともかく、私はそんな待遇を受けながら訓練に入った。しかも潜水艦の適性を持つ人間は珍しく、その日は私以外に同じ部屋になる人はいなかった。そのためしばらくは私一人でこの大きな部屋を使うことになり、一人では余りある部屋に物寂しさを感じていた。

 

 

 暫くした時、初めて同居人が現れた。

 

 

 

「初めまして、伊号第八潜水艦です。えっと……長いんで『ハチ』って呼んでください」

 

 

 呑気な声色でそう自己紹介したのは、パンパンに膨れ上がったリュックを背負いつつ両脇に取り落しそうなほどの本を抱えたハチだった。そんなファーストコンタクトにただただ唖然とした私は悪くない。もっと言えば彼女が背負っていたリュックの中も沢山の本だったから、もっと言えば鎮守府に配属される時もまんま同じ格好だったのだから。

 

 そんなとてつもないファーストコンタクトではあったが、彼女とは普通に打ち解けた。多分、ハチも私以外に同居人が居なかったせいだとは思うが、それでも日々あったことや思ったこと、楽しかったことを誰かに話せることはとてもとても楽しかった。無類の読書家であるハチは私が知らないことをたくさん知っていて、それが話の種になったのも大きいだろう。

 

 ハチが来たおかげで殺風景だった部屋に現れた大きな本棚、それに入りきらない本たちの山が鎮座し、少しだけ当初感じていた物寂しさが幾分か薄れた。

 

 

 そして、それもすぐに何処かへ消え去った。

 

 

「伊号第十九潜水艦、イクなのー!!」

 

「伊号第五十八潜水艦、ゴーヤでち」

 

 

 二人の声が響いたのはハチがやって来て数日後、それも同時に、更に二人とも大量の私物を抱えて。イクはシャンプーに始まり乳液、ハンドクリーム、剃刀などの化粧品関係を大量に、対してゴーヤは特筆すべきものは無い代わりにその量が多い。本人に聞くと日課のトレーニング用に多めに持ってきたそうで、それを聞いたときにトレーニングに誘われたが丁重に断ったが。

 

 そんなこんなでここ数日の間に同居人が一気に三人になり、部屋は彼女たちのベッドや私物で埋め尽くされた。あれだけ殺風景だと嘆いていた部屋が一気に狭く、そして騒がしくなったのだ。

 

 

 だが、同じ空間に人が、それも一気に増えればそれだけ色々とゴタゴタするわけで、時には本をしまえだの、使用済みの化粧品を捨てろだの、洗濯物の生乾き臭で部屋が臭いだの、不平不満はいつもの事。時には怒号が飛び交う始末、いざこざで教官にこっぴどく絞られもした。

 

 

 その日々に私の胸は満たされていた。人が増え、音が増え、物が増え、問題やいざこざ、時には顔も見たくないと思う日も増えた。なのに、満たされていた。

 

 それは朝目を覚ました時、今まで聞こえなかった三つの寝息、そして目に映るこれでもかと散乱する私ではないモノの数々。それを見る度に私ではない誰かの存在を確認し、そして自分だけしかいなかった頃の光景を思い出し、誰かが近くに居ることがどれほど心強いか、どれほど心地よいかを感じることが出来るからだ。

 

 

 

 それを直に感じることが出来るようになったのは、とある日の深夜だ。

 

 

 

「……その、トイレ行きたいでち」

 

「……へっ?」

 

 

 そう言って恥ずかしそうに顔を背けたのは、うっすらとした月明りに照らされたゴーヤであった。寝起きの頭で理解できない私に、ゴーヤは早口になりながら話し始めた。

 

 

 何でも、彼女は夜が、と言うか暗いところ全般が苦手らしい。志願する前から苦手ではあるもそこまで酷くはなかったのが、訓練が進むにつれてどんどん苦手になっていったようで、その時は誰かについていってもらわないと動けないほどにまでなっていた。

 

 それが露見しない様に寝る前に必ずトイレに行き、仮に夜中に行きたくなっても我慢していたようだが、その日は我慢も出来ないほど限界だったらしく、イクやハチたちに知られるよりは良いと、恥を忍んで声をかけたのだとか。

 

 

 しかし、その計画は次の瞬間足元から崩れ去った。

 

 

「……なーに、コソコソ喋ってるのねぇ?」

 

 

 私たち潜水艦が使っているのは二段ベッド、そして私は下のベッドを使っている。大きな音を立てずに動けると思ったから、ゴーヤは私を起こしたのだろう。しかし二段ベッド故に上の段も、そこで寝ている子もいるわけで。そんな間延びした声が上の段から聞こえた。私たちは一斉に上を見ると、意地悪な笑みを浮かべたイクが手を振っていたのだ。

 

 

 そう、イクが起きていた。起きていたでは飽き足らず、ゴーヤが私を起こしトイレについてきて欲しいと言ったことまでもバッチリ聞いていたのだ。

 

 

 その後すったもんだの末に静かに寝ていたハチも叩き起こし、結局4人でトイレに行くことになった。それも『手を繋いで』だ。

 

 それを提案したのは、勿論イク。その理由は『暗闇でも怖くない様に、そして傍に誰かが居ることが分かるように』だ。その提案に案の定ゴーヤは猛反発した。自分が夜にトイレに行くのが怖いから他の三人を起こし、更に道中手を繋いで伴わせた、ということになるからだろう。だがノリと勢いで突き進むイクに気圧され、とどめにどうあがいてもその事実は消えないと指摘されたことで折れた。多分、私やハチも乗り気だった手前、断りづらかったのもあるだろう。

 

 因みに私が乗り気だったのは、イクが挙げた『傍に誰かが居ることが分かるように』と言う理由に惹かれたからだ。

 

 私たち潜水艦は海の中を進む。それも敵に発見されなために海中深く、光が差さないところまで潜ることが多い。そのため視界は薄暗く、水温も低く、何より誰かが傍に居ることを知る術が圧倒的に少ない。勿論、戦闘に置いてそれは必要ないが、一人しか居ない時に味わった寂しさと三人がやって来てから改めて思い知った人肌の恋しさを知った私にとって、出来れば払拭したいと常々思っていた。

 

 

 だから、誰かが傍に居ると、その温もりを感じることが出来るそれを気に入ったのだ。

 

 

 その出来事から、私たちは日々の中で手を繋ぐことが多くなった。それは一種のスキンシップであり、互いに互いを認識する上での重要なツールだ。その発端でありダシにされたゴーヤはあまり好きではないようだが、私やイクが手を差し出せば渋々といった感じで繋いでくれる、ハチは言わずもがなだ。

 

 

 そんな日々は続いた。訓練も佳境に入り内容がハードになった時も、喧嘩の決着が第三者からの両成敗であった時も、訓練を終えて正式な艦娘となり配属先を言い渡されるその瞬間も、配属先で提督と初めて顔を会わせた時も、それから始まる地獄の日々も。辛いときは必ず手を繋ぎ、傍に居ることを確かめ、心の支えとした。

 

 

 

 

 

 あの日までは。

 

 

 

 

「出撃早々爆雷を避け切れず中破、そこから指揮が混乱し他も中大破させた、と……お前の目は節穴か?」

 

 

 あの日―――――それは私たちがここに配属されて間もない頃、出撃にて旗艦中破からの随伴艦に中破と大破が一隻ずつという被害をもたらした時だ。報告書を読み上げた司令官はそれから視線を外し、刃物のように鋭くさせてその日の旗艦を―――――私を睨み付けた。

 

 

 対して、私はちょうど立ち上がるところだった。何故立ち上がる必要があるか、それは報告書を見せた際に無言で殴られたからだ。

 

 今とは違い、当時の出撃前と出撃後は艦隊全員が執務室に召集され、前者では目標の確認を、後者は達成具合に応じて処罰を受ける、または言い渡される時間である。なので報告書を渡した瞬間に殴られることは多々あり、酷いときは此処で散々殴られた後に伽を言い渡されることもあった。

 

 そしてそれは旗艦に限らず、召集された随伴艦たちにも及ぶ。故にイクやハチ、ゴーヤも頬が赤い。特にハチとゴーヤは頬以外にも軽くはない外傷があり、彼女たちこそが中大破した随伴艦だ。でも、彼女たちが殴られる云われはない。何せ私が中破したせいで混乱した艦隊をまとめ上げ、己が傷つきながらも中破した私とイクを引き連れて撤退したからだ。もし、彼女たちが居なければ私は轟沈していたのかもしれない。

 

 だから、今回の件は全て私の責任だ。私が中破さえしなければ、ハチもゴーヤも傷付かず、こうして司令官から叱責を受けることも無かった。

 

 

「さて、お前の処遇だが……」

 

 

 そう、司令官が溢した。その瞬間、全身に寒気が走る。空気が凍り付き、それを一呼吸取り込むごとに体温がガクッと落ちる。私の口から漏れる息が白く染まり、やがてその形のまま凍り付いて足元に落ちた。勿論、それは私の幻覚だ。だが、今まさに目の前にそれが広がる程『恐怖』に支配された。

 

 

 処遇―――それは伽だ。そして、私はそれを経験したことは無い。むしろ、潜水艦隊の誰一人としてそれを経験した者はいない。だが、それが苦痛を伴うモノだと言うことは分かる。それは、伽を行った人を嫌と言うほど見たからだ。

 

 金剛さん、加賀さん、榛名さん、長門さん、龍田さん、そして潮など、目にした人は数知れず。その殆どは服が乱れ、露わになった肌には青アザや傷、血、酷いときは脱がされた上着で胸元を隠しただけの姿で歩いている姿もあった。そして何より、そんな恰好で歩く彼女たちの顔に感情が無かったのだ。

 

 ある人は放心、ある人は感情を押し殺している、ある人は何を考えているか分からない。憤怒があっただろう、嫌悪も、憎悪も、恐怖もあっただろう。だけど、伽を終えた人たちは感情を表に出すことは無い。いや、表に出す余裕が無いのだ。それほどまでに、伽が過酷であると言うことだ。

 

 

 それを幾度となく見た、伽を経験したことのない艦娘()たち。経験が無い故に内容を知らず、結果のみを見せつけられた私たち。その頭にある『伽』と言う言葉、そこに植え付けられた恐怖は尋常ではない筈だ。

 

 

 だからこそ、そんな幻覚を見た。だからこそ、その場にいる誰もが恐怖した。

 

 

 だからこそ、次に聞こえたその声に耳を疑った。

 

 

 

 

 

イク(・・)、俺の部屋に来い」

 

 

 

 その言葉に、全員の視線がその言葉を吐き出した人物に集まった。全員が耳を疑い、全員が顔に驚愕を浮かべ、全員がその言葉を理解するまで時間がかかった。

 

 

 

 

 

 

「ひっ」

 

 

 只一人、名前を呼ばれたイクだけが小さな悲鳴を上げ、その場に座り込んだ。

 

 

 

「待つでち!!」

 

 

 そう怒号を上げたのは中破したゴーヤだ。いち早く我に返った彼女は表情を驚愕から憤怒に変え、司令官とイクの間に立ち塞がったのだ。だが彼は一切動じることなくただただ冷ややかな目を彼女たちに向け、そしてゆっくりと近づき始める。

 

 

「どけ」

 

「理由を!! イクがお前の部屋に行かなきゃいけない理由を教えるでち!!」

 

 

 司令官の言葉に、イクは身体を震わせながら後退るも、その前に立つゴーヤは一歩も引かない。憤怒を露わにし、今にも殴り掛からんと身構えながら噛み付くように吠えた。その言葉に、無表情だった彼の口許が不気味に吊り上がる。

 

 

「お前とハチは中大破しながらも艦隊を撤退させた。だが、その時イク(こいつ)は何をしていた? 周りが傷つく中何もせずにただ守られて、一人だけ無傷でおめおめと帰ってきた。もし、イクが動いていれば被害を抑えられたかもしれない、お前らではなくイクが先導すればお前ら二人は傷付かなくて済んだかもしれない……怠慢ではないか?」

 

 

 司令官が挙げた理由。いや、理由なんてモノじゃない。それはただの屁理屈、こじつけ、当て付け、彼の主観の中だけしか成立しない強引な理論に基づいてねじ曲げられたモノだ。彼以外がそれを肯定することはない、誰もがそれを間違いとし、それを他人に押し付けることを糾弾するだろう。

 

 しかし、鎮守府(ここ)ではそれがまかり通ってしまう。彼はここの絶対的支配者であり、誰一人として逆らえる人はいない。深海棲艦を撃滅しうる火砲を持ってしても、この男には逆らえないのだ。それは、彼が私たちをねじ伏せるほどの力を持ってるわけではない。

 

 

 

 

「嫌なら『連帯責任』だ」

 

 

 ただ一言、その一言を発するだけで、私たちは従わざるをえない。正確に言えば、それを聞いた一部の艦娘が周りを言い含めるのだ。

 

 

 

「い、イクが行く、から……そ、それだけは……」

 

 

 その一部になってしまったイクが声を上げ、震える手でゴーヤの服を掴む。それにゴーヤは後ろを振り向き、そして更に憤怒を募らせた顔を前に向け、踏み出そうとした。

 

 

 

「イクがぁ!! 行くのぉ!!」

 

 

 それを先程よりも大きな、悲鳴に近い怒号をイクが上げる。その悲鳴にゴーヤの身体が止まり、その顔が再びイクに向き直り、その口が大きく開け放たれる―――――前。

 

 

 

「上官を『お前』呼ばわりした罰だ」

 

 

 その一言と共に進み出てきた司令官がゴーヤを殴り飛ばしたのだ。彼女の身体は引っ張られるように吹き飛び、勢いよく壁に激突した。その瞬間、小さな息が漏れ、ほんの少しだけ血が滴る。そのまま、ズルズルと床に落ち顔を抑えて蹲るゴーヤを尻目に、司令官はイクに近付く。

 

 

 己が赤く染めた手袋を汚いモノに触れるように外し、躊躇なく投げ捨てて。

 

 

「あぁ、お前たちの入渠と補給を許可しよう。その後、明朝の出撃まで待機だ。良かったな(・・・・・)

 

 

 イクの横を通り過ぎる際、司令官はそう言ってその肩に触れる。その瞬間、イクの身体が一際大きく震えた。それと同時に震えは止まり、今まで聞こえていた泣き声も止んだ。先ほどまで腰が抜けていたとは思えないほどスムーズに立ち上がり、彼が消えて行った扉に向けて機械のように歩き出した。

 

 

 

「イ……ク……」

 

 

 その背中に、腹の底から絞り出すようにゴーヤが声をかける。だが、イクがそれに応えることは無く、何も反応せず執務室を出て行った。

 

 

 

「ゴーヤぁ……」

 

 

 イクが出ていくと、そう声を上げたハチが真っ先にゴーヤに駆け寄った。大破しているため足を引きずりながら、これでもかという程悲痛な表情を浮かべて。その姿に私も数秒遅れて駆け寄り、倒れ伏しているゴーヤを助け起こした。

 

 

 浅い呼吸を繰り返す彼女の左頬には殴られた跡が、そして口許から右頬にかけて血糊がベッタリと付いている。この出血量、そして中破と言う事実に私はすぐに入渠させると決め、ゴーヤに背中を向けた。その行動に、ハチも私の意図を理解したのか、すぐにゴーヤを抱き寄せて私の背中に寄り掛からせる。

 

 

「いくよぉ……せーのっ」

 

 

 絞り出すようなハチの掛け声とともに、私の身体にゴーヤの全体重がかかった。脱力し切ったその重さは容赦なく足に小さくはない痛みを感じる。だけど、そんなのゴーヤの容態に比べればどうってことはない。一刻も早く彼女を入渠させなければいけないからだ。

 

 

「行くよ……」

 

 

 背中のゴーヤに声をかける。意識は既に無いと分かっていたが、いきなり動くとびっくりして傷に響く可能性を考慮してだ。そして、予想通り返事は無かった。それを確認し、私は前を向いた。

 

 

 

 

 

「何で動かなかったでち」

 

 

 その瞬間、ゴーヤがそう漏らした。それはとてもとても小さく、扉を開けに離れているハチには聞こえない。いや、彼女に聞かせようとは思ってない。私だけに聞こえるよう、私に聞かせるように(・・・・・・・・・)漏らしたのだ。

 

 

 

 それも、先ほど提督に向けていた、噛み付くような声色で。

 

 

 それに、私は答えなかった。ゴーヤの入渠が最優先だと判断したからだ。そう、無理矢理(・・・・)判断したからだ。そして、そう溢したゴーヤもそれ以降何も言ってこなかったからだ。

 

 

 ゴーヤを連れてドックに向かい、彼女とハチを入渠させた。自分が大破している癖に私を差し置いて入渠することを渋ったハチであったが、ゴーヤが意識を取り戻すまで傍で見ていて欲しいと頼み込むことで何とか首を縦に振らせる。二人を入渠させてその介抱を妖精たちに頼み、私はドックを出た。

 

 誰も居ない廊下をひたすら歩く。俯きながら、古ぼけたフローリングと片方ずつ前に伸ばされては後ろ手と消えていく己の脚を見つめた。しかし、その間隔がどんどん大きくなっていく。それと同時にフローリングに着く足の間隔も短くなっていく。それにつられて、視界の端に映るフローリングが後ろへと消えていく速さも上がってきた。

 

 口から漏れる空気の量が減り、それを補う様に小刻みになる。静寂であったはずの耳にはフローリングを踏みしめる音と荒い呼吸音、何時の間にか振り上げられていた腕は振り子のように前後上下へと動き、またもとの位置に戻る。足は床を踏みしめる感触、そしてそこにかかる体重が踏み出すごとに大きくなる。俯いていたはずの視界は徐々に上下が狭まっていき、今では真っ黒に染まっている。

 

 

 

 そう、私は走っていた。必死に、がむしゃらに、目の前に垂れる餌に縋る動物のように、ただただひたすら走っていた。

 

 

 

「私が逃げたから……」

 

 

 そう、荒い息と共に零す。そしてそれは、私が今しがた走っている理由でもあった。

 

 私は逃げた、逃げたのだ。何から逃げたか、それは苦痛とも、恐怖とも、嫌悪とも、とにかくそれら全てをひっくるめた全ての感情から。無論、その中に提督への感情もあった。だが、それをも覆い尽くさんばかりにあふれ出すのは、私自身に向けた感情だ。

 

 

 あの時中破しなければ、私は意識を失わなかっただろうに。

 

 あの時意識を失わなければ、皆が傷付くことは無かっただろうに。

 

 あの時私以外が傷付かなければ、一人だけ傷付いた私の責任に出来ただろうに。

 

 あの時私の責任に出来れば、イクが全てを背負うことも無かっただろうに。

 

 あの時私が背負っていれば、ゴーヤが殴られることも無かっただろうに。

 

 あの時私が殴られていれば、誰も傷付かなかっただろうに。

 

 

 そう、どれもこれも私のせいだ。私のせいで皆が傷付き、背負わなくてもいい業を背負い、負わなくていい傷を負った。それも全て私が足りなかったから、私が皆の代わりになれなかったからだ。

 

 いや、違う。代わりになれた、なれた筈なのだ。なれた筈なのにならなかったのだ、私がならなかったのだ。私がその業から逃げだしたからだ、己の責任を皆に押し付けたからだ。

 

 

 その全てから、真っ先に逃げ出したからだ。

 

 

 ゴーヤが言ったように、私が動くべきだった。私が立ちはだかるべきだった。私が殴られるべきだった。私が背負うべきだった。私が代わりになるべきだった。私が傷付くべきだった。私が守るべきだった。全てが全て、私がやるはずだった、私がすべきだった、私がやらなくちゃいけなかった。

 

 

 だって、だって私は――――

 

 

 

 

『旗艦なんだから』

 

 

 

 そう、口から漏れた。いや、漏れていない、私の口がその形をしたというだけだ。だって、今の私は自室のベッドに寝転がり、枕に顔を埋めているからだ。そして、振り上げた拳を何度も何度も枕に――――己の顔目掛けて振り下ろしているのだ。枕に押し付けるシーツや毛布は血で染まっているが、そんな些細なことに気を向ける余裕は無い。

 

 そうでもしていないと、己の内からあふれ出す言葉を抑えきれないから。己の、己による、己に向けた、己を棚に上げた夥しい数の批判を漏らすまいとしているからだ。漏らす代わりにそれを拳へと変え、己の頭に振り下ろしているからだ。それでようやく、己だけを抑えることが出来た。

 

 

 だけど、周り(・・)は無理だった。

 

 

 枕越しに伝わる拳の衝撃が頭を揺らす度に、真っ暗な筈の視界にゴーヤが現れるのだ。口許から頬に血糊を付けた顔で私を真っ直ぐに見て、刃物のような視線を向けて、何で動かなかった、そう言ってくる。語気は荒くもなく、まるで機械のように淡々とその言葉を浴びせ掛けてくる。

 

 やがて、それはゴーヤだけではなくなった。先ずはハチだ。大破した姿で現れ、無表情でゴーヤと同じように言葉を吐き出してくる。何で意識を失った、と。ゴーヤ同様、機械のように淡々としていた。

 

 次はイクだ。だけど、その風貌は他の二人とは異なっている。リボンでまとめられた髪は解かれ、その薄青紫色の髪が腰まで伸びている。その口元は大きな青あざ、それは口元に留まらずに至る所にあった。そして、強引に降ろされ生地が少しだけ引き裂かれた水着、そして降ろされたことで露出した自らの胸を庇っている。

 

 

 その顔は、今にも泣き出しそうな程ぐしゃぐしゃに歪んでいる。そして、その口はこう叫んでいた(・・・・・)

 

 

 

『何で助けてくれなかったの』

 

 

 ゴーヤやハチとは違う。震える声で、今にも悲鳴を上げそうな声で、必死に堪える恐怖を滲ませた声で、そう漏らしているのだ。しかも、それは声を漏らすごとに小さく、弱弱しくなっていく。同時に、私に向けられていたその顔も段々と下がっていく。やがて顔が見えなくなったとき、その声は既に聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

 その時、私の耳にドアが開く音が聞こえた。思わず枕から顔を上げ、音の方を見る。

 

 

 そこには、イクが立っていた。今の今まで私の前に居た彼女が、俯いて声すらも聞こえなくなったまさにその姿が、自らが開けたドアを閉めようとしていたのだ。

 

 

「イク!!」

 

 

 思わず大声をあげ、ベッドから飛び起きる。大声だった。大声だった筈なのに、イクは顔を上げない。何事も無かったかのように、ドアを閉めた。

 

 

「イク!!」

 

 

 もう一度、大声を上げる。今度はベッドから這い出して床に足を付ける。そこで、ようやくイクの身体が微かに震えた。だけど、それだけだった。顔を上げることも無く、声を出すことも無く、ただただ黙っていた。

 

 

「イ、ク……?」

 

 

 もう一度、声を上げる。今度は大声ではじゃなく、普通の声でもなく、震えた声だ。同時に、彼女に向けて歩を進める。少しずつ、少しずつ、一歩一歩、近づいていく。だけどイクは何も言わない、何も言ってくれない(・・・・・・・)

 

 

「ぃ……ぅ……」

 

 

 今度も声を上げた。いや、声のようなものを、漏らした。同時に、イクに手を差し出した。それはあの時、四人で決めた事、誰かが傍にいることを知るため、もしくは示すため。私が傍にいるとイクに伝えるため、いや、違う。そんな綺麗なものじゃない。

 

 こんな私に、旗艦の癖に何もかもから逃げ出した私に、その傍に居てくれるのかという問いだ。またしても、此処まで来ても、私は彼女に縋ったのだ。全てから逃げ出した私を許して欲しいと、都合のいい解釈を押し付けようとした。

 

 

 

 だからだろう、彼女はそれを拒否した。

 

 

 言葉を溢したわけでもなく、私を突き飛ばしたわけでもなく、ただ差し出した私の手を一瞥し、そして力なく垂れた己の手を一瞥し、そこで終わった。私の手を握らなかった、握ってくれなかった。

 

 

 

 傍にいてくれなかったのだ。

 

 

 

 

「あ、ごめん。こんな汚い(・・)手、触りたくないよね」

 

 

 私の口から漏れた言葉は、震えはなく、脅えてもおらず、至って普通の声だった。誰だって汚いものに触れようとしない。何もかもから逃げ出した私の汚らしい手なんか、触れたくもないだろう。事実、私の手は自分の血で汚れていた。二重の意味で、とても汚かったのだ。

 

 そう言って差し出した手を下げた私は、クルリと自分のベッドへと歩き出す。その間、後ろから息をのむ声が聞こえた様な気がしたが、多分幻聴だ。私の願望が生み出した、ただの幻聴だ。たった今、目の前で打ち砕かれたものに性懲りもなく縋るなんて、やっぱり私は汚い。そう思いながら、既に血まみれのシーツで手を拭う。

 

 

「シーツ、変えてくるね」

 

 

 次に私はそう言ってシーツを剥がし、小さくまとめたそれを小脇に抱えた。そして、今度は床を踏みしめる幻聴だ。いい加減にしてほしい。そう心の中で舌打ちをしつつ、私はドアの方に向かって歩き出した。

 

 

「   」

 

 

 幻聴が聞こえ、同時に肩を触れられた。最近の幻覚って触られることもあるんだ、凄い。そう思いながら、私はその全てを無視してドアを開け、部屋を出て行った。

 

 廊下を歩く中、ふと自分の手に視線を落とす。シーツで拭ったとはいえ、乾燥した血の全てをふき取ることは叶わず、所々黒くなった血がこびりついている。

 

 

 

「汚い」

 

 

 

 そう、声を漏らす。その言葉は自分が発したはずなのだが、聞こえたのは他の三人の声だ。そしてそれは、幻聴なんかじゃない。誰もが言葉にしていないだけで、心の中ではそう思っている。だって汚いから。汚い私を見て、知って、その上で触れなかったからだ。だから、手にこびりついたこの汚れは一生取れないだろう。

 

 

 だって、その汚れこそが私だからだ。

 

 

 その日、ドックから帰ってきた二人は何も言わなかった。二人の声に似た幻聴が聞こえた、それだけだ。こんな汚い私にかける言葉も、伸ばす手も、向ける視線も、ある訳がない。だってそうだろう、誰も私の傍に居たくないから。だってそうだろう、己を傷付けた張本人が目の前でのうのうとしているんだから。

 

 

 誰も、汚れ()の傍に居てくれるはずがないのだから。

 

 

 

 そしてそれを唯一示したのは、いや示してくれた(・・・・・・)のは司令官だった。

 

 

 

「一度、自分をよく見てみろ」

 

 

 その言葉を向けられたのは、あの日から少し経った時。その日以降、私たち潜水艦隊は失態を犯す度に誰か一人が伽をさせられた。

 

 主に指名されるのは、その出撃で最も酷い醜態を曝した子だ。だから、イクやハチ、ゴーヤも伽をさせられた。だけど、私がさせられることは無かった。醜態を晒さなかったわけではない、何度も何度もあの日よりも酷い醜態を晒した時もあった。だけど、その日に限って司令官は私を選ばずに他の子を指名した。

 

 だから、私は異議を唱えた。今回の失態はどう考えても自分だと、責任を取らされるのは自分だと。そう言った。そして、その返答がその言葉だったのだ。

 

 

 

「誰がそんな身体……」

 

 

 

 次に、彼はそう漏らした。それは誰かに聞かせるようなモノでもなく、ただ今しがた思っていることを口にしただけだろう。

 

 

 だけど、私はその言葉を不快に思うことは無かった。まさにそうだと、納得したからだ。

 

 

 私は潜水艦の中で一番貧相な身体だ。イクやハチは言わずもがな、ゴーヤだって私より胸がある。体格なんて寸胴、まさに幼児体型なのだからそこに魅力を感じるわけがない。そして私は汚れだ、触れたくもない私に誰が伽をさせようと思うか、有り得ない、ある筈がない。

 

 そんな魅力なんて一片も無い、純然たる汚れである私に伽をさせようなんて、その考え自体が間違っているのだ。

 

 

「じゃあ、私は()が出来るんですか」

 

 

 だから、そう問いかけた。周りの誰もが口にしなかった言葉を、唯一口にしてくれた司令官に。誰もが目を背ける中、唯一目を向けてくれた司令官に。誰もが私への感情を隠す中で、唯一感情を向けてくれた司令官に。

 

 

 『汚い』と、言ってくれた(・・・・・・)司令官に。

 

 

 

「自分を見て考えろ」

 

 

 だけど、やはり彼も教えて(・・・)はくれなかった。汚れに付き合う義理は無い、なら仕方がない。だけど、ヒントはくれた。それは今の自分を見ること。今の状況を整理し、考えて、答えを出すことだ。

 

 私の見て、言葉をかけて、触れる存在はいない。だから、私一人の力でやるしかない。だけど、私は潜水艦故に一人で多大な戦果を上げることも、一人故に皆を庇うことも、『汚れ』故に一人で伽をすることも出来ない。

 

 そんな私は何をすれば、汚れでしかない私は一体何をすればいいだろうか。どうすれば皆は私を見てくれるだろうか、どうすれば声を変えてくれるのだろうか、どうすれば触れてくれるのだろうか。

 

 どうすれば、それを許してくれる(・・・・・・)のだろうか。そうするには、何が出来る(・・・)のだろうか。

 

 そして、導き出した。戦果も挙げれず、伽も出来ず、誰にも見向きをされない汚れでも戦果を上げて、逆に誰にも伽をさせない(・・・・・・・・・)ようにするための、唯一の答えが。

 

 

 それは『旗艦』であり続けることだ。

 

 

 旗艦であれば、艦隊を率いて戦果を上げることが出来る。戦果を上げれば、他の子が伽をする必要がなくなる。いや、それは建前。性根を隠すために何回も何回も上塗りした、最もらしい建前だ。その下に隠された本当の理由は違う。

 

 それは、見ざるをえない(・・・・)から。旗艦は艦隊を率いる故に僚艦と必ず言葉を交わし、そしてそれは私を見て、私に触れることに近い。言ってしまえば、それだけの口実だ。

 

 そうでもしないと、皆は私を見てくれることも言葉をかけることも、触れることもしないだろう。何せ私の身代わりでイクは、そして今後もあるであろう私の伽を三人が担うのだから。勿論、わざと失態を犯すつもりもない。この身がどれほど傷付いてでも戦果を上げ、絶対に伽をさせないようにするつもりだ。でも、汚い私はもしもその失態を犯した際の保険を、自分に都合のいいだけの保険をしたいのだ。

 

 例えそれが仮初めのモノだとしても、あの時感じた孤独を、出撃のように誰にも触れられず真っ暗な闇の中をあてもなく進み続けるよりはマシだと、そうこじつけて。

 

 

 つまり、汚い汚い私は『旗艦』という権力を使い、三人に無理矢理触れさせているのだ。まさに、提督と同じようにだ。

 

 

 そして当然とも言うべきか、やはり私は彼女たちに身代わりを強いてしまった。それも何度も、私が傷付く度に伽をさせてしまった。言い訳なんかしなかった、言い訳したところで何も変わらないから。だから、その伽を減らせるように戦果を上げることに心血を注いだ。

 

 

 誰よりも前に出て、誰よりも早く攻撃して、誰よりも多く敵を引き付けて、誰よりも多く雷撃や爆雷を交わして、少しでも戦果を上げるよう努めた。

 

 酷く傷付いていようが、疲労がたまっていようが、歩けないほどにフラフラだろうが、絶対安静だといわれようが、お構いなしに出撃を続け、身代わりをさせ、それらを上回る程の戦果を上げようとした。

 

 

 そのおかげ(・・・)か、ゴーヤが声をかけてくるように、いや、突っかかってくるようになったと言った方が正しい。

 

 休めと言われた、前に出るなと言われた、危険なことはするなと言われた、無理をするなと言われた。

 

 

 旗艦をやめろと、そう言われた。

 

 

 その時、私は彼女に何を言ったのかは覚えていない。だけどその日以降、あれだけ突っかかってきたゴーヤが大人しくなった。

 

 別に突っかかるのをやめたわけではない。唐突に、脈絡もなく突っかかってくる。そしてその理由を問うも何も言わず押し黙る、もしくは逃げる。それを幾度となく繰り返すようになった。それも、自分が突っかかった時だけ声をかけ、それ以外は口もききたくないと言わんばかりだ。

 

 また、その日以降、ゴーヤの勝手な行動が目立ち始めた。旗艦()の指示を聞かずに勝手に前に出て、勝手に傷付いて、勝手に伽をするようになった。勿論、その理由を問いただしても何も言わない。

 

 恐らく、彼女は行動で私に示しそうとしているのだ。旗艦をやめろと、旗艦をやめろ(傍に寄るな)と。そう言っているのだ。それは今も同じだ。

 

 

 でも、私はそれしか知らない。それしか知らないし、分からないし、誰も教えてくれない(・・・・・・・・・)

 

 だから、それしか出来ない、汚い私はそれしか出来ないから。そうでもしないと、きっと許してもらえないから。それに縋らないと、私は――――

 

 

 

 

 

「一人に、なっちゃう」

 

 

 そう、声が漏れた。だけど、私の声は良く聞こえなかった。それを掻き消すほどの大きな音があったからだ。

 

 目を開けると、ぼんやりとした視界の中で鏡に映る自分が見えた。先ほどドック内にて曝け出した姿ではなく、ここにきた際に持っていた替えの服を着ている。服に身を包んだ私は猫背のまま腰を下ろしている椅子に背中を預けていた。

 

 そしてその背後には、上半身裸の男性が―――今の司令官が立っていた。彼は手にドライヤーを持ち、もう片方の手で私の髪を掬っては一房一房丁寧に生乾きにならないようにドライヤーをかけ、手櫛で解くことを繰り返している。それが、何とも心地よかった。

 

 

「はい、おしまい」

 

 

 だが、その心地よさもその言葉通り終わってしまう。重力に従って髪が床に垂れ、その重みで顎が上がる。そのため、視界は鏡から天井、そして上下が逆さまになった脱衣所に変わった。その大分上の方で、先ほどまで私の髪を乾かしていた司令官が少し離れた所に身をかがめ、何かを探しているのが見えた。因みに、彼は腰にタオルを巻きつけているため、全裸ではない。

 

 というか、あれからどうなったんだろう。司令官から話をしてほしいと言われてから今までの記憶が良く思い出せない。彼の言う通りに熱があるせいかも、もしくは話すのに夢中だったせいかもしれない。

 

 いや、確か話の途中に後ろから身体を洗う用のスポンジを差し出されたような気がするけど、受け取った記憶はないな。まぁ、いいか。

 

 

「おーい、大丈夫か」

 

 

 ボーっとする頭に司令官の声が聞こえ、頭を支えられて前に押し上げられる。視界は逆さまの脱衣所、天井、そして鏡に映る私と彼に戻った。鏡越しの彼と目が合った時、何故か彼は笑みを浮かべた。

 

 

「で、どうだ。少しは楽になったか?」

 

「うん」

 

「そうかそうか、良かったよ」

 

 

 そう笑みを浮かべた司令官が問いかけてくる。それに、私は特に考えることなく素直に答えた。事実、気持ちが楽になったからだ。その言葉に彼は安堵の息を漏らす。そして、次に彼は少しだけ苦笑いを浮かべた。

 

 

「それとさ、話を聞いて一つ思いついたことがあるんだけど。言って良いか?」

 

「言って」

 

 

 彼の言葉に、私は食い気味でそう言った。すると、何故か彼は少しだけ表情を歪ませる。歪み、顔に影がかかり、最後は申し訳なさそうな表情になった。

 

 だけど、その理由が私には分からなかった。だって、私が良いと言ったのだから。そのまま言えばいい、何を躊躇する必要がある。むしろ、そうやって言葉を濁されることこそが私が最も嫌う、自分が棚に上げた動かなかった自分(そのもの)を目の前で見せつけられているからだ。

 

 

 だけど、その直後に何故司令官が躊躇したのかを理解した。

 

 

 

 

 

「旗艦、やめてみないか?」

 

 

 

 彼もまた、そう言ったからだ。

 


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