新米提督苦労譚~艦娘たちに嫌われながらも元気に提督してます~   作:ぬえぬえ
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妹の『我が儘』

「いい? 何を聞かれても答えないで。全部私が答えるし、いざとなったら連れ出すわ。声を出さなくても、アイツを見なくても、前に出なくてもいい。ただ、私の後ろに居て」

 

 

 いつもの見慣れた廊下を歩く中、私はそう天龍ちゃんに口を酸っぱくする。しかし、私の視界に彼女はいない。あるのは廊下、見慣れた廊下だ。

 

 

「ちょ、たつ、たぁ」

 

 

 視界の外から天龍ちゃんの声が聞こえる。途切れ途切れに漏れたその声は何処かぎこちない、何処か震えている、恐怖に駆られている(・・・・・・・・・)。当たり前だ、怖いのだから。当たり前で、行きたくないのだから、当たり前だ――――

 

 

 

「また、あの男に会……」

 

 

 ポツリと漏らしそうになった言葉を飲み込んで、私は歩みを止めない。後ろにいる天龍ちゃんの手を取って、震えているであろう彼女の前に立って、これから降りかかるであろう『彼女にとって』尋常じゃない恐怖から守るために。

 

 

 

『天龍、龍田の両名は本日の予定を全て取り止め。朝食後、執務室に参上せよ』

 

 

 この命令を受け取ったのは昨日――――食堂であの男が暴れた後、自室に居た私たちに提督自ら伝えてきたのだ。やってきた彼は甲斐甲斐しく手当てを受けた……ように見えて、その実包帯もテーピングも滅茶苦茶な手法で施された、まるでミイラ男のような様相であった。

 

 

 だから、仕方がない。彼を見た瞬間、薙刀を突きつけてしまったのは。

 

 

「待て待て待て待てストップストップ!!」

 

 

 ミイラ男から提督の声が聞こえ、既の所で止めれたのは奇跡に近い。もし彼の声がほんの少し遅ければ……なんて考えても仕方がない。重要なのはその後、その騒ぎに驚いて天龍ちゃんが出てきてしまったことだ。

 

 

「どうした龍……」

 

 

 そこで天龍ちゃんの声が途切れる。その瞬間、私は手にした薙刀を放り出した。足元に薙刀が落ちる音、提督が驚く声、それらを無視して私は天龍ちゃんに走り寄る。

 

 天龍ちゃんはただ黙っていた。その顔に皺を刻み、口元を固く結び、目を見開いて、一言も声を漏らすまいと、零れる『それ』を抑えようと、ずっと耐えていた(・・・・・・・・)

 

 

 あぁ、ごめんなさい。貴女にその顔して欲しくないの。貴女のそんな姿、見たくないの。

 

 

「いきなり押しかけて悪かったよ。そして、二人に明日のことについて伝えに来た」

 

 

 そんな私たちを尻目に、提督は今日のことを伝えた。私がしでかしたことを責めもせず、ただそう言ったのだ。それに思わず向けてしまった私の目には、ただ笑みを浮かべた彼が映った。まぁ、笑みを浮かべたと言っても包帯でぐるぐる巻きの顔だったので声色で判断しただけだ。

 

 

 だが、その目は――――――背筋が凍るようなその目であった。その目があったから、彼が笑みを浮かべているのかと言う確信が持てなかった。

 

 

「じゃ、天龍(・・)、よろしくな」

 

 

 それだけ言うと、彼は何事も無かったかのように出て行った。何故そこで天龍ちゃんの名を挙げたのか、分からない。その時はただ、天龍ちゃんのその顔(・・・)をどうすれば払拭できるかだけを考えていた。

 

 だから、彼の言葉を否定できなかった。冷静になって考えた時、その裏に憲兵(あいつ)が居ることに気付いたのに、出来なかった。

 

 私たちはあの場であいつが暴れるのを見ていた。あいつが夕立に迫り、提督が殴り、その後の所業も全て目の前で見ていた。それを目の当たりにしてあいつはもう鎮守府を出ていくか、もしくは艦娘たちによって壊される(・・・・・)かだと思っていた。

 

 そして今回の呼び出し。名前は提督の名を冠してはいるが、その裏にはあいつがいるだろう。第一、提督がわざわざ予定を取り止めてまで私たちを呼び寄せる理由は一つしか―――――あいつがやってきた時に私がやったことしかない。大方、此処を去る前にせめてもの仕返しをしたいとか、そんな腹積もりだろう。

 

 しかし、それなら私を呼び出せばいい。天龍ちゃんまで一緒に呼び出される理由は―――――いや、分かっている、分かっている。私がやったことの理由が彼女にあると、あそこまで露骨にやれば誰だって察するだろう。恐らくテコ入れしたのは提督。彼は一度、その被害にあった。二度も同じことを、それも客観的に見れば察してしまうのはしょうがない。それがあった上でのあの言葉だとすれば、辻褄も合う。

 

 

 だが、それがどうした(・・・・・・・)というのだ。それを察して、更に私が真相を暴露したところで私の行いに『正当性』は無いにしても、天龍ちゃんには『同情に値する』だけのモノがあること分かる。それでいい、私の行いは正当性も糞もない、それこそ初代が向けてきた理不尽なことと同じだと罵られてもいい。むしろそうなるしかない、そう事が運ぶようにお膳立てし、一身に被る手筈を整えたのは紛れもなく私なのだ。

 

 これは予定通り、計画通り、確定事項。私の掌で終わらせられる場所だ。あとはいかにして天龍ちゃんをこの場所から逃がすか、それだけを考えればいい。

 

 

「着いた」

 

 

 そうこうしている間に辿り着いた、辿り着いてしまった。目の前にあるのは重厚な扉。もう幾分か前、あの提督が荒れ果てた此処を掃除しようとした時のことを思い出す。

 

 あの時は散々なことを―――彼の荷物を滅茶苦茶にした。後悔が無いわけでは、罪悪感が無いわけではない。勿論、この感情(・・・・)を向けるのがお門違いだと言うのも理解している。だけどこれしかないのだ。これしか、私が太陽の代わりをするしか、太陽が休まるためには私が代わりにやらなければならない。

 

 

 だからこそあの時だって―――――初代の(あの)時だって、私は肩代わりをするしかなかった。

 

 

「龍田」

 

「大丈夫。私が全部、背負うから」

 

 

 天龍ちゃんの声にそう返し、私は扉を開いた。もう一度、太陽の代わりになるために。

 

 

 

 開いた扉の先で、二人は居た。一人は執務室の机を挟み、私たちと対峙している―――――提督。もう一人はその提督の横に立ち、澄ました顔で私たちを見つめ返す――――――憲兵(あの男)だ。

 

 

「ノックぐらいしろ」

 

 

 その中の一人、憲兵はそう文句を言ってきた。その顔は真顔であるが、声色から皮肉っているようにも聞こえる。それに目を向ける、あの時と同じようにあいつと視線を交差させた。しかし、それも次の瞬間、私の視線から離れる。代わりに捉えたのは、天龍ちゃんだ。

 

 

 

「それで、何か用ですかぁ?」

 

 

 その視線を遮る様に天龍ちゃんの前に出て、そして敢えて私に意識を向けさせるようにわざとあいつの言葉を無視した。これであいつの視線は私に映る、更に前に出たことでこれ以降天龍ちゃんに降りかかることもない。手筈通り、手順通り、だった。そして予想通り、あいつの視線は私に戻った。

 

 

 だけど、その目にあるはずだった『怒り』は何処にも無い。代わりにあったのは『哀愁』、まるで可哀想なモノを見るような目だ。

 

 

 視線の先は私だ。だけど、あいつが私にそんな視線を向ける理由はない。であれば誰を見ている、誰を……

 

 

 

「哀れだな」

 

 

 その視線のまま、あいつは続けてそう言う。その言葉は誰がどう見ても、その言葉自体がかの視線に則した、むしろあの視線がその言葉通りであると確定付けた。だが、それでもその視線の先は分からない。だが、その言葉に反応した存在がいた。

 

 

「おい」

 

 

 それは私の後ろに居る天龍ちゃんであった。彼女の声は何故か怒気を孕んでおり、私の肩に手を置いて前に出ようとする。そして、私はそれを遮る。無言で手を翳し、それに何か言いたげな天龍ちゃんと視線を重ねた。それに天龍ちゃんは私の視線を受け、やはり口を開いた。

 

 

「そこに居て」

 

 

 だが、それも私の言葉によって無いモノにされた。天龍ちゃんは薄く開いた口を閉じ、目を背けた。そうか、さっきの言葉は天龍ちゃんに向けた言葉だったのか。『哀れ』……『哀れ』か、確かにそうだろう。彼女の境遇(・・・・・)を知れば誰だってそう思う。

 

 

 

「龍田」

 

 

 そう、私の名を呼んだのは提督だった。彼は先ほどの姿から微動だにすることなく、ただ視線だけを私に向けてきた。その目は、あいつとは違っていた。それは何処か子供(・・)を見るような目だ。その目を見たのは食堂の一件以来である。

 

 

「もう、良いだろう(・・・・・)?」

 

 

 だが、次に現れた彼の言葉に首を傾げるしかなかった。何が『良い』のか、何のことだ、何故そんなことを言うのか、そんな疑問で少しだけ思考が止まる。脈絡もなく、話の腰を折る以前にその腰すら見当たらない唐突な問いだった。しかし、それはわざとらしく咳払いした提督によって遮られた。

 

 

「さて、二人を呼んだのは他でもない。もう、いい加減ケリをつけよう(・・・・・・・)って話さ。今更『何に』ついてなんか、言わなくても分かるだろ?」

 

「さぁ? 皆目見当もつかないわぁ~」

 

 

 提督の言葉に、私はわざとらしく話をはぐらかす。わざとらしく(・・・・・・)、なのは分かっている上でやっていることをそれと無く察させるため、分かっている癖にはぐらかす私への意識を集中させるため、少しでも天龍ちゃんに向けられる二人の、いや()の視線を減らすためだ。

「そっか、なら天龍は?」

 

 

 だが、予想に反して提督はすぐに引き下がり、代わりに天龍ちゃんに問いかけた。その瞬間、私の身体は動いた。彼と彼女の間に入り、彼を黙らせる視線を――――――『殺意』に満ちた視線を向けた。

 

 

 

 筈だった。

 

 

 

「全く」

 

 

 そう、視界の外から聞こえ、同時に天龍ちゃんの前に出ようとした腕を掴まれた。その瞬間、私の腰は抜けていた(・・・・・)。そう、腰が抜け、足から力が抜け、その場にへたり込んでしまったのだ。

 

 

 

「『哀れ』だな、お前」

 

 

 そう、視界に映ったアイツから言われた。その目は今度こそ、逃れようもなく、確実に私を射抜いていた。その吸い込まれそうな瞳に私が―――――――床にへたり込み、肩を震わせ、瞳一杯に涙を浮かべた私が映っていた。

 

 

 あれ、何で私泣いてるの? 何で肩を震わせてるの? 何で床にへたり込んでいるの?

 

 おかしい、おかしい、可笑しい。全部おかしい、全ておかしい、有り得ない、絶対にない光景。

 

 私は立っている筈だ、私は立ち塞がっている筈だ、アイツと提督の前に立ち塞がっている筈だ、後ろ(・・)で震えている天龍ちゃんを守っている筈だ。

 

 

 

「もう、いい」

 

 

 

 なのに、何で目の前(・・・)に貴女が居るの?

 

 

「これ以上は、もう……やめてくれ……」

 

 

 目の前にいる、正確には私と提督たちの間に立ち、両手を目一杯広げている天龍ちゃんはそう漏らした。だが、その後ろ姿は『いつもの彼女』だ。目一杯に広げられた両腕は震え、足も弱弱しく小突いてしまえばすぐさま崩れ落ちてしまうだろう。

 

 

 『精一杯の虚勢(いつもの姿)』なのだ。

 

 

 

「なら、答えてくれるかな?」

 

 

 その虚勢に提督は特に言及することもなく、何事も無かったかのように促す。そしてその声は柔らかい。この柔らかさが曙や夕立、潜水艦たちを解きほぐしたのか。そしてその例に漏れず、天龍ちゃんも言葉を絞り出したのだ。

 

 

「……まず龍田がやっちまったこと、ホント、本当にすまなかった。そして、今日まで謝罪を引っ張ったことも、本当にすま……申し訳ありませんでした(・・・・・・・・・・・)

 

 

 その言葉。それは天龍ちゃんらしくない、いや天(・・)らしくない言葉遣いだ。そんな言葉を吐き、彼女はゆっくりと頭を下げた。それを向けられた彼らがどんな顔をしているか、分からない。ただ、その身体は相変わらず震えているから、視線自体は彼女に注がれているのだろう。

 

 

「でも、これには理由が……いや、原因(・・)は俺なんだ!! 俺が悪い(・・)んだ!! だ、だから……」

 

 

 言葉を吐き出すごとにその声は大きく、語気は荒くなっていく。しかし、それに反比例してその身体は震え、手足の力も抜け、二人に向けていた顔も段々と下に向いていく。

 

 恐らく、いや確実にあの時(・・・)もこうだったのだろう、こんな姿だったんだろう、こんなことを強いてしまった(・・・・・・・)のだろう。

 

 

 だから、それを止める言葉を、()は吐いた。

 

 

 

 

お姉ちゃん(・・・・・)

 

 

 

 その言葉を、私は吐き出した。同時に、そう呼ばれた天龍ちゃんの顔が強張っただろう。『だろう』、なのは実際に見えていないから、そしてこの言葉を吐き出す度に見てきたと言う確固たる自信の元だ。ともかく、天龍ちゃんは私の言葉に止まった、止まってくれた(・・・・・・・)

 

 

 

「取り乱してすみません。その話は私()します」

 

「龍――――」

 

「お姉ちゃん」

 

 

 その言葉と共に立ち上がった私は更に続けてそう言い、前に居た天龍ちゃんを押し退ける。それでも食い下がる天龍ちゃんに私は再びその言葉を、そして止め(・・)の言葉を向けた。

 

 

 

 

「また、置いていくの?」

 

 

 止めの言葉―――――『妹の我が儘』に、天龍ちゃんはそこで完全に沈黙した。あぁ、やっぱり貴女は天龍ちゃんだ。格好良くて、優しくて、しっかりとした、大人(・・)な、龍田()のお姉ちゃんだ。

 

 

 

 

子供(ガキ)が」

 

 

 そう、視界の外から吐き捨てられた、いや投げつけられた(・・・・・・・)言葉を受け取る。あぁ、そうだろ。傍からすれば、そう(・・)見えるだろう。

 

 

「でぇ? 何処から話せばいいかしらぁ?」

 

「お前らの姉妹関係から」

 

 

 沈黙する天龍ちゃんを尻目に話を進める私に、彼は―――――提督は間髪入れずそう突き付けてきた。その言葉に、笑みを浮かべながら殺気(・・)を彼に向ける。それに対して、彼は笑みを浮かべるのみ。そして、その目は自室で向けられた目である。

 

 ほんの一瞬、執務室は私と提督が圧を掛け合うだけの空間となる。その一瞬で、彼がこの膠着状態を解く気は無いと悟った。いつの間にか彼の横に移動していた憲兵も彼と同じようである。そして、このまま無駄に時間を過ごすのは良くない。

 

 

「分かりましたぁ~」

 

 

 その言葉を皮切りに、私は話し始めた。それは私たちの話、私たち『姉妹』の話。いや、そんな大層なモノじゃない。これ(・・)は年下と言う特権を振りかざし、甘やかしてくれる大人なお姉ちゃんを好き勝手に振り回している。

 

 

 

 子供()の我が儘だ。

 

 

 

 『姉妹艦』――――それは一つの設計図を基につくられた複数の艦船を括る呼称である。また何故「姉妹」と言うのかは、我が国が海軍を創設する際に見本とした外国が船を女性名詞と扱っていたからだと、いつかの講義で聞いたことがある。それゆえに艦()になるのだとか。

 

 とはいっても、私の『龍田(名前)』なんて女性名詞は愚か人名ですらない。戦艦や空母、軽巡洋艦や駆逐艦、潜水艦に至るまで人の名前を冠している艦娘はいない。誰もがその説明に首を傾げ、一様に訝し気な顔を浮かべていただろう。

 

 しかしそれらはたかが名前、それも艦娘としての名前である。言ってしまえば源氏名と一緒であり、職場において自分を証明する名札だ。それが軍と言う大それた場所であり、その名札とともに艤装、そして深海棲艦と戦う使命を付与されただけ、此処にいる間だけ通用するそれだけのものだ。

 

 だから姉妹艦と言われても実感が湧かないと思っていた。与えられた名札がたまたま一緒だっただけの赤の他人なのだから。元々人との係わりを密にする性質じゃないから、軽く顔を合わせて挨拶を交わす、それだけで終わると思っていた。

 

 

 だけど、その予想は斜め上を行った。

 

 

「はじめまして……で、良いのか? まぁいい、姉妹艦の天龍だ。よろしくな」

 

 

 天龍ちゃんと初めて顔を合わせた時、彼女は少しだけ困った様にモゴモゴしながらも最後には屈託のない笑顔を向けてきたのを覚えている。そしてそれを前にして、私は何も言い返さなかった。いや、言い返せなかった(・・・・・・・・)

 

 

 彼女を前にした瞬間、両の目から止めどなく涙が溢れ出したからだ。

 

 

 突然のことに、その場は騒然となった。ついさっきまで平然としていた艦娘候補生がいきなり子供のように泣き出したからだ。ある者は上官を呼びに走り、ある者は突然泣き出した私を茫然と見つめている。だが、その中で一番訳が分からなかったのは私である。

 

 止めどなく溢れる涙と堰を切ったように流れ出す泣き声、それを抑える術も何故こんなことになっているのか、何もかもが分からなかった。ただ彼女に言葉を投げかけられただけだなのに、ただ笑顔を向けられただけなのに。何処にも泣き出す様な要因もない筈なのに。

 

 

 それはまるで、今まで(・・・・)溜め込んでいたモノ全てを吐き出す様であった。

 

 

「全く、こっちも相変わらず(・・・・・)か」

 

 

 だが、騒然とするその中で一人だけ。そんな言葉と共にため息を溢した存在が居た。それはそう溢した後、ゆっくりとした足取りで私に近付き、膝を折り今もなお泣き喚いている私と目線を合わせてくれた。

 

 

「寂しい思いさせて、ごめんな」

 

 

 そう言って、まるで子供をあやす様に私の頭を撫でた天龍ちゃん。彼女と出会ったのは初めてだ、それは私も彼女も同じである。なのに、何故か私は彼女に出会っただけで泣き出し、そんな私を彼女は慣れた(・・・)ように慰めてくれた。

 

 

 その姿は、まるで悠久の時を超えてようやく再会した『本当の姉妹』のようであっただろう。

 

 

 後に調べて分かったことだが、天龍型(私たち)は同じ艦隊に居ながら共に戦列を並べる機会が少なかったようだ。そして龍田が主に輸送作戦や護衛任務に就く傍ら、天龍ちゃんは旧式と言うブランクの身に似合わぬ戦場に駆り出され、そして先に沈んでいった。

 

 そして、残された龍田は彼女の忘れ形見である艦隊を解散させられた。唯一無二の姉を失い、その存在を証明するものも悉く失われた。しかし、当時の龍田は意志を持たぬ鉄の塊である。故に突き付けられた現実を、まるで動じていないかのように受け入れた。その後、彼女もまた旧式の身でありながら水雷戦隊旗艦の名札を与えられ、最期は天龍ちゃんと同じく潜水艦に沈められたのだ。

 

 だけど、この話は特に珍しくない。姉妹艦として同じ戦場で目まぐるしく活躍した者も居れば、私たちのように離れ離れの中で沈んでいった者もいる。だが、それはあくまで『艦』としての私たちだ。意志を持たぬ『艦』故に、その境遇に不平不満を持たなかった。

 

 しかし、今彼女たちは人の器を得た。同時に意志を、感情を、声を、涙を、それら全てを突然(・・)得たのだ。そして目の前に唯一無二の姉が現れたのだ。あの時は泣きも喚きも嘆きも出来なかった私の前に、そして今それら全てを可能とした人の器を得た私の前に。

 

 

 だからだろう、『今まで溜め込んでいたモノ』を、今しがた得たもの『全て』で表現したのだ。

 

 

 同時に、龍田はもう一つの得たもの―――――彼女が見てきた記憶もまた塗り替えてきた。それは彼女を調べる度に頭痛と共に現れた光景。

 

 

 晴れ晴れとした空の下、手にした刀を振り上げて(龍田)に笑顔を向ける天龍ちゃん。

 

 黒ずんだ雲が漂う中、駆逐艦たちを率いて大海原へと向かう天龍ちゃん。

 

 紅色に染まった空の下、白い鉢巻をたなびかせて鋭い視線を浮かべる天龍ちゃん。

 

 そして、ボロボロの身体で必死に取り繕った笑みを浮かべ、夕闇へと消える天龍ちゃん。

 

 

 それらは艦艇龍田(過去の私)が見てきた艦艇天龍(過去の天龍ちゃん)の姿、竣工から最期に見た姿だ。それが何故か艦娘の姿で再現されているのだ。これもまた、彼女たちが抱き続けていた感情を最大限に表した結果なのだろう。

 

 その後、私たちは離れ離れだった時間を埋め合わせるようにずっと一緒に居続けた。起床から始まり食事、訓練、休憩、また食事、入浴、就寝まで、訓練時代から一緒だ。傍から見れば仲良しの姉妹、もしくは姉妹以上の関係なのではと噂が立ったのかもしれない。しかし、天龍ちゃんはそこで終わらなかった。それは、彼女の周りには常に人で溢れていたからだ。

 

 誰とでも気兼ねなく話しかけ、笑い、じゃれ合い、その周りには笑顔で溢れていた。駆逐艦にはいいお姉さん、戦艦や空母からは生意気だけど可愛い後輩のような立場であった。だから私以外にも彼女の周りに集まる存在が居た、中には「天龍さんに憧れていました!!」なんて言い放ち私のように四六時中ベッタリな子も程だ。そんな沢山の人を惹き付け、笑顔に出来る天龍ちゃんの横に、私は居続けたのだ。

 

 

 だけど、その日常は脆くも崩れた。それが何処(・・)なんて、もう分かり切っているだろう。

 

 

 

「提督より『軽巡洋艦天龍、補給後に執務室に参上せよ』との言伝です」

 

 

 そう伝えてきたのは、一人の駆逐艦だ。彼女はこの鎮守府で最古参、提督と共にやってきた初期艦である。私たちが此処にやってきた時に最初に出迎えてくれたのも彼女であり、それ(・・・)を持ってきたのも彼女だった。

 

 

「……分かったよ」

 

 

 その言葉に、天龍ちゃんはやっぱりかと言いたげな顔でそう答える。実はその日、天龍ちゃんが率いた遠征部隊が資源回収に失敗してしまったからだ。それも敵襲や天候不良によるどうしようもない理由ではなく彼女に率いられた駆逐艦たちが航行中に僚艦同士で衝突し、その損傷具合にこれ以上の航行は無理と判断した天龍ちゃんが提督の進撃せよとの指示を無視して帰投してしまうという呼び出されるには格好の理由を携えて。

 

 勿論、彼女は即断即決で無視したわけでもない。無線で提督に判断を仰ぎ、進撃せよとの命に自らが率いた駆逐艦たちは全員初めての遠征、それも長距離練習航海と言うあくまで『練習』であること、そして駆逐艦の損傷具合と今後の艦娘としての活動に支障をきたす可能性があること、そのリスクを犯してまで得られるリターンが少ないこと、何より艦娘の生命を第一に考えるべきだと言う主張を持って提督に提案したのだ。

 

 しかし提督はその言葉を受け入れず、頑なに進撃を主張する彼と口論になった。その決着がつかず、堂々巡りに埒が明かないと判断した天龍ちゃんは「帰投する」と言い放って無線を切り、そのまま帰投したのだ。

 

 

 それは命令違反であり、帰投した彼女に待っていたのは彼の拳と言う制裁だ。海軍に於いて鉄拳制裁なんて日常茶飯事であるため、彼女はそれを何の躊躇もなく受け入れた。同時に、無断で帰投したのは自分の判断であり僚艦たちは巻き込まれただけだと言い張り、本来は受ける必要のない拳も全て受けた。

 

 その当時、提督も鉄拳制裁のみ(・・)。言ってしまえば殴られて終わり、それ以降は互いに引き摺ることなく職務を全うせよ、との教えが彼と私たちの共通認識である。故にその呼び出しは予想通りであり、ある意味予想外でもあった。

 

 

「小っせぇ器……」

 

「慎んでほしいのです」

 

 

 そう、天龍ちゃんは小さく溢しながら立ち上がる。殴って終わりが基本である場所に於いて、我らが提督はそれだけで気が済まなかったからだ。そしてその言葉を聞いたであろうその駆逐艦も、鋭い声で天龍ちゃんを諭す。まぁ、上官への暴言ともとれるその発言を秘書艦が見逃すことは出来ないからだろう。

 

 だがその言葉と共に向けられた視線は、その言葉とは全く違っていた。そこに在ったのは非難や憤怒ではなく、憐れむような哀愁を抱えていたのだ。今になって思う、恐らく彼女はそれ(・・)を知っていたのだろう。だからそんな視線を向けたのだろう、だからそれ以降も秘書艦であり続けたのだろう。

 

 

 だから、彼女は最期まで何もしなかったのだろう。

 

 

 そんな彼女の言葉を「へいへい」と軽く受け流しながら天龍ちゃん皿に残った最後の弾薬を掴み、親指でピンと上に真上に弾いた。弾かれた弾薬はピーナッツのようにクルクルと回りながら浮き上がり、やがて下へと落ちる。その最後は小さく開かれた天龍ちゃんの口に収まる。

 

 

「んじゃ、行ってくる」

 

 

 今なお残る弾薬を口の中で転がしながら、天龍ちゃんは気だるそうに席を立つ。その後ろ姿を、私は何も言わずに見送った。『心配ない』、と心の何処かでタカを括っていたことは認める。天龍ちゃんがあの提督に丸め込まされるわけがない、むしろ逆に丸め込めてしまうだろうと期待していたことも、彼女ならそれが出来てしまうと信じて疑わなかったことも認める。

 

 

 そして、それこそが私が犯した『最大級の罪』であると、認める。

 

 

 

 

 

「た、つ……たぁ……」

 

 

 その日の夜、天龍ちゃんは戻ってきた。蚊の鳴くような声で、涙でぐしゃぐしゃの目で、痛々しい青あざが残る顔で、盛大に引き裂かれた(・・・・・・)制服を抱えた腕で、抱えると同時に必死に隠している腕の隙間から見える青あざだらけの上半身(・・・)で。

 

 

 

 痛々しい青あざと共に、その白い太腿に残る赤い筋(・・・)で。

 

 

 それを見た所で、私の記憶は一旦途切れた。次にはっきりした時、私の目の前には提督がいた。彼の頬は赤く腫れており、そんな彼の襟を私の手が乱暴に掴みかかり、捻り上げ、片手には艤装の一つである薙刀を携え、その刃先を彼の目前に突き付けていたのだ。

 

 同時にありとあらゆる罵詈雑言を彼――――いや()に吐き出していた。上官に向けて良い言葉なんか一つもない、『非難する』なんて言葉では庇い切れないほどの汚い言葉をぶつけていたのだ。

 

 

 上官に暴言を吐き、暴行し、艤装の一つを向ける、そんなことをすれば軍法会議行きだ。いやそれ以前にその場で殺されてもおかしくない、それほどのことを私はしていた。だが、何故か奴は私にされるがまま、もっと言えばその顔に薄い笑みを浮かべてこう言ってきたのだ。

 

 

 

「どうだ? 良い罰(・・・)だろう?」

 

 

 それを、私は煽られたと判断した。そう判断し、突き付けていた薙刀を大きく振るった。今まで突き付けていただけのその目に、今度こそ突き立てるために。だが、それは叶わなかった。その瞬間、飛び込んできた二人の艦娘に止められたからだ。

 

 一人は奴の言伝を持ってきた、いわば引き金を引いた駆逐艦だ。彼女は艤装を装着しており、その手に砲門を携え、飛び込むと同時に私に向けてその砲門を向けてきた。

 

 もう一人は天龍ちゃんだ。部屋で見た格好のまま飛び込み、後ろに振りかぶった私の腕を掴んだ。涙でぐしゃぐしゃの顔で、蚊の鳴くような声を精一杯に張り上げてこう言ったのだ。

 

 

 

 『もう良い』――――と。

 

 

 その後、騒ぎを聞きつけた他の艦娘たちによって私は取り押さえられた。彼女たちも何が何なのか分からず、その場を抑えるためにまず私を止めたのだ。しかし私は彼女たちの手を振り払いなおも奴に襲い掛かり、最終的に首筋に鋭い手刀を受けて意識を失った。

 

 次に目を覚ましたのは翌日の朝、自室である。横には天龍ちゃんがいた。目を覚ましてすぐ彼女に詰め寄り、昨日の顛末を問いただし、その終着点を知る。

 

 私が意識を失った後、奴はこの騒ぎについては明日話すと言ってその場にいた艦娘たちを解散させたらしい。そしてつい先ほど、その説明がされた。

 

 昨日の騒ぎは、奴が設けた新たな試みを試したために起きた騒ぎである。その試みとは『出撃、及び遠征における任務の失敗した時、その中で最も責任がある者は鉄拳制裁以上の罰は何がふさわしいか』。

 

 

 そこで採用されたのが『身体を差し出す』こと――――――後に常習化する『伽制度』の始まりである。

 

 

 その発表に艦娘の殆どが反発した。駆逐艦から戦艦、果ては空母まで、ありとあらゆる艦娘が猛反発したのだ。それに意を返さず、奴は更に詳しい説明を続けた。

 

 後に修正されることになるが、この制度の対象は全艦種、駆逐艦も漏れずに含まれる。また該当艦がそれを行うに困難な状況下で、あれば他の艦娘が肩代わりすることも認める。更にその該当艦を決めるのは基本的に奴の判断に委ねられるも、自己申告によってその判断を覆すことも出来る。

 

 そう付け加えて説明されるも、艦娘たちの怒号が止むことは無かった。だが、次の瞬間それは一つの発砲音によって強制終了したのだ。

 

 

 奴の横で、黒煙を燻らせる砲門を頭上高く掲げた駆逐艦によって。

 

 

 

「ふざけてる」

 

 

 天龍ちゃんの口からそれを聞いた時、私が漏らした言葉だ。何がふさわしい罰だ、何が肩代わりだ、何が自己申告だ、何もかもが『ふざけてる』(その一言)で一蹴できてしまう。何の意味も強制力もない、ただの言葉じゃないか。

 

 何故皆それに従ったのか、何故たかだか駆逐艦一人の発砲によって引き下がったのか、何もかもが分からなかった。それ故に、私の身体は動いていた。

 

 

「龍田!!」

 

 

 動き出していた私の腕を、天龍ちゃんが掴んだ。あの時と同じように、また天龍ちゃんが止めたのだ。それに対して、私は彼女に視線を向け、その腕を振り払おうとした。

 

 何故止めるのか、何故誰も抗議しないのか。私たちは艦娘であり、上官である奴に従うのは当然だ。だが、ここまでされる理由もない、ましてこの上で従う筋合いもない、いざとなればここから逃亡することも出来る。だから、何故彼女が、いや他の艦娘たちがこの状況を受け入れているのか到底理解できなかった。

 

 

 私を止める天龍ちゃんの顔に、昨日には無かった(・・・・・・・・)あざを見るまで。

 

 

 

「天龍ちゃん、そのあざは――――」

 

「何でもない。ちょっと転んだだけだ」

 

 

 私の言葉を遮る様に天龍ちゃんはわざとらしく声を張り上げ、同時に掴んでいた私の手を引きそのまま抱き寄せた。そして、落ち着かせるように私の頭を撫でた。それは初めて出会った時、その場で泣き崩れた私を慰めてくれた時、それ以上のことをしてくれた。

 

 だけど、それは私の思考をフル回転させるだけであった。今しがた見た新しいあざ、そして先ほど天龍ちゃんから聞かされた、奴が付け加えた説明。

 

 

 『該当艦がそれを行うに困難な状況下であれば、他の艦娘が肩代わりすることも認める』

 

 『更にその該当艦を決めるのは基本的に奴の判断に委ねられるも、自己申告によってその判断を覆すことも出来る』

 

 

 そこまで導き出して、私の全身から力が抜けた。その身体を天龍ちゃんが支えてくれた。同時に、その腕に新しい傷を見つけた。それによって導き出した答え、それに頭が真っ白になる私に、天龍ちゃんは先ほどの話を続けた。

 

 駆逐艦の発砲によって静まり返ったその場で、奴はあろうことか彼女を殴りつけたのだ。突然のことに騒然となる一同に、奴はこう言い放つ。

 

 

「これが、お前らが怒号を浴びせ掛けた罰だ」

 

 

 そう言って、床に倒れ伏す駆逐艦に躊躇なく蹴りを入れる。何度も何度も、入る度にその小さな体が浮き上がり、今にも掻き消されそうな声が漏れた。それが聞こえなくなることはその命が途切れてしまうことを表している、誰しもがそれを理解した。

 

 だからこそ、それ以降誰も何も言わなくなった。何か言えば、その度に倒れ伏す命を踏み付けることになるからだ。それを察したのか、奴は彼女への『罰』を止めてその場を後にした。その直後、金剛が真っ先に駆け寄り、北上を引き連れ医務室へと運び込んだ、と。

 

 つまり、その駆逐艦がその場にいた全員の罪を被ったと言うこと。だからこそ誰も声を上げなかった、その理由は述べた通りである。そして、それは私も例外なく含まれているのだ。

 

 

 ただ、私の場合その『肩代わり』が駆逐艦ではなく私を抱き締めている存在だったこと。そして、その存在が肩代わりしたのが、『提督との伽(最大級の罰)』であったこと。

 

 

 その後、天龍ちゃんは何事も無かったかのように振る舞い続けた。だけど、それは誰もが虚勢だと見抜けるほどにボロボロであった。ふと気を抜くとボロが出てしまう、出てしまったそれを必死に取り繕うから余計惨めに見える。そしてそれは奴の前に立つほどに顕著に現れ、同時に奴が彼女に刻み付けた傷の深さをまざまざと見せつけるほどだった。

 

 そんなボロボロの虚勢を彼女は必死に守ってきた。駆逐艦から戦艦、空母まで誰とでもすぐに仲良くなれる。彼女の笑顔は人を惹き付ける、あまねくモノに等しく光を与える『太陽』だ。その虚勢こそが奴の下で日々を過ごす私たちに注がれるとてもとても暖かな陽であった。

 

 だからこそ、彼女は『太陽』であり続けた。あり続けなければならなかった。常に笑顔を浮かべ、周りを明るく、暖かく、照らし続ける『太陽』という()に徹しなければならなかった。深く深く刻み付けられた傷があろうと、彼女は『太陽』であることを求められたのだ。

 

 そして、『太陽』であり続けることがとてもとても辛いことであると、ずっと傍に居た私だけは分かってた。たまにはその役目をサボりたいことだってある、休みたいことだってある、全部分かっていた。だからこそ彼女が休める時を、場所を、機会を、私が作らなければいけなかった(・・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 

 天龍ちゃん(太陽)のためにその役目に取って代わる。ほんの一時、ほんの一晩だけでいい。太陽の代わりなれる存在、その光を受けなければ周りを照らすどころか存在すら無いモノとされる―――――『月』になる、いやなれるのは私しかいない(・・・・・・・・・・・)のだ。

 

 だから、決まって何かあった時はあの扉を叩いた。天龍ちゃんのミス、彼女が率いた駆逐艦のミス、或いは彼女を率いた旗艦のミス。それは大小様々であったが、『彼女に降りかかる』と言う点に絞れば全て対象だった。彼女に降りかかるそれを、身の丈ほどの火の塊から手で振り払えてしまえるほどの小さな火の粉、それら全てを消し去るために。

 

 そのために、その一点(・・)だけに。私は何度もその扉を叩き、中に招き入れられ、制服を(はだ)けながら、こう言ったのだ。

 

 

 

 『姉の肩代わりに来ました』、と。

 

 

 それを幾度となく続けた。内容は十中八九『伽』だ。時には鉄拳で済ませられるようなことも、私はそれで『肩代わり』した。彼は言った、これは最も責任がある艦娘に対する罰である、つまり最大級の罰だ。そして、この罰を受け入れることは犯してしまった失敗の責任全てをチャラに出来るのだ。

 

 こうすれば天龍ちゃんに降りかかる何もかもを無しに出来る、その一心だった。のちに伽が常習化しても、私は頑なに肩代わりし続けた。そのためにそっち(・・・)の技術も学んだ、正確に言えば数をこなした末の『成果』だ。他の艦娘はそれを『汚点』や『トラウマ』などと言うだろうが、私にとってはかけがえのない『成果』である。

 

 

 そして、私の『肩代わり』は天龍ちゃんにバレていた。出来れば気付かないでいて欲しかったが、自分が受けるべきものを悉く私が肩代わりしているのに気付かない方が可笑しい。でも、その願いが割と長く持ってくれたのが予想外だったが。

 

 まぁいい、ともかくバレた時は酷かった。いつものように『肩代わり』を終えて自室に帰った時、いきなり胸倉を掴まれた。そのままいつもの天龍ちゃんからは想像もできないほど憤怒に満ちた顔を向けられ、怒号に近い声で詰め寄られた。

 

 

 『なんでこんなことをした』、『おかしい』、『俺の罰だ』、『ふざけるな』、『お前が被る必要なんかない』、『馬鹿野郎』――――色んな言葉を投げつけられた。それはあの時、初代に詰め寄った私のようであった。それが何故か『やっぱり姉妹なのだ』と場違いにも思ってしまい、笑ってしまったのはよく覚えている。

 

 そして、その笑みに意味を見出せない天龍ちゃんが『笑いごとじゃねぇ』と言う罵声を向けてきた。だけど、それに、投げつけられたそれらに答える気は無かった。だって私は何も聞いてない(・・・・・・・)、貴女から何も聞いていない、貴女が『何故肩代わり』をしたのか、何も聞いてない。

 

 

 お姉ちゃんだって、何も教えてないじゃない。お姉ちゃんだって、勝手に『肩代わり』したじゃない。お姉ちゃんだって、何も言わずただ笑っていた(・・・・・・・)だけじゃない。

 

 

 

 ―――お姉ちゃんは、そのまま逝って(・・・)しまったじゃない―――

 

 

 そんな言葉を飲み込み、或いは含ませ言葉。それを私は、龍田は、天龍ちゃんに、お姉ちゃんに、優しいお姉ちゃんに――――『妹の我が儘』を言った。

 

 

 

「また、置いていく(・・)の?」

 

 

 





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