新米提督苦労譚~艦娘たちに嫌われながらも元気に提督してます~   作:ぬえぬえ

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『部外者』の役割

「さて、誰に頼もか?」

 

 

 廊下を歩きながら、うちが問いかけた。

 

 すると、後ろの方で聞こえていた足音が止まる。だが、それ以降何も聞こえない。

 

 

「……誰にする?」

 

 

 もう一度、同じ問いをしながら後ろを振り返る。そこには見知った3人がいた。

 

 

 一人は扶桑。先ほど見た涼しい笑顔で立っていた。だが、微笑むだけで何も発しない。それは自身の意見がないと、はたまた発言権を放棄したとでも言いたげな顔をしている。

 

 

 一人は夕立。扶桑とは対照的に、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。しかし、その瞳は(せわ)しなく動いており、口元もわずかに動いている。おそらく、必死に頭を巡らせているのだろう。

 

 

 一人は曙。ほかの二人と違い、目線を下げている。表情が見えないが、その握りこぶしは白くなるほど固く握後目られている。

 

 

 そして最後の一人。

 

 

 

 

「それ、私の前で言っちゃう?」

 

 

 一人だけ声を上げたのは、気まずそうな顔を浮かべる伊勢だ。彼女は無言を貫く三人を一瞥しながら、少しずつうちらから後ずさりしている。早く離れたいってことやろうな。

 

 

「かまへんやろ? どーせ勝てんし」

 

「龍驤さん!」

 

 

 気まずそうな伊勢にうちがそういうと、横から夕立が声を上げる。それを横目にしながら、うち―――龍驤は一つため息をついた。

 

 

「あれ見て分からんか? 司令官、ハナから勝つ気ないやん」

 

「そ、そんなことない!! テートクさんはここにいたいはず!!」

 

 

 うちの言葉に、一人噛みつく夕立。髪の毛が逆立っており、深紅の瞳で睨んでくる。おーおー、ホンマに犬やな。

 

 

「演習メンバーを勝手に決めて、それ以降なーんもせぇへん。百歩譲って選抜理由は考えてたみたいやけど、それ以外はサッパリや。挙句、うちらのことを第一に考えた選抜メンバーもすぐに変えてまうし、極めつけは代わりを見つけてこいと……これ、ホンマに勝ちたいって思っとるんやろか?」

 

「それは……」

 

 

 うちの言葉に、夕立も言葉を詰まらせてしまう。目線だけは忙しなく動かしているところ、とにかく言い返せる理由を考えているんやろうけど。

 

 でもな? いくら君が理由を用意したところで、肝心の司令官が口にしなきゃいけないんや。

 

 

「なぁ? 確かうちらが負けても、ここの運営は任せてもらえるんやっけ?」

 

「えぇ……あなたたちが希望すれば、ある程度の配慮するわ」

 

「せやな、ありがとー……つまり」

 

 

 伊勢の言葉を受けて、うちは改めて全員を見回す。曙はまだ俯いとるけど、まぁ聞こえるやろ。

 

 

「うちらが考えるべきことは、『負け方』やな」

 

 

 そう、うちらが考えるべきことは『負け方』。それも司令官無しでもここを守れる、ってことを証明できる『良い負け方』や。

 

 それができれば、ここは司令官がいなかった頃に戻る(・・)だけ。なんの変化もない、元鞘に収まるだけや。まぁ、以前に比べて状況は改善されている。これといったデメリットはない。

 

 

 そう、一切(・・)のデメリットがないんや。

 

 

「司令官がいなくなることは、特にデメリットにはならんからな」

 

「ッ……! りゅ――」

 

「同感だわ」

 

 

 うちの言葉に、夕立が何かを言いたげに詰め寄ろうとする。しかし、それは彼女の前にいた扶桑によって止められた。そんな彼女に何か言おうとするも、扶桑はうちへの同意を示しながらそれを封殺した。

 

 

 

「実際、彼が作戦の指揮を執ったことはあまりない。大体は旗艦に任せているし、編成も大淀や加賀――ほとんど艦娘(わたしたち)がやっているもの。そして、先のケ号作戦では彼が判断できなかったせいで大破進撃しちゃったわけじゃない。その危険性は、あなたたちが一番分かっているはずでしょ?」

 

 

 扶桑の流れるような言葉に、夕立は何も言えずに押し黙ってしまう。君たちには悪いがこれは事実や。まぎれもない、誰も覆しようのない事実なんや。

 

 

 一人だけそれを覆せる存在がおるけど、その本人が受け入れてるからな。

 

 

「やから、逆に伊勢(きみ)がおった方が都合がええんや」

 

「……つまり八百長しろと?」

 

「お、してくれるん?」

 

 

 伊勢のいぶかしげな言葉に、うちが笑顔で乗っかる。その瞬間、夕立がいる方向から洒落にならない雰囲気が飛んできた。なーんとなく、そこにもう一人の雰囲気も混ざっているような気がする。

 

 

「ジョーダンやジョーダン。さすがにそれやったら、ここ任せてもらえへんやろ? ただちょーっち、君んとこの司令官に口添えしてほしいだけや」

 

「……なるほどね」

 

「君たちだってええやろ? かつて反旗を翻した鎮守府を演習で圧倒し、文字通り傘下に収めた。うちがいうのもなんやけど、これで他の鎮守府―――他派閥にも何かしや優位に立てるはずや」

 

 

 うちの言葉に伊勢がものすごく微妙な顔をする。よう分からんが、組織っちゅうもんはそういった面倒くさいのがある。うまく利用されてやる(・・・・・・・)んやから、それに巻き込まれんよう配慮を求めても構わんやろ。

 

 お上の都合に振り回されない、いわゆる窓際ポジに収まれば御の字や。

 

 

 

「ねぇ」

 

 

 

 ふと、声が聞こえた。それは特段大きいわけでもなく、威勢がいいわけでもなく、他の音をかき消すようなものではなかった。

 

 だが、それを聞いた途端、その場にいた誰もが口を噤み、声が聞こえた方向を見ることしかできなかった。

 

 

 

 それを発した艦娘――――曙が、ポロポロと涙をこぼしていたからだ。

 

 

「へっ!?」

 

「曙ちゃん!?」

 

 

 うちが思わず声を上げると、傍の夕立が慌てて彼女に駆け寄る。曙は固く口を結び、その身体を震わせながらただ涙をこぼすだけ。

 

 うちも駆け寄りながらポケットからチリ紙を引っ張り出し、彼女の瞳に押し当ててその涙をぬぐう。それでも曙は一言も発することなくただ身を震わせ、その瞳から涙を溢れさせるだけだ。

 

 

 

 ―――ふと、横から視線を感じる。視線の方を見ると、半眼でうちを見る扶桑と伊勢。

 

 

 

「なんでウチが泣かしたみたいになっとるん!?」

 

「いや、泣かしたでしょ。どうみても」

 

「そうよ、龍驤が泣かしたわ」

 

 

 うちの言葉に伊勢と扶桑は表情を変えることなくそう言ってくる。いや君らだって黙っとったやないか!! 何も言わないのって同意してると同じことやん!! 千歩譲ってうちが泣かしたとしても君らも同罪や!!!

 

 

「……どうしたの?」

 

 

 

 次に飛んできたのは、まったく別の声だ。

 

 

 その方を見ると、廊下の曲がり角からこちらに近づいてくる車いすの加賀とそれを押す隼鷹。

 

 二人とも怪訝な顔で近づいてくるも、曙の様子を見たところでその表情が半眼に変わり、そしてうちへと向けてくる。

 

 

 明らかに、他二人と同じ目線だった。

 

 

「……龍驤、あなた」

 

「ちゃうちゃう!!! 待ってちゃうんや!! いや、ちゃうわけやないけど……ともかくちゃうんや!!」

 

「チャウチャウうるさい」

 

 

 うちの弁明をぴしゃりと叩き落とし、加賀は変わらず半眼、いや冷たい視線を向けてくる。いつもの間にか他二人も同じような視線を向けていた。

 

 

 うぉい!! お前ら!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あた、し、間違ってるの、かな?」

 

 

 だけど、うちの動きは嗚咽にまみれた曙の声が抑え込んだ。静かに彼女へ視線を向ける。

 

 なおも、その瞳から涙が溢れていた。その口から嗚咽が漏れ、時折しゃっくりのようにその身体が跳ね、そのたびにその涙が周りに飛び散る。

 

 

「迷惑、かな? 嫌か、な? やめた方が、いいの、かなぁ?」

 

「あけぼの、ちゃ、ん……」

 

 

 いつの間にか彼女の顔はその手で覆われ、その隙間から涙がこぼれた。支える夕立も、どこか声に震えが混じる。そしてその目に、うっすらと涙が湛えているように見えた。

 

 

 無理もない、彼女たちはずっと司令官がここに残るように尽力してきた。そのために走り回り、頭をひねり、言葉を尽くしてきた。

 

 だが、当の本人があの調子である。暖簾に腕押し、糠に釘と評される、まったく効果がない状態なのだ。手ごたえも感じず、ただ状況が悪化していくだけ。

 

 

 彼女たちは艦娘だが、それ以前に年相応の少女だ。先の作戦で精神面に大きな成長があったとしても、限界がくるのは当然だろう。

 

 

 やけどな、曙。残念やけど、君を慰めてくれる存在はここにはおらんのや。

 

 

 

「曙? 残念やけど、今考えるべきは『演習でどう負けるか』や。少なくとも、ここの運営だけは勝ち取らんとあかん。分かるな?」

 

 

 うちの言葉に、曙は嗚咽を漏らすだけで反応はない。夕立から涙交じりに非難の視線を向けられる。分かってる、言いたいことは分かってるけど、誰かが言わんとアカンやん。

 

 

 そういうのを今ここでできるの――――うち(・・)だけやんか。

 

 

 

 

 

 

「そうかな?」

 

 

 だけど、その声は突然やってきた。

 

 その場にいた誰もが顔を上げ、その声の方を向いた。

 

 

 

 

「……蒼龍」

 

「はぁ~い! 皆さんお揃いで~」

 

 

 その名を伊勢が発し、呼ばれた彼女―――蒼龍は朗らかな笑みを浮かべながら近づいてきた。こちらの空気は最大限に凍っているが、お構いなしに彼女は近づいてくる。

 

 

 

 なんというか、強メンタルやな。

 

 

 

「どうしたの?」

 

「提督が呼んでるよ。なんでも、処分してほしいものがあるんだって~」

 

「そ、そう……」

 

 

 顔を引きつらせながら声をかける伊勢に、蒼龍は笑みを浮かべたまま明るいテンションで話しかけてくる。なんというか、空気は変わってくれた。変わってくれたのだが……

 

 

「そして、曙……ちゃん? でいいかな?」

 

「は、はひ……」

 

 

 突然名前を呼ばれた曙は涙で真っ赤に腫れた顔を蒼龍に向け、弱弱しく答える。その姿に蒼龍はニコッと笑いかけて、スタスタと近づいていく。

 

 

 そして―――――

 

 

 

 

「大っ丈夫だよ!!」

 

 

 

 そう声を張り上げて、目の前にいた曙(+夕立)をいきなり抱きしめたのだ。

 

 

 

 突然のことに二人は避ける間もなく蒼龍に抱きしめられ、その豊満な胸部装甲に顔を包まれてしまった。顔全体が完全に包まれてしまっているようで、二人とも手足をじたばたさせている。

 

 ……あれ、息できないのでは? このまま窒息死するんやないか!!!

 

 

「ちょ!? なんやいきなりィ!!」

 

「だってぇ~泣いてたんですも~ん……元気にさせるには蒼龍のコレでしょう!!」

 

 

 ウチが大声を出して二人を抱きしめる腕につかみかかるも、びくともしない。正規空母の腕力ってこんな感じなん!? マジでびくともしないやんけ!!

 

 

「ちょ、マジで離しぃや~~~!!!!」

 

「だめですぅ~!! 悲しくてもおっぱい触っとけば何とかなるんですぅ~!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――あ‶? なんやとこの(アマ)、その脂肪引きちぎってやろうか。

 

 

 

 蒼龍の言葉に久々にキレちまったうちの鼓膜を、慌てたような伊勢の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「もしかして、あんた飛龍(・・)?」

 

 

 伊勢の言葉、それは今この場にいない艦娘の名前であった。

 

 だが、その言葉に反応した艦娘がいた。

 

 

 

 

「にっしっし! ご名答でござる!!」

 

 

 そう答えたのは、満面の笑みを浮かべた蒼龍(・・)だ。

 

 

 

 

 

 ……は?

 

 

 その場にいた一同が固まった。

 

 

 

 

「え~っとね、ちょっと説明するわね」

 

 

 そんな中で、一人だけ状況を把握しているらしい伊勢が語りだした。

 

 

 簡単に言うと、蒼龍は『二重人格』らしく、そのもう一つの人格が彼女の相方と言われた飛龍型航空母艦『飛龍』らしい。

 

 

 その略歴はこうだ。

 

 

 前の鎮守府で、蒼龍と飛龍は一緒の艦隊に所属していた。

 

 そして、その鎮守府で行われた作戦にで飛龍が轟沈。そのショックから蒼龍が倒れ、一週間ほど意識が戻らない状態になってしまう。

 

 そしてある夜、蒼龍が鎮守府から抜け出して行方不明に。その日の朝に蒼龍は見つかるも、その瞳は片方は蒼龍のもの、もう片方はその上に灰色が混ざったような色に変わっていたそうだ。ちなみにその灰色というのは飛龍の瞳の色らしい。

 

 

 やがて目が覚めた蒼龍は自分を『飛龍』と名乗り、それは先に轟沈した飛龍の人格が宿っていたというわけらしい。

 

 

 んで、それ以降蒼龍の身体には彼女自身と飛龍の人格が共存するようになったとか。

 

 

 

 

 

「いや、どういうわけや」

 

「あはっ! あたしもそう思~う!!」

 

 

 伊勢の説明にうちが思わず突っ込むと、その横で上機嫌な蒼龍(中身は飛龍)が人ごとのように笑っている。いや、何笑とんねん。キミのことやぞ。

 

 

「いや、そんなことあるん?」

 

「あるも何も、現にこうしているわけだし……ね?」

 

「そう! 私は身体は蒼龍!! 中身は飛龍型航空母艦『飛龍ちゃん(・・・)』でぇす!!!!」

 

 

 うちと伊勢のやり取りに横から割り込んでくる飛龍。そういって片目を瞑り、開いている方の目にピースを近づけ、更には舌を少し出して決めポーズをとる。なんやこいつ腹立つなぁ。

 

 

「……ちなみになんで君蒼龍(そこ)におるん?」

 

「さぁ? な~んか多聞丸の声に導かれた的な? まぁ、よく分かんない!!」

 

「このうっとうしさは?」

 

「このうっとうしさが蒼龍曰く、その飛龍(・・)らしいわ」

 

 

 あっけからんという飛龍を前にうちと伊勢で軽~く会話を続ける。心底疲れたような伊勢も頭を押さえながら答えた。

 

 

 キミんとこの鎮守府……扶桑の妹にあの工作艦に長門の妹に雪風の姉に――――面白枠しかおらんのかいな。

 

 

 

「何が、大丈夫なの……」

 

 

 すると、何処から声が聞こえてきた。一瞬、どこから聞こえてきたか分からなかったが、妙に鼻声だったので、声の主はすぐに判明した。

 

 

「ぼの、生きとったんかワレ」

 

「危うく窒息しかたけどなんとか……夕立は失神したけど」

 

 

 うちの言葉に曙は少し苦し気にこたえる。その横で同じく窒息仕掛けた夕立は白目をむいたままびくびくと身体を痙攣させていた。ただ、彼女はうわごとのように「おっぱい、おっぱいがいっぱい……」と抜かしているので、とりあえずそのままにしておく。

 

 

「というわけで……いやどういうわけ? まぁええわ、とにかく君は何しに来たんや?」

 

「伊勢に提督からの言伝を届けに来た!!」

 

 

 うちの問いに、元気よく答える飛龍。うん、それは知ってんねん。んで、それもう終わったやろ。

 

 

 うちが聞きたいのはその先――――何が『大丈夫』やってことや。

 

 

 

「それはね、ええっと……」

 

「ちなみに、あんまりテキトーなこと言わんほうがええで? キミ、部外者なんやから」

 

 

 そのなんとも場違いなテンションで言おうとしたので、改めて釘を刺しておく。

 

 

 ひどいこと言うけど、この中で飛龍は断トツで部外者や。

 

 うちらは己の進退がかかっているし、伊勢も聞くところによると司令官と昔か付き合いがあったらしいやん。それを踏まえて、今この場でまったくの影響が少ないのはこの面白空母(飛龍)だ。

 

 そして、この問題はこの場にいる存在では絶対に解決できない代物や。そこに部外者が関わろうもんなら、解決することはなくむしろこじれるのは目に見えてる。

 

 だからこそ、変に首を突っ込まれるとややこしくなるやんか。

 

 

 

 

「な~に言ってんの、『部外者』だからこそ言えんじゃん」

 

 

 うちの言葉を、飛龍は真顔でそう返してきた。至極当然のことをいうように、あっけからんとした表情で。その顔をうちに向けていたが、すぐに人懐っこい笑みを浮かべて曙に向き直った。

 

 

「まずね、曙……ちゃん? でいいかな? いいよね! まぁ、曙ちゃんがやってることが間違っているかどうかなんだけどさ……ホントに間違ってる? あなたの提督だって、本当は『やりたい』って思っているかもしれないじゃん」

 

 

 本当にあっけからんと、本当に他人事のように、飛龍はそう言い放つ。その言葉に、誰も何も発することができなかった。それは直接向けられた曙もそうだし、伊勢もそうだし、うち(・・)もそうだ。

 

 

「可能性は知らないよ? 思ってないかもだし、99.99999%はやめたいって思ってるかもしれないよ? でも、100%ではない(・・・・・・)んでしょ。まだ0.00001%は思っているかもしれないじゃん。そんな運がいい――――『奇跡』みたいなことがあるかもしれないじゃん」

 

 

 ……なんや、ホンマに無責任な発言やんか。だけど、不思議とその言葉を遮ろうと思えなかった。それはうちだけではなく、他のみんなもだろう。

 

 

「そんな『奇跡』みたいなことがあるわけないって思っているかもだけど、現に()はここにいるよ? ありえない『奇跡』みたいな存在がここにいるんだよ? あなたがこの前成功させたケ号作戦だって、『奇跡の作戦』じゃん。少なくとも、あなたは『奇跡』を起こしてるわけじゃんか。そして―――」

 

 

 そこで言葉を切った飛龍は、何処か不敵な笑みを浮かべて曙に顔を近づけた。

 

 

「あなたは奇跡(それ)を、意図的(・・・)に起こしたはずだ」

 

 

 その言葉を受けた曙の顔が変わる。困惑したものから、何かを気づいたものに。それを受けて、飛龍は満面の笑みを浮かべる。

 

 

 だけど、その表情は急に気の抜けたものになる。そして、その表情は先ほどの勝気なものからどこかほんわかしたものに変わった。

 

 

 

「ッえ!? あ、曙さん⁉ なんであたし抱きしめてんの!?」

 

 

 そして、急にそんなことを叫び出す飛龍。ふと横の伊勢を見えると、目が合った。そのまま静かにうなずかれる。つまり、今は『蒼龍』なんだろう。

 

 

 そして、蒼龍になった蒼龍(?)は抱きしめていた曙を離そうとするも、なぜか離れなかった。そして、そのまま彼女の顔がわずかに歪む。そこに苦痛はないみたいだ、なんか様子がおかしいけど。

 

 

「……うん、コレ(・・)侮れないわね」

 

「ちょ、ちょっ、んん! あ、曙、さぁあん!」

 

 

 なぜか蒼龍の抱き着きながらいろいろともてあそぶ曙に、それにもてあそばれる蒼龍。よく見たら、いつの間にか起きた夕立も同じくもてあそんでいた。おい、お前ら。

 

 

「よし、ありがとう飛龍さん。ちょっと元気出た」

 

「ぽい。また触らせてほしいっぽい」

 

 

 存分に堪能したのか、駆逐艦二人はそういってさっさと蒼龍から離れると、駆け足で何処かへ行ってしまった。その後ろ姿をぽかんと眺める一同―――――その中で一人顔を赤らめながら胸の前で手を組む蒼龍がこちらにジト目を向けてきた。

 

 

 

「あの……もしかして飛龍ですか?」

 

 

 その言葉に、その場にいた全員が無言で頷く。すると、蒼龍は額に青筋を浮かべて立ち上がった。

 

 

 

「ちょっと飛龍! 勝手にあたしの身体使わないでしょ!! 使う時は一言言うって約束じゃない!!」

 

「えぇ~別にいいじゃ~ん。大体蒼龍ばっかりなんだし、たまにはあたしだって動きたいよ~」

 

「そういうことじゃなくて!! なんで途中であたしに変わるのよ!! 動くなら最後までやってよ!!」

 

「まぁ? いいじゃんいいじゃん!! 蒼龍のおっぱいは最強なんだから!!」

 

「嬉しくないこと言うなぁああ!!!!」

 

 

 そこで繰り広げられる一人二役の喧嘩。いや、マジでどういう状況? なんか体の向きが変わるごとに人格が変わって言い合いしてるけどさ。

 

 なんなん? どういう芸当? 顔半分で男女分かれてる某怪人か?

 

 

 

「えっと、蒼龍? 飛龍? その、この後空いてる? 少しお話ししたいのだけど……」

 

「え、あ、加賀さん!! お久しぶりです!! 良いですよ!!」

 

「おぉ!! 加賀さんだぁ!! お久しぶりっす!! 全然空いてますぜ!!」

 

 

 そんな怪人崩れに顔を引きつらせながらお話に誘う加賀。その後ろにいる隼鷹も加賀以上に顔を引きつらせているが、これ以上面倒くさくならないように何も突っ込まない。そのままやかましい二航戦を引きつれて、自室へと戻っていった。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 そして残された三人の間を走る沈黙。あの、この空気どうしよか?

 

 

「あの、伊勢さんや……とりあえずまぁ、なんか、よろしく頼むわ」

 

「え、えぇ……うん、分かったわ……その、扶桑さんもよろしく……」

 

「……えぇ、じゃあお先に失礼しますね」

 

 

 三人の中でそんな会話が交わされ、ふいに歩き出した扶桑を皮切りに各々が分けれてこの場を去っていく。

 

 どっと疲れたのか、無意識にうちは深い深いため息を吐いていた。そして、同時にこんな言葉も漏らしてしまったのだ。

 

 

 

 

「『うち』と一緒のくせに……ズルい動きするなぁ」

 

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