ダンジョンを本気で攻略するのはまちがっているだろうか?   作:虎馬

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1.冒険の第1ページ

 歯を剥き出しにして飛びかかるコボルトの攻撃に対し剣を持ち上げつつかわしそのまま側面から首筋に剣を振り下ろす。側面への回避から首筋への振り下ろしによる一撃必殺。

断続的に戦闘がおこなわれるダンジョンにおいて一体の敵にかけられる時間は短ければ短いほど良い。そう思って身に付けた戦い方だったがひきつける距離や回避から攻撃に移るタイムラグ、そして威力や精度に至るまで改良点は多い。

 コボルトが魔石を残して灰になっていく様を尻目に剣を構え直して周囲を見回す。残敵無し。無傷で戦闘が終了した事を確認して大きく息を吐く。

「まだまだ先は長い」

 迷宮都市オラリオ、その『地下第一層』で俺は女神からの最初の試練に挑んでいた。

 

 

 

 冒険者となって既に三カ月、未だに第二階層へと行っていない事を担当のアドバイザーからは「随分と慎重なのですね」とやや驚かれてしまったが、これはあくまで主神の指示に従った結果だ。断じてビビって尻込みしている訳ではないとやや熱くなってアドバイザーに語ってしまったが、これは仕方の無い事だろう。その後アドバイザーさんからも「眷族思いな良い主神ですね」と言ってもらえたし。

「小枝を振り回す程度の事しかしたことの無い田舎者、そんな奴が武器と防具を身につけたからと言っていきなり戦えるはずがないだろう?」との主神の言葉に頷いた俺はひとまず剣を使って倒せるようになる事を目標に据えた。幸い主神は武術の心得があるとかで冒険者になって最初の頃は危険の無いようにとマンツーマンの立会稽古を行ってくれた。

 勿論最初は色々な意味で打ち込みに迷いがあったものの、どれだけ本気で打ちかかっても軽々と避けつつ隙を見て明らかに加減して打ち込んでくる姿を前に遠慮が消えるまで時間はかからなかった。暫く稽古をつけて貰い、ある程度動けるようになったところで漸く半日だけダンジョンに潜る許可を貰えたのは半月ほど経ったころだったか。相手の攻撃に反応して防ぐ技術と剣を振って当てる技術がついたから最低限生き残る事は出来るとの御墨付きを貰った。その後は稽古の復習としてゴブリンやコボルト相手に剣を振り、昼になったらホームで食事をとり反省会を行い日が落ちるまで稽古、そして翌日はその成果を試してまた帰るという日々を過ごしていた。主神の指導が的確だったのだろう、ゴブリン程度なら3体まではまとめて相手取れるようになっていった。

 

 倒せる相手は可能な限り一撃で仕留めろ。戦いは多少雑でも素早い方が優秀であるとはそんな我が主神の最初の教えだ。他にも「真剣勝負は常に致命傷を受ける危険がある」「獲物を前に舌舐めずりするようでは長生きできんぞ」「戦いは勢いだ、相手に主導権を譲るな」「複数との戦いは一対一を延々繰り返せ」「戦いに使うのは武器だけではない、全てを武器にする努力をしろ」「仕留めた瞬間こそが最大の隙となる」「モンスターがいないだけで油断するな、ダンジョンそのものが敵だと思え」と事ある毎に助言を受けた。ダンジョンで起こった出来事を報告し、それらに対して助言を授かり、ダンジョンで実践し、ホームで報告してまた稽古。そんな日々を繰り返す中で気付けば全くの無傷で帰還する事も増えてきていた。

 これはある意味当然だろう。

多くの冒険者が半ば素通りするような難易度の第一層で三カ月も居座るなどそもそもおかしいのだから。

 主神も無傷で帰還する俺を見てそろそろ頃合いと見たのか、あるいは遅々として進まない攻略に俺が焦れているように見えたのだろうか、

「第二層への正規ルートを進み、階層をつなぐ通路を見たら今度は大周りでダンジョンの入り口に戻る。これを無傷で出来たのなら明日から第二層へ行っても構わない。ただしかすり傷一つでも負ったなら未だに攻略できていない物とみなしてもう暫く第一層で頑張るといい」

と、ついに第一層卒業試験が与えられることになった。

 

 

 

 とりあえず行きは問題なかった。

 冒険者の多くが使用する正規ルートではモンスターは道すがら始末されている為長生きできない。モンスターの出現数が少ない上層でしかも人の出入りが激しい正規ルートなどモンスターに会う方が稀な程だとこの三カ月でよくよく思い知った事実の一つだ。偶々出くわしたゴブリン一体を攻撃させる間もなく斬り伏せただけで第二階層へとつながる縦穴に辿りついた俺は少しだけ深呼吸して気合いを新たに大周りの復路にとりかかる。

 今までの経験上ゴブリンは鈍間な上に打撃程度しかしてこないため複数体まとめて相手取っても噛みつきにさえ気をつければ無傷で切り抜ける事が出来る。しかしコボルトが複数体来た場合は厳しい。当たり所が悪ければ致命傷になりうる噛みつきが危険なことは勿論だが、両手にある鋭い爪が今回の試練の最大の焦点になるだろうと見ていた。

 曲がり角などで至近距離での遭遇戦になればロングソードの俺では爪を立てられる可能性がある。その程度で致命傷になるはず無いとはいえ、今回は無傷での帰還が課題である以上警戒しておかなくてはならない。曲がり角の度に大きめに迂回して不幸な一撃を回避し続けた御蔭か復路も半ばを過ぎめでたく試練達成が見えて来た頃、しかしというべきかやはりというべきか、最後の広間で三体のコボルトと遭遇してしまう。

 

 

 剣を構えつつ現状打破の方策を考え、これまでの経験を頼りに答えを引っ張り出す。

 まず避けるべきは挟まれる事だ。

 挟撃をさせないように、その上で振り回される手で引っ掻かれないようにするにはどうするか。

 

 後ろの通路に戻り囲まれないようにしてから戦うか?

万一そこで後ろから来た場合は四体がかりで挟撃を受ける危険がある、却下。

 

 一息に襲いかかって一体仕留めて二対一に持ち込んで見るか?

相手が既にこちらに気付いている以上奇襲にならず攻撃した一体は倒せても残る二体から打ち終わりを狙われる、却下。

 

 位置取りを調整しつつ隙が少ない攻撃で数を減らしていくか?

少し時間がかかるが運に任せるよりは良い、何より試練の最後を飾るならこれだ!

 

 見通しのいい広場での迎撃を決意し通路を出て前進、剣を構えて距離を縮めにかかるとこちらに気付いていたコボルト達も我先にと襲ってくる。

 連携を取るほどの知能は無いようだが、偶然にも真ん中の一体を先頭に三角形の陣形になっている。これでは先頭の一体を斬り伏せる間に左右からの同時攻撃にさらされてしまう。ならば、

 

「ブギャッ?!」

 

 剣の刃ではなく腹の部分で先頭のコボルトの顔面を強打、更に相手に当てた反動で剣先を浮かせて踏み込みつつ左側面にいたコボルトめがけて水平に寝かせてある剣を強引に振りぬく。

 防御という概念が薄いせいで顔面への直撃を受けた先頭の個体は痛みに悶絶、剣の刃で斬りつけられた左方の個体は二の腕から胸部を深く斬りつけられて重症。倒せてはいないが速攻で一体を戦線離脱に追い込んだ上にもう一体も怯ませる事が出来た、上々の戦果だ。もっと腕力があり踏み込みが十分なら先頭のコボルトは頭を粉砕し二体目も両断されていただろうが、今後の課題だ。もっとも残る右方のコボルトは顔面を強打された個体が間に立ち塞がっており直ぐにはこちらに襲いかかる事は出来ない状態に出来たため予定通りではあるのだが。

斬り伏せられた個体が崩れ落ちる様を横目で確認しつつ脇を踏み込みの勢いのまま駆け抜け残る二体に向けて構えを取る。

未だ打ちすえられた顔を押さえる個体を押しのけ未だ無傷の個体が襲いかかってくるが一対一であれば驚異足り得ない。位置取りを整えつつしっかりとひきつけて側方に回避、振り下ろし、斬首。灰になる三体目を余所に痛みに激昂した最後の戦えるコボルトが飛びかかるが距離は十分にとってある。振り下ろしたロングソードの向きを変え斜めに切り上げ、一閃。胸部を深々と斬り込まれたため魔石を砕かれ瞬時に灰に還る。

 

 振りぬいた姿勢から即座に構え直し周囲を見渡すが残るは横薙ぎで重傷を負った瀕死のコボルト一体のみ。最後の最後にケチがついてはかなわないと慎重に近づき確実に止めを刺して戦闘を終了した。

 

 さすがにそれ以上の敵に襲われるという不幸は無く無事に地表へ辿りついた俺はゆっくりホームへ帰りつつ主神への報告内容を考える。一先ず無傷で一階層を一周する事が出来た事、最後の戦いで相手をこちらの勢いに乗せたまま倒せた事、精進が足りず一撃で仕留めきれない場面があった事、毎回ダンジョンへ潜る度に行う報告会だが今回も話す内容が多そうだ。今後の稽古の内容は今回の反省を踏まえて更なる威力の強化と立ち回りの改良が課題か、あるいはもっと別のテーマを与えられるのか。

「女神様、モルド=レンド只今帰還しました!」

 勢いよくドアを開け主神の待つホームに戻る。自称『宇宙一強くて賢い女神様』はきっと更に強くなる方法を提示してくれるに違いない。そして女神の導きによって新たな力を得て次なる冒険に挑む。俺の冒険譚の新たなる1ページが刻まれる。

 

 

 

冒険者  モルド=レンド

冒険者期間 三カ月

最深到達階層 1

 

これは英雄を目指す青年と

英雄を育てる事が趣味だという自称宇宙一強くて賢い女神が

本気でダンジョンに挑む物語。

 

 




 連続投稿で1話です。続きは鋭意執筆中。
 基本的に今回のようなモルド視点のダンジョンアタック編と女神視点で戦力強化を行う地上編を交互にやっていけたらと考えています。

 ダンまち二次においておそらく最弱ではなかろうかというこの主人公ですが、さすがに本気で一階層の攻略に三カ月もかかったわけではありません。普通にやれば一週間かそこらで二階層に行ける程度の一般的な資質と才能はあります。自称凡人(笑)にするつもりはありませんがそこそこ強くなってもらう予定です。そうしないと話も進みませんので。
 ではなぜこんなに時間がかかったのか?
 それは次回ステータスやスキルと併せて地上編で女神様本人に解説してもらう予定です。その際にちょっとした独自解釈等も含まれます事を予めご了承ください。
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