ダンジョンを本気で攻略するのはまちがっているだろうか?   作:虎馬

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 週一で投稿して行きたかったのですが色々な意味で苦戦してしまい随分時間が経ってしまいました。
 今回も泥臭く戦ってもらいます。


3.表層の冒険 (1)迫りくる死の影

 第一層の突破試験を終えて早二月、新調した装備と長すぎる第一層での経験のおかげか早くも第二層を突破、そのまま三階層もある程度の被害に抑えて周回出来るようになってきていた。これは俺の剣の腕前が上がったというわけではなく、単純に装備の性能が格段に上昇した事が大きな要因になる。

 第一階層突破の御祝に買い与えられた長剣は二種類の金属を用いて先端部分に重心を偏らせた特殊な剣だった。主神曰く「これは剣の形をした斧」だそうで、実際に勢いよく振り回した一撃は硬い鱗で覆われたダンジョンリザードを容易く両断する事が出来た。そしてゴブリンやコボルトにいたっては縦に両断することすら可能だった。これによって悩みのタネであった威力不足を解決し戦闘時間の更なる短縮につながった。ただし斧の様な剣というだけあり小回りが利かず敵に囲まれた時にはタコ殴りに会う羽目にも幾度かなったが。

 そんな斧剣を主装備にしたためこれまで以上に敵に囲まれないように気を使う立ち回りをしなくてはならず、三階層を安定して周回出来るようになった今でも新たな戦い方の試行錯誤を繰り返していた。

 

 攻撃をしようと真っ先に襲いかかるコボルトの横をすり抜けるように移動しつつ横薙ぎで胴体を叩き斬り、そのまま敵の囲いの外側へと飛び出る。逃げた獲物を忌々しそうに追うゴブリン達に軽く蹴りを入れて動きを阻害し纏めて横薙ぎで斬り伏せる。隙が大きく細かい制御も利かないが威力は十分すぎるほどある。前の長剣では二体目で刃が止まっていただろうが、これなら三体纏めて両断する事すらできる。横薙ぎの勢いのまま切っ先を背中まで回して上段の構えに移行しておく。構えを取って状態で迫りくるダンジョンリザードを待ちかまえ、間合いに入り次第振り下ろす。狙い違わず剣は深々と胸部を斬り裂きそのまま魔石を打ち砕く。

 敵に囲まれた時の対処法を研究しようとあえて複数の魔物に囲まれた状態で戦ってみたが、まず動きの速い敵から確実に仕留め、強振が必要な硬い敵は最後に回しておけば凡そ攻撃を受けることは無くなった。

 やはり戦いは一撃必殺、男のロマンだ。

 そもそもこの斧剣を使う以上仕留められなければ反撃を受ける事は確実である以上、可能な限りは一撃で仕留めなければならないという切実な事情もあるのだが。

 ともかく第三階層の突破までに身につけておくべきと言われた技術は不完全ながらも身についてきたように思う。頑丈な鎧の御蔭で怪我らしい怪我もない。主神は少々不安げであったがそろそろ四階層に向かってしまうとしよう。

 

 この判断が所謂慢心というものだと思い知るまで僅か三日であった。

 

 

 

 最初の二日間は問題なかった。新たに出現するようになった犬型の魔物であるグレイハウンドも蹴りや引き付けてからのサイドステップで十分処理できていた。問題が起きたのは四階層の半ば、広間にさしかかったときだ。

 

 最初は別の冒険者と出くわしたのかと思った。それが間違いだと気付いた時も見間違いである事を思わず祈った。しかしどれだけ祈ろうと現実は変わらない。祈りを捧げる神様は今地上にいるのだから。

 

―――――かつてない強敵の出現に背筋に冷水をかけられたような錯覚すら覚える。

 

 立体化した影とでも言うべきその異様、両手に伸びる長く鋭い三本の爪、五階層から出現し多くの駆け出し冒険者を葬ってきたという悪名高き魔物、ウォーシャドウがそこにいた。

 

 

 その姿を認めて最初に取った行動は逃走だった。これは三階層に潜り始めた頃から主神に言われていたからだ。今の俺だとまともな方法では勝てない。勝てたとしても無傷では済まず、無事に帰還する可能性は低いだろう。稀に上の階層に上がってくる可能性があるから気をつけろと繰り返し言われ続けたからこその即断であった。

 ウォーシャドウに背を向け脱兎のごとく駆け出す。帰還を果たして主神に慢心していたと話し御叱りの言葉を受けよう。半ば現実逃避に近い思考が頭の片隅に浮かぶが体は全力で撤退を図っていた。

 

 しかし、大して走る事もかなわず背後から風切り音が迫る。

 

 咄嗟にかがみこんだ頭上を鋭い斬撃が通り過ぎる。

甘かった。甘すぎた。体勢を崩しつつも地面を踏みしめ背後を覗き見る。

眼前に迫るウォーシャドウ、振りぬいた右腕、振りかぶった左腕?!

「くっ!」

 間一髪振り下ろし剣の腹で受け止めるも全力疾走中に無理やり反転した上に攻撃を受けた衝撃もあり大きく体勢を崩してしまう。無様に転倒してしまうがその鼻先に振り下ろされる爪を見ればむしろ幸運だったと思うべきだろう。無理やり留まっていたなら脳天に振り下ろされていた。

 獣のごとく四肢を地面に着けて体勢を整える俺を前に渾身の一撃をかわされたウォーシャドウが立ちはだかる。

 

 一先ず逃げられない事はよく解った。悲しいかな敏捷性が違いすぎる。

そして逃げられないなら仕方ない。

殺られる前に、殺れだ!

 

 己を鼓舞し、逃走から闘争へと意識を切り替る。

 

 敵が強い?上等だ。俺は元々強い魔物を倒す英雄になりたくて冒険者になったんだろう。だったら倒してしまおう。逃げようとはしたが逃げられなかった、主神にはそう言えば良い。

 覚悟を決め素早く上体を起こし、両手で剣を握りしめ情報をかき集める。

 

―――――背筋に走る寒気が全身に這いずりまわっていく感触すらある。二の腕が、首筋が、両足が痺れるような感覚に襲われていく。

 

 脅威は長く鋭い両手の爪。多少腕が伸びるそうだが予備動作はあるのか?モーションは?きちんと肩口から腕は動いているのか?先に振るのは右か左か?

 下げた両腕をゆらりと上げ、右。無造作に振われる爪撃を剣の腹できっちり受け止める。視界の端で振り上げられる左腕が映り軽く下がりつつこれも防ぐ。引き戻された右腕が、更に追撃の左腕が、それらを無心で防ぎ続ける。

 

 必死に頭部や胸部といった致命的な部位を守るが、両手の爪対剣一振りであるため手数で劣る上根本的に速度が違う。少しずつ、だが確実に全身に爪痕が刻まれていく。鎧は切り刻まれその下の肉体へも着実に爪が届き始める。傷痕はジクジクと熱を帯び必死の防戦と相まって全身に火がついたように熱くなっていく。しかし体の熱気も疲労も痛みですら思考からは次第に除外されていく。ただこの魔物を討取る事のみに全身を集束させる。

防御に徹しつつ観察する限り左右の腕を交互に振い速度に任せて攻撃を繰り返している事が解る。そして攻撃する場所や勢いについては振りかぶる腕の角度などである程度予測も出来る。普段から圧倒的格上である主神との打ち合いをして目はそれなりに鍛えられている御蔭だろう、後退を続ける足元も次第に歩幅が狭まっていく。

 押しきれない事に焦れたのかウォーシャドウの攻撃は更に加速していく。肩、首元、手首、太腿、側頭部と上下に散らし防御を崩しにかかるが、こちらも必死に受け、捌き、かわし、そして致命的でない攻撃は歯を食いしばって受け続ける。

 

 防御に徹し狙うは攻撃と攻撃の狭間。こちらが攻撃を指し込む瞬間をひたすら待ち続ける。

 

 そして好機は来る。

 一向に仕留めきれない様子に業を煮やしたのか、目標を変え刀身目掛けて鋭い一撃が迫る。

 剣を体に引き付けるようにして攻撃を空転させつつ反対の腕を見ると、防御が出来なくなったところを狙っていたのだろう大きく振りかぶった姿が目に入る。

 素早く相手の胸元に切っ先を向ける。

 放つは最短最速の一撃、刺突。狙うは魔物の急所、胸元の魔石。

 

 相手はまだ振り下ろしの動作に入っていない。仮に同時に放ったとしても振り下ろしより刺突が先に届く。

 

 地面を踏みしめ必殺の一撃を放つ。

 

 

 

取った!

 

 

 

 乾坤一擲の一撃、胸元を抉り魔石を砕くはずだったその切っ先は僅かにずれてしまう。

 

 否、ずらされた。

 

 振り切った腕を戻し際に刺突の軌道線上に捻じ込み片腕を犠牲に急所の胸元を僅かに逸らしてのけた。

 

 無論それだけでは済まない。

 驚愕に目を見開く俺の視界に振り下ろされる腕が映り込み、反射的に顔を背けるが肩に深々と爪が食い込む。

 

「がああああああああっ!!」

 

 人生初とすら言える激痛に思わず絶叫する。それでも剣を手放さなかったのは冒険者の本能だろうか。

 

―――――背筋にジリジリと焼けつくような感覚が走り、全身を寒気が駆け巡る。

 

 出血の影響か必勝の一撃を避けられた焦燥故か、下がればこの全身を襲う冷気に何かを持っていかれるという漠然とした恐怖から逃げ出すように前へ踏み出す。

 剣を握りしめ歯を食いしばり我武者羅に眼前に迫る死に剣を捻じ込んでいく。

 ウォーシャドウも押し込まれ抉られる度に苦悶の声を上げ残った左腕を振り回す。背中や後頭部を幾度も斬り裂かれつつ、しかし背後に迫る死の影から逃れるべく更に斬り込む。

 

 どれだけ押し込んでいったのか、気付けばウォーシャドウの腕は動きを止めダンジョンの陰に磔にされていた。

 

 おそらく叫び続けていたのだろう、荒い息を吐く俺の前で崩れ落ちるようにして灰になっていくウォーシャドウ。

 

 余力がないせいでよろめくように距離を取る俺の前で魔石とこの肩を抉った鋭い爪がこぼれ落ちる。

 

 足元の戦利品を見て自分が生き残った事をようやく実感した俺はゆっくりと剣から手を離し、凍りついた思考のまま震える手でポーションを取り出して頭からかぶる。

 そしてそのまま暫く呆然と足元の敵であったものを眺めていた。

 

 




 という訳で思ったより時間がかかりましたが、表層編その1でありいきなり中ボス戦をお送りしました。戦闘シーンがくどいとか言われないか今から心配ですが・・・。
 ともかく、戦ったウォーシャドウが強そうに見えたなら幸いです。

 二次界隈ではやられ役にすらしてもらえないこいつも駆け出し冒険者にとっての脅威として知られているそうですし、普通の冒険者ならそれなり以上に苦戦するだろうという思いがあります。
 今後ともこういった普通は見向きもされないような魔物に焦点を当てていきたいと思っています。そしてゆくゆくはダンまちのヒロインと名高いあの方も・・・!
 次回からは少々趣向を変えて仲間を増やしたりいい加減ステイタスの更新をしたりまた防具を買ってフラグを建てたりしていく予定です。
 少しずつ(極僅かずつ?)強くなっていくモルドをこれからも応援してもらえれば幸いです。


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