飯も食べ終わり、ホテルの前で集合。
「周りから見たら私達どう見えるかな……」
「知り合いからですら男に見られるくらいだからな。男友達に見えるんじゃないか?」
「そういえば、八幡は私のこと初見で私だってわかったよね。なんで?」
「いやそりゃ自宅から出てきたからな」
「ふーん……」
「逆にお前は俺だって分からなかったよな。いや別になれてるんだけどさ」
「いやアレは冗談だよ。てか本当に分かってなかったら、家の前でずっと待ちぼうけしてたし」
「それもそうだな」
「……ねぇ、私一応しゃべんないほうがいいかな?」
「あー……まぁ、男役ってんならそうかもな。その辺は雪ノ下が指示するんじゃねぇの?」
「それもそっか。ていうか、さっきのラーメン美味しかったね。調子に乗って替え玉しちゃったよ」
「そりゃよかった。俺の千葉ラーメン名所の一つだからな」
「なら、今度は私の千葉ラーメン名所を……」
「駅の裏のコンビニの横なら知ってるぞ」
「ええっ⁉︎なんで分かったの!」
「そりゃ、一番目につきそうな所にあるからな。というか、転校してきたばっかで俺に千葉ラーメンについて挑むのは10年早い」
「ぐぅ……埼玉ラーメン屋なら負けないもん!」
「俺は千葉から出るつもりはないがな」
なんてほのかに盛り上がってると、ヴーッと八幡の携帯が震えた。
『今着いたけど、もういるー??』
結衣からのメールだ。今着いた、との事なので周囲を見回してみる。
「お、お待たせ……」
結衣と雪乃がドレスを着て立っていた。
「おおー!2人ともめっちゃ美人!……私も着てみたかった……」
テンションが上がった直後に下がった。
「てかすっごいよ、ゆきのんの家。こういうドレス何着もあったし。マジゆきのん何者⁉︎」
「別に。こういうのはたまに着る機会があるから持っているだけよ」
「普通はそういう機会がないんだけどな」
なんて他愛のない話をしながら4人はエレベーターに入った。
ガラス張りのエレベーターで、上に行くたびに東京湾が見渡せるようになった。で、最上階に到着。
「おい……、おい、マジか。これ……」
八幡がバーの雰囲気に圧迫される。やっば帰んない?みたいな感じのアイコンタクトを送ると、結衣も千尋もぶんぶんと頷く。だが、雪乃はそれを許さない。
「キョロキョロしないで」
ヒールで八幡の足を踏ん付けた。
「いっ!」
「早川さんも聞いて。背筋を伸ばして胸を張りなさい。顎は引く。由比ヶ浜さん、早川さんの左肘を私と同じようにして」
言われるがまま、結衣も千尋も従った。
「では行きましょう」
雪乃の合図で中へ進んだ。ギャルソンの男性が頭を下げ、端の方にあるバーカウンターへと導く。そのカウンターの奥には、見覚えのある女性がグラスを拭いていた。
4人は席に着いた。
「川崎」
八幡が声をかけると、川崎はちょっと困った顔をした。
「申し訳ございません。どちらさまでしたでしょうか?」
「同じクラスなのに顔も覚えられてないとはさすが比企谷くんね」
「や、ほら。今日は服装も違うし、しょうがないんじゃないの」
雪乃の一言に結衣がフォローする。
「雪ノ下……」
「こんばんは」
「ど、どもー……」
「由比ヶ浜か。一瞬わからなかったよ。じゃあ、彼らも総武高の人?」
「あ、うん。同じクラスのヒッキー……比企谷八幡と、C組の早川千尋」
「初めまして。よろしくね川崎さん」
まったく臆することなく千尋は微笑みながら挨拶した。それを見て、川崎はふっと微笑んだ。
「そっか、ばれちゃったか」
特に変な言い訳する事もなく、川崎は言った。
「何か飲む?」
「私はペリエを」
雪乃のその解答を聞いて、結衣が言った。
「あ、あたしも同じのをっ⁉︎」
「あ……」
先を越され、八幡の口からは何も出ない。
「私はシンデレラ!」
どこかで聞いたことあったのか、得意げに答えた。
「早川さん、お金足りるの?」
「えっ?1000円以内じゃ買えない?」
「川崎さん、早川さんには辛口のジンジャエールを」
雪乃が呆れたように代答した。すると、今度は八幡が得意げに答えようもした。
「俺はMAXコー」
「彼にも辛口のジンジャエールを」
八幡にも辛口ジンジャエールの制裁が下った。すると、「かしこまりました」と川崎は言うと、シャンパングラスを4つ用意して、慣れた手つきで注ぎ、コースターの上に置いた。
「それで、何しに来たのさ?まさかそんなのとデートってわけじゃないんでしょ?」
川崎が雪乃に聞いた。
「まさかね。横のこれを見て言ってるのなら、冗談にしたって趣味が悪いわ」
「あの……お前ら二人の口論なのに無闇に俺を傷つけるのやめてくんない?」
一先ずそれを注意してから、八幡が言った。
「お前、最近家帰んの遅いんだってな。弟、心配してたぞ」
「そんなこと言いにわざわざ来たの?ごくろー様。あのさ、見ず知らずのあんたにそんなこと言われたくらいでやめると思ってるの?」
「クラスメイトに見ず知らず扱いされてるヒッキーすごいなぁ……」
妙なところで感心する結衣。
「最近、やけに周りが小うるさいと思ってたらあんたたちのせいか。大志が何か言ってきた?どういう繋がりが知らないけど、あたしが大志に言っとくから気にしないでいいよ。だから、もう大志に関わんないでね」
関係ない奴は引っ込め、みたいな意味合いで言ってきた。
「止める理由ならあるわ」
雪乃が口を挟んだ。
「10時40分、シンデレラならあと1時間ちょっと猶予があったけれど、あなたの魔法はここで解けたみたいね」
「魔法が解けたなら、あとはハッピーエンドが待ってるだけなんじゃないの?」
「それはどうかしら、人魚姫さん。あなたに待ち構えているのはバッドエンドだけだと思うけれど」
バーの雰囲気に掛け合わせたような2人の会話には他の人の介入を許さない。八幡も千尋も黙ってその様子を聞いてると、結衣が千尋に聞いた。
「ねぇ、あの2人何言ってんの?」
「18歳未満は労働基準法で10時以降働くのは禁止されている。つまり、川崎さんはここで年齢詐称をしていることになるじゃん?そういうこと」
千尋が説明した。すると、雪乃が聞いた。
「辞める気はないの?」
「ん?ないよ。まぉここはやめるにしてもまた他のところで働けばいいし」
川崎のその態度に雪乃は少しイラついたのか、ペリーを軽く煽る。
「あ、あのさ……川崎さん、なんでここでバイトしてんの?あ、やー、あたしもほら、お金ない時にバイトするけど、歳ごまかしてまで働かないし……」
「別に……。お金が必要なだけだけど」
「あー、や、それは分かるんだけどよ」
「わかるはずないじゃん。あんなふざけた進路を書くような奴にはわからないよ」
八幡の台詞も途中で遮る。一度、屋上で進路希望調査書を八幡は川崎に見られている。
「別にふざけてねぇよ……」
「そ、ふざけてないならガキってことでしょ。人生舐めすぎ。あんたも、……いや、あんただけじゃないか、雪ノ下も由比ヶ浜にも……早川?にもわからないよ。別に遊ぶ金欲しさに働いてるわけじゃない。そこらのバカと一緒にしないで」
と、邪魔をするなと言うように川崎は言った。
「やー、でもさ、話してみないとわからないことってあるじゃない?もしかしたら、何か力になれることもあるかもしれないし……。話すだけで、楽になれること、も……」
「言ったところであんた達には絶対わかんないよ。力になる?楽になるかも?そう、それじゃ、あんたあたしのためにお金用意できるんだ。うちの親が用意できないものをあんた達が肩代わりしてくれるんだ?」
「そ、それは……」
結衣も黙らしながら、自分の意見をマシンガンのように言い募る。雪乃がそれに対して口を開きかけた時だ。意外にも口を挟んだのは千尋だった。
「ガキなのは一体どっちなのかな?」
「………あ?」
イラついたように川崎がギロリと千尋を睨んだ。だが、千尋はまったく恐れることなく言った。
「さっきから威圧的な言葉を並べて威嚇してるみたいだけど、誰かに相談する前から関係ないだの無理だの決め付けて、ルール違反を平気で犯す方がガキなんじゃないの?」
その言い草に、八幡も雪乃も結衣も目を丸くして千尋を見る。
「……あんた、何様のつもりで言ってんの?」
「こっちの台詞だよ。ずいぶんと上から目線で物を言ってたけど、勝手に拗ねる前に、まずはルールを破らないで何とかする方法を探したら?そもそも、夜間のバイトだってバレたら親にだって迷惑掛かるんだし……というか、もう弟さんに心配掛けてるんだし……」
「早川さん」
「何?………あっ」
気が付けば川崎は黙り込んでいた。やっべ、と千尋は思った。確実に言いすぎた。
「や、やーほら、えっと……さっき聞いた感じだとお金がないんだよね?例えばだけど、大学受験とかお金掛かるじゃん?国公立にすればさほど掛からないし、予備校に通うにしても、この前そこの八幡に教えてもらったんだけど、スカラシップとかいうの取れば学費免除してくれるらしいし、色々とそういうお金掛けない方法とか探してみれば良いんじゃないかな?」
なんとかフォローするように言ってみるが、川崎から返事はない。と、思ったら川崎の口から声が出た。
「………ま、考えてみる」
それを聞くと、千尋は安心したように息をついた。
「では、行きましょう」
雪乃が言うと結衣と八幡と千尋が立ち上がった。お金を払い、雪乃、結衣、八幡、千尋と立ち去った。
で、店を出て今はエレベーターの中。
「……ふぅ、偉そうな事言っちゃったなぁ……」
「まぁ、アレで良かったんじゃねぇの。あの様子なら、川崎も大志に心配かけるような事しないかもしれないしな」
「でも、ちーちゃんがあんな風に言うと思わなかったなぁ。意外」
「本当ね。あのまま私が止めなかったらどうなってたか……」
「うっ、ごめんね……」
「いえ、気にしないでくれていいわ。私では、ああやって丸く収めることは出来なかったと思うから」
「うーん……確かに雪乃ってフォローするの下手そうだよね」
「……そんなことないとないと思うのだけれど」
「いや、お前はフォロー下手くそとかの前にしないだろ」
「あなたに言われたくないわ」
「バッカおまえ俺なんて常日頃フォローしまくってるから。だから誰とも話さずに1人でいるんだろ」
「………それは、誰に対するフォローなのかしら?」
「あ、あははっ……」
そんな会話をしながら、4人は帰宅した。