私の青春ラブコメも間違っている   作:アリオス@反撃

21 / 28
平塚先生とバトルロアイヤルと人員補充

 

 

「じゃ、また今度ね八幡」

 

「おー」

 

家の前で2人は別れ、八幡は家に入った。

 

「たでーまー」

 

「おかえりー、お兄ちゃん」

 

誰も起きてないだろうと思いながら挨拶すると、意外にも返事があった。

 

「なんだ、起きてたのか小町」

 

「うん。こう見えて受験生だからねー」

 

テキトーに挨拶しながら家の中へ入り、着替えてソファーに腰を掛けた。

 

「ふぅ……」

 

「お疲れだねー。依頼はどうなったの?」

 

「まぁ、なんとかなったんじゃねぇの?あとは川崎次第だ」

 

「ふーん、でも驚いたなー」

 

「あ?何が」

 

「お兄ちゃん、まさかお菓子の人と同じ部活に入ってたなんてなー」

 

「は?お菓子の人?」

 

一瞬、何のことだか分からなかったが、すぐに分かった。事故にあった時にお菓子を持ってきた人だ。ちなみに八幡は食べてない。小町が全部食べた。

 

「うん。結衣さん」

 

「………」

 

意外な事実を知ってしまった。

 

 

 

×××

 

 

 

職場見学という名の材木座との出版社デートという新し過ぎる日から数日経った。川崎の件は上手くいったようで、無事に川崎はバイトを辞めた。ちなみに中間試験は千尋はまずまずだった。理科は98点で数学が4点。他の科目は普通。

で、今は奉仕部。

 

「……よーっす」

 

「こんにちは。早川さん」

 

中には雪乃の姿しかなかった。

 

「元気がないようだけれど、どうかしたの?」

 

「これ……」

 

言いながら千尋はパサッと紙束を机の上に置いた。雪乃はそれに視線を落とした直後、キュッと目が細くなる。材木座義輝先生の渾身の次回作設定資料である。だが、次回作も何も一作目が存在しない。

 

「大変だったのね」

 

資料を見るだけで全てが説明する間もなく通じてしまった。

 

「そういえば、由比ヶ浜さんは?」

 

「今日も休むって。最近どうしたんだろうね結衣」

 

「………そう」

 

雪乃は残念そうに視線を自分の読んでいる本に落とした。最近、結衣は奉仕部にきていない。昼休みにお昼を食べている時に、千尋に伝える形で欠席していた。

 

「もしかして、川崎さんの件でドン引きされたのかなぁ……」

 

「そんな事ないと思うわ。あの日の帰り道、途中まで由比ヶ浜さんと一緒だったのだけれど、あなたのお説教を気にした様子はなかったもの」

 

「お説教なんてそんな大したモンじゃないよぉ!」

 

「……変なところで照れないでもらえるかしら」

 

呆れた様子で千尋を見る。

 

「一応、聞くけど雪乃は特に何もなかったよね?」

 

「ええ。この前の休みを挟んで急に昼休みに部室にも来なくなったから、私が原因ということはないと思うけれど」

 

「と、なると……原因は」

 

言いながら部室のドアを見ると、ちょうど八幡が部室のドアを開いたところだった。

 

「うす」

 

短い挨拶とともに部室の中に入り、机の上に鞄を置いた。

 

「ちょうど八幡の話ししてたんだよ」

 

「俺が他人の話題に?悪口しか思い浮かばないんだが」

 

「いや違くて。結衣となんかあったん?」

 

「いや、何も」

 

まさかの即答だった。それに益々怪しさを覚える千尋。

 

「何もなかったら、由比ヶ浜さんは来なくなったりしないと思うけれど。喧嘩でもしたの?」

 

雪乃も八幡に問い詰める。

 

「いや、してない、と思うが」

 

返事がハッキリしなくなった。

 

「喧嘩の自覚って本人にはないものだよねー。『いや、アレは喧嘩じゃないはず』って他人から見たらほとんど喧嘩だっつのに」

 

「いや、本当に喧嘩してるわけじゃないんだけど」

 

千尋に言われるも、八幡は何も話そうとしなかった。

 

「……諍いとか?」

 

雪乃が聞くが、八幡は首を横に振った。

 

「ああ、それは近いけど、ちょっと、違うと思う。当たらずとも遠からずって感じか」

 

「じゃあ戦争?」

 

「当たってないし遠くなったな」

 

「なら、殲滅戦」

 

「話聞いてた?遠くなったよ?」

 

「テロとか?」

 

「一方的じゃねぇか」

 

最後のは千尋だ。

 

「では、すれ違い、というやつなのかしらね」

 

「ああ、そんな感じだな」

 

「……そう、なら仕方ないわね」

 

雪乃はため息をつくと、本を閉じた。

 

「まぁ、こういうのはあれだろ、一期一会ってやつだな。出会いがあれば別れもある」

 

「素敵な言葉のはずなのにあなたが使うと後ろ向きな意味でしか捉えられないわね……」

 

「私の場合は出会おうとしても離れられちゃってたなー。繋がりがそもそも出来なかった」

 

「ああ、俺もだよ」

 

千尋の言葉に八幡は思わず苦笑した。すると、唐突にガラッとドアが開く音がした。一瞬、結衣かと思ったが、違った。

 

「先生、ノックを……」

 

「よーっす、平塚せんせ」

 

「ふむ。由比ヶ浜が部室に来なくなってからもう一週間か……。今の君たちなら自らの力でどうにかすると思っていたのだが……。まさかここまで重症だったとは。流石だな」

 

どこか感心するように言った。

 

「あの、先生……。なんか用があったんじゃ」

 

「ああ、それだ。比企谷。以前、君には言ったな。例の勝負の件だ。今日は新たなルールの発表に来た」

 

言いながら仁王立になる平塚先生。それを聞いて、雪乃も八幡も千尋も聞く姿勢になった。

 

「君たちには殺し合いをしてもらいます」

 

「………寝惚けてるの?」

 

千尋が真顔で聞くと、若干赤面しながらも咳払いしね答えた。

 

「ん。んんっ。と、とにかく!簡単に言うとバトルロワイアルルールを適用するということだ。四つ巴のバトルロワイアルだから、もちろん共闘もありだ。君達は対立するだけではなく、協力することも学んだ方がいい」

 

熱弁する平塚先生。すると、雪乃が言った。

 

「ということは、常に比企谷くんは不利な状況で争うことになりますけど……」

 

「だよな」

 

「安心したまえ。今後は新入部員の勧誘も積極的に行っていく。ああ、もちろん勧誘するのは君たちだが。つまり、自分の手で仲間を増やすことができるのだよ。目指せ、一五一匹!」

 

自信満々にいう平塚先生。年齢がドンドンとバレていった。

 

「どちらにしろ比企谷くんには不利なルールね。勧誘に不向きだし」

 

「お前に言われたくねぇぞ……」

 

「確かに八幡に誘われたら宗教と勘違いされるかもねー」

 

「言葉に気を付けろよ早川。というかお前の場合はわざとだよな?」

 

しかし、かく言う千尋も勧誘する相手がいない。

 

「とはいえ、その由比ヶ浜ももう来ないようだしな……。いい機会だ。欠員を補充する意味でも新入部員の獲得に乗り出した方がいいだろう」

 

「待ってください。由比ヶ浜さんは別に辞めた訳では」

 

「来ないのなら同じだよ。幽霊部員など私は必要としていない」

 

雪乃の一言に平塚先生は鋭い視線と共に一蹴した。

 

「まぁ、確かにねー。というか部活自体が別に義務的にやるものじゃないし」

 

意外にも千尋がシレッと言った。

 

「その通りだ。ここは仲良しクラブではない。青春ごっこならよそでやりたまえ。私が君達奉仕部に課したものは自己改革だ。ぬるま湯に浸かって自分を騙すことではない」

 

きゅっと唇を噛み締める雪乃。

 

「しかし、由比ヶ浜とそこの早川のおかげで、部員が増えると活動が活発化することはわかった。だから、君たちは月曜日までにもう1人、やる気と意志を持ったものを確保して人員補充したまえ」

 

月曜日まで、というのは今日と当日を含めても4日しかない。そんな事が出来るか、と八幡も千尋も思ってると、雪乃が声をかけた。

 

「平塚先生、一つ確認しますが、人員補充をすればいいんですよね?」

 

「その通りだよ、雪ノ下」

 

短くそう頷くと平塚先生は去って行った。

 

「で、どーする雪乃?」

 

「さぁ?誰かを誘ったことなんて一度もないからわからないけれど。でも、入ってくれそうな人に心当たりならあるわ」

 

「誰?戸塚?戸塚か。戸塚だよな?」

 

「いいね。戸塚くん。戸塚くんにしよう」

 

「違うわ。彼も入ってくれるかもしれないけれど……。もっと簡単な方法があるでしょう?」

 

「簡単……?土下座とか?」

 

「それは簡単にすべきことではないと思うのだけれど……」

 

千尋の台詞に雪乃は呆れたように言った。

 

「わからない?由比ヶ浜さんのことよ」

 

「は?だって、やめるんでそ?」

 

「うちの3姉妹?」

 

「だったらなに?もう一度入り直せばいいだけでしょう」

 

「まぁ、そうかもしれんけれど……」

 

「とにかく、由比ヶ浜さんが戻ってきてくれる方法を考えておくわ」

 

気が付けば、雪乃はえらいやる気を出していた。

 

「えらいやる気だな」

 

八幡が言うと、雪乃は自嘲気味に微笑んだ。

 

「ええ。つい最近気付いたのだけれど、私はこの二ヶ月間をそれなりに気に入ってるのよ」

 

「雪乃がデレた!デレノ下さんだ!」

 

「……黙りなさい早川さん」

 

茶化されて恥ずかしくなったのか、若干顔を赤らめた。そして、早速行動に移すように「それじゃ」と挨拶して鞄を持って部室を出て行った。

 

「……じゃ、私達も帰ろっか?」

 

「そーだな」

 

2人も荷物を纏めて部室を出た。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。