3度目のリメイクです。今度こそちゃんと第一部の最後まで行けたらいいなー…なんてぼんやりと思ってます。
多分相変わらずの低頻度更新です。でも新しいことにも挑戦していきたいなとも思っているので、これからもよろしくお願いします
4月。それは出会いの季節。数多くの人間が進級ないし進学、または就職をすることで周囲の環境が変わる季節。多くの人間はそんな未知の環境に期待と不安がない交ぜになった気持ちを抱いて新たな一歩を踏み出そうとしていることだろう。
勿論俺こと
「よし…よし…あとちょい……」
決して楽ではないエリアボスとの戦闘。死にゲーと名高いだけあって今プレイしているゲームは一筋縄ではクリアできそうもない。そんなだから人を選ぶゲームではあるが、決して理不尽な難易度設定というわけではなくクリアできた時の快感はかなりのものだ。
『ぐぁぁあ……』
「あ”あ”あ”あ”あ”!!」
とは言えそこはやはり高難易度アクションRPG。一瞬の油断でこれまでの努力がすべてパーになってしまった。画面から響くプレイヤーキャラクターの断末魔と、でかでかと画面に映る『YOU DIED』の文字。思わず近所迷惑も気にせずに大声を出してしまう。…最も、出来たばかりらしいこのアパートには俺以外には大家さんしかいないのでクレーム付けてくる住人がそもそも存在しないのだが。
それはともかく、あと一歩。もっといえば後強攻撃一発分というところまでボス体力を削ったというのに、最後の最後で緊張からか、はたまた勝利を確信したことで油断が生じてしまったのか判断を誤り6割近く残っていた体力を一瞬にして溶かされてしまった。自分のキャラクターの装備が防御力よりも機動力を重視していたのを差し引いても高火力なボスの攻撃への不満と、最後でミスをしてしまった不甲斐ない自分への怒りで一気にストレスが溜まる。
さらに追い打ちをかけるように、自キャラが復活したところはおおよそボスの待ち構えるフロアから近いと言えるような場所ではなかった。ただでさえ到達するのにはそれなりの労力が必要なので、これには流石にげんなりせざるを得ない。
「……喉乾いたな」
キャラが死んでしまったことでそれまで張りつめていたものがぷつんと音を立てて切れてしまったのか、一気にのどの渇きを覚える。当然だ。かれこれ水分補給をすることなく数時間はモニターとにらめっこしていたのだから。
のどの渇きを癒したいところだったけれど、今家に飲み物らしい飲み物はなかったような気がする。何かありますようにと祈りながら冷蔵庫を開けるも、残っているのは僅かばかりの食糧。ああ、そろそろまた買い出しに行かないとな。
さて、どうしたものかとその場で腕を組みしばらく考え込む。水分補給をする、という目的だけであれば台所の蛇口から出る水道水でも十分目的だ。が、まあ所詮水道水。お世辞にも進んで飲みたいと思えるような味ではない。カルキ臭いし……
とは言え、今から買い出しに向かうというのもなんだか面倒だった。そもそも、まだこの町に引っ越してきてからそんなに経っていない。一応学校と、スーパーへの道筋位は覚えたがそれもちょっとあやふやだ。変に出歩いて道に迷いましたなんてシャレにもならない。
「うーむ……どうしたものかねぇ」
どうしたものかなんて呟いたところで飲み物が湧いて出てくるわけでもなく、あるのは水道水だけという事実は変わらない。散々悩んだ挙句、たまには外に出るのも悪くないと思うことにして最寄りのスーパーまで飲み物を買いに行くことにした。道中で自販機かコンビニを見つけられるといいななんて考えながら。
手慣れた動きで戸締りをし、いざ出発だと振り向くと大家さんの姿が目に入る。落ち着かない雰囲気で視線を道路と時計との間を行ったり来たりさせている。何か、あるいは誰かを待っているみたいだった。まあ大家さんが何を待っていようと俺にはこれっぽっちも関係ない。会話をするのも面倒くさいし、さっさと買うもの買って来よう。
「やぁ天川君!良いところに来てくれた!」
「すいません俺忙しいんでまた後にしてください」
「まだ何も言ってないんだけど」
やかましい。どうせ何か面倒なことをさせるつもりだったんだろう。お断りだ。物だろうが、人だろうが探せと言われても探すものか。というか、そんなことをすればミイラ取りがミイラになりかねん。どっちにしろ無理だ。後留守番をお願いされても困る。割とマジでのどが渇いてるから、早く何か買って飲みたい。
「まあまあそんな嫌そうな顔しないで話だけでも聞いてよ」
「えー……留守番してくれとかやめてくださいよ。俺忙しいんで」
「違う違う。いや実はさ、今日新しい入居者の人が来るんだよ。で、その子2時過ぎには来るって言ってたんだけど……」
そう言われて携帯の時計で時間を確認する。時刻は3時を回ったところだった。成程1時間は遅刻をしているらしい。そりゃひっきりなしに時計と道路を交互に見てたわけだ。
だがやはり俺には関係ない。そもそも、完全に迷子じゃねーか。辺りの地理に詳しくない俺が迷子探しというのは、やはり荷が重すぎる。仮に見つけられたとしても、帰れないなんてことになりかねない。この辺りは閑静な住宅街で、分りやすい目印なんてほとんどない。
「……申し訳ないっすけど、迷子探しは俺には無理っすよ。道、覚えてないし」
「だよねぇ……まあ、どこかに行くんでしょ?見かけたら連れて来てよ」
「連れてきてよって……見た目も知らないのにそんなことできるわけないでしょう」
「綺麗な青緑色の髪をした、超かわいい子。もしかしたら駿君にも春が……」
「失礼します」
「あ!?ちょっとー!」
余計な一言を入れなければ最後まで聞いたかもしれん。が、なんかすごくイラッと来たのでそそくさとその場を離れた。どうせ俺は万年冬男だ。まあ、春を迎える気がハナからないんだが。そもそも他人とそんな関係になろうとすら思わない。なったところで、最後はロクな結末にならないのだから。
結局途中で自販機もコンビニも見つけられず(いつも通ってる道を通っただけなのだから当然だが)、スーパーまで行って飲み物とお菓子、それと軽めの夜食を買って帰路につく。
あとは家に帰るだけ。もしかしたら件の入居者がまだ来ておらず、大家さんがまたアパートの前で待ちぼうけているかもしれないがその時は無視をして家に入ろう。学校が始まる前にまだまだやりたいことがたくさんあるのだから。
(学校……か)
ふと中学時代のことを思い出してしまう。とても、思い出して気持ちのいい記憶とは言えなかった。むしろその逆だ。あんな記憶、さっさと忘れてしまいたい。だからこそ、地元を離れこの都会でもなく、かといって田舎過ぎることもない有賀島市の市立高校へ進学したんだから。
嫌なことを思い出してしまい、やや気分が落ち込む。ふぅ、と小さくため息をついて空を見上げた。
時刻は3時30分を回ろうとしていた。そろそろ夕暮れだ。空も少しずつオレンジ色に染まってきている。
雲一つない空。何の気なしに、俺は空に向かって手を伸ばした。当たり前だけど、何も掴めない。手の届く範囲に掴めるものは何もない。だけど、雲一つない空に向かって手を伸ばせば何もない俺でも何かを掴めそうな気がした。
「まあ、そんなわけ……ねぇよな」
自嘲気味にそう呟く。無いものは無い。ありもしないものを掴もうとしたって、その手は空を切るばかりだ。仮に何かを掴んでも、直ぐに指の間から零れ落ちて行ってしまう。人がその手に掴めるものなんて、そんなに多くはない。
そこまで考えてまた自嘲気味に笑う。高校の入学を前に、少しナーバスになっているのかもしれない。ここの所、こんな暗いことばかり頭に浮かんでしまう。
そんな俺の耳に、小さな音が聞こえてきた。風の音ではない。
(……歌…? 誰か歌ってるのかな?)
小さな、本当に小さな音だった。けれども、どうしてかその音をたどってみたくなる。もっとちゃんと聴きたいと、なぜか思った。
こっちかな、いやあっちかななんてことを繰り返しながら細い糸を手繰り寄せるように歌が聞こえてくる方へと歩く。そうして吸い寄せられるように小さな公園の前へと出た。どうやらここから聞こえてくるらしい。
一体どんな人が歌っているのだろうと、公園へと近づいていく。そこには、綺麗な青緑色の髪をした女の子がいた。どうやら、歌は彼女が歌っていたらしい。
(……綺麗だな)
それがまず最初の感想だった。透き通るように、それでいて聴いているものを包み込むような優しい歌声。聴いていて、とても気持ちが穏やかになっていくのを感じる。けれども、その歌の歌詞はどこか悲壮感を漂わせているようで……
(はっ…!? 俺は一体何をしているんだ)
そこまで考えて我に返る。これは完全に覗きをしているようなものだ。別に女性の着替えを除いたわけじゃないから警察沙汰なんてことにはならないだろうけど、明らかに今の俺は不審者のようなものだろう。
彼女に存在を気取られる前にこの場を離れなくてはとポケットに突っ込んだ手を勢いよく引っ張り出して踵を返す。そして足早にその場を立ち去った。
公園が見えなくなる辺りまで歩いて、ようやくほっと一息つく。なんだか今日は特に調子がおかしい。やはりそれだけ来る高校生活にナーバスになっているのだろうか。だとしたら……
そんなことを考えていたせいか、後ろから近づいてくる足音に全く気付かなかった。
「あの……すいません」
「のわぁっ!?」
驚きのあまり、変な声が出る。そのことに恥ずかしさを覚えながらも振り返ると、そこには先ほどの少女が慌てた様子で立っていた。
「ご、ごめんなさい!驚かすつもりじゃなかったんです!でも財布を落としていったみたいだから……」
「え……?」
そういわれて、慌ててポケットに手を突っ込む。確かに、財布はなかった。おそらくさっき公園から離れようとしたときに勢いよくポケットから手を引っ張り出した弾みで落としてしまったんだろう。そして、目の前の少女が俺の財布を差し出してくれていた。
「あ……どうも」
非常に気まずい状況だけれど、ひとまずお礼だけは言った。けれど、それ以上話すこともないし何も思いつかない。とにかく頭の中が真っ白になってしまっていた。
どうにかしようにもどうにもならないので、とにかくその場から逃げるようにそれじゃあ、と一言だけ口にして少女に背を向ける。
けれどもそんな俺を再び少女は呼び止めた。
「あっ、あの!ちょっと道を聞きたいんです!」
その言葉を聞いてハッとする。綺麗な青緑色の髪をした女の子……大家さんが言っていた新しい入居者の特徴と一致していた。まさかそんな偶然はあるはずがないだろうと思いつつも、取りあえず応対する為に振り返る。
「あの……私このアパートに行きたいんですけど、道に迷っちゃって……」
そういって少女が差し出してきた手書きの地図には、俺が住んでいる歌田音アパートに印がついていた。どうやら、運命の女神さまとやらは相当にいたずら好きらしい。
とにもかくにも、大家さんが探していた人を見つけてしまった以上は無視するわけにもいかない。そろそろ辺りも暗くなるし、同じアパートに住む人をほったらかしにして何か事件に巻き込まれでもしたら寝覚めが悪い。ひとまず、案内だけはしよう。
「……ああ、このアパート俺が住んでるところっすね」
「え、ホントですか!助かったぁ!」
「……とりあえず、案内するんで」
どうやら相当困っていたらしく、目的地にたどり着けることに安堵のため息をつく少女。そんな彼女を尻目に、俺はさっさとアパートに向かって歩き始めた。その後を件の少女が慌てて追いかけてくる。
そんな俺達を包み込むように気持ちの良いそよ風が吹いた。
これが、この先俺を大きく変えることになる『