鶴賀の初日の出   作:五香

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16.Heavenly Hand

「どうだー見たか私の勇姿を!」

 

 控え室に戻ってきた蒲原は得意げに胸を張った。

 例年の風越女子はエースを先鋒に据える傾向が多かった。

 今年も同じ様に部内最強者が置かれていたのならば、蒲原の+14900は最良とも言える結果である。

 蒲原はどちらかと言うと守備型の打ち手。

 一回戦こそ大量失点を許したが、二回戦の様に数少ない攻撃のチャンスを見つけて突破口を開くのが本来の姿。

 だがらこそ、今回も大崩れはしないだろうが、苦戦は免れないと覚悟していただけに、加治木も少し驚くと同時に、表情を緩めた。

 

「ああ、文句の付けようがない内容だった」

「そうだろー、楽勝だーっ! ……と言いたい所だけど、正直後半はちょっとビビったなー」

「-25000から+5200まで追い上げられましたからね」

 

 冷や汗ものだったよと蒲原は振り返った。

 最大五万点あった差を一万点差まで詰められた。

 最中に直撃を貰ってたら順位は逆だっただろう。

 しかし、それを許さないのも蒲原を強者たらしめている要因である。

 

「まあそれが王者たる由縁だろう……だが」

「――今のトップは私達」

「下克上の時は来たれり……。佳織、一発かましてこい」

「は、はい。が、がんばりますっ!」

「……ちょっと待て」

 

 背を向け対局室へと脚を運ぶ佳織を加治木が呼び止めた。

 

「念の為に聞いておくが、捨て牌に少し小細工しようと考えてたりしないか?」

「ひぅっ! な、何でそれを……」

「……やっぱりか」

 

 ビクンッと体を震わせわかりやすい反応を示す佳織に、加治木は嘆息する。

 

「昨日は龍門渕に狙い撃ちされたが、あれは忘れろ」

「そ、それは……」

 

 そう言われても佳織には簡単に忘れる事なぞできなかった。

 役満和了でプラスには持っていったが、それがなければ大幅なマイナスで終局しただろう。

 もし二回戦ではなく、一回戦で役満を和了っていればどうなっていたかを想像すると、身震いしてしまう。

 

「良いか、よく聞け」

 

 加治木は渋る佳織の正面に立ち、両肩を掴むと、ずいと顔を近づけ、真っ直ぐに見つめながら言葉を続ける。

 

「待ちを読まれたとしても、ツモ和了りが封じられる訳ではあるまい。うちは一人例外がいるから気にするのもわかるが、早い巡目で、当たり牌の残り枚数が多ければ聴牌即リーで構わない。佳織は佳織の麻雀を貫け」

「ひゃ、ひゃい。がんばります……」

 

 佳織は顔を真っ赤に染めながら、頷いた。

 そしてトテトテという効果音が鳴っていそうな可愛らしい走り方で駆けていった。

 

「ワハハ、ユミちんは女たらしだなー」

「女の私が女をたらしてどうするんだ……」

 

 加治木は何をバカな事をと抗議の視線を蒲原に向けた。

 

「無自覚かー……いや無自覚だから良いのか?」

 

 狙ってやっているのならば、今後の付き合い方を考え直さないといけないなと蒲原は一人頷いた。

 

 

 

次鋒・前半戦

東一局0本場 ドラ:{②} 親 鶴賀学園

 

「ロン」

「っひぃ!」

 

 九巡目、{三}を何げなく捨てるとまったが掛かり、佳織は小さく悲鳴をあげた。

 

「タンヤオドラドラ、5200」

 

九巡目風越女子手牌

{二四五六六七七八②②⑥⑦⑧} ロン{三}

 

(いきなり振り込んじゃった……でも、一盃口と平和に移行する前の仮聴。親だし完成した後にツモられるよりはマシだったのかな)

 

 仮に一盃口と平和が加われば、最低でも跳満を親被りする事になる。

 放銃してしまったとはいえ、5200点ならそれほど悪くはないと感じられた。

 

(止まったらダメ……加治木先輩に言われた通り、私の麻雀を貫こう)

 

東一局終了時

一位110400 風越女子(+5200)

二位109700 鶴賀学園(-5200)

三位96100 裾花

四位83800 城山商業

 

 

 

 その後、佳織は攻めの麻雀を続けるが、一度トップを奪い返した風越女子は堅実な打ち回しで失点を許さない。

 結局大きな点棒の移動がないまま、オーラスへと突入した。

 

次鋒・前半戦

南四局0本場 ドラ:{⑨} 親 風越女子

 

佳織配牌

{五七③④⑥⑧南南白白發發中} ツモ{③}

 

(ダブ南に役牌二つ……うまくいけば大三元も見える……)

 

『お前には一日に一度だけ役満を和了れる不思議な力がある』

 

 そう告げられた時は驚いたものだ。

 それ以来、好配牌の時に深く思考の海に潜り込むと、何となくだが、それが和了れる時なのか、そうでない時なのかが感じられる様になった。

 和了れる時であれば、すうっと気持ちが落ち着いて、自分でもビックリするくらい冷静に闘牌ができる様になる。

 そして、今回はどうなのか。神経を静めて深層心理を探る。

 

(……違う気がする)

 

 答えは否。

 どうしよう、どうしようと思考は迷路を彷徨い、心臓は鼓動を早め続けている。

 

(役満じゃないって事は……三元牌は揃わない。なら、これ要らないよね……)

 

 佳織が第一打に選んだのは{中}。

 それが河に置かれると同時に城山商業から声が掛かった。

 

「カン」

 

(うわっ三枚持たれてたんだ)

 

 そのまま小三元、はたまた大三元を見据えて抱え続けていれば、間違いなく徒労に終わっていた。

 佳織は自分の判断は間違っていなかったと安心すると同時に、少し残念な気がした。

 そして城山商業が河に牌を捨てると、カンドラがめくられた。

 そこにあったのは――{發}。

 中ドラ4、満貫が確定した瞬間であった。

 

(あっ……)

 

 カンドラモロ乗り。

 その光景を目の当たりにし、役満にはならないとはいえ好打点が期待できそうだと、期待に高鳴っていた胸があっさり静まった。

 

(……この局はオリよう)

 

 そして、ツモ和了してくれればトップとの差は縮まるという冷静な思考を以て、佳織の方針はベタオリに決定された。

 前半戦のオーラスは、最下位の城山商業が混一中ドラ4をツモ和了って終了した。

 

次鋒戦・前半終了時

一位107700 風越女子(-6000)

二位102800 鶴賀学園(-3000)

三位95100 裾花(-3000)

四位94400 城山商業(+12000)

 

 

 

次鋒・後半戦

東一局0本場 ドラ:{六} 親 鶴賀学園

 

佳織配牌

{二九⑤①①三九①西西⑥四⑦西}

 

({西}が三枚もある……オタ風牌が暗刻になってても……幺九牌ばっかりでドラもない)

 

 後半戦で巻き返すぞと意気込んでいた所、配牌が一見いまいち好打点が望めそうにない姿。

 佳織は顔を伏せ口を尖らせた。

 

(理牌しないと……)

 

 いつまでも落ち込んではいられないと、佳織は気を取り直して牌を並べ直す。

 

(あれ? おかしいな)

 

 しかし、ふと牌に伸びた手の動きが止まった。

 理牌もせずに、パッと牌姿を眺めただけで、だいたいの理解が出来るほど自分の観察眼は優れていない。

 

(まさか……)

 

 不要牌が……ない。

 もう一度、端から端まで目を通す。

 

(揃ってる……?)

 

 

 

『ツ、ツモッ! 16000オールですっ!』

 

佳織配牌

{二三四九九①①①⑤⑥⑦西西西}

 

『にわかに信じられない出来事が起こりました! 鶴賀学園妹尾選手、何と何と天和です!』

『驚いたな……見たのは初めてではないが、まさか今日見られるとは思ってもいなかった』

 

 観戦室は阿鼻叫喚といった様相だった。

 観戦している客、マスコミのほとんどが風越寄りの人間。

 あちらこちらから悲痛な叫びが聞こえている。

 そんな中、鶴賀の応援に来たという少数派に属する龍門渕のメンバーは、揃いも揃って大口を開けて固まっていた。

 

「……すげぇ、初めて見た」

 

 最初に言葉を出したのは純だった。

 手からつまんでいたポップコーンがポロッと零れ落ちた。

 

「……三十三万分の一」

 

 ボソッと呟く様に、天和の出現確率を呟いたのは智紀。

 ズレ落ちたメガネの位置を人差し指でクイッと直した。

 

「奇幻な打ち手がもう一人いたのかっ!」

 

 楽しそうな声をあげたのは衣。

 好きなものを目前に捉えた子供の様に目をキラキラと輝かせていた。

 

「ありえませんわ……ありえませんわ……ありえませんわ……」

「透華……? 透華!? 透華ーっ!?」

 

 あまりの出来事に思考回路がショートした透華は、一の呼びかけにも反応を見せず、壊れたテープレコーダーの様に何度も同じ言葉を繰り返していた。

 

 

 

『次鋒戦終了――! 何と初出場の鶴賀学園がさらにリードを広げました! その点差は何と四万! 逃げ切りが視野に入って来ました! 何とか独走を止めたい他校ですが、ここで昼休みとなります。英気を養った各校が、中堅戦でどの様な闘牌を見せてくれるのか注目です!』

 

次鋒戦終了時・前後半トータル

一位140000 鶴賀学園(+25100)

二位98400 風越女子(-6800)

三位84100 裾花(-12000)

四位77500 城山商業(-6300)

 

 ――鶴賀学園控え室。

 

「凄いですね……天和なんて初めて見ましたよ、どうぞ」

 

 地和は何回かありますけど。

 お弁当を配りながら睦月がそう零し苦笑した。

 当然、地和を見せつけてくれたのは、先ほど天和をぶちかましてくれた同級生である。

 

「本当にありがたいな」

「ワハハ、今日も美味そうだなー」

 

 昨日と同じく重箱からは食欲をそそる良い香りが漂っている。

 加治木はまだ見ぬ初日の母へと感謝の念を送り、蒲原は鼻腔をくすぐられ思わずヨダレを垂らした。

 しかし、箸は入っていない。

 

「ただいまー」

「佳織ー凄いじゃないかー! 圧勝だぞー、圧勝!」

「わあっ! 今日もおいしそうなお弁当!」

 

 控え室に戻ってきた佳織は、蒲原から熱烈な歓迎を受けながらも、机の上に並べられているものを目に入れて瞳を輝かせた。

 しかし、箸は入っていない。

 

「初日はどうする? 起こすか?」

 

 許可は得ているとはいえ、弁当を用意してくれた本人を放置したままで良いのだろうかと、加治木が提案した。

 

「副将戦の前半が終わる頃まで寝かせてあげましょう。話を聞く限り、一睡も出来ずにここまで来たみたいですから……」

「そうか。その方が良さそうだな」

 

 ソファーに埋もれ、眠りの淵へと旅立っている初日の代わりに、睦月が答えた。

 佳織が初日の姉であれば、睦月は差し詰め近所の世話焼きおばさんといった所だろうか。半保護者的な意味合いで。

 

「ワハハー食べるぞー」

「いただきまー……っ!?」

 

 そしてお弁当を口にしようとした時点で全員が気が付いた。

 ――今日も箸が入っていない。

 

 

 

 中堅戦前半は思うように手が入らず加治木は焼き鳥、さらに親被りする不運も重なりまさかのマイナス二万点。

 しかし、後半に入るとツキが戻ったのか、怒濤の和了で東場だけでほぼプラマイゼロまで戻し南場を迎えた。

 

中堅戦・後半

南一局0本場 ドラ:{③} 親 風越女子

 

『ロン。リーチ一発平和ドラドラ、8000』

 

加治木手牌

{二三四七八③③⑤⑥⑦123} ロン{九}

 

捨て牌

{北東八①68}

{横④}

 

『鶴賀学園加治木、後半戦も半ばという場面で満貫和了! 前半戦の借金を完済し、貯金を作りました!』

『先切りか……中々いやらしい和了り方をするな』

『と言いますと?』

『三巡目に捨てた{八}は{七八八}の形からだ。普通その形で持っていれば、暗刻になる可能性を考慮して{八}は残す。だからこそ、他家から{九}は比較的安全そうな牌に見える』

 

 ――観戦室。

 

「この人の河は信用できないなあ。でもその方が」

 

 これは骨が折れそうだと、一は呟いた。

 しかし、その表情に憂いの色は見られず、むしろ喜色すら浮かんでいた。

 

「――やりがいがあるってか?」

「ま、そういう事かなー」

 

 そして、その後も加治木は隙を見せず、中堅戦は終わりを迎えた。

 風越女子も収支こそ区間トップであったが、点差はまだまだ大きい。

 

中堅戦終了時・前後半トータル

一位149900 鶴賀学園(+9900)

二位117200 風越女子(+18800)

三位75100 裾花(-9000)

四位57800 城山商業(-19700)

 

 

 

 朗らかな表情で佇む風越女子の副将――福路美穂子。

 その女神の如く慈愛に満ちた在り方に睦月はすっかり毒気を抜かれてしまった。

 

(勝負っていう空気じゃないなあ……)

 

『よろしくお願いいたしますね』

 

 試合前、自身は三万点を追い掛ける厳しい状況に置かれているというのに、まるで気にしてないとばかりに落ち着き払っていた。

 優しさと気品の良さを全面に出した柔和な顔つき、肩口で切り揃えられた金髪が清楚さをアピールしている。

 何故か片目を閉じているが、それを不自然に感じさせないほどの風格――包容力とも言える何かを漂わせていた。

 

(そう……何ていうか……お母さんって感じ)

 

 エプロンと三角巾が似合いそうなランキングがあれば上位間違いなしだろうと睦月は結論を出した。

 

副将戦・前半

東一局0本場 ドラ:{1} 親 城山商業

 

六巡目睦月手牌

{一二三七八九④⑤⑥⑥⑧23} ツモ{⑧}

 

(平和のみ……普段なら即リー安定だけど……)

 

 これ以上が望み薄な牌姿。

 タンヤオに移行するにしても、{}四六と二枚引かなければならない。

 

(点差もあるし……場を早く流す事に専念しよう)

 

 ドラを足そうにも{1}は待ちに含まれているし、聴牌を知らせるリーチは愚策にも思える。

 睦月は静かに{⑥}を捨てた。

 そして三巡後、裾花が捨てた{1}で和了った。

 

「ロン。平和ドラ1、2000」

 

九巡目睦月手牌

{一二三七八九④⑤⑥⑧⑧23} ロン{1}

 

(とりあえずは成功……この調子で突っ走る!)

 

東一局終了時

一位151900 鶴賀学園(+2000)

二位117200 風越女子

三位73100 裾花(-2000)

四位57800 城山商業

 

 

 

副将戦・前半

東二局0本場 ドラ:{④} 親 裾花

 

八巡目睦月手牌

{三四五④⑤⑥2224南中中} ツモ{南}

 

(これも……ダマかな。リーチをすれば私の自風牌である南は出にくくなる)

 

 その睦月の判断が功を奏し、次巡再び裾花から直撃を取る。

 

「ロン。南ドラ1、2600」

 

九巡目睦月手牌

{三四五④⑤⑥222南南中中} ロン{南}

 

東二局終了時

一位154500 鶴賀学園(+2600)

二位117200 風越女子

三位70500 裾花(-2600)

四位57800 城山商業

 

 

 

副将戦・前半

東三局0本場 ドラ:{④} 親 鶴賀学園

 

(……ちょっと恐くなってきた)

 

 逃げ切りを要求されている場面での親番ほどうれしくないものはない。

 早く局を進めたいが流局を度外視すると、その為には他家が和了る必要がある。

 他家から他家への放銃なら問題ないが、ツモ和了だと親被りする事になるし、自身が放銃するのは論外だ。

 

睦月配牌

{二三三八③⑤45568北發發}

 

(無駄に早そうな手……)

 

 發を重ねるか、落としてタンピン狙いに走るか。

 どちらに向かっても良さそうな配牌。

 とりあえず必要のない客風牌の{北}を第一打とした。

 

二巡目睦月手牌

{二三三八③⑤45568發發} ツモ{六}

 

(む……)

 

 聴牌に繋がる牌の枚数を考慮すれば{8}を落とすのが適当だろう。

 だが、睦月は少し考え込んだ。

 今、一番避けたいのは他家への放銃だが、親被りも御免被りたい。

 副露すればするほど手牌構成がわかりやすくなり、同時にある程度打点の予測も付く。

 そして、例え振り込んだとしても大勢に影響がない安手だとバレると、他家はオリるという選択肢を取らなくなる。

 

({發}を重ねるとして面前が大前提……鳴いたら安手なのがバレて攻められる)

 

 残り二枚しかない{發}を引ける可能性と、その間にタンピンに繋がる有効牌を引ける可能性。

 両者を天秤にかけると、睦月には後者が沈む様に思えた。

 ならばと、{發}へと指を動かす。

 

三巡目睦月手牌

{二三三六八③⑤45568發} ツモ{發} 打{發}

 

(裏目った……)

 

 度々ある事ではあるが、理不尽なツモに思わず睦月は顔をしかめた。

 

 

 

(あらあら……そんなに感情を表に出していると、裏目ったのが丸分かりよ)

 

三巡目美穂子手牌

{④④⑤⑦⑨45668東東南} ツモ{5} 打{南}

 

(立ち止まっている間に、のんびり手作りさせてもらおうかしら)

 

四巡目美穂子手牌

{④④⑤⑦⑨455668東東} ツモ{東} 打{8}

 

 

 

十一巡目睦月手牌

{二三三六七八②③45566} ツモ{九} 打{九}

 

(……一聴向から進まない)

 

 やはり發の扱いを失敗したのが痛かったかと睦月は唇を噛む。

 

十二巡目睦月手牌

{二三三六七八②③45566} ツモ{發} 打{發}

 

(四枚目の發……全部自分で引いてしまうとは……)

 

 {①④47}と自身で使っているのを除く四種十五枚もの有効牌が存在するにも関わらず、ツモ切りを繰り返している。

 こんな時は有効牌が単純に山の深い場所に固まっている事もあるが、他家にごっそり持たれていたり、王牌に眠っていたりする事も多い。

 

十三巡目睦月手牌

{二三三六七八②③45566} ツモ{⑧} 

 

(和了れそうな気がしない……というかいやな予感がする)

 

 また不要牌かと肩を落としながらも、だんだんと焦りの気持ちが大きくなってきた。

 この{⑧}で捨て牌も三列目に入った。

 そろそろ他家が聴牌していても良い頃合いである。

 ツモ切りを繰り返すのは危険であり、連荘する事にそれほど意味のない今、必要とあらば聴向落とし、いやベタオリをしても良い。

 

(風越は……?)

 

 そして、目下の敵である風越女子の捨て牌に睦月は注目した。

 

捨て牌

風越女子

{九一南8⑤北}

{四五7白九西}

 

(現物が一枚もない……嫌がらせか、でも)

 

 ――スジの{⑧}は安全そうだ。

 睦月がそう考えて素直にツモ切りすると、

 

「ロン。東ドラドラ一盃口、8000です」

 

 見事に期待を裏切られた。

 

美穂子手牌

{④④⑦⑨445566東東東} ロン{⑧}

 

(何でその牌姿で{⑤}を早めに切るの!? 狙い撃ち……?)

 

東三局終了時

一位146500 鶴賀学園(-8000)

二位125200 風越女子(+8000)

三位70500 裾花

四位57800 城山商業

 

 

 

 徹底して早和了りを狙う睦月、大差を付けられている城山商業と裾花は大物手に頼るしかなく、それを止められるのは風越女子の福路美穂子のみであった。

 そして、東場と同じ様な流れで南場も進み、前半戦のオーラスも睦月の和了で終了した。

 

副将戦・前半

南四局0本場 ドラ:{2} 親 風越女子

 

「ツモ。タンヤオのみ、300・500」

 

八巡目睦月手牌

{三四五六七⑤⑥⑦⑧⑧} {横③②④} ツモ{二}

 

副将戦前半終了時

一位150600 鶴賀学園(+700)

二位133700 風越女子(+16500)

三位58100 城山商業(+300)

四位57600 裾花(-17500)

 

 前半戦が終了し、睦月は大きく息を吐いた。

 

(かなり詰められたけど、このペースで凌げばリードは残せる。それに……)

 

 東三局の放銃がなければ、自身は+8700で相手は+8500。

 200点ぽっちとは言え競り勝てていた計算になる。

 

(何だ……私でも通用するじゃないか)

 

 風越女子、恐るるに足らず。

 睦月は確かな手応えを噛みしめ、後半戦へと意気込んだ。

 

 

 

「福路せんぱ~いっ! お疲れ様ですっ!」

 

 美穂子が一休止しに廊下へと出ると、鈴を鳴らす様な声が聞こえた。

 後を振り向くと、どこか猫を連想させる様なかわいらしい少女がアツシボを持って立っていた。

 

「華菜? どうしたの?」

「快勝祝いに控え室を抜け出して来ました!」

「あらあら、まだ半荘一回残っているのよ」

「なら尚更負ける訳がないですよね! だって一半荘分相手の観察が出来ましたし」

「うふふ、華菜はせっかちね。そうね、見せてあげましょう」

 

 ――私達が最強なのだと。


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