鶴賀の初日の出   作:五香

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02.そして日は昇る

 津山睦月が麻雀を始めた理由はありふれたものだった。

 家族の誰だったかが買ってきたプロ麻雀煎餅。

 付属しているカードのプロ雀士達が堪らなくかっこよく見え、少年がプロ野球選手に憧れる様に、ただ純粋な気持ちを抱いた。

 

「この人達みたいになりたい」

 

 そして高校デビューを期に麻雀部の門を叩いた。

 憧れの雀士達に少しでも近づくために。

 

東四局0本場 ドラ:{1} 親 藤村初日

 

一巡目睦月手牌

{一二三六七③赤⑤⑧⑨135西} ツモ{⑨}

 

 配牌は上々。しかし、トップの蒲原とは10200点差。睦月が逆転するには5200の直撃か跳満ツモが必要である。

 面前で進めるとして、リーチドラドラだと5200、ツモでも8000。

 リーチを掛けた上で直撃を奪うのは困難であり、最低でもあと一翻足さないと厳しいだろう。

 

(現実的なのは……123の三色、平和、西というところかな)

 

打{⑧}

 

 まずは雀頭を固定して進める。

 

二巡目睦月手牌

{一二三六七③赤⑤⑨⑨135西} ツモ{2} 打{5}

 

三巡目睦月手牌

{一二三六七③赤⑤⑨⑨123西} ツモ{⑦} 打{⑦}

 

四巡目睦月手牌

{一二三六七③赤⑤⑨⑨123西} ツモ{①} 打{西}

 

(よしっ! {五}・{八}萬引きで三色、{④}筒引きで平和、{②}筒引きなら両方付く)

 

 手応えのあるツモに心を弾ませた。

 

十巡目睦月手牌

{一二三六七①③赤⑤⑨⑨123} ツモ②

 

 打{赤⑤筒}で平和三色ドラ1聴牌。

 ツモなら満貫、出和了りなら7700。リーチを足せばツモで跳満。

 ツモるか蒲原直撃以外だと届かない。

 だが、

 

(両面待ちだしチャンスは十分ある……)

 

 そう判断した睦月は{赤⑤筒}を曲げた。

 

「リーチ」

 

 

 

十巡目加治木手牌

{四赤五七八③④⑤⑥⑦⑧123} ツモ{五}

 

({赤⑤筒}切りリーチか……)

 

 睦月の強気の闘牌に加治木は思案にふける。

 

捨て牌

東家 藤村初日 {■■■■■■■■■■■■■}

{④北⑥一白南}

{發八中二}

 

南家 蒲原智美 {■■■■■■■■■■■■■}

{北北九⑦東一}

{中④東九}

 

西家 津山睦月 {■■■■■■■■■■■■■}

{⑧5⑦西68}

{西4西横赤⑤}

 

北家 加治木ゆみ {四赤五五七八③④⑤⑥⑦⑧123}

{南二一西①7}

{9北9}

 

 自身は{四萬}切りなら平和ドラドラ聴牌。

 だが、睦月の河には萬子が1枚も見えていない。

 

(危なすぎるな……)

 

 加治木は{四萬}へと伸ばしていた指先を引っ込めた。

 トップ蒲原との点差は5200。

 追っかけリーチを掛ければ出和了り、ツモ和了り関係なく文句なしのトップが取れる。

 だが、

 

打{⑧}

 

(一旦回す……自分自身の事ながら、あまり賢い選択とは言えないな)

 

 加治木は、張り直しが比較的容易な筒子へと手を掛けた。

 待ちに待った新入部員(候補)が来て、気合いが入っていたのは蒲原だけではない。

 加治木とて、同じである。

 だから、リーチに対して一発で放銃、逆転負け等という無様な真似は避けたかった。

 

(序盤に妙な捨て牌をしているからやりたくはないが……最悪の場合、藤村に差し込んででも他二人には和了らせない)

 

 

 

十一巡目初日手牌

{①⑨⑨東東南南白白發發中中} ツモ{五}

 

(オーラスで残り200点。これ以上なく“ついてねぇ”場面で、あたしがど真ん中をツモれる訳がない。ということは……これは誰かの当たり牌を掴まされたということ)

 

 一番あやしいのは直前でリーチした睦月。加治木は放銃を恐れての現物切りならまだ張っていない。

 蒲原は手出しの九萬切りだったから張っているかも知れないが、恐らくタンヤオ。

 なら、自身の手にある牌はどれでも通る。

 そう結論を出して初日は{①筒}を切った。

 

(混一七対子混老頭が七対子のみに下がるけど仕方ない。想像通りなら、次ツモる牌はまた当たり牌)

 

 良くある両面待ちなら{二五}か{五八}のどちらか。

 厳密には違うが、次順、二分の一の確率で和了れるはずだと初日は考えた。

 

十二巡目

{五⑨⑨東東南南白白發發中中} ツモ{五}

 

(やった!)

「ツモ。ツモ七対子、1600オール」

 

 初日が手牌を倒し、和了宣言をすると同時に、睦月と蒲原が目を見開いた。

 

「うそっ!」

「混一混老頭を捨てての{五萬}待ち!? ワハハ、これはしてやられたなー」

 

蒲原智美 36800(-1600)

津山睦月 25600(-1600)

加治木ゆみ 31600(-1600)

藤村初日 6000(+5800)

 

 

 

東四局1本場 ドラ:{九} 親 藤村初日

 

一巡目初日手牌

{①①⑧⑨119東東西白發中} ツモ{白} 打{⑧}

 

(さっき和了ったとはいえ打点を下げるのを余儀なくされた。まだ“最高についてねぇ”状態をキープできているはず……。その証拠に中張牌が一枚しか来ていない)

 

二巡目初日手牌

{①①⑨119東東西白白發中} ツモ{①} 打{9}

 

(たとえ前局、①筒で和了できていたとしてもトップには届かない。中途半端についてしまうよりは良かったはず。トップとは30800点差。倍満ツモで逆転トップの目が出た分、状況は好転している)

 

三巡目初日手牌

{①①①⑨11東東西白白發中} ツモ{白} 打{1}

 

(間違いない。さっきと同じでまったく中張牌を引かない……。ホントは引けないと言った方

が正しいんだけど)

 

四巡目初日手牌

{①①①⑨1東東西白白白發中} ツモ{東} 打{1}

 

(勝つのは……あたしだ!)

 

 順調に進む手を見て、初日は一人ほくそ笑んだ。

 

 

 

四巡目蒲原手牌

{九九九⑤⑤⑦2346北北北} ツモ{6}

 

(ワハハ、無駄に高い手が来た……。あんまり笑えないなー)

 

 1000点のノミ手でも和了れば勝ちという状況でドラ3ツモり三暗刻を聴牌。

 しかし、現状では役なし。

 

({④⑥}か{57}を引いて両面待ちになってからリーチするか……。いや、オーラスだし、他三人は引くに引けない状態だから……)

 

「リーチだ。ワハハ、もし私が負けたら三人に学食オゴってやるぞー」

 

 蒲原は{⑦}をくるりと半回転させて河に置いた。

 

(こっちも押してみるかー)

 

 蒲原の選択は不退転のリーチ。

 押す場面では押す、引く場面では引く。自分で決めたラインを忠実に守るのが蒲原智美という雀士である。

 それを大物手が和了れそうだからという理由だけで、曲げてしまうのもまた蒲原智美という人間なのだが。

 

 

 

八巡目初日手牌

{①①①⑤66東東東白白白中} ツモ{⑤}

 

(やられたっ! 蒲原部長は{⑤6}のシャボ待ちっ……。こっちも張ったけどほぼ間違いなく待ちが被ってる)

 

 ツモり四暗刻を聴牌だが、和了り目はゼロパーセントだろう。

 他家の当たり牌を掴まされるという特性がある故の初日の読みだった。

 

(中張牌を引けない以上、あたしには七対子しか和了り目が残されていない……)

 

打{白}

 

 初日は聴牌を崩す。

 {⑤6}を全て使い切り、それでもなお和了するには、七対子以外の道はなかった。

 

 

 

「テンパイ」

「テンパイ」

「ノーテン」

「ノーテン」

 

テンパイの声は蒲原と初日のもの。

 ノーテンの声は睦月と加治木ものだった。

 

蒲原智美 37300(+1500)

津山睦月 24100(-1500)

加治木ゆみ 30100(-1500)

藤村初日 7500(+1500)

 

流局時蒲原手牌

{九九九⑤⑤23466北北北} 

 

流局時初日手牌

{一①①⑤⑤66東東白白中中}

 

「な、なんだお前の手は……ワハハ……」

 

(わ、笑えない。さっきは混一混老頭を捨て、七対子のみ。今回は{①東白中}を手出しで切っていた。つまり、ツモり四暗刻を捨て、七対子のみ。こいつどっかおかしいぞ……)

 

 蒲原は顔が引きつると同時に、背中に嫌な汗がタラリと流れた。

 

(安い定食でがまんしてくれよー)

 

 麻雀とは不思議なもので「あっこりゃ負けだな」と思った時は、例えどんなにリードがあろうとも十中八九負ける。

 しかし「これは確勝級だろう」と思った時には、逆にあっさり負けてしまう事があるのも麻雀である。

 

 

 

東四局2本場 供託:1本 ドラ:{③} 親 藤村初日

 

一巡目初日手牌

{①⑨⑨⑨1東南西北白白發中} ツモ{9} 打{⑨}

 

(今回はドラが中張牌。ついてねぇあたしはドラを引けない……)

 

 全て幺九牌で埋め尽くされているというあまりにもバカげた配牌。

 だが、初日にとってはそうめずらしくもない光景だった。

 

二巡目初日手牌

{①⑨⑨19東南西北白白發中} ツモ{九} 打{⑨}

 

(なら、さっきまでとは違い、全ての幺九牌は)

 

 0本場のドラは{1}、1本場のドラは{九}。

 何故と聞かれても当人は困惑するだけだろうが、初日にはドラを自力でツモる事が出来なかった。

 だから、前二局は狙えなかった。

 

三巡目初日手牌

{九①⑨19東南西北白白發中} ツモ{白} 打{白}

 

(――あたしの元に集まる)

 

 無駄ヅモ――だがそれはやはり幺九牌。

 だからこそ、初日の自信は揺るがない。

 

(ゴチになります! 蒲原部長!)

 

 山へと手を伸ばし、牌を掴む。

 出来もしないのに盲牌をし、口元をつり上げた。

 

「ツモ! 国士無双、16000オールは16200オール!」

 

四巡目初日手牌

{九①⑨19東南西北白白發中} ツモ{一} 

 

蒲原智美 21100(-16200)

津山睦月 7900(-16200)

加治木ゆみ 13900(-16200)

藤村初日 57100(+49600)

 

 

 

 一同は学食の入り口にある食券販売機の前に移動していた。

 

「ワ、ワハハ、さあみんな好きなのを頼んでいいぞ」

 

 蒲原は後輩の前で格好悪いところは見せられないと、表面上は平静を取り繕っていたが、内心冷や汗ものだった。

 

(今月は懐事情がちょっとあれだからなー……)

 

 日替わり定食300円を四人前ならともかく、DX幕の内750円を四人前だと財布が死んでしまう。

 蒲原は日替わり、日替わり、日替わりと言え、頼むから言ってくれという意思を込めた視線を三人に送る。

 

「何かオススメはありますか?」

 

 その声なき悲痛の叫びを感じ取った初日が蒲原に助け船を出そうとメニューの選択権を差し出した。

 

(ワハハ、優しい後輩を持って幸せだなー)

 

 蒲原はその優しい後輩が元凶であることを忘れ、思わず涙ぐむ。

 

「そうだなー、日替わ……」

「DX幕の内は絶品だぞ」

 

 蒲原が言い切る前に加治木から死刑宣告が下された。

 

(ユ、ユミちん!?)

 

「日替わりはどうなんですか?」

「悪くない……いやむしろおいしい部類だ。だが、DX幕の内は今日が半ドンだから残っているが、通常授業が始まると瞬く間に売り切れてしまう。だから私はDX幕の内を薦める」

「……ならあたしもそれで」

 

 すみません蒲原部長と心の中で謝罪しながら、初日は加治木に追従した。

 

「ちょっ……」

「あの……私は自分で出しますよ? ラス引いてしまいましたし……」

 

 明らかに予算オーバー。

 固まっている蒲原を見て睦月はおずおずと自腹を提案した。

 

「津山、遠慮は無用だ。私達からのささやかな入部祝いだと思って受け取ってくれ」

 

 さらっとそう言ってのけるあたり、加治木には無自覚フラグ乱立能力があると見て良さそうだ。

 なんとも男らしい。女だけど。

 

(私達……達ってことは……ユミちん)

 

 何だかんだで面倒見の良い相棒に目頭が熱くなる。

 

「なあ、蒲原」

「もちろんだ。遠慮なく言ってくれ!」

 

 加治木の問いかけに威風堂々とした態度で蒲原は答えた。

 

「わかりました。私もDX幕の内をいただきます」

 

 そこまで言われると断れば逆に失礼に当たってしまう。そう思った睦月も好意に甘えることにした。

 

「だそうだ。私は二人を連れて席を確保してくる。後は頼んだぞ」

「へ? ユミちんも半分出してくれるんじゃなかったのか? 私“達”ってさっき……」

「ああ、そうとでも言わないと津山が断りそうだったからな」

 

 加治木はニヒルな笑みを浮かべ、背を向けてそのまま藤村と睦月を引き連れ食堂の中へ消えた。

 

「ワハハ……そりゃないぜ、ユミちん」

 

 蒲原の背後に古典的な空っ風が吹いた。

 見る人によっては、枯れ葉すら幻視したかも知れない。

 

 

 

(しかし、こいつがあんな打ち方をする様なやつには見えないな)

 

 自身の前の座席でうまいうまいと、一心不乱にDX幕の内を掻き込んでいる初日を見て加治木は思う。

 同世代の女子と比べ、蒲原ほどではないにしろ低い方に分類されるであろう身長。

 顔立ちにもまだあどけなさが残っている。

 その食事風景はリスが木の実を頬張っている姿につながり、ほほえましさを感じさせられるものだった。

 

(東四局0本場、混一混老頭を捨て{五萬}待ちに構えていたが……恐らくあれは津山の当たり牌。蒲原もやけにおどろいていたから、同じく{五萬}待ちだったのかも知れない。でもこれは理解できる範疇だ。私も萬子は危ないと思い、聴牌を崩して安牌を切った)

 

「ユミちん、その肉団子貰い受けるっ!」

 

(しかし1本場はおかしい。出和了りで三暗刻対々ダブ東白、ツモ和了りで四暗刻の手を捨て七対子のみに構えた。そしてその面子で蒲原の当たり牌を完全に押さえていた。比較的読みやすい両面待ちならともかく、捨て牌からの予測が難しいシャボ待ちを完璧に読み切っていたということだ)

 

「ギャー」

 

(2本場では四巡目であっさり国士無双をツモ和了って終局。まくりきって藤村の勝ちになった)

 

「冷たい! 冷たい!」

 

(そして何よりもおかしいのはツモ。あいつの和了形を見る限り、東四局では誰かの当たり牌以外の中張牌をほとんど引いていない。ありえるのか……そんなことが)

 

「ハ、ハンカチどこにしまったっけ!」

 

(いや、逆に考えたら良いのか? 誰かの当たり牌以外の中張牌を引けないからあの打ち筋になった……そう考えれば辻褄は合う。しかし、それは完全にオカルトの領域だ。いずれにせよ結論を出すのはもっと藤村と打ってからだが……。今日のあれは偶然なんかじゃない。ただの勘だが、あれはあの状態が普通なんだろう)

 

 そう加治木が納得し、前を見ると目に入ったのは上半身がびしょ濡れになっている初日。

 おろおろしながらハンカチで藤村を拭いている睦月。

 ワハハと笑っている蒲原と、何故か肉団子がなくなっているDX幕の内。

 

「……何があったんだ」

 

 幸か不幸か、加治木の脳はこの様な結末に至るまでの過程をはじき出してくれなかった。

 

 

 

 一同は再び部室に戻っていた。

 

「ありがとうございます。助かりました」

「気にするな、今度体育がある日までに返してくれれば問題ない」

 

 上の制服がお茶でダメになった初日は加治木にジャージを借りていた。

 

「やっぱりドジっ娘だよ。初日は」

「だからそれは止めてって。睦月」

 

 いつの間に仲良くなった、睦月と初日は名前で呼び合う様になっていた。

 

「ワハハ、お茶を注ごうとしてどうやって頭から被るんだ? 完全無欠のドジっ娘だなー」

「ぐはぁっ! やるな勇者蒲原よ……。しかしあたしが倒れても第二、第三のあたしがお前の前に立ちふさがるであろう……」

「お前みたいなのが二人も三人もいたら鶴賀学園が崩壊しそうだな、ワハハ」

「何バカなことをやっている」

 

 加治木は漫才を繰り広げる二人の頭を軽く小突いた。

 しかし、加治木の表情は呆れ返ったものではなく、どこかこの状況を楽しんでいる様だった。

 

(今でも名目上の部員はいたが、実質二人だったからな……。こんな空気も)

 

 楽しげに談笑している蒲原と初日、それに翻弄されている睦月の姿を加治木は今一度見る。

 

(――悪くないな)

「これを忘れていないか?」

 

 加治木はコホンと咳払いをすると入部届を差し出す。

 それと同時に一年生コンビと蒲原が反応を見せた。

 

「あ」

「い?」

「う。って違う! 流石ユミちん頭が回るなあ! あまりに内容の濃い東風戦をやったからすっかり忘れていたなー」

「ノリツッコミとはやりますね部長。関西人の才能がありますよ!」

「関西人って才能でするものなんだ……」

 

 三度、頭に拳骨が落ちる音が響いた。

 

 

 

 入部届けに必要事項を記入した後、加治木から麻雀部の活動について説明を受けていた。

 

「活動は月~金曜日の放課後だ。今まで土日はやってなかったが……どうする蒲原?」

「土曜日はやっても良いんじゃないかー? どうせ補修で学校にいるしなー」

 

 ワハハ、と笑う蒲原に再び加治木の拳骨が落ちた。

 

「それはお前だけだ、私まで一緒の扱いにするな。まあ、土曜日は午後から部室に集合ということにするか」

「はい。わかりました」

「二回目~っ! ユミちん私だけ扱いが悪くないか? 効果音も私だけおかしかったし」

「私の肉団子はどこに消えたんだ? 蒲原」

「ワハハ……」

 

 その問いかけに蒲原は乾いた笑いを返すことしかできなかった。

 

「以上、今日はこれで解散とするか。私たちは戸締まりをしてから帰るから先に行ってくれ」

「気を付けて帰れよー。ちびっ子達」

 

 四人の中で最もちびっ子といえる見た目の蒲原に、今の台詞ひどく似合ってなかった。

 

 

 

 二人っきりとなった部室で蒲原と加治木が話し込んでいた。

 

「二人とも中々の打ち手だったなー」

「ああ。津山は一度も振り込まなかったし、和了がれなかったとはいえ逆転手も張っていたっぽいしな」

「藤村の不可解な打牌には気が付いているか?」

「ワハハ、完璧に待ちが読まれていたなー。リーチを無茶苦茶な形で躱された時点で負けたと思った」

 

 今思い返しても寒気がする。

 蒲原は自分を抱きしめる様に肩を抱いた。

 

「私達はもしかすると凄い化け物を身内に引き込んだのかも知れない」

「化け物って……ユミちん?」

 

 珍しくひどい言い方をするなあと思い、蒲原は加治木の顔をのぞき込むと心ここにあらずという様子。

 

「全国出場。今日、あいつと対局するまでは夢物語とばかり思っていたが……。今は、行けるんじゃないかと思える様になっている。バカだと思うか?」

「バカだと思うなー」

 

 蒲原はそう投げ掛けた加治木に対して即答した。

 加治木はそんなにはっきり言い切らなくても良いじゃないかと顔を引きつらせるが、蒲原はさらに追撃を仕掛ける。

 

「お、お前」

「行けるんじゃないかじゃない」

「は?」

「行けるに決まってるからなー」

「……」

「私は部長だから、部員を信じてる。全国へ行きたいと思うのなら、行けるんだ。本当にユミちんはバカだなー」

 

 一瞬固まっていた加治木だが、言葉の意味を理解すると抱腹絶倒とはこのことを示すのかという勢いで笑い始めた。

 

「ユ、ユミちんが壊れた……ワハ……笑っちゃだめなのか?」

「ククッ。いや笑っていいぞ。私は何てバカだったんだとおかしくなってきた。フフっ……だめだ、まだおさまらない」

 

 その後、蒲原と加治木の笑い声が部室内で響き渡った。

 

「はー。一生分笑った気がする」

「ワハハ、ユミちんがバグったのから思ったなー」

「しかし、団体戦出場には後一人か……来ると思うか?」

「……麻雀に本気で取り組もうと考えているやつは同じ私立なら風越に行くからなー」

「……」

「でも、」

「でも?」

「後一人なら思い当たるフシがある。まあ来なかった時はそこに頼るさー」

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