鶴賀の初日の出   作:五香

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09.これが! これが! これが、龍門渕透華ですわ!

東南戦 アリアリ 喰い替えなし 先鋒戦の点数を持ち越し

東家106800 鶴賀学園

南家136500 龍門渕

西家75700 岡山第一

北家81000 篠ノ井西 

 

東一局0本場 ドラ:{6} 親 鶴賀学園

 

一巡目加治木手牌

{一一四五①④⑧⑨3西北發中} ツモ{②} 打{①}

 

(ここを勝てば決勝進出か……)

 

 たった二人で作った麻雀部。

 今年は三人増え、団体戦に参加できる様になった。

 それだけでも信じられないことなのに、後一歩で決勝進出というラインまで来ている。

 夢を見ている様だと、加治木は少し上の空になりながら、自摸と打牌を繰り返した。

 

七巡目加治木手牌

{二三四五②④⑦⑧⑨235西} ツモ{③} 打{西}

 

(蒲原やみんなに、どうお礼をすれば良いのかわからないな)

 

 部の設立の為、奔走してくれた蒲原。

 彼女と友誼を結んでいなければ、麻雀部は存在していなかっただろう。

 おおらかで交友範囲の広い蒲原は、部の設立に必要な人員をあっという間に揃えてくれた。

 そのメンバーは全て幽霊部員だが、口下手で無愛想な自分では、それすら集められなかった可能性が高い。

 そして入部してくれた一年生トリオ。彼女たちが居なければ今この場に自分の姿はなく、個人戦に向け、家で一人寂しくテレビ観戦をしていただろう。

 

八巡目加治木手牌

{二三四五②③④⑦⑧⑨235} ツモ{五} 

 

 平和を聴牌。高め三色のある好形だ。

 

({⑥}引きでタンヤオが付く……。まだリーチはしない)

 

打{5}

 

「ロン。タンピンドラドラ、7700」

 

 加治木が何げなく捨てた牌に、一が声を上げた。

 

(しまったっ!?)

 

一手牌

{四五六六七八②②66778} ロン{5}

 

一捨て牌

{⑨一九東二⑤}

{4}

 

(ドラ側を無警戒で切ってしまうとは……何をしているんだ私は)

 

 他家の河に注意が届かず、放銃してしまうという初心者の様なミスを犯した。

 とはいえ今回の場合は、注意を払っていたとしても放銃していただろう。

 {6}が四枚見えていて平和も付かない牌姿なら話は別だが、わざわざ{2}を打って嵌{4}待ちに構える事はない。

 だが、「危険を承知」で放銃することと「無自覚」で放銃することでは意味が全然違うのだ。

 

(結構精神的にクるものがあるな……)

 

 内面の動揺を表にはおくびにも出さないが、部活での対局とは違う後がない勝負の緊迫感。

 それは確実に加治木の精神を追いつめていた。

 負けられないというプレッシャーは、計り知れない重さを持っている。

 

(落ち着け……)

 

 冷たく堅い点棒の感触が、加治木を現実に引き戻した。

 そして自身の役割を認識し直す。

 

(今の私は繋ぎ役。稼ぐに越すことはないが、失点しないのが一番重要なんだ)

 

東一局終了時点

一位144200 龍門渕(+7700)

二位99100 鶴賀学園(-7700)

三位81000 篠ノ井西 

四位75700 岡山第一

 

 

 

東二局0本場 ドラ:{東} 親 龍門渕

 

一巡目一手牌

{一三四七②④⑥⑨789東東} ツモ{中} 打{⑨}

 

(やっぱり緊張するなぁ)

 

 7700を和了ったというのに、一は浮かない表情だった。

 両手首から腰へと伸びる鎖に目をやる。

 装着された手枷――それは自身と透華を繋ぐ糸であり、自身を過去に縛る鎖でもあった。

 これを見る度、過去からは逃げることが出来ないと、暗示されている様で胸が痛む。

 

二巡目一手牌

{一三四七②④⑥789中東東} ツモ{中} 打{一}

 

(全部ボクが悪いんだけどね)

 

 そう自嘲しながら、視線を卓の上へと戻す。

 小学生大会、チームのピンチを救う為、牌のすり替えを行ってしまった。

 そのシーンは映像に残らなかったが、牌姿が変わっていたのは明らか。

 結局チョンボ扱いとなりチームは敗退、そして自分は信頼を失った。

 

三巡目一手牌

{三四七②④⑥789中中東東} ツモ{五} 切{七}

 

(この大会で勝てば、本当の意味で変われる気がするんだ……)

 

 そんな自分を透華は拾い上げてくれた。

 彼女の期待に応えられれば、過去に縛られてる自分を、開放できるのではないか。

 何の根拠もないが、一はそう信じていた。

 

「チー!」

 

四巡目一手牌

{三四五⑥789中中東東} {横③②④} 打{⑥}

 

(だから、透華――正攻法(まっすぐ)なボクを見てて!)

 

 

 

『ツモ! ダブ東ドラ3、4000オール!』

 

一手牌

{三四五789中中東東} {横③②④} ツモ{東}

 

 観戦室では一の活躍を見た透華が、自分のことの様に喜びを爆発させていた。

 

「その調子ですわ、一!」

「国広くんノってるなぁ」

 

 純もそれに相づちを打っている。

 

「……四……単騎……込み……役立たず」

 

 その隅で、幽鬼の様な表情の智紀が呪詛を呟いていた。

 

東二局0本場終了時点

一位156200 龍門渕(+12000)

二位95100 鶴賀学園(-4000)

三位77000 篠ノ井西(-4000)

四位71700 岡山第一(-4000)

 

 

 

東二局1本場 ドラ:{8} 親 龍門渕

 

一巡目加治木手牌

{七九①②③1238西北白發} ツモ{白}

 

(手強いな……点差もあるし、まともにぶつかり合うと厳しいか)

 

 連続和了であっさり突き放され、加治木は思案にふける。

 こんな状況はさして珍しくもなく、日常的に見られるものだが、感じられる空気が違った。

 浮き足立っている自分とは違い、相手には大会慣れしているような風格があった。

 実力差以上に、精神面での差が如実に表れていると自己分析した。

 

(少し策を凝らしてみよう)

 

 セオリー通りに打っても恐らく今の自分ではかなわない。

 だから、一見デタラメにしか映らない打ち方をするのもまた一興。

 

(麻雀は元々はギャンブルとして栄えた。だからこそ精神面は重要だ)

 

 揺さぶって相手を自分と同じ場所まで引きずり下ろす。

 

(帰ったら蒲原達に笑われそうだな……)

 

打{③}

 

 加治木は薄く笑い、おもむろに面子を崩した。

 

 

 

「リーチ」

 

 十巡目、加治木の捨て牌が静かに曲げられた。

 

(何なの……この人の捨て牌)

 

十一巡目一手牌

{三四五六⑤⑥45678東東} ツモ{④}

 

捨て牌

龍門渕 {三四五六④⑤⑥45678東東}

{南北一九白②}

{⑨1發2}

 

岡山第一 {■■■■■■■■■■■■■}

{六西九西①③}

{發5四北}

 

篠ノ井西 {■■■■■■■■■■■■■}

{北⑨三2六七}

{南4⑧⑥}

 

鶴賀学園 {■■■■■■■■■■■■■}

{③南3七①2}

{②1八横北}

 

(不規則な捨て牌は、チートイかチャンタを疑えが基本だけど……)

 

 {①②③}と{123}が手出しで捨てられている。

 そうなればチャンタの可能性はかなり低く思えた。

 

(でも、いくら対子が手元にあったとはいえ、順子を二面子も落とすかな)

 

 七対子を狙うにしても、効率が悪すぎる。

 何がしたいのかさっぱり理解できず、一の頭を悩ませた。

 

(親だし、リードもある。オリる場面じゃない……ボクは攻める!)

 

 ここで回し打ったり、オリるのは自分の打ち筋ではない。

 一という文字のように、真っ直ぐ和了りへの道を歩むのが自身の姿。

 

「とおらばリーチ!」

 

 一は{三}を河に置いた。

 そして、千点棒を手に取るが、

 

「……リー棒はいらない」

「なっ!?」

「ロン。リーチ一発七対子ドラドラ、12000の1本場は12300」

 

加治木手牌

{三九九⑨⑨88西西白白發發} ロン{三}

 

 その十二倍もの点棒を支払うことになってしまった。

 

(どうしてっ!? {①②③}と{123}を残せばチャンタ、混老頭が狙える形だったのに!)

 

 加治木の不自然な選択に、一はじわりと額に汗を垂らした。

 

東二局1本場終了時点

一位143900 龍門渕(-12300)

二位107400 鶴賀学園(+12300)

三位77000 篠ノ井西

四位71700 岡山第一

 

 

 

東三局0本場 ドラ:{九} 親 岡山第一

 

「ツモ。リーヅモタンヤオ七対子、2000・4000」

 

十五巡目加治木手牌

{四四七七②③③④④4488} ツモ{②}

 

加治木捨て牌

{九五六三⑥南}

{白七7北63}

{東横⑧九}

 

(また滅茶苦茶な和了り方っ! その形でどうして序盤に{三五六}を出すんだろう……)

 

 再び見せられた加治木の不可解な河に、一は疑心暗記に陥ってしまっていた。

 そして、自身の知っている同じ様な手合いと姿を重ね合わせる。

 

(まさかこの人……衣レベルではないと思うけど、純くんぐらいのレベルで変人をやっているのかな)

 

 でも、決して勝てない訳ではない。

 打つ手はあると、次局での巻き返しに闘志を燃やした。

 

東三局終了時点

一位141900 龍門渕(-2000)

二位115400 鶴賀学園(+8000)

三位75000 篠ノ井西(-2000)

四位67700 岡山第一(-4000)

 

 

 

東四局0本場 ドラ:{九} 親 篠ノ井西

 

一巡目一手牌

{一三六六七⑤⑥⑧369白白} ツモ{2} 打{9}

 

 一は理牌を終えると、深く深呼吸をした。

 平常心というものが勝負事においていかに重要か。

 それは身をもって知っている。

 

(攻略法は単純明快、相手より早く聴牌する)

 

 加治木が迷彩をかけているつもりなのか、それとも常識では考えられない何らかの法則(オカルト)に従い打っているのか、一には解らない。

 

(何もまともに勝負する必要はないんだ。今、ボクに求められているのは勝ちに行く麻雀)

 

 だが、純然たる事実として、面子落としをやっている。

 牌効率を無視したその打ち筋では、当然聴牌スピードが下がる。

 ならば、その隙をついてやれば良い。

 

「ポン!」

 

 一は岡山第一が捨てた{白}をすかさず奪い取る。

 

二巡目

{一三六六七⑤⑥⑧236} {白白横白} 打{⑧}

 

(喰いタンでも、役牌のみでも良い。とにかく早くゲームを進めるだけだ!)

 

 

 

中堅戦終了時点

一位141700 龍門渕

二位112000 鶴賀学園

三位79900 篠ノ井西

四位66400 岡山第一

 

『中堅戦は+5200点で鶴賀学園と龍門渕が分け合った形で決着! 首位龍門渕と追い掛ける鶴賀学園の差は縮まりませんでした』

『加治木はトリックプレーに走りすぎたな。どうしても速度で劣る分、先制されると苦しい』

 

「ワハハ、ユミちんでも詰められなかったかー。こりゃあ、むっきーの責任重大だなー」

「う、うむ」

 

 蒲原は冗談っぽく笑いながら言ったが、睦月はそれがジョークに聞こえていない様で、青い顔をして固まっていた。

 そして、オイルの切れたロボットの様なカクカクとした動きで、対局室へと向う。

 

「おどかしちゃダメだよ……智美ちゃん」

「ワハハ、発破を掛けたつもりだったんだがなー。すまんすまん」

 

 佳織はフグの様に頬を膨らまし、抗議の視線を向ける。

 蒲原は苦笑を浮かべながら、失敗だったかと頭をかいた。

 

「逆効果だよ……。睦月さん、右手と右足を同時に前に出して、歩いていったんだから!」

「ロボットみたいだったなー」

「……」

 

 場を和ませようと、蒲原はどこかずれた返答をしてみる。

 佳織から返ってきたのは、三点リーダとため息だった。

 

「……じゃあ、私は初日ちゃんの回収に行ってくるね」

「おう、任せたぞー」

 

 蒲原は「私、怒ってます」と背中に書いた佳織を見送りつつ、先ほどの会話に何かおかしな点があった様なと、頭を捻らせた。

 

(なんだろー? 何かひっかかってるんだよなー……。ん? 初日“ちゃん”?)

 

 

 

 副将戦はあっという間に、オーラスへと突入していた。

 それほど大きな点数移動はなく、岡山第一が若干浮いている程度。

 

南三局終了時点

一位132700 龍門渕(-9000)

二位110900 鶴賀学園(-1100)

三位80100 篠ノ井西(+200) 

四位76300 岡山第一(+9900)

 

南四局0本場 ドラ:{北} 親 龍門渕

東家 龍門渕

南家 鶴賀学園

西家 岡山第一

北家 篠ノ井西

 

「ツモ! リーヅモドラ3、4000オールですわ!」

 

透華手牌

{二三四五六七99白白北北北} ツモ{9}

 

(差を広げられてしまった……)

 

 睦月は虚脱感に包まれていた。

 自分の詰めの甘さが、あまりにも情けなく感じられてしまう。

 南三局終了時点では、自身はマイナス収支だったものの、他家が削ってくれたおかげで龍門渕と二万点差あまりまで接近できていた。

 しかしそれが、オーラスで一気に四万点近くまでリードを増やされてしまったのだ。

 

(情けないな……)

 

 焦燥感にも似た気持ちが睦月を苛ませるが、これ以上自分にできることはない。

 オーラスで持ち点トップの親が和了ったのだ。

 

(私の対局はもう終わり)

 

 睦月はありがとうございましたと一礼し、立ち上がり背を向けるが、

 

「お待ち下さいまし!」

 

 透華から制止の声が飛んできた。

 

「えっ?」

「連荘しますわ!」

 

 振り向いた先には、 連荘1本場という意味なのか、それとも狙うは一位のみという意味なのか人差し指を立て、好戦的な笑みを浮かべた透華が立っていた。

 頭頂部のアホ毛もピンと真上に伸びている。

 

(……チャンスなのかな?)

 

 思わぬ形で転がり込んできた巻き返しの機会。

 睦月は起死回生の一発をこれに期待した。

 

南四局0本場終了時点

一位144700 龍門渕(+12000)

二位106900 鶴賀学園(-4000)

三位76100 篠ノ井西(-4000)

四位72300 岡山第一(-4000)

 

 

 

(このままでは地味な印象で終わってしまいますの)

 

 +3000とはいえ、現時点での副将戦の収支1位は+5900の岡山第一で自身は2位。

 チームは圧倒的首位に立っているとはいえ、目立ってナンボが身上の透華としては、現状は受け入れられないものだった。

 ならば、あがり止めとする訳にはいかない。

 

(ふふふっ、華麗なるわたくしの闘牌、見せつけて差し上げますわ!)

 

 他家に和了られ、差を広げられる可能性は一毛たりとも考慮していない。

 勝負の場に置いては、天上天下唯我独尊を貫くのが龍門渕透華の姿であった。

 

 

 

南四局1本場 ドラ:{一} 親 龍門渕

 

「ロンですわ! メンタンピン三色、12000の1本場は12300!」

 

透華手牌

{四五六④⑤⑥2345688} ロン{4}

 

 透華は岡山第一から直撃を奪い、副将戦のプラス収支者を自身のみとさせた。

 

(まだまだ、これでは終わりませんわよ!)

 

南四局1本場終了時点

一位157000 龍門渕(+12300)

二位106900 鶴賀学園

三位76100 篠ノ井西

四位60000 岡山第一(-12300)

 

 

 

 ――同時刻の観戦室。

 

「あいつらしーな。普通、この状態で連荘は選択肢にねーだろ」

「うわー……。点数差を考慮して、安手で流したボクは何なんだったんだろう」

 

 純は心底楽しそうに笑っている。

 反面、隣に座る一は複雑そうな表情であった。

 

「鶴賀のとガチでやり合いたかったのか?」

「まあね、おもしろい人だったから。個人戦で当たったら、正面からぶつかってみるよ」

 

 そうするのが最善だったとはいえ、一本来の打ち筋を変えてまで挑んだ中堅戦。

 本来のスタイルならどんな勝負になったのだろうかと、少し思い残しがあった。

 

「私は……リベンジしたい」

 

 智紀は瞳の中に炎を宿らせている。

 次鋒戦、役満直撃を喰らいリードを増やす事ができなかった。

 今度は、同じ事をさせるつもりはない。

 

 

 

南四局2本場 ドラ:{三} 親 龍門渕

 

「ツモ! リーヅモ三暗刻ドラ1、4000オールの2本場は4200オールですわ!」

 

透華手牌

{一一一二三⑧⑧⑧999西西} ツモ{西}

 

(これが! これが! これが、龍門渕透華ですわ!)

 

南4局2本場終了時点

一位169600 龍門渕(+12600)

二位102700 鶴賀学園(-4200)

三位71900 篠ノ井西(-4200)

四位55800 岡山第一(-4200)

 

 

 

 辺りはすっかり夕闇に包まれていた。空には夕月が浮かんでいる。

 会場の外で、衣は半月を眺めていた。どこか憂いを帯びたその表情は、帰れぬ故郷を忍ぶかぐや姫の様でもある。

 その傍らには、執事服に身を包んだ端正な顔立ちの若い男が、気配を消して佇んでいた。

 

「衣様、そろそろお時間です」

「むっ、ハギヨシ何時の間に……透華達は終わらせられなかったのか」

「はい。副将戦のオーラスで透華様が連荘中ですが、他校は五万点以上残しております」

「……そうか、アレは残ったか」

 

 衣は笑いをかみ殺そうとして、変な表情になっていた。

 それを疑問に思ったハギヨシが質問する。

 

「何かあるのですか?」

「行くとしようか。今宵、新たな鵺塚が信濃国に誕生するであろう!」

 

 衣はハギヨシの疑問に、鵺退治に向かう源頼政もかくやという威圧感で答える。

 そして会場の張りつめた空気を切り裂きながら、会場内へと脚を進めた。

 

 

 

南四局3本場 ドラ:{中} 親 龍門渕

 

(まずい……デッドラインに達した)

 

 睦月は額から流れる汗を袖で拭った。

 現時点で66900点差。親の役満ツモでも2900点届かない。

 いくら初日が規格外でかつビハインドに強いとはいえ、半荘一戦でこの差をひっくり返すのは難しい。

 

(何がチャンスだ、むしろピンチになってる)

 

 これ以上離されれば、その時点で勝負あったになってしまう。

 自分にとっての天王山はここだと、睦月は気合いを入れた。

 

一巡目睦月手牌

{一三五八九②3689西中中} ツモ{1}

 

(……ドラの中が対子だけど、辺張と嵌張だらけ)

 

 狙えそうなのは中ドラ3か、チャンタドラドラ。

 睦月は{9}ではなく、{②}を落とした。

 

(鳴いて鳴いて鳴きまくる! バレバレだろうけど、むしろ牽制になると考えよう)

 

 ただの開き直り、だがそれは睦月の力を十全に発揮させるカンフル材となった。

 中級者になると、ある時点で以前の自分より弱くなったような錯覚に陥ることがある。

 それは抱負な知識と中途半端な経験からくる実譜との差であり、実際に下手になっているケースは少数。

 むしろミスに気づけるようになっただけ強くなっているのである。

 だが、自分は下手だと萎縮していては、和了れるものも和了れなくなることも少なくない。

 

 

 

六巡目透華手牌

{一三三四四①①⑦⑦⑨⑨南發} ツモ{一}

 

(うむむ……動けませんわ)

 

捨て牌

龍門渕 {一一三三四四①①⑦⑦⑨⑨南發}

{北②四}

 

鶴賀学園 {■■■■■■■} {横七八九} {横213}

{②五6西三}

 

岡山第一 {■■■■■■■■■■■■■}

{北⑧東⑨4}

 

篠ノ井西 {■■■■■■■■■■■■■}

{九白西七五}

 

 下家が明らかにチャンタもしくは役牌バックの手。

 南か發を切れば聴牌だが、透華の目からはどちらも超が付く危険牌に見えた。

 

(残念ですが、ここで打ち止めでしょう)

 

 透華は頭頂部のアンテナをシュンと萎えさせながら、打{三}とした。

 ベタオリである。

 

 

 

「ツモ! チャンタ中ドラ3、2000・4000の3本場は2300・4300」

 

八巡目睦月手牌

{一一789中中} {横七八九} {横213} ツモ{中}

 

(これが……今の私なりの精一杯)

 

 53700点。残り半荘一戦では、普通の打ち手だと絶望的にも思える差だ。

 しかし、常軌を逸した雀士である初日ならギリギリ射程圏内。

 本当に最低限ではあるが、自分の仕事はこなせたかと、睦月は大きく息を吐いた。

 

(後は……初日に全てを委ねる)

 

副将戦終了時点

一位165300 龍門渕(-4300)

二位111600 鶴賀学園(+8900)

三位69600 篠ノ井西(-2300)

四位53500 岡山第一(-2300)


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