とある中佐の悪あがき 作:銀峰
「この情報を全世界に配信する。……いや我々の仲間に、かな?」
悪魔のように、目の前の男は囁いた。
ユーセル中佐率いる艦隊諸軍は、終戦条約から数日。
「……」
煌びやかな装飾品。腰掛ければ沈むようなソファ。所々に客ももてなす為の心使いが観て取れる。国賓を元々は受け入れるための部屋だ。
相対するのは、ジオン公国軍の宇宙突撃機動隊中佐の階級章をつけた男。本来なら中佐程度の軍人が入れるような場所ではない。
もてなしている側の男、ダルシア・バハロ。肩書きとしてはジオン公国の首相だが、実質的な権力はなく、デギン公王と共に象徴として置かれた傀儡に過ぎない。宇宙世紀0080年1月1日に共和国の首相として地球連邦と終戦協定を結ぶ。
そんな男が一介の軍人を相手にしているのはひとえに手元の情報の重大さ故にだ。
40過ぎの男_ダルシア・バハロがわなわなと肩を動かしながら、呟かように口を開く。
「……何故だ。君もスペースノイドだろう。あまりに……このようなことをされてはサイドは、いやスペースノイドの民は滅ぶ」
「なに、簡単なことさただ我々に少しだけ、ほんの少しだけ融通してくれればいい。それだけのこと」
「虚仮ににするのも大概にしろ…いくら分野外の方でもこの案件の価値ぐらいわかる!その価値もな到底今の我々が出せる額からはとうに過ぎている」
愕然としてほとんど悲鳴のような声を漏らす男に、客人ユーセル・ツヴァイは無表情のまま佇んでいた。
時を少し戻す。
目の前に広げられているのは一枚の新聞雑誌だ。
ジオン共和国が、ある企業の株式取引の文字がデカデカと踊っていた。
「これがどうかしたのかい?」
「まぁ……ただの記事だよ」
新聞を見ている彼に、そう問いかけたのはクーディだ。戦闘が終わって、ふらふらと手持ち無沙汰そうにしていたので、艦橋に遊びに来たのだろう。
「まぁ、何でもない情報の一つですね。
「……?」
そう呟いたのはこの艦のオペレーターのオペ子だ。先程まで気難しそうな顔でルービックキューブをいじっていたが、完成したらしい。
傍らに置かれたそれは、綺麗に面が揃っていた。
「どういうことだい?」
「……そもそもジオンという国は負けて、戦時債務というものを抱えているこれは分かるか?」
「まぁ分かるけど……借金みたいなものだよね?」
「そうだ。それも膨大_って言い方もアレだな。ジオンのしたことから見ると最小限の額だが、決して小さくは無い負債だ」
「うん」
「財政的に緊迫していた連邦政府はジオンを吸収することができなかったんだ。開戦前のように併合すると、ジオンは連邦の一部だ。ジオンの負債は連邦政府が払わなければいけなくなってしまう」
「でもジオンの名前は残っても、莫大な負債は残ってるね」
正解だ。と褒めるようにクーディの頭を撫でる。
あんまりいい話ではないが、一般ニュースに載っている情報だ。いずれ知られる事だ。
「そうだな、だからその負債をどうにか出来る程の価値のあるものを売却するしかない」
「でも、資材や小惑星だって殆ど今回の戦争で連邦に占領されてるって聞いてるよ」
やはり彼女は聡明だ。10代半ばですぐにこの考えに至るやつはなかなかいないだろう。思わず口元が緩みながら、さらに続ける。
「いいや、ジオンにしかないある
「それって」
「ジオニック社の技術企業の売却だよ」
「虚仮ににするのも大概にしろ…いくら分野外の方でもこの案件の価値ぐらいわかる!その価値もな到底今の我々が出せる額からはとうに過ぎている」
「ならば仕方ありませんね」
俺が考えたのは、手に入れたザクからMAまで様々な機体の設計図。そしてその使い道。これさえ有ればちょっとした資金と資材を持っているだけで、戦争を仕掛けられるようになる。モビルスーツを手に入れられるのだ。
そんな物を横から売却先の企業に安く渡したら?もしくはただ同然で売り払ったら?
ジオニック社に価値が残らないとは言わないが、話は変わってくるだろう。技術者のノウハウなどは手に入るが、機体を作って運用すれば、何もジオンの人間を雇わなくても済む。作って動かしてみるだけで問題点はすぐ出てくるだろう。
_そしてそれはジオニック社を売却して、国の負債に当てようとしているジオンにとって面白くない。
「ではアナハイム・エレクトロニクスに売りに行きましょうかね。彼方の方が高く買ってくれるでしょう」
「アナハイム・エレクトロニクスとは密約をもう交わしている。後は渡すだけだ。今更変更はできない……」
「そうなのか?じゃあ別の方法を取るよ。このデータを全世界にばら撒く。価値は無くなるだろうね。何簡単な要求だ。ジオニック社を売却した資金の半分を我々に譲って頂きたい。」
もちろんはったりだが、相手にとっていたい手には変わらないだろう。
こちらにもうけがない。恨みを買うだけだしな。
しかし考えていなかったわけではない。数年後のジオンは何故あんなにも苦しんでいたのか、補給がなかったのもあるが、新しい機体を用意できなかったからだ。しかしこれを残党やマンハンターに追い詰められた人たちに配るだけで。ちょっとの資金と資材が有れば……モビルスーツを使ってくるテロリストの大量発生だ。連邦政府はその対応に追われて復興も、遅れる事だろう。
どちらにしても、得はある。損も大きいが……
「取引はしてもらっても良い。その後の資金を融通してくれるだけで良いのだ。全部取るわけではない」
「……わかった。前向きに検討する。後もう少しだけ時間をくれないか」
こちらが本気だということが伝わったのか、ガクリと項垂れジオンの国家元首は絞り出すような声を漏らした。
「いやー上手いくいったな」
「いつかユーさんは後ろから刺されると思うね」
「怖いこと言うなよ」
はぁ、と溜息をついてくる。クーディ。無事交渉を終わらせて、艦に戻ってきた。後はジオンとアナハイムが取引し終わった後に受け取れば良い。
どうにもやり方が悪かったが金はあるところからむしり取らないとな。
「それにアナハイムだけが買い取り先ということもないだろう」
「どう言うこと?」
「考えてもみろ。ジオンの技術は10年は進んでいる。その技術をただの連邦の下請け企業のアナハイムが獲得して、ハッピーエンド。ってなわけにも行かんだろう。必ず連邦が介入してくる」
「じゃあ連邦に交渉に行ったが良かったんじゃあ……」
「アナハイムも負けてないさ。あの連邦軍の下請けといってもこの一年戦争で大幅に利益を上げている急成長企業だ。資金も負けてないだろうな。株価見てみろ?すごい右肩上がりだぞ」
「あんまり株は分からないよ」
「見ておいた方がいいぞ。だいぶ儲けた」
転生者とは便利な物である。これから上がる会社がわかるんだからな。
まぁ、かけてるのはアナハイムだけではないのだが。個人の資産なんて高が知れている。
「資金は手に入った。あとは新技術だな」
「今回手に入れたデータじゃダメなの?」
「まぁ、いけなくはないが、運用には長けた奴らはいるが、開発陣はいない。だからアクシズとの連携を取ったわけなんだが、生産拠点がなぁ……まぁ」
そこら辺はデラーズ閣下にお願いすればいいだろう。
問題は山積みだ。だが目処は立った。後は連邦政府を潰すだけだ。
思わず口元が緩むのを感じる。
ここからだ。やっとスタートラインに立てそうだ。
「やぁニナさん!調子どう?」
そう笑って、アナハイムの上位の指にはいる聡明な女性に声をかける。
ニナ・パープルトンさんだ。ガンダム1号機・2号機の開発に携わっているアナハイム・エレクトロニクスのシステムエンジニアで、一見清楚に見えて実は結構な変人気質である。
「あら、ユーセルさん。ガンダムの操縦テスター抜擢されたそうでおめでとうございます」
「いやいや、どうにもみんなの力がないとここまで来れなかったよ。今度こそはガンダムを完成に」
「はい。私のガンダムも完成に近づいています。ドム系統の技術を盛り込み、2号機は完成に近づいています。装甲を増した事による機動力の低下それを見越しての提案、そして関連技術者の引き抜き。とても見事な手腕でした。本当に外部引き抜きの技術者とは思えないくらいですわ」
「はは」
ずい、と体を接近させそう語ってくれるニナさん。女性の香りにドギマギとしつつ笑って流す。毎回褒めてくれるが、大したことはしていない。俺に技術は無い、だが提案問題点を見つけれるアイデアは挙げられる。あとはそれを実現できる技術者を連れてくるだけだ。
あの件からしばらく経った後、俺はアナハイムに入社していた。
今やアナハイムは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けている。
(スプーンから宇宙戦艦まで)
そのキャッチフレーズは伊達では無かったらしい。様々な分野に顔を出し、今やアナハイムの製品を店で見ない日は無いほどだ。
そしてもちろんモビルスーツも……
「じゃあ自分は、これで」
「あら、分かりました。今度ガンダムの事で意見交換したいのですが、暇な時間ありますか?1号機の事で意見を聞きたくて……」
「ガンダム2号機の方で手一杯でして、またの機会に」
「そうですか……」
少し肩を落とす彼女。どうにも心が痛むが、連邦の機体は専門外だ。ボロが出てはいけないので、毎回断っている。ニナさんは美人だし凄い心惹かれるんだけどなぁ……ちなみに断られなくて一回だけ参加したが高度すぎてついていけなかった。延々とこの動力はこう、アンバックシステムの過去に不備があった事案。まじで長かった。この女モビルスーツにしか興味ないんじゃ無いだろうか。
軽く手を振り移動する。大きい会社だ。長い通路を通路に備え付けてあるグリップを握り、格納庫まで到着。格納庫は重力が1Gよりも遥かに下だ。体が浮き上がるように機体の前に出る。
「ガンダム2号機0083の始まりとなった機体……」
俺は今ガンダム2号機の開発に携わっている。連邦軍の機体ということでうまく行かないのでは無いかと、心配していた。ジオン系列の技術を使っての機体ということもあり、慣れた技術を大いに使いなかなか良い出来に仕上がった物では無いかと思っている。しかもホバーだし、実質ドムである。
「さて、逃げてきた訳だが特に用事は無いんだよなぁ」
「あ、ユーセルさん」
「オービルか、調子どうだ?」
「ぼちぼちですね。今週末に控えている。ガンダムの実戦データ収集の為に少し気になることがあって」
「そうか。真面目だなぁおまえ」
「いえ自分がジオンの役に立てる機会です、一生懸命やるだけですよ」
そう言って引き攣ったような笑みを浮かべるのは、ニック・オービルジオニック社の技術者の一人でガンダム2号機の開発スタッフの一員だ。
謙虚で良いやつなんだが、どうにも危ういところがある。腕は確かだ。
「少し手伝うよ。何をすれば良い?」
「では、シミュレーターになって軽く動かしてもらっても?どうにも動かすのは専門外で」
「了解」
2号機に乗り込み。軽くシュミレーターをして帰ることにした。
「ただいま」
「あ。お帰りなさいユーさん」
間借りしているアパートに帰ってきて早々、そう言って迎えにきてくれたのは、クーディだ。特にここ最近はすることもないし艦隊も今は潜伏期間に入っている。どうにも無いので、二人で住んでいる。
「今夜はカレーだよー。上手くいったから早く食べてみてほしいな」
「くうくう。やったぜ」
「はーい。もう並べてますからね」
「なんで分かったんだよ」
「そりゃあご飯作ってたら帰ってくる姿が見えたからね。準備しておいた」
ここから帰り道の道路が見えるのは500は先で。ほんの一瞬しか映らない。もしかしてずっと見てたのだろうか?
「……ほら早く」
「はいはい」
顔を背けながら、背中を押してくる彼女。
「…ふっ」
「……なんでわらったんだい?」
「いや別に」
思わず口元が緩む。狭い玄関を抜けて、居間に入る。
机の上にはカレーが並んでいた。湯気が立ってとても美味しそうだ。
「いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせて、カレーを食べる。
うまいわ。
「ガンダムの方は上手く行きそう?」
「まぁ、後少ししたら、納品だな。近々地球に降りるらしい」
「へぇ、遂にか」
「俺も行くだろうな。地上部隊とは連絡も付いてる後は仕上げを待つばかりってね」
「本当にやるんだね。別にこのまま月で暮らしても良いんじゃ無いかい?」
「言っただろ?前からの計画だ。今更辞めるなんてできないさ」
彼女はただ一言だけ俺の名前を呟いて、口をつぐんでしまい、この後の会話も返事らしい返事は聞こえなかった。
やっと0083に入れそう
月での出来事みたい
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ガトー、ケリーアナハイム関連みたい
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早よ次行け