とある中佐の悪あがき 作:銀峰
月の合間。シーマ・ガラハウとの接触
宇宙の何処にでもある暗礁宙域。連邦の目から隠れる様に潜むザンジバル級とティベ級が横に並んで停止していた。ティベ級の名をニュンペー。そして、ザンジバルの名をリリーマルレーンと言った。リリーマルレーンの艦内でそれぞれの艦の艦長達は、ブリッヂで向かい合っていた。
「あん?海兵隊に仕事の依頼だあ?わざわざシーマ艦隊まで来て、言いたいことはそれかい」
形のいい眉を釣り上げて、訝しげな視線を向けるじゅく……美女。シーマ・ガラハウ。
一年戦争開戦直前に編成されたキシリア・ザビ配下のジオン公国軍突撃機動軍海兵隊に、遙任の艦隊司令アサクラ大佐の代理司令官として配属。
麾下艦隊は、「シーマ艦隊」の通称を得て、一年戦争時は主に破壊工作を行っていた。
ちなみにこの女性。最近顔の小皺が目立ってきたのが悩みらしい(オフィシャル)
「なめんじゃないよ。ここはこのあたし筆頭に、ならず者の集まりさね。あんたらジオンの奴らから爪弾き者にされた奴らのね。それに今更仕事の依頼だぁ?」
「ああ。麗しきシーマ・ガラハウ率いるリリー・マルレーンに用があって来た」
「ふん。煽ても無駄だよ。……帰んな。一瞬でも聞こうと思ったあたしが馬鹿だったよ」
興味を失ったと言わんばかりに目線をそらし、手に持った扇子でしっし、と払われた。早速にべも無い。
「まぁ。ちょっと焦りすぎたな」
「焦りも何もないよ。コッセル。お客さんはお帰りだ」
「そう慌てないで、手土産を持って来たんだ」
「……手土産ぇ?あたしはおせっかいな男は嫌いだよ」
にべもない態度なのは変わらなかったが、視線だけ此方にやり期待した様な目のシーマ。その期待に応える様に、俺は後ろに控えにいたクーディから箱を受け取ると、堂々と言い放った。
「まず首、肩、腰に効く全自動マッサージ機」
「……まぁ。パイロットやってると首や肩が凝るからねぇ。助かるよ」
訝しげにしながらも、素直に感謝するシーマ。成功の様だ。
「その次に月で流行ってるお茶。とその茶菓子」
「へぇ。分かってるじゃないか。なかなかこんな生活だと、甘味は贅沢品だからねぇ」
感心した様にうんうん、と頷くシーマ様。美人はずるい。綺麗な女性がそういう動作をしているだけで絵になるから。そして最後に、
「そして最後に、30代から始める基礎化粧品の無料サンプルを__」
「ぶつよ」
目がガチだった。ざわざわ、と困惑する様に、にわかに騒がしくなる艦内。シーマは艦長席から立ち上がると殺気のこもった目で此方を見下す。しまった飛ばしすぎたか。
「前言撤回だ。やっぱり返さないよ。あんたはここで__」
「今夜は返さないって?え?……いいんですか?やった。艦隊の皆んなと相談しないと」
よっしゃとガッツポーズをとり、喜びを表現する。それを見てシーマは訝しむ視線をむけ、何か閃いたかの様に顔をはっ、とさせた。
「あん?……いや。美しいとか言ってたし、そういう話かい?」
「……?そりゃ。
「あ、朝まで?やるもんだねぇ。……ここにはそのつもりでここに?」
「はい。元々その話で来たんですからね。お互いの
「そ、そうかい。あけすけだね。そういうのは風情がなくて嫌いだよ」
「風情も何も。ようやく……ようやくシーマ艦隊の居場所を見つけられたんです。本当に長かった」
連邦の哨戒網を潜り抜け、神出鬼没のシーマ艦隊を探し出すのにどれだけかかったことか。本当に苦労した。あの時の思い出を噛み締める様に、感極まって目を瞑り上を向く。見えないが、シーマが艦長席で毒気を抜かれたようにため息を吐く気配がした。しばらくの沈黙の後、
「……まぁ。良いや。言ってみなよ。いきなりってのは嫌いだよ」
「いきなり?」
「あんたいきなり。本番に行こうとするつもりだったのかい?呆れるねぇ。よほど女の扱いを知らない様だ」
疲れたと言わんばかりに席にドサと座り込むと、手に持っている扇子を広げ口元を隠す。先程とは打って変わって此方を見定めてくる様な目線を向けてくるシーマ。挑戦的な目の奥で、暗黒の様なヘドロが透けて見えた。よく見たことがある目だった。敵の大部隊が四方を囲んでいると無線で流れた時。もう弾がないと言われた時。足の指をタンスの角にぶつけた時……諦観。諦め。もうどうにでもなれと、世界を呪っている者の目だった。
それを利用しようとする自分の汚さを自覚しつつも、勤めて声のトーンを平坦を保つ。
「とりあえず、地球に降りようと思ってる。目標はキャルファルニアベースがいい」
「いきなり地球かい?まぁ。あそこは海が綺麗で、海鮮も有名らしいね。宇宙暮らしには中々縁が事ないところだ。良いじゃないさ」
海鮮?なんで海鮮が関係あるのかわからなかったが、まぁ海兵隊にって言うぐらいだし、海に並々ならぬ興味がありそうだ。話を続ける。
「あぁ。降下したらまず観光も良いかもな。中々行けなくなるし」
「……それ以外に何があるってんだい?それに中々行けない?」
ん?と訝しむ様に此方をみる彼女。その視線に気づかずユーセルは先を続ける。
「あぁ。まず見るのは宇宙に打ち上げるためのマスドライバーだ。これを真っ先に目指す」
「……呆れた。あんたなっちゃいないね。このシーマと行くのにいきなりそんな何処にでもある様な、マスドライバーに連れてくのは違うだろうに」
はぁ、と期待していたプランでは無いと言わんばかりに否定を示し、シーマは首を振った。艦橋にいたコッセル達も「あぁん?」とでも言わんばかりの否定的な視線を此方に向ける。
「コッセル。キャルファルニアベースの地図を出しな」
「了解です。シーマ様」
シーマが艦橋にいたコッセルに指示を出し、該当地区の地図をモニターに表示させる。
「まずはここさ。この街に行く」
「街?そんなもの_」
行く必要がない。と続けようとした所で、シーマがちっちっち、と人差し指指を左右に振った。
「甘いね。あんた……えーと」
「済まない。名乗るのが遅れた。ユーセル。ユーセル・ヅヴァイ。階級は中佐」
「あたしはシーマ。シーマ__」
「知ってる。シーマ・ガラハウ。階級は中佐。戦時中56機もの撃墜数を誇り、ジオン軍が誇るトップエース。主に潜入、破壊を得意とする海兵隊の司令で、麗しき女兵士」
今度はこっちが遮る番だった。スラスラと此方が知っている情報を喋ると、シーマは驚いたように此方を見つめていた。
「詳しいね。まぁわざわざ訪ねてくるんだ。そのくらいは知ってそうなもんだね」
「ええ、貴女の高名はずっと前から
「高名ね。何やら深みが有りそうじゃないか?あんたも他の奴らと同じように海兵隊を見下してるタチかい」
「とんでもない!」
慌てて大声をだして否定を示す。見下すなんてむしろ逆だ。
「一番誉れ高いか部隊は何処かと聞かれれば、俺は間違いなく海兵隊と答える。汚れ仕事ばかり?言いたい者には言わせておけばいいんだ。己の手を汚す覚悟の無いやつの言葉だよ。それは」
少数精鋭的なイメージと実態、事実真っ先に危険な戦場に向かうのは海兵隊なのだ。そんな思いが伝わったのか、目をぱちくり、とさせ驚きの目で見てくるシーマ。しまった。言いすぎたか、と思っていると、シーマは豪快に笑い始めた。
「ははっ。いいね。あんたみたいな奴は初めて見たよ」
「そうか?」
「まぁ本心かはわからないけどね」
「む。本心だよ」
「ははっ。まぁいいさ。あんたも物好きだねぇ」
試すような物言いに、少し反抗しつつユーセルは己の本心を口にした。シーマはそれを受けてまた少し笑うと、目元に浮かんだ涙を人差し指で拭った。
「そうさね。話を戻そうか。まずはいろいろ見て回りたいねぇ。こことか街が多くていろいろありそうだ」
「……なるほど」
シーマがしめした座標は、連邦軍基地からほど近いかなり発展した街だった。このようなところに居れば作戦失敗のリスクが高まるのでは?とユーセルは思った。それを見透かしたのかシーマが言い募る。
「納得いって無い顔だね。人混みは嫌いかい?だがね。下手にここから離れちまうと見るもんが無くなる。この地点が何かと都合がいいのさ」
「事前偵察ってことか」
「野暮な言い方するねぇ。まぁいいさ」
ユーセルの物言いに、顔を顰めながらシーマは肯定した。
確かに襲撃前に敵の情報を集めるのは、基本だ。それをしなければ何事もうまくいかない。流石は歴戦の将だ。納得した。
「次は海を見たいね。水面に照らされる都市の灯りを見ながら、船旅ってのも乙なもんさ」
「!」
やっぱり海兵隊だ。偵察の次は潜入の経路まで考えている。確かに夜の暗い海側から侵入する影は見えにくい。迷いそうな時も、陸地の灯りを見れば迷うことはない。流石だ。
「なんか噛み合ってない気がするなぁ」
納得がいったようにうんうん、と頷くユーセルを見て、後ろに控えていたクーディがぽつりと呟いた言葉は、残念ながら彼の耳には届いていなかった。シーマも自分で言っているうちにテンションが上がって来たのか、説明する声に熱が篭ってきた。
「そして最後にここさ!」
「マスドライバー」
「帰りの足のこともある。それに知ってるかい?だいたいこういう施設には宿泊用の施設があって、夜景を一望することができるのさ」
「ん?夜景?宿泊?」
疑問符を頭の上にいくつも浮かべて、疑問を口にする。何が致命的に間違っているような……
「シーマ様に言わせんじゃ無い。それこそ野暮ってもんだろうが」
コッセルが無粋なと言わんばかりに肩をすくめ、リリーマルレーンの艦橋のメンバーも聞くんじゃ無いぞ。若造。と言わんばかりの視線を寄越す。針のむしろに立たされているような気持ちになりながら、一つの疑問を口にした。
「えーと、強襲作戦の話だよね?」
「またあんたは嫌らしい言い方するねぇ。普通に言いなよ。普通に」
「嫌らしいというか、ドストレートと言うか」
「呆れたねえ。これだけ言ってもわかんないのかい」
シーマは噛み合わない会話に苛立つ様に、手にしている扇子を手のひらで何回も叩く。ユーセルは確認する様に一つ一つ質問していった。
「えーと。じゃあリリーマルレーンの方お借りしたいんですけど」
「シャトルで行けばいいだろ」
「ゲルググも。こちらからもモビルスーツは出します」
「いらないだろ別に、邪魔だし」
「……?」「……?」
ようやく話が噛み合ってないことが伝わったみたいで、2人はしばしの沈黙の後言った。
「あーお互いに何言ってるか言い合いません?」
「そうさね」
___。
ぶたれました。
??「何だい。またきたのかい。はぁ。もうくるなと言ったんだがねぇ」
??「……あ?機関長が通してくれた?ちっあの耄碌シジイめ」
??「コッセルもオッケーって言ってくれた?……おい。コッセル」
??「たく……露骨に目を晒しやがって」
??「またお土産持ってきた?」
??「……ぶつよ」
??「まったく……毎度毎度」
??「はぁ」
??「まぁいいや。……どうせ暇なんだろ?お茶でも飲んできなよ」