とある中佐の悪あがき 作:銀峰
『……まだだ!』
「そうだな!」
爆音。砲声。
まだジム改は健在だ。シールドを失っているが殆ど五体満足でたっていた。距離を詰める。スラスタを全開に、ジグザグに移動しながら距離を詰める。
ここで撃破できなければこちらは左腕を失っている。長期戦は不利だ。
推進剤残り75%。急激に推進剤が消費され、ゾッとするほどメモリが目減りする。
『ザクでドムの真似事かよ!?』
「こちとらドムの方が慣れてるんでね!」
足裏のスラスタを吹かし、上への推進力を確保。前進は背部バーニア。横移動はアンバックシステムを活かす。時速100キロ近くは出る機体だ。少しでも操縦桿がズレれば、周囲のビル群に突入してしまうだろう。機体が激しく揺さぶられ、全てのディスプレイと警告灯が出たら目に点灯する。
暴れる操縦桿を押さえつけ、急激に距離を詰める。ザクマシンガンの弾倉は先程の銃撃で滑落してしまった。薬室内に残っている砲弾を敵機に発砲。
閃光。爆発。
ジム改の頭部を破壊。片手を失った為もう弾倉は交換できない。ザクマシンガンを捨てる。武装選択。ヒートホーク。
背部に回り込む。
推進剤残り35%
無防備な背中にヒートホークを、叩き込み。ジム改の動力源をズタズタにする。
『……嘘だろ』
そのまますり抜ける様にして、距離を取る。残りの脚部3連装ミサイル・ポッドをロックオン。発射。
動力部を破壊されては、ろくに回避運動も取れない。吸い込まれる様にして、ミサイルはジム改の無防備な背中に、命中。
誘爆。爆散。
「……っ」
爆音のこだまが霧散していき、静寂が戻ってくる。ジム改は上半身が弾け飛び、下半身しか残っていない状態だった。
数秒間直立不動の状態を維持した後、急に撃破されたのを思い出したかの様に、膝から崩れ落ちた。
ジム改が膝から崩れ落ち。ジム改が行動不能になったのを見届けてから、オサリバンは小さく鼻を鳴らした。
「勝っちまいやがった」
全く大した奴だ。ザクで最新鋭のジムに勝っちまいやがった。あの急激な機動。後半からの巻き上げは、ゆっくりとした軌道に慣れさせてからの動きの緩急で敵を困惑させた。あれに対応できるのはなかなかいないだろう。強引だが、繊細な操縦。ああゆうやつがいたら兵器開発のデータ取りは大幅に進むだろう。
オサリバンは隣の連邦シンパの奴の顔をちらりと見た。
まさかジム改がオンボロのザクF型に負けるとは思っても見なかっただろう。狼狽を隠せない様子で、馬鹿な。奴らはただの技術者だったはずじゃあ。などと呟いていた。可笑しかったが、もはやそちらに興味はない。おそらくクロだろう。
「状況終了だ。二人は降りてこい。あと……
「はぁ……気が重い」
模擬戦が終わり数十分後。シンっ。とした室内を抜け、オサリバンの事務室前に来ていた。その時悔しそうな奴の顔を見れたので胸がすく様な思いだったが、すぐにそんな事は霧散していった。重厚な木製の扉の前て立ち止まる。
「……あの中佐呼び」
それはもう、
「はいるぞ」
『あいている。どうぞ』
扉を開けると、オサリバンが迎えた。
「ようこそ。ユーセル・ヅヴァイ。いやユーセル中佐と呼んだ方がいいかね?」
「……好きに呼ぶと良い」
「……ふっ。まぁいい。かけたまえ中佐。何かいるかな」
「お構いなく」
「そう言うな。ウィスキーでいいかね」
そういうと、先ほどまで削っていたアイスボールをグラスに入れ、アイスボールをグラスの中で回す。グラスの表面に水滴が付いていく。何回か回し終わったあと、満足したラインまで行ったのか、ウィスキーを注いでいく。なかなか高そうだ。氷が「ピシッ」と音を立てる様は本格的だ。
「いいだろう?最近凝っていてな。客人には振る舞う事にしている」
「勤務中に優雅なもんだな」
「それも仕事だ。トップが慌ただしくしていては見栄えが悪かろう」
オサリバンは肩をすくませて、小さく鼻を鳴らした。
皮肉のつもりだったのだが、うけながされてしまった。くえないおっさんだ。出されたコップを持ち上げ、琥珀色の液体を喉に流し込む。
「まぁ。いい。単刀直入に言おう。目的はなんだ?」
来た。この答えで今後が決まる。名前も、モビルスーツの操縦技術も隠さずに披露した。バレない方が不思議だ。
「連邦の転覆を。ザビ家の敵を取る為に」
「……なるほど」
嘘だ。正直ザビ家は好みではない。いや、ザビ家の人々は嫌いでは無いが、命をかけて敵討ちをしようとするほど、入れ込んでいるわけでは無い。0083以降の作品を見るに、アナハイムがジオン残党のスポンサーとしてつくのは知っている。イメージはザビ家のイデオロギーを信じ込み戦いたがりな軍人だ。精々、利用相手として考えてもらえれば上々だ。
「中佐。こちらは君たちを支援してもいいと考えている」
「……なぜ?」
ほら来た。疑問を口にしつつ、先を促す。
「この月も、できたばかりのもので、社もジオニックの分配した時に手に入れたものだ。戦利品だな」
「だから?」
「歴史が浅い。それに元は我々は連邦軍の下請け企業としてやっていた最も大きな産業であるそれは、敵がいないと注文がなくなってしまう。その点、君たちがア・バオアクーで暴れてくれたのは連邦軍にとっては痛かったが、こちらとしては稼がせてもらった」
要は、儲からないと言う事だろう。仮想敵が居ないと、連邦軍の軍備が収縮してしまう。アナハイムは企業だ。儲けがない話には投資はできないと言う話。
「……ところで中佐何故ジオンは数多のモビルスーツバリエーションがあるのに、連邦はジムばっかりだと思う?」
「それは……
ジオンがモビルスーツ開発の先駆者だ。開戦前から準備をしていた。時間があった。ノウハウも知識も、準備期間の有無が結果を分けた。
「そうだ。準備期間もある。でもたかが1年程度の戦争であれほどのモビルスーツ群を開発できたわけは?その秘密は?」
モビルスーツの開発とは本来1ヶ月ほどでポンポンできるわけではない。あれほど巨大な機体を開発するための、膨大な部品の確保。必要なマンパワーの確保と運用化。部材部品毎の開発状況の管理。開発部門との連携。試作品完成後のテストとそのテスト結果をどうフィールドバックするか?etc etc
ジオンには簡素に言うと、好きな性能を打ち込めば、すぐにその機体を作れるネットワーク群があったと言うことだ。昔流行った流行りの3Dプリンタみたいなものだ。好きな形を描けば、その形が現物として現れる。
話せば長くなるので省く。ジョニーライデンの帰還。見よう。
「それはジオンがごく高高度に作られた開発システムがあったからだ。そしてそれはこちらの手の内にある」
「言って良いのか?それは」
「元は君たちの技術だ。知ってはいるだろうに」
「それがどうした。要は手に入れたおもちゃで遊びたいだけと言うことか、せっかく高い金をかけて手に入れたのに、ただ腐らせるのは勿体無いと」
「まぁ。簡単に言うとそうだな」
「そしてそれは敵がいないと、予算も降りないと」
ため息を漏らす。
くだらない。所詮は死の商人こちらの思惑通りに_
「賢しいな。それだけものを見れるのだ。それにジオン共和国との交渉も見事だった。」
「……なんの話だ?」
「とぼけなくて良い」
オサリバンは続ける。元々はジオン公国はアナハイムと取引する予定だったのだ。知っていてもおかしくはないだろう。
「直接言われたわけでは無い。連邦軍の買い取り資産、アナハイムからの資産。膨大な額だ。なのに、それらに比例しない復興状況。全体を知らぬ者にとっては景気が良いように見えるが、どうしてもペースは遅い気がする。少しの違和感だがな」
「……なかなか良い耳をお持ちのようで」
心でも読まれているのだろうか。そう返すのでいっぱいだった。オサリバンは続ける。
「ただのザビ家の敵討ちをしようとする小さな動機の者が、これだけのことをしでかせる筈がない」
ドクンと心臓が高鳴る。
「もう一度問おう。君の目的はなんだ?」
ただの僻地に飛ばされた奴程度に考えていたが、どうにも考えをあらためる必要があるらしい。オサリバンからの問い。
今後100年の争いの始まり。宇宙世紀が続く限り続く争いの連鎖。それはジオンか滅ぼうと、終わることがない。連邦政府が、アースノイドがスペースノイドがいるがぎり火種は尽きないだろう。
ふと、家で待っているクーディの顔が思い浮かんだ。
「私はいや、
話合いは終わった。
無事オサリバンとの話もついた。あの後数回の話を経て、協力を取り付けた。条件は、開発陣への協力。それで得たデータの提出。まぁ今までと変わらない。
対価は、艦艇、モビルスーツの提供。その他弾薬。兵器群の提供。茨の園への施設提供。流石アナハイム。兵器群に至っては対価を払えば作ってもらえるそうだ。
これで軍備や開発陣は確保できた。
あとは人材がなぁ。デラーズ。アナベルガトー。ケリーレズナー。人材はいるっちゃいるが、人材不足にはなっている。人も確保しなければならないだろう。
「うーん。どこかに良い人材はいないものか」
ふと、0083の女傑の事を思い浮かんだが……
「協力してくれないだろうなぁ」
無理かな。理想論を振りがざすタイプが一番嫌いだろうし、彼女は現実主義だ。そこを責めるといけるかもしれないが……
まぁ0083まであと数年はある。直ぐには動けない。時間は有るだろう。体のいい現実逃避である。
「とりあえずは茨の園にもどるか。デラーズ閣下とも要相談だな」
まぁいい。とりあえずは前進したのだ。満足感を胸がいっぱいだ。
「しかしあのウィスキー美味かったな」
久しぶりに酒を呑むもいいな。そんな事を考えながら、アナハイムに背を向け、彼女の待つ家に足を向けた。
「ユーさん。……あれ珍しい。普段お酒あんまり飲まないのに」
「まぁたまには」
「ってもう飲んでるのかい?くちゃい」
鼻をつまんで、嫌そうな顔をされた。鼻を摘んでいるせいか、赤ちゃん言葉になっている。袖の匂いを嗅ぐ。うーむ。そんなに臭いだろうか?
「そうか?」
「うん。風呂入ってきて」
ビッと、風呂場を指さされてしまった。大人しく風呂に入る。10分程度で浴び終わり、クーディのが用意してくれたご飯を食べる。ちなみに鯖の味噌煮だった。濃ゆく味付けされた鯖が、食欲をそそる。美味い。
全て食べ終わり、食器を片付けようとしたが「テレビでもみててよ」の一言で座らされてしまった。食い下がるが、しつこいの一言で黙らされてしまった。ちゃぶ台に座る。
「……開けるか」
かちゃかちゃと彼女の洗い物をする姿を眺めながら、買ってきた瓶の蓋を開ける。ちなみにジンを買ってきた。コップに氷を入れてジンを注ぐ。次にジンジャーエールを注いで、最後にカットしたレモンを蓋に沈める。
ジンバックだ。我ながら上手くできたのでは無いだろうか。一口飲む。
「うーん。いい」
ジン独特のパンチ力ある風味が炭酸とジンジャーエールの甘みで緩和される。端的に言うと美味い。前にガトー達といったバーで教えてもらったレシピだが、なかなかこれはいいものだ。ちびちび飲んでいると、クーディが台所から、手を拭きながら帰ってきた。もう一個のガラスを用意して、ジンジャーエールを注ぐ。
「なんだいそれ?」
「ジンバックって言うらしい。結構美味いぞ」
「……聞いた事ないなぁ。喉渇いたし、貰おうかな」
今思い返すと確認するべきだった。ちょっと飲みすぎてたかもしれない。これがいけなかった。ちなみに度数12パーは有る。飲み慣れてないものにとっては、結構強い度数だ。
止める間も無く用意していたもう一個のグラスの方ではなく、ジンバックの入っている方をクーディが飲んでしまった。
こくこく、と喉を動かして、グラスの半分ほど飲み干してしまった。
「結構のんだな」
「おいしーねこれ。炭酸がいい感じに効いてる。ひっく」
「だろう。って、ん?ひっく?」
クーディを見てみると深紅に染まりきった顔を此方に向け、潤んだ瞳で俺を見ていた。ふらふらと頭を動かして、どうにも落ち着きが無い。
「えへへ。ユーさんはかっこいいねぇ。ひっく」
「おおう。ありがとう?クーディも可愛いぞ?」
「どういたしましてぇ。そりゃ
頭をポンポンと撫でられながら、急にそんな褒めるような事を言われた。にへーと言う言葉が似合うほど頬を緩ませる彼女。……照れるなオイ。って、いやいや。酔っ払いの言葉だぞ。その状態のまま数秒会話が止まってしまう。普段の彼女からは信じられないぐらいの様相だ。取り敢えず寝かせたが良いだろうか……
「布団敷くか……」
「あーいっちゃダメだよー」
「ちょ、危ない」
布団を敷こうと、立ち上がろうとした瞬間。袖を掴まれて引き戻される。思ったより強い力。アルコールで身体制御がうまくいってないのかもしれない。結局。中途半端な姿勢の際にそのまま引っぱられて、バランスを崩してししまい、結局二人とも床に転がってしまった。
こけるとき、軽く頭をぶつけてしまったのか頭が少しクラクラした。目を開けると視界いっぱいに心配そうな彼女の顔。真面目な顔で、謝られた。
「……ごめん。大丈夫?」
「大丈夫。大丈夫。こんくらい。クーディこそ大丈夫だったか?」
「……ユーさん」
平気だと言うふうに笑って見せたのだが、クーディは安堵するどころか、眉間に皺が寄っていた。
「あー大丈夫、大丈夫、こんぐらい銃弾に比べたら屁でもないよ。ハハハ……ハ」
安心させようと思って戯けて見せたが、どうやら間違ってしまったらしい。徐々に表情が強張っていく。彼女はそう、と呟くと、立ち上がりグラスに残っていた酒を、一気に飲み干してしまった。そのまま机にたんと、置く。グラス内に残っている氷が、ガラガラと荒々しい音を立てた。
「ユーさん!」
「はい?」
クーディはバンっと机を叩き、きつく言い放ち此方を見下ろした。だ、大丈夫か?
「私は心配だよ。ユーさんが遠くに行っちゃうんじゃないかって」
バンバンと机を更に叩き、此方をきっ、と睨みつけて来る。我慢させてしまっていたのだろうか?独白は続く。
「大事にされてるのは分かるよ?私のこと考えて、忙しいだろうに早く帰ってきてくれるし、料理を作ったら必ず美味しいっていってくれる。たまにお土産もくれるし。ひっく」
「取り敢えず横になろう?なっ?」
ふらふらとしていかにも倒れそうな勢いだ。こんなこと初めてなので対処が思い浮かばない。そんなこんなしていると、びっと人差し指を地面に向け、彼女はきつく言い放った。
「ひっく。……正座」
「え?」
「いいから正座」
取り敢えず刺激するのも良くないだろう。大人しく正座する。
すると後ろに回られて背中に抱きつかれてしまった。酒精のせいだろうか、普段よりも高い体温が背中越しに伝わってくる。
「でも、大事なことには関わらせてくれない」
コツン、と背中に頭があたる。心配させてしまったのだろか。いや、考えてみれば当たり前だ。彼女はまだ子供なのだ。それに親元とも離れ、会ったばかりの男と暮らしいている。
「……そうだ。まだお前は子供だ。もう戦いからは離れるべきだ」
「……前に話してくれたよね?幸せにしてくれるって」
「……あぁ」
彼女の顔は見えない。
「夕暮れ時。キッチンでご飯作ってたらさ、ユーさんが帰って来るのが見えるんだ。それで私は慌ててご飯作って、最初こそ焦がしたりもするけど、最近はだいぶ上手く作れるようになったんだ」
「……知ってる。いつもありがとうな」
「うん。でもやっぱり不安になったりもして、でも。食べてくれた後は必ず美味しいって言ってくれて、不安は晴れて」
「うん」
静かに相槌を打つ。彼女がこう言う話をして来ることは滅多にない。邪魔したくなかった。
「それで。テレビ見てあったかいお風呂入って、上がったらユーさんの会社の話とか昔話とかしたりして、私はそれに相槌を打ったりして、あぁ楽しいなぁって」
「うん」
「でもいいのかなって。だって本当はこの幸せは
コツンと、彼女の小さな頭が背中に当たる。
「ユーさん。もうやめよう?私と一緒に全部ほっといて、どこか遠くに逃げよう」
忘却はよりよき前進を生む。
- ニーチェ -