はじめまして
私の話を少しだけ聞いてほしい
我々、深海棲艦と艦娘の戦争が始まり、まず一番槍に指名されたのが私だ
数ある深海棲艦の中で最も貧弱な部類に属する私だが、根性だけは誰にも劣らないという自負はある
同じイ級に属する者達は開戦に尻込みをしていたが、私は違った
そうだ1つだけ覚えておいてほしい
艦娘たちは私達を「イ級」とひとくくりにするが、人間たちの社会と同じで姿形は似ているが様々な者がいる
それぞれに性格や容姿は異なり、趣味嗜好は千差万別だ
性別というものは特にはないが、もっと良く見てほしい
肌の色つや、まつ毛の長さ、歯並びなどは個体で全く異なる
サンマが好物の者もいれば、カニを好む者もいる
私の好物はタコだ
思い切って水の中に飛び込み岩陰に潜む彼らを丸のみにする
時折間違えてイカを捕らえてしまうが、その生臭さたるや1日を台無しにしまう
ある時、とある関西弁を話す駆逐艦が「タコヤキ」なるものを海上で美味しそうにほおばっていた
私はその匂いにつられつい命令を無視し、水上を駆けた
最大戦速をもって背後から奇襲を仕掛け、驚いた彼女の隙を突き見事タコヤキの奪取に成功した
この仕事にあれだけの熱意を込めたのは初めての事だった
さて艦娘との最初の戦闘を無事敗北で終えた私はしばらく暇を持て余した
二度と彼女たちと水上でダンスをすることはないのかと思うと、引きこもりがちになった
起きては食事をし、形ばかりの哨戒を終え眠りにつく
大好物のタコの味が色あせていくのを感じていた
季節が過ぎていき、夏の終わり頃だっただろうか
再び艦娘と会いまみえることになった
私の心に炎がきらめき始める
他の部署では一度戦闘を行えば滅多に艦娘の来襲はないようなのだが、ある日を境に大漁な仕事が舞い込んできた
少なくとも一日一回、艦娘が訪れ、戦闘開始と同時に敗北する
訪れる艦娘のメモを取っているのだが、その練度は様々で泣きそうな顔をしながらやってくる新人艦娘もいる
そのあまりにも必死な姿を見ていると憐憫の感情が沸いてくるが決して仕事に手は抜かない
一方で「鎧袖一触よ」と自信満々におにぎりをかじりながら艦載機を発艦する変な奴もいる
そのどや顔に多少のいらつきを覚えるが、せっかく来てくれたのだから非礼は許されない
艦娘たちは私との戦闘に勝利するとキラキラしながら踵を返し、撤退していく
恐らく私の気迫に押され、これ以上の戦闘は不可能だと判断したのだろう
私の後ろには可愛い妹とこのエリアを仕切る上司がいる
上司といっても常に暇を持て余し、出勤と同時に深海新聞を広げ、飽きるとサンマを捕りに向かう怠惰な奴だ
いや上司を責めることはできないだろう
張り合いの無い環境が、状況が上司を怠惰に向かわせたのだ
戦いの様子についても聞いてもらいたい
まず戦闘にはルール、交戦規定がある
先に攻撃をするのは艦娘たち、大体が最初の一撃で結果が出るがやはり「自衛」を旨とする我々が先に発砲することはない
やられてから、やりかえす
その義だけは失ってはいけない
時折、艦娘の先制攻撃が全て外れ、私が攻撃をくらわすとその艦娘の表情が一変する
まるで親に叱られるのを待つしかない子供のように表情は暗くなる
最悪の場合はその場で泣きじゃくり私を恨めしそうな目で見つめてくる
一番印象的だったのは「かもー!」と叫ぶ奴で、私は大抵返り討ちにする
物凄くでかい偵察機を飛ばすものの、その後はにらみ合いが続き、機銃を滅茶苦茶に放ってくるが当たりはしない
けれども根性だけはある奴で、懲りることなく一人でやってくる
いいガッツだ!!!
このような穏やかな日々を過ごす私に最近変化が起きた
鬼神たちが現れた
その中にはかつておにぎりかじりながら意味の分からない四文字熟語をどや顔で発した青い奴もいる
メモ帳によればそのいずれもが一度は私と刃を交えた者達
その成長した姿に感動を覚える
よくここまできたものだと
かつてよちよち歩きの赤子同然であった彼女たちが凛とした姿で立っている
恐らくは幾多の死線をかいくぐり、悲しみも苦しみも経験したのだろう
孫に久しぶりに会う祖父母の気持ちとはこういうものなのだろうなと一人ごこちつく
もし彼女たちの言葉が話せるのならば、その勇姿に
「よくきた、こんなに立派になって見違えたよ」
と声をかけてあげたいが、悲しいかなその願いは届かない
そのいずれもが最新の艦載機を有し、同時に魚雷で攻撃を仕掛けてくる
私は精いっぱいのおもてなしとして全てを、彼女たちの想いを体で受け止める
すると私の上に表示される数値を見て満足そうな顔で帰っていく
しかし幸せな日々に突如、暗雲が立ち込めた
ある日、私のもとに上司が一枚の紙きれを持ってきた
その内容に私は戦慄した
< 他部署への異動を命じる >
たまらずワカメでできたその書類を破り捨てた
そしてはじめて上司に向かって怒鳴りをあげた
「私はここを動くつもりはありません!!!もしそれでも異動しろとおっしゃるのならば、私は深海棲艦を辞めます!!!」
心配そうに私の袖をつかむ妹の顔が忘れられない
妹一人を残してなど行けない
けれども命令は絶対、苦虫を噛み異動を覚悟したその時
事態は急速に好転した
精一杯に働いていれば必ずその姿を誰かが見ていてくれる
日々の努力は決して裏切らなかった
私の日頃の姿を見ていた姫や鬼たちが、情報を聞きつけるやいなや味方をしてくれた
他人事だというのに涙ながらに私の残留を訴えてくれた
深海棲艦が、仲間がこんなに温かいものだとは知らなかった
たまらず私は海中に身を隠し、岩陰でひっそりと泣いた
最後に、もしこの文章を見ていてくれる艦娘がいたら
いや、恐縮だけれども貴方にお願いがある
私の願いを艦娘に伝えてほしいのです
私は一日たりとも欠かさず、ここにいる
厳しい戦いで自信を無くしたら私に会いに来てほしい
特に用事がなくてもいい
元気な顔を見せに来てくれるだけで存外な喜びだ
私達の間に言葉など必要ない
君たちの全力の一撃が伝えてくれる
この体が君たちがどれだけ成長したのかを教えてくれる
いつでもいい、立派になった姿を見せにきてくれることを心待ちにしている
(1-1 イ級より)
お読みいただきありがとうございます!
人知れずプライドを持って黙々と自分の仕事をするイ級殿に最敬礼!!!