奉仕部二人の出番がほとんどないのはあっちはあっちで動いているからもう少し出てきませんが、その補填は考えているのでご勘弁。
携帯からの投稿の為、改行などで問題があればご指摘お願いします。
『むほん、八幡か、して我に頼みとはなんだ。我が同胞の頼みとあらば聞かぬ訳にはいくまい……述べてみよ!』
プチッ…ツー…ツー…ツー
トゥルルルルルルルルル、ガチャ
『何故切るのだ八幡⁉︎』
「い、いや悪い。あまりのキモウザさについ切ってしまった。それで頼みなんだが、校内で悪い噂か何か出回ってないか調べて欲しい。出来るか?」
『ふむ、それはもしや八幡についての噂ではあるまいな?』
「やっぱりあるのか?」
『うむ、我がいつものように図書室で執筆に励んでいる時に、見知らぬ生徒が八幡の名を語っていたのでな。聞き耳を立てていたのだ。確か文化祭がどうのと言っておった気がするぞ』
「なるべく詳しく知りたい。どんな噂か、それとどの学年を中心に広まっているかをなるべく正確に調べて欲しい。厳しいだろうが頼む」
『…………ふぅむ』
さすがの材木座も唸りを上げる。唐突にこんな頼み事をされても困るだろう。既に外は日が沈みかけ、部活動に励む連中もそろそろ片付けを始め帰宅しようという時分だ。
『………………時に八幡よ』
いつものようなふざけた声色ではなく、珍しく真面目な声で話す材木座。
やはり今回ばかりは如何に材木座でも難しいか。
『調べろ、というが、別に今話してしまっても構わんのだろう?』
「お前それが言いたかっただけだろ。真面目に聞いて損したわ! っと待て、もう調べがついてるのか?」
台詞自体はネタだが、内容は聞き捨てならない。
『うむ、実は最初に噂を聞いてからちらほらと八幡の名を耳にするようになってな。もしや我を差し置いて人気者になったのではないかと危惧して調べまわっておったのだ』
「この噂の何処に人気者の要素があるんだよ。だがまぁ話が早くて助かった。聞かせてくれ」
材木座の話によれば、主な内容は
・文化祭で実行委員長に暴言を吐き、そのせいで閉会式にて支障が出た
・体育祭で不正を働いてまで勝とうとした
・修学旅行で告白しようとしている男子に割り込み、嘘告白で空気を壊した
・部外者なのに生徒会が他校と合同で行っていたクリスマスイベントに乱入し準備の妨害をしていた
・マラソン大会でテニス部を脅してトップ集団をブロックさせた挙句、葉山を妨害して足止めした
材木座の話を要約するとこんなところだった。
文化祭の話は前にも出回っていたので内容も特に変わりはないし、体育祭や修学旅行の件に関しても、個人の特定がされていなかっただけで実際に俺がやった事だし、目撃者がいたのだから公になっても納得出来る。
しかし後の二つは明らかに尾ひれがついているし、マラソン大会なんてつい数日前の事だ。噂になるにしても早すぎる。
やはり誰かが意図的に噂をばら撒いていると考えるのが妥当だろうか。
自分に悪意が向く事には慣れている。そもそも尾ひれがついていようが、殆ど自分がやった事には違いないし、周囲に非難されても文句は言えない。
だが、雪ノ下や由比ヶ浜が動いている以上、この噂が自然消滅するより先に噂を広めている犯人が特定されるのは間違いないだろう。
『あ、あとやはりというべきか、噂が広まっているのは二年の女子が中心のようだな。我は女子と目を合わせられない故、リボンの色を見ておったので間違いない』
「いや、そんなヘタレトークは要らないから。……しかし、二年女子ね」
自分に悪意を向けて来そうな女子なら心当たりは沢山ある。例えばさっき下駄箱ですぐ近くをすれ違った女子とか。名前知らないけど、すごく嫌そうな顔してたし。
とはいえ、わざわざ噂を掘り返して広げようと行動する程に嫌われているとなると限られている気がする。
好きの反対は無関心。というように、真のぼっちとは認識すらされないからぼっちなのである。
とりあえず材木座には引き続き噂の内容と出処の調査を頼み、今日のところは引き上げる。奉仕部ないって言ってたのに遅くなってしまって、小町もさぞかし心配している事だろう。
「小町ちゃーん。お兄様のお帰りですよー」
玄関から声をかけてもシンと静まり返った廊下に響くだけ。
おかしいな。鍵は開いてたから家には居るはずなんだが…。
「小町ー? 部屋に居るのかー?」
呼びかけても返事がない。すわ事件かと焦りが生まれた頃に、ドタドタと足音が聞こえた。
良かった、ちゃんといるじゃないか。
「小ま……」
「お兄ちゃんうるさい! 小町勉強してるんだから集中乱さないで!」
そうだった。昨日は機嫌が良かったから忘れていたが、今小町は受験勉強も最後の追い上げの時期だ。
時々こんな風にイライラしたり当たり散らしたりするようになっていた。
「小町部屋に戻るけどご飯まで話しかけないでね!」
言うなり来た時同様ドタドタと足音を立てて部屋に戻っていく小町。
「………………晩飯でも作るか」
小町に相談しようと思っていたが、今の様子だとまともに話が通じないだろう。
それに元々受験生を面倒ごとに巻き込む方が間違っていたのだ。せめてお詫びの意味も込めて美味しくてスタミナのつく秘伝の夕食をご馳走しよう。
朝、黙々と朝食の支度をする小町をチラリと盗み見る。
さて、今朝の機嫌はどうだろう。
「……何?」
はい、まだ荒れてらっしゃる。別に特別俺に対して怒っている訳ではないはずだが、普段元気いっぱいの小町が発する低い声はそれだけで心胆を寒からしめる。
「ああいや、何だ。手伝う事あるか?」
「いい、座ってて」
普段なら俺が手伝おうとすると、「一緒に朝ごはんの準備なんて新婚夫婦みたいだね! あ、今の小町的にポイント高い!」とか言いそうなもんだが、全く取り付く島がない。
受験のストレスは俺にも分かるし、こういう時は邪魔をしないようにしつつ、優しく見守ってやるしかないだろう。
昨日よりもあからさまに増えた視線の中、教室まで辿り着く。ふぅ、人気者はつらいぜ。
「やあ比企谷。中々困った事になってるじゃないか」
今日は葉山か。戸塚を出せ、戸塚を。
「何しに来たんだよ。お前と違って悪い噂で持ちきりな俺を嘲笑いに来たのか?」
「違うよ、君が噂について知ってるのかカマをかけに来たのさ」
それはつまり、俺に友達がいないから噂になっていても気付いていないのではないかという事か。昨日まで知らなかったから当たっているが、やっぱり馬鹿にしに来たんじゃないか。
「まぁ何とかな。俺のステルスが無効化される程視線をむけられちゃ流石にな」
「それで、君は今回はどう対処するつもりなんだ」
暗に普段は全く注目されていないという自虐ネタもスルー。やっぱり自虐ネタは毒舌女王様がいないとすべるな。
「今回も何も、こないだのはお前が自分で解決したんだろうが。別にどうもしねぇよ、文化祭の時みたいにほっときゃそのうちみんな飽きて忘れていくさ」
マラソン大会前の葉山と雪ノ下が付き合っているという噂は、葉山が三浦と一色を特別扱いするという方法により一応は解決を果たした。
だが、今回は悪意にまみれた噂であり、その中心人物である俺が何をしようと悪い解釈しかされず、新しいネタを提供するだけに終わってしまう。
本来なら本当に何もしないのが一番なのだ。……雪ノ下たちが動かなければ。
あいつらに俺の事で悪い噂に巻き込まれたり、悲しい思いはして欲しくない。
「そうか、君は本当に変わらないんだな。だが君が何とも思っていなくとも、君の悪い噂を聞いて辛い思いをする人もいるんだ。その人たちの事も少し考えてやってくれないか」
そんなやついねぇよ、と返そうと思っていたのに視線がつい由比ヶ浜の方を見てしまった。
先ほどからケータイをいじる振りをしてこちらをチラチラと気にしている由比ヶ浜。バレバレだからね。
あと隣で周囲とは違う意味で熱い視線を送ってくる海老名さん。その視線は熱いのに寒気がするのはなんでですかね。
「ああ、まぁ何とかするよ。少なくともお前の手は借りんから気にすんな」
「そうか? 別に俺は協力してもいいんだけどな。今だってクラスの中の空気がギスギスしててあまりいい気分じゃないしな」
言いながら、今もこちらを見てクスクスと笑い声を上げている相模たちの方を気付かれないようにチラリと見る葉山。
やはりこの噂が文化祭の件を原点としている事を考えると、噂を撒いているその中心が相模やその取り巻きたちである事は間違いないだろう。
「それと、今回の事はもしかすると俺にも責任があるかもしれない。もしそうなら……」
「ねぇよ。お前が何をしたか知らんが、噂になっているのは俺で、その内容も俺が仕出かした事だ。自分が原因で他人が動くなんて自惚れんじゃねぇ」
葉山が何を以って自分に責任があると言い出したのかは分からない。
けれど、俺が陰口を叩かれているのは全て俺の自業自得であり俺の責任だ。簡単に人の責任を負おうとする葉山にどうしようもなくイラついてしまった。
「……すまない。まぁ何か力になれる事があれば言ってくれ。俺にできる事なら協力するよ」
そう言って戻っていく葉山。柄にもなく声を荒げてしまった。陰口には慣れていると思っていたが、自分でも気付かれない内に精神が摩耗して来ているのだろうか。
奉仕部の二人の事もあるし、解決するなら早めに手を打たなければならない。
はいそこ、やっぱ相模かとか言わない。
八幡に明確な悪意を向けてくる名前あるキャラはコレしかいないんですよね。