IS~人柱と大罪人~   作:ジョン・トリス

12 / 13
第十二話


その慟哭は暗雲を携えて

何時からか上を向いて歩く事が出来なくなった。

眼に雨が入ることを恐れ、下を向いて歩く。

次第に雨はやまなくなり、暗闇に覆われ始める。

そんな中で今日まで自分が生きてこれたのは、僅かな月の光があったからだ。 その光が、この身に微かに残った希望の残骸を照らしてくれていた。だが、その月も墜ちた。そして光を失った残骸は次第に絶望へと変化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---- その慟哭は暗雲を携えて ----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急激に上がった温度と立ち込める煙の中、鈴は目を覚ました。先に吹き飛ばされて以降、暫く気を失っていたのだが、辺りの環境の異常さに自然と意識が呼び戻されたのだ。

 

「っ!一体・・・何・・・が・・・」

 

鈍い痛みに声にならない悲鳴をあげながら周りを見渡すと

 

「秋終・・・?」

 

秋終が下を向いたまま佇んでいた。

無事だった事に安堵するも、直ぐに敵の存在を思い出す。

 

「そうだ。あのIS・・・」

 

更に辺りを見渡せば抉られた跡の地面、穴が空いた様に剥がれたシールド、一部瓦礫と課した客席があり、そこから直線に並ぶ様に秋終と件のISがいる。

 

「・・・」

 

割れたシールドと抉りとられた客席を見て、鈴は開いた口が塞がらなかった。そして、そのまま暫く言葉を失っていると

 

「・・・なんだよこれ」

 

秋終がポツリと呟いた。

 

「・・・なんなんだよこれ」

 

秋終が呟く。

 

「秋終・・・?」

 

その尋常ではない様子に鈴は名前を呼ぶ。

そうしなければいけない様な、どこか遠くへ行ってしまう様な気がしたからだ。

 

「・・・こんな死に方あるのかよ」

 

「死んだ・・・?」

 

誰が?とは聞けなかった。

理由こそ分からないが、何となく察してしまったから。

 

「人がこんな風に死んでいいのかよ!」

 

秋終は叫ぶ。

 

「何度も・・・」

 

秋終が呟く。

 

「何度も何度も・・・」

 

秋終は呟き続ける。

 

「何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もっ!」

 

「秋終っ!」

 

これ以上はいけない。

止めなければ、呼ばなければ、取り返しがつかなくなってしまう。そんな漠然とした不安が鈴の背中を後押しする。だが・・・

 

「もう・・・いいよ・・・」

 

何かがプツリと切れる音が聞こえ、そして・・・

 

 

 

 

 

ーーーー システム ヲ キドウ シマス ーーーー

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

ーーーー心滅システム スタンバイ ーーーー

 

 

 

 

 

鈴の耳に聞き覚えのない音が聞こえた。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

何でこうなる?

折角前に進みだしたと思ったのに。

ようやく変われると思ったのに。

 

「俺のせいなのか?」

 

誰かの声が聞こえる。

 

「俺がISに乗ったから」

 

自分を責める声が聞こえる。

 

「嫌な事もあったけど、良い事もあったんだ」

 

なのに、

 

「結局こうなるのかよ」

 

声が増える。

 

「あの時だって」

 

家族の亡骸を踏みつける様に、自分が立っている。

 

「何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もっ!」

 

父が、母が、妹が、茜が、自分が、

 

「何で」

 

こっちを見ている。

 

「もう・・・」

 

耳鳴りの様に自分を責める声が大きくなる。

 

「いいよ」

 

赤い何かが身体を覆い、視界も奪われる。それは冷たくて痛く、ゆっくりと広がっていく。多分これは良くない物だ。でも、もうどうでもいい・・・何もかも。

 

「・・・」

 

このまま意識を手放そうとした時、何かが聞こえた。

 

 

 

 

 

ーーーー心滅システム スタンバイ ーーーー

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

「何よ・・・あれ」

 

立ち竦んでいた秋終が突如として動き始めた。それだけの話なら鈴はここまで驚かなかったであろう。問題なのは、その動きであった。

 

「あれじゃまるで・・・」

 

獣だった。

肉食動物の様に四足歩行をして、引っ掻き、食いちぎろうとしている。その姿から理性が伺える事はなく、本人の意思なのかどうかも分からない。先の音声が聞こえて以降、彼はこうなってしまった。だが、その異常な動きは奇しくも相手を圧倒していた。

 

「秋終・・・」

 

スピードで翻弄して死角からダメージ与え、直ぐ様離脱。この単純作業の繰り返しではあるが、確実に相手を翻弄していたのだ。幾ばくかそれを繰り返すとやがて、何かが宙を舞った。

 

「っ!?」

 

腕であった。敵のISの右腕が心滅により切り裂かれた瞬間である。肘の辺りから綺麗に切り裂かれた腕を心滅が掴むと、本人に向かい投げつける。鈍い音が響き、砂埃を上げながら吹き飛んでいく。だが、妙な事に出血の跡は見受けられない。

 

「・・・」

 

鈴がよく目を凝らせば、

 

「・・・機械?」

 

火花が散っているのが確認出来た。

 

「まさか無人機?」

 

無人機の存在など聞いたことはないが、目の前のISからは血も流れず痛がる様子もない。秋終と同じで全身装甲ではあるものの、その挙動からはとても人が搭乗してると思えなかった。

 

起き上がろうするISに対し、まるで補食するかの様に心滅が飛び付く。その牙を立てて噛み千切らんとすれば、残った部位が宙を舞った。

 

「秋終さん!」

 

悲痛な叫び共に現れたのは、ブルーティアーズを纏ったセシリアであった。悲惨な光景を前にした彼女の表情からは、焦りが伺える。

 

「鈴さん。これは一体どういう事ですの・・・」

 

「・・・死んだのよ」

 

「・・・っ」

 

セシリアにはその言葉だけで充分であった。避難の際に見知った顔を見なかった事、今の秋終の姿、これらの要因で理解してしまったのだ。

 

「とにかく止めませんと」

 

「あんな状態どうやって!」

 

心滅の手には四肢を完全にもがれたISが握られていた。

至るところから火花を散らし、モノアイの部分は力無く点滅している。誰が見ても、もう充分であった。

 

「秋終さん!もういいのですわ!」

 

「秋終!」

 

「・・・」

 

二人悲痛な呼び掛けも秋終には届かない。フルフェイスに覆われて見えない表情が今の二人にとって、とてももどかしく感じた。

 

「以前にも同じ様な事が」

 

セシリアが語る。

 

「以前?」

 

「ええ、私と戦った時もあの様に。今回だって・・・」

 

何より恐ろしかったのは自身が倒された事ではなく、戦いの最中に感じた無機質さであった。得体の知れない不気味な存在であり、不確かな物。あれは秋終ではなかったと、セシリアは答える。

 

「・・・違うわ」

 

短い沈黙の後で鈴が答えた。

 

「その時の事は分からないけど、今目の前にいるのは秋終よ。全部あいつの意思」

 

「・・・そうですわね」

 

鈴の言わんとしている事を理解したセシリアは、悲しげに肯定する。

 

「でも・・・私があいつと戦おうとしなかったら、こんな事にはならなかった」

 

「それは違いますわ!」

 

「あの子だって死ななかったのよ!」

 

懺悔だった。悲しみ、怒り、嘆き、あらゆる負の感情を載せた後悔の言葉、ここまで追い込んでしまった事への罪悪感、自分の愚かさがどうしようもなく惨めだった。初めて会った時になんとなく理解していたのだ。彼は一夏よりも弱くて脆くて、それを繋ぎ止めているのは誰なのか?全部気付いていた。

 

「なのに奪った」

 

一夏よりも強く、対等になりたいと励んだ日々。誰も失いたくないと今日までがむしゃらに進み続けた・・・その結果がこれだと。

 

「っ!?」

 

乾いた音が響く。

 

「およしなさい」

 

鈴の頬が僅かに赤く染まっていた。

 

「貴女が何を思おうと知ったことではありません。それらは全部秋終さんにお伝えなさい。彼を正気に戻してから」

 

冷たくも彼女を思う言葉。

 

「セシリア・・・」

 

赤くなった頬に手を添えて目を閉じれば、鋭い痛みと温かなセシリアの感触が残っている。 鈴が次に目を開けた時、その両目には先程よりも強い光が宿っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

頭の中で声がする。

 

『助けて』

 

苦痛に染まった聞くに耐えない声が鳴りやまない。

 

『助けて』

 

声から逃れようと目の前の物を壊そうとするが、それでもやまない。 暴力を奮う度に寧ろ声が強くなっていき、心の中の何かが膨れていくのがわかる。もう壊れていると言うに、この手は止まらない。まるで自分を壊そうとするみたいに執拗に、何度も、何度も、何度も、目の前の物を砕こうとする。

 

「・・・ぉ」

 

何か聞こえた。

 

「・・・きぉ」

 

今までよりも温かく

 

「秋終!」

 

自分を思ってくれる声だった。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

「それでどうすんのよ」

 

「とりあえずぶん殴りますわ!」

 

「・・・」

 

なんと言う脳筋バカであろうか。これには流石の鈴も開いた口が塞がらなかった。自分がこんなバカに励まされたのかと考えると、少しだけ切なくなる。

 

「ご安心を。根拠はございます」

 

「・・・聞こうじゃない」

 

「日本の素晴らしいアニメーションですわ!」

 

せしりあのかいしんのいちげき!

 

「・・・」

 

しかしすずにはこうかはないようだ!

 

「「・・・」」

 

二人がそんなクソみたいなコントを繰り広げていれば、心滅を纏った秋終がゆっくりと振り返った。

 

「やってる場合ではありません!」

 

「誰のせいよ!」

 

思考を切り替えて構え直した二人に対して心滅が跳躍した。その速さは自分達が戦った時とはまるで違うと改めて実感する。

 

「「!」」

 

完全に殺す気であった。理性などなく獲物を前にした獣の如く、その鋭い爪を振りかざさんとする。

 

が、

 

二人も黙ってやられる筈もなく、持ち前の武器で応戦を開始する。ビットと衝撃砲による弾幕であった。当たらない事を承知で撃った攻撃は単なる時間稼ぎでしかなく、解決策を思い付くまでの引き延ばしである。そして当然当たるわけもなく、何なくと心滅は回避して次の手へ打って出ようとする。

 

「やらせるかぁ!」

 

動きを潰す様に次々と弾幕を張れば、心滅はやがて距離を取った。

 

『・・・ゥ』

 

低い唸り声をあげ、その口が開く。

 

『オォォォォォォォォ!』

 

「なっ!?」

 

「体が・・・」

 

鋭い衝撃と耳割くような雄叫びを前に二人の動きは封じ込まれ、このままではただ狩られるだけ・・・そう思った時である。

 

『オォォォォォォォォ!』

 

心滅とは別に新たな雄叫びが聞こえたのだ。

 

「何?」

 

「っ・・・動けますわ!」

 

誰の物かわからない。しかし、それはまるで心滅の声を相殺するかの様に二人を守った。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

続いて飛び込んで来たのは、白式を纏った一夏。その手に雪片弐型を携え、掌からエネルギーを形成している心滅へと真っ直ぐに突っ込んで行く。

 

「バカ!」

 

「いえ。一夏さんの零落白夜なら行けるかもしれません」

 

「何よそれ!?」

 

セシリアが回つまんで事を伝える。零落白夜はエネルギーを切り裂く事が出来、エネルギーで形成されているシールドさえも切り裂けるのだと。

 

「なら・・・」

 

「ええ。正気に戻すことも・・・」

 

「眼を覚ませぇぇぇぇ!」

 

一夏が雪片で斬りかかるのと、心滅がエネルギーを放つのはほぼ同時であった。

 

「「一夏(一夏さん)!」」

 

とてつもない轟音とまばゆい光が全体を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 




続く
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。