IS~人柱と大罪人~   作:ジョン・トリス

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第二話


少年は立ち向かう

我慢の限界を越えた時、それは新たな悲劇を産む始まりとなる。耐えることにも限界があり、その限界を見極めなければならい。そうしなければ彼の様に、彼女の様になってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----少年は立ち向かう----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インフィニットストラトス、通称IS。

宇宙空間での運用を目的としたマルチフォームスーツである。その性能は現代のどの技術よりも優れていると言われており、しかもこのスーツは女性にしか扱えない。そのせいで世界の男女のパワーバランスが大きく崩れた。優れた物を使える女性は男性より優れている。この思想が世に広まった結果、女噂男卑の世界ができあがったのだ。これが今の世界の現状だ。

優れた技術と言うものは何時の時代でも兵器に利用されてしまう。ISとて例外ではない。

このISの元となるコアを作ったのは篠ノ之束と言う日本人の女性だ。であるからIS技術及び、そのコアの所有権は日本にあると日本政府は主張した。その主張に対して各国は日本のIS独占を恐れ、アラスカ条約に新たな項目を追加した。

 

----ISの軍事兵器利用の禁止----

 

----一国のコア保有数の上限----

 

----技術の独占禁止----

 

用は皆さんで足並みを揃えましょうと言った内容だった。

 

だが、人は自分の力を誇示したがるものである。

兵器として争えなくなったISは、別の形ある種のスポーツ競技として争われる事となった。

機体の性能、パイロットの技術力を競うのだ。

そのための専用の大会も作られた。

謂わば、ISのオリンピックである。

 

さて、ISの技術を学ぶと言うことが必要となってくるのだが・・・それを何処で学ぶのか?

答えはIS学園。

学園自体は日本にあるがその扱いは完全な中立であり、故に様々な国籍を持つものが所属をしていた。

 

----IS学園在学中の生徒はいかなる国、及び組織の干渉を受けない(例外を除く)----

 

当然生徒には女子しかいない、ISを動かせるのは女性だけだからだ。そして必然的に女子高となっていた。

 

しかし、今年は違った。

男子がいたのだ、それも二人。

一人目は織斑一夏。

二人目は渚秋終。

彼等は男性の身でありながらISを動かしてしまったのだ。

この物語はそんな二人を中心とする話である。

 

 

 

 

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「このクラスの副担任を勤めます、山田真耶です。皆さんよろしくお願いいたします」

 

小柄で胸の大きな女性の挨拶を前に誰一人、リアクションをとるものはいない。

女子は無言。

男子二人と言えば、

 

((おっぱいでけぇ))

 

である。

 

「え、えっと・・・」

 

山田本人としてはこの上ない程に友好的に挨拶をしたつもりなのだが、まさかの無反応である。

 

(く、挫けてはダメ!皆きっと緊張しているんだわ)

 

自分を鼓舞する山田真耶、揺れるおっぱい。

 

((ゆ、揺れてやがる!))

 

もはやおっぱいにしか目がいかない男子二人。

 

「み、皆さんには自己紹介をしていただきます。相原さんから順番にお願いします」

 

「はい」

 

元気な返事をしたのは、ショートカットの活発そうな子であった。胸の大きさはBカップといったところか。

 

(はぁ・・・)

 

この時、秋終の心中は穏やかではなかった。別に相原女子のおっぱいが大きくなかったことにがっかりしたわけではない・・・断じて違う。彼の名誉のためにも言っておこう。

それは今の自分が置かれている状況に対してであった。

動かせる筈のないISを動かしてしまったこと、周りにいる人間は皆、やがてはISに携わっていく人達であると言うこと。

 

ーーーー皮肉なものだーーーー

 

と秋終は心の中で呟く。

誰よりもISを嫌っている自分がもっとも中心の場所にいる。一番ISに関わる所にいるのだ。

 

ーーーー罰なのか・・・生き残ってしまった自分へのーーーー

 

今でも夢を見る。

あの日のことを。

世界を怨み、全てを拒絶した日。

今でこそ落ち着いてはいるが、当時の彼は荒れに荒れていた。他人との関わりを一切断ち、自分の殻に閉じこもっていた。そうすればこれ以上、傷付く事はないと自分に言い聞かせながら。しかしそんな彼の心を解した者がいた。それは一人の少女の存在だった。

 

----全生始 茜----

 

秋終の幼馴染みであり、恩人でもある。

ただひとつ欠点を挙げるとすれば

「うるさい」

この一言に尽きる。

 

ーーーーそういや、あいつ隣のクラスだっけーーーー

 

思い出すのはうるさ・・・基、元気な姿。

幾度なくその元気さに救われてきた。そして、そんな彼女もまた・・・このIS学園に入学していたのだ。

この学園において唯一の顔馴染みであったのだが、欲を言えば同じクラスにして欲しかったと言うのが正直な所であった。

 

「はぁ・・・」

 

「な、渚くん」

 

「ふぅ・・・」

 

「な、渚くん!」

 

「はぁぁ「返事くらいせんか!」

 

メコッ。そんな音が響いた。

秋終の頭に出席簿が当たったのだ。それはもう素晴らしい程に。

 

「な、なんだ!?空襲か!?」

 

「今のが空襲なら貴様は死んでいたぞ」

 

そう答えたのは、肩ほどまで黒髪を伸ばしたスーツ姿の一人の女性であった。

織斑一夏いわく

「あれはスーパーウーマンだ」

とのこと。

ワンダーウーマンでないのがミソらしい。

 

「あ・・・」

 

知っている。

彼女を知っている。

織斑千冬。

IS操縦者。

全人類において最強の存在。

渚秋終は誰よりもISの恐ろしさをしっていた。

故に目の前の女性に対し恐怖してしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの光景が・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大切な者を奪われたあの光景が・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ・・・ぁ・・・」

 

声が出ない。

体が震える。

汗が止まらない。

動悸が激しくなる。

感覚が遠退いていく。

 

ーーーーぅ・・・ぁ・・・ーーーー

 

「おい、大丈夫か?」

 

「・・・あ」

 

声をかけられ「はっ」となる。

織斑千冬の声だからこそ我に帰る事ができた。

 

「・・・大丈夫です」

 

その声は微かに震えていた。

大抵の人は気づかない程度であったが、確かに震えていたのだ。

 

「・・・そうか」

 

気のせいだろうか・・・

そう吹いた織斑千冬の表情が寂しそうであったのは。

見間違いなのだろうか・・・。

 

しかし、それを確認する術はなかった。

 

「ならば、さっさと自己紹介をしてもらおうか。後はお前だけだ」

 

どうやら考え事をしている間に皆すませたようで、クラスの視線は秋終に集中している。何と始めづらい雰囲気な事か。しかし、始めなければまた出席簿が飛んでくるかもしれない・・・それごめんだと、秋終はしぶしぶ自己紹介を始めた。

 

「え、えーと・・・渚秋終です。えー、男です。あ、後本読んだり、体動かす事も好きです・・・・・・よろしくお願いします」

 

小さな拍手が起きた。

それなりに歓迎されているようだ。

辺り際のない自己紹介が効をなしたのかもしれない。

 

(良かった・・・でも)と

 

ーーーーやっぱりここにはいたくないーーーー

 

それが彼の偽りのない本心であった。

ISは嫌いだ、それを操縦する女性も好きじゃない。しかもその事を誇りに思っている人間なら大が付くほどの嫌いだ。

出来ることなら乗りたくない。

 

こんな、

 

ーーーーこんな人殺しの兵器にーーーー

 

なのに、自分はここにいる。

その人殺しの兵器に乗るために。

選ぶ権利などないのだ。

折角忘れていたのに、また考えてしまう。

今日何度目かわからない思考の海に沈みながらSHRは過ぎていった。

 

 

 

途中、

 

「キャー、千冬様ー!!!」

「抱いてー!」

「やだぁ、濡れるっ!!!」

「んひぃぃぃぃぃぃ」

「千冬様のバストサイズって・・・」

 

いろいろ変態達の雌叫びが聞こえた気がした。

 

 

 

 

------

 

 

 

 

朝のホームルームが終わり今は休み時間であった。周りの女子達は各々ガールズトークに花を咲かせている。秋終にとって何とも心地の悪い空間だ。隣のクラスに行こうにも、10分の小休憩では行く気が起きない。唯一の男子、織斑は別の女子生徒に話しかけられ何処かに行ってしまった。

自分に声をかける者もいない。

寧ろその方が楽だと本に手を伸ばした時、

 

「少しよろしくて?」

 

声をかけられた。

 

「・・・俺ですか?」

 

「他にいまして?」

 

「・・・・・」

 

腰までブロンド髪を伸ばした美しい女性であった。

腰に手を当てているその姿からは気品が感じられた。

どこかの名のある貴族のお嬢様であろうか。

ちなみに、

 

(良い尻をしていやがる)

 

と思ったのは内緒だ。

 

「自己紹介の時にも申しましたが、セシリア・オルコット。私の名前ですわ」

 

「ああ、これはこれは。渚秋終です」

 

もっとプライドが高いかと思ったが、話てみるとなんてことはない。礼儀正しい女性であった。

幼少の頃、女尊男卑で思い上がった女性達を見てきた秋終にとってこの対応は意外であった。もちろん、全員がそうとは言えないが・・・。

 

「お聞きしたいことがごさいますわ」

 

そう告げた彼女の目は、先程の礼儀正しさとはうって変わって真剣であった。何かを見極める、そんな意志が伺えた。

 

「何でしょう?」

 

「ISを動かしたと言うのは本当ですの?」

 

いくら自分がこの学園にいるからとはいえ、やはり男がISを動かしたのは信じがたい話であろう。だが、何故だろうか・・・。彼女の聞きたいことはこんなことではないと秋終は感じた。理由はわからない。

 

「確かに俺はISを動かしました。・・・でも、それが聞きたかったんですか?」

 

「・・・」

 

セシリアは目を閉じた。

そして幾ばくかの沈黙の後、

 

「・・・思ったよりも鋭い方ですのね」

 

そう答えた。

 

「え・・・?」

 

「いえ、こちらの話ですわ」

 

コホンと咳払いを一つ挟むと

 

「何のためにISに乗りますの?」

 

そう聞いてきた。

 

「何の・・・ため・・・?」

 

「ええ」

 

その問いに答える事は出来なかった。

答えを持ち合わせてなどいなかったから。

 

「・・・え」

 

戸惑っている秋終を救ったのは学園のチャイムであった。

答えを聞けずセシリアは不満そうではあったが、織斑先生の出席簿が恐いのか

 

「では、また」

 

と言い去っていった。

秋終の心にしこりを残しながら。

 

 

 

 

----

 

 

 

 

「クラス代表を決める」

 

織斑千冬が開口一番そう言った。

クラス代表とは、普通の学校で言うところのクラス委員長である。ただ一つ違う所があるとすればそれは、クラスで一番ISの操縦が上手い人間がなると言うこと。故に、代表候補生がいればその人間がなるのが常であった。しかし、今年はそう単純にはいかない。このクラスには男子が二人いるのだ。波乱が起きるのは当然と言えよう。

 

「立候補、推薦何でもいい誰か・・・」

 

「はーい!私織斑君がいいと思いまーす!」

 

「あっ、私もー」

 

「私も織斑君がいいでーす!」

 

一人の女子生徒の言葉を火切に皆が織斑を推薦した。

物珍しさだけであれば秋終も推薦されたのだが、織斑にはもうひとつ理由があった。それは、彼が織斑千冬の弟だからだ。

 

「姉がすごいのだから弟もすごいはず」

 

である。

2世にとっては尽きない悩みだ。

 

「お、俺ぇ!?」

 

本人としてはまったくの予想外であるため驚くのは当然だ。

 

「そんなの聞いてねえよ!俺はごめんだぜ!」

 

「黙れ。推薦された者に拒否権などない」

 

「そんなぁ・・・」

 

弟の必死の訴えは容赦なく姉に両断された。

 

(哀れ・・・織斑)

 

このとき秋終は他人事の用に考えていた。もし何か行動を起こしていればあんな事にはならなかったのかもしれないのだが・・・

 

「他にはいないか?いないのであれば・・・」

 

織斑千冬がそう言いかけた時であった、

 

「渚さんを推薦いたしますわ」

 

「はぁ!?」

 

「そして私、セシリアオルコットも立候補いたします」

 

セシリアが声を上げた。

その眼差しは先程渚に問いかけた時と同じ用に真剣である。

 

「な、ちょっと待って下さい!」

 

「何だ?先程も言ったが推薦された者に拒否権などないぞ。それに調度良い機会だ、お前たちには模擬戦をして決めてもらおう」

 

「そんの無理に決まってるじゃないですか!!!」

 

これまたまったくの予想外。

よりにもよってセシリアが自分を推薦するなど思ってもみなかった。考えられたとしても、せいぜい一夏が俺の事を次いでに巻き込もうとするだろうぐらいにしか考えていなかったのだ。ましてや模擬戦など・・・

 

「なんですの?まさか恐れをなし、尻尾を巻いて逃げますの?」

 

 

ーーーー安い挑発を・・・ーーーー

 

こんなみえすいた挑発に誰が乗るかと考えていた時、セシリアの追い討ちが掛かった。

 

「ほんとに臆病者ですのね。日本の殿方は皆こうなのかしら・・・。これなら猿の方がましですわね」

 

「なんだと・・・?」

 

一夏が食い付いた。

しかしセシリアの狙いはもう一人いる。

これで終わる訳がない。

 

「もう一度言って差し上げてもよろしくてよ。まあ、もう一人のお方に比べて貴方はましのようですけど」

 

チラと渚に目をやる。

獲物が掛かるの待っているのだ。

 

「・・・」

 

しかし、秋終は動かない。

 

(仕方ありませんわね)

 

セシリアは溜め息を一つつくと

 

「あなたがこの有り様ではさぞご家族も可哀想ですわね。・・・いえ、寧ろご家族も貴方同様情けない方達かしら」

 

そう口にしたのだ。

この言葉は彼女にとってもっとも言われたくない言葉の一つであった。幼き頃に両親を亡くし、その思い出を頼りに生きてきた彼女にとって亡き家族の侮辱は最大の物である。それを自らの口で言うことにどれ程の葛藤があったか・・・しかしそうまでして確かめたいことがあった。そして見事に獲物は餌に食い付いた。

 

「今何て言った・・・」

 

恐ろしく低い声であった。

秋終が言ったとは思えないほどの。

教室の気温が僅かに下がった気がする。

 

「な、なんですの?もう一度言って差し上げましょうか?」

 

挑発をした本人ですら声が震えていた。

余りにの豹変振りに恐れたのかもしれない。

 

「俺の家族を馬鹿にしたな・・・」

 

「そ、それは貴方が・・・」

 

「いいぜ、・・・よぉ」

 

「え?」

 

「やってやるって言ってんだよぉぉぉぉ!!!」

 

秋終の感情が爆発した瞬間であった。

息は乱れ肩を震わし、その顔は鬼の様な形相である。

 

「模擬戦でもなんでもやってやるよ!絶対にお前だけは許さない!」

 

 

「上等ですわ!」

 

かくして事は纏まった。

織斑千冬の胸に一抹の不安を残しながら。

ちなみに織斑一夏はと言うと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、俺は・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に置いてきぼりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続く

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