IS~人柱と大罪人~   作:ジョン・トリス

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第八話


迫る八重歯っ子

似ていると思った。

姿や性格の話ではない。

上手く言葉で表現出来ないけれど。

確かに似ていると思った。

それはいけない事なのだろうか?

間違いだったのだろうか?

少なくとも正しくはなかったのだ。

だから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----迫る八重歯っ子----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日は昇り、小鳥の囀りが聞こえてくる静かな時。

学園が保有するアリーナに2機のISの姿があった。

青色を基調としたブルーティアーズと金色を基調とした心滅を駆り、セシリアと秋終が朝練に励んでいた。

IS対し抵抗を感じていた秋終ではあるが、先の一件がその心の蟠りを解かしつつあり、今では少しくらいならと乗る事に対してその抵抗も薄れていた。

 

ーーーー間違ってなかったーーーー

 

それが何よりも嬉しかった。

認めてくれた人達がいた。

『アレ』とは違う、自分と『アレ』は別であり、今行っているのは戦いではないのだから、誰かを傷付ける心配もないのだと。

 

「聞いていまして?秋終さん?」

 

「・・・え?」

 

「んもぅ」

 

物思いに耽っていればセシリアに怒られた。

頬をぷくっとふくらませながら腰に手を当てているその姿は、如何にも怒っていますと言わんばかりだ。

 

「・・・可愛い」

 

「・・・バカにしていますの?」

 

思わず零れ落ちた言葉に返って来たのは、冷ややかな視線と冷ややかな言葉。今時の女の子は少し褒めたくらいで機嫌は治らない様だ。もっとも、狙った言葉ではなく、あくまで失言の範囲内であるのだから、それは秋終本人からすれば悪い癖が出てしまったと頭を悩ませるだけなのだ。

断じて口説いている訳ではない。

 

「もういいですわ。実際にやってみましょう」

 

「やる?」

 

「・・・イグニッションブーストの練習です」

 

「ああ」

 

と秋終は思い出したのか納得した表情を見せた。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

「しかし驚きましたわ。初陣でいきなりイグニッションブーストを使うだなんて・・・」

 

「いぐにっしょんぶーすと?何それ。跳んだだけだけど・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「え?」

 

「え?」

 

「「・・・」」

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

これが事の発端である。

ちなみに余談だが、この時のセシリアの表情が、まるでガ○スの仮面の登場人物みたいだったと後に秋終は語っている。

 

とにもかくにもこうしてイグニッションブーストの練習が始まる訳なのだが、セシリアはとある事に気付いた。

 

「そう言えば秋終さんのISには翼がありませんわね。スラスターは何処に付いていますの?」

 

「足の裏です」

 

「・・・」

 

先の戦いで随分と個性的なISだと思ってはいたセシリアだが、一体何処まで突き進んでいるのかと思わず呆れてしまう。

 

「・・・言わんとしている事は解るよ」

 

「・・・貴方も苦労していますのね」

 

「・・・はは、かっこいいでしょ?」

 

秋終は何とも言えない曖昧な表情で苦笑を浮かべた。

 

「まあ、よろしいですわ。イグニッションブーストを使いこなせる事が出来れば、今以上の跳躍が可能になりますから」

 

「あれ以上だと、肉体的にキツイんですけど」

 

セシリアが何処か嬉々とした表情を浮かべているのとは対称的に、秋終の表情はげんなりとしている。と言うのも、秋終はすでにかなりのGを体感しているのだ。なのにそれよりも上があると聞いて喜べる筈はない。

 

「殿方とあろう者が情けないですわ!」

 

「はぁ・・・」

 

セシリアの有無を言わせない態度に逆らえない秋終であった。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

一時間程たったのであろうか。

IS適性が高かった事もあり、秋終は瞬くまにセシリアの教えを吸収していった。これには教えた本人も下を巻くばかりである。

 

「私の苦労が・・・」

 

と涙を堪えながらハンカチを噛む姿は、何処のお嬢様だと思ったが・・・(そう言えば本当にお嬢様だ)なので黙っておくことにした。

 

イグニッションブーストを覚えた心滅の軌道は、まさに3次元的だった。縦横に加えて斜めの動き、さらには跳躍も加わり、並大抵の相手では射撃を当てる事も難しいだろう。その様は獅子が草原を掛けるようだ。

 

(ああやって夢中になる姿は、本当に男の子ですわね)

 

セシリアから見た秋終はとても楽しそうであった。

その辺の男の子がオモチャを与えられ無邪気にはしゃぐ姿と何ら変わりない。辛い過去なんて嘘みたいな普通の男の子。それが愛しく思えた。

 

(可愛い所もあるのですね)

 

見る人が見ればまるで我が子を慈しむ母親の様だ。

 

「・・・どうかした?」

 

「いえ、何でもありませんわ。そろそろ戻りましょう?あまり張り切り過ぎては、授業に差し支えますわ」

 

あまり無理をしては授業にたたると思い、訓練を引き上げようとしたその時・・・

 

「ふーん。面白そうな事してるじゃない」

 

八重歯がトレードマークのツインテール少女が現れた。

 

「どちら様ですの?」

 

「人に名前を訪ねる時は、自分から名乗るのが常識じゃないの?」

 

セシリアの視線が鋭くなる。

 

「あら。盗み見をする方が常識を説きますの?」

 

「へぇー、言うじゃない」

 

皮肉を返された少女は、面白いと僅かに口端を吊り上げた。

 

(何だこれ・・・)

 

完全に置いてけぼりな秋終である。

別に巻き込まれたい訳ではないが、ほったらかしも中々に堪えるものだ。それにもしこのまま放っておけば、俗に言うキャットファイトなるものが始まってしまうだろう。ただのキャットファイトではなく、両者フル武装のなんともありがた迷惑な・・・。

 

どうすべきかと秋終が頭を悩ませていれば、

 

「まぁ、いいわよ。今はアンタよりそっちの男に興味があるの」

 

「・・・秋終さんに?」

 

「ええ」

 

「あたしと闘いなさい!」

 

『ビシッ』と効果音が付きそうなくらいに指を指して告げた。それはもう、不敵な笑みを浮かべながら。

 

「た、闘う!?」

 

いきなり自分に矛先が向いた事、見も知らぬ少女からいきなりの宣戦布告に対し、秋終の思考は混乱の海へと落とされた。いくら何でも唐突だ。初めて会った相手に闘いを挑むなど、どこのバトルジャンキーか。それに自分は闘うために乗っているのではなく、ただ・・・

 

そこでふと、考えてしまった。

 

(ただ・・・なんだ?何で俺はIS乗ってる?何のために・・・)

 

意味を考えてしまった。

目的を考えてしまった。

理由を考えてしまった。

 

皆に誉められた。

だから、乗ってもいいと思った。

認められたから。

だから、少しくらいならと思った。

 

だが、本当にそうか?

そこに自分の意思はなかったのか?

本当は乗りたかったのではないか?

闘いたかったのではないか?

 

考え出したら止まらない。忘れていた事、必要ない事、全てを考えてしまう。そしてやがては一つの結論に至るのだ。

 

何でここにいるのだ。

何で自分は生きているのか。

 

己の存在すら考えてしまう。

 

 

 

 

 

ーーーー何で生きてるの?お兄ちゃんーーーー

 

 

 

 

 

声が聞こえた。

聞きなれた声。

大切な大切な妹の声。

 

(何で俺は生きてるのだろうか)

 

秋終の体が動き出す。

掌を自身の頭に向けてレーザーを放とうと、そのまま頭を撃ち抜こうと、自らの手で終わらせようと、幕を引こうとする。

 

「秋終さんっ!!」

 

「っ!?」

 

だがそれは叶わなかった。

セシリアの声が正気を取り戻させた。

 

「俺は・・・」

 

呆然とする秋終を他所にセシリアは告げる。

 

「・・・・・・秋終さんは闘う事が出来ませんわ。どうしてもと仰るのなら、私がお相手します」

 

「・・・」

 

それはまるで子を庇う母のように凛々しかった。美しく、気高く、見れば誰もが息を呑むほどに。だが、よく見れば彼女の手は微かに震えていた。それが何を意味するのかはわからないが、おそらく秋終を通して何かを感じたのだろう。

 

「・・・もういいわよ。何か冷めちゃったし」

 

意外にもツインテールの少女はあっさりと身を引いた。

目を閉じて何かを考える素振りを見せた後、うんうんと頷き、まるで何事もなかったかのように

 

「凰鈴音(ファ・リンイン)」

 

「「え?」」

 

「私の名前よ」

 

これが秋終と凰鈴音のファーストコンタクトであった。

 

 

 

 

 




続く

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