IS~人柱と大罪人~   作:ジョン・トリス

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第九話


宣戦布告の合図

妬まれるだなんて羨ましいよ。

だって、それだけの物を持ってる事だろ?

君は恵まれているんだ、自分で気付かないだけでね。

確かに辛い事もたくさんあっただろうが、良い事だってあったはずだ。それに・・・辛いのは君だけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---- 宣戦布告の合図 ----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は9時手前。まもなくSHRが始まろうと言う時、秋終は朝の件について考えを巡らせていた。凰とセシリア、二人の事が頭から離れないのだ。

何故凰は闘いを挑んで来たのか?

何故セシリアは自分を庇ったのか?

前者について思い付くのは、セシリアと同じで男性操縦者とやらの力量が知りたかったのだろうと推測する。しかし、後者についてはよくわからない。理解しようすればする事は出来る。セシリアからは父親に似ていると言われたのだし、それが理由なのかもしれない。

ただ、

 

(それにしても過保護じゃないのか)

 

ISの訓練とて、自分から頼んだわけではない。向こうから言ってきたのだ。断らなかった理由は親近感を感じていたから、それだけの事。

 

「わからないなぁー」

 

何か別の思惑もある気もするが、確かめる方法はセシリアに直接聞くしかないのだ。でも、それは億劫である。

 

(そういえば・・・)

 

少しだけ母さんに似ていると秋終は思った。

本人に伝えれば間違いなく

 

「失礼ですわ!」

 

と怒られるだろう。

そんな姿を想像すれば自然と笑みが溢れてくる。

反応が面白く表情が豊で、茜とはまた違ったタイプなのだ。

 

「・・・何をニヤニヤしていますの?」

 

気がつけば隣にセシリアがいた。

その視線は生ゴミでも見るかの様に冷たい。

 

「・・・何でもないです」

 

「・・・」

 

「・・・いや、ほんとに」

 

「・・・」

 

「・・・あのぉー」

 

「・・・」

 

「セシリアって時々母さんみたい」

 

「・・・怒りますわよ」

 

正直に答えたらこの有り様とは、なんと理不尽な事か。

そして秋終を見る目が生ゴミからクソにランクアップしたようだ。一部の男が見れば、ご褒美だと狂喜乱舞する事このうえなしでございます。

ちなみにこれは余談だが、秋終にそんな趣味はないとフォローしておく。そしてもう1つ余談だが、遠目に見ていた一夏はこっそり興奮していたのであった。

 

そんなこんなで各々がクソみたいな時間を過ごしていると、教室の扉を勢いよく開く音がした。

その音に辺りは静まり返り、喋っていた女子達も何事かと音の先へと視線を向けた。

 

すると、

 

「一夏いる!?」

 

凰鈴音が現れたのだ。

何故だろうか、随分と雰囲気が違うと秋終は思う。朝のギラギラした肉食動物の様子とはうって変わり、『私は今ご機嫌なの!』なのと言わんばかりにツインテールを揺らし笑顔である。

 

(茜と似てるなぁ)

 

と秋終は思う。

笑った顔が何処と無く似ていると。

ついでにペッタンコな所も。

 

「鈴!?」

 

驚いた声を発したのは一夏だ。

 

「久しぶりね!」

 

「ああ」

 

どうやらこの二人は知り合いのようだ。

一夏が『りん』ではなく『すず』と呼んだ事に、この二人は何か特別な関係なのかと秋終は推察した。何となく自分と茜が重なり、それが少しだけ何とも言えない気持ちにさせた。

 

「・・・」

 

二人は楽しそうに話をしている。

その姿は本当に幸せそうで、それを見た秋終は少しだけ凰に対する印象を改めるのであった。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

時間も過ぎ、秋終は食堂にいた。しかし、当人の心中は穏やかではない・・・と言うのも、今朝のSHRでの出来事が起因しているのだ。一夏と鈴が何時までも楽しそうに話ていると、いい加減にしろと織斑千冬の鉄拳が炸裂した。鈴は目に涙を浮かべながら自分のクラスへと帰って言ったのだが、その後に発した織斑千冬の言葉が問題であった。

 

「いよいよ明後日はクラス対抗戦だ」

 

これには秋終も開いた口が塞がらなかった。

たまらずに

 

「聞いてないですよ!」

 

と言えば

 

「IS学園皆のお知らせ掲示板にちゃんと掲示していたが?」

 

「お、お知らせ掲示板!?」

 

なんと可愛らしい名前だろうか。その名前もさることながら、それを言った織斑千冬もなかなかにシュールである。

 

そんなこんなで秋終は現在食堂で憂鬱ナウなのだ。

セシリアとの戦いから日もそんなに立っていないと言うに、次から次からへとよくもまあ、いろいろ起きるものだとぼやかずにはいられない。

 

(また戦うのか・・・)

 

賑わう声がこれほど煩わしいと思ったのは、何時以来だろうか。

 

「人の気も知らないで・・・」

 

思わず悪態を吐いてみれば

 

「なぁにぶつくさ言ってんのよ」

 

「うぇっ!?」

 

驚きの余り椅子から転げ落ちてしまった。

強く腰を打ってしまい、ぎっくり腰になっていないかと一抹の不安を抱きつつ、声の主をうらめしそうに見やる。

 

「やっほー」

 

凰鈴音であった。

てっきり茜辺りかと思ったがこれは意外な人物から声を掛けられたものだ。朝の件も合間ってどこか気まずいのだが、向こうはそんな事はお構い無しの様だ。

 

「ふ、凰さん?」

 

「鈴でいいわよ。言いづらいでしょ?それに私も秋終って呼ぶから」

 

「あ・・・うん」

 

こう言う遠慮のない所が改めて茜と重なって見える。

口調こそ違えど、裏表のなさそうな性格はまんまそのも。体型もそっくりだ。となれば当然胸の話はご法度だろうと下らない事も考える。

 

「そう言えば一夏は?」

 

驚きですっかり忘れていたが、一夏がいない事を思い出した。てっきり久々の再開で一緒にいるかと考えていたのに、その姿が見当たらない。

 

「ああ、一夏なら・・・って噂をすればなんとやらね」

 

そう言って鈴は後ろへ振り向いた。

それに釣られて秋終も同じ方向へ顔を向ける。

 

「うがぁー」

 

「ちょ、離れて下さいまし!」

 

茜とセシリアが戯れていた。

いや、正確には茜がセシリアの頭に噛り付いている。

 

「何してんの?ってか、いつからあんな仲良く・・・」

 

この光景を見て仲良くなどと、まったく検討違いの事を述べる秋終。その二人の後ろには、一夏と箒がやれやれと言った具合に頭に手を当てていた。

 

「遅いわよ一夏」

 

とは鈴。

 

「しょうがないだろ」

 

とは一夏。

 

「ガウガウ」

 

とは茜。

 

「痛い!痛いですわ!」

 

とはセシリア。

 

「しっかり茜の手綱は握っておけ」

 

とは箒。

 

「えぇー」

 

とは秋終。

 

とてつもない色物パーティーの完成した瞬間であった。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

「何か俺が知らない間に皆仲良くなってる?」

 

何とか茜と髪がベトベトになってヒステリックを起こしたセシリアを宥めた秋終は、疑問に思った事を口にした。特にセシリアがこの場いる事は珍しい。自分は良く話すが、一夏達と話している所は余り見ないからだ。

 

「そうか?鈴とは秋終が教室出ている間に自己紹介を済ませたぞ」

 

答えたのは箒である。

 

「それにしたってセシリアがこの場にいるのは・・・」

 

珍しいと言いかけて口が止まる。

秋終を見るセシリアの目が、どこか憂いを帯びていたからだ。

 

(・・・ああ)

 

納得した。

多分自分の事が心配だったのだろう。朝の件もあり、鈴と一緒になる事が不安だったのだ。それは優しさからか、それとも別から来る何かなのか。どちらにしろ、皆は自分を探しに来たようだ。

 

「何見つめ合ってんだぁ!イチャつくなコラァ!」

 

何も知らない茜からすればいい感じの二人にしか見えない。誰が見ても嫉妬である。秋終さえ気付く程に。

 

「ひっ!?」

 

髪のトラウマが甦るセシリア。

 

「お、落ち着けよ!甘い物奢るから!」

 

このままでは折角収拾つけたのがまた散らかってしまうと、それはゴメンだと、物で釣る作戦に移行する。

 

「奢れー!奢れるもんなら奢ってみろー!」

 

何故こんなに偉そうなのか。

 

「わかった、わかったから。クラス対抗戦終わったらな!」

 

「おせえよ!明日奢れー!デートしろぉ!」

 

「えぇ・・・」

 

もはやめんどくさくなる秋終、そしてデートの単語に誰もツッコミをいれない一同。

 

「ほんと賑やかね」

 

「だろ?」

 

鈴の呆れに対し、嬉しそうな一夏。そんな一夏の顔を見れば、自然と鈴も笑顔になると言うもの。この二人も何処と無くいい感じであった。

 

「はぁ・・・よろしいですの?」

 

「・・・何がだ?」

 

「一夏さんと鈴さん、いい感じですわ」

 

「久々の再開だ。邪魔するのも野望だろう」

 

茜の矛先が秋終に絞られ安心したセシリアは、溜息を吐きながら箒に訪ねた。聞けば鈴と一夏は幼馴染らしいが、箒と一夏も幼馴染らしい。こう言った場面ではモヤモヤするのではないかと気を遣っての事であった。だが、対する箒はそんなことを気にも留めていないようである。そればかりか寧ろ嬉しそうだ。

 

「ねぇ・・・一夏?」

 

「ん?」

 

「約束覚えてる?」

 

「約・・・束・・・?」

 

「アタシが引っ越す時にさ・・・」

 

「・・・ああ!」

 

約束と言う単語にいまいちピンとこない一夏であったが、鈴の言葉で合点がいったようだ。それは二人が離れ離れになる際に交わした大切な思い出。しかし当の相手は

 

「酢豚奢ってくれるって話だろ?いつでもいいぜ!」

 

「・・・」

 

鈴の気持ちなど露知らず、何でもない事の様に言ってのけたのだ。正確には『私の酢豚を毎日食べさせてあげる』と言う約束で俗に言うプロポーズなのだが。

 

「(そっか・・・そうだよね)ごめん。友達と約束してたの忘れてた!」

 

一夏の言葉を聞いた鈴は、顔を伏せたまま走り出してしまった。これには秋終達も開いた口が塞がらない。同じ女子からすれば当然気付くし、秋終でさえも気付き、騒いでいた茜でさえも黙りこんでいる。

 

「・・・ちょっとトイレ」

 

この時、何故自分が動いたのか秋終本人もよくわかっていなかった。茜に似ていたからなのかも知れないし、寂しそうな顔が自分と重なったのかもしれない。とにかく気が付けば体が勝手に動いていた。回りもその事に対し何も言わなかった。ただ、一夏だけは・・・

 

「どうしたんだ?」

 

最後まで理解していないのであった。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

目的の少女を見つけたのは屋上であった。膝を曲げて抱え込む様に座っており、その背中はやはり寂しそうである。こうして追いかけては来たが、何と声を掛ければいいものか。日頃慰められる事は有れど、その逆はない秋終にとってこれは如何様にもし難い事である。と、そのまま暫く唸っていれば

 

「・・・慰めに来たんじゃないの?」

 

ジト目で言われてしまったのだ。

 

「気付いてたの?」

 

「そりゃあ、あれだけ勢いよく扉を開けば気付くわよ」

 

ごもっともである。

まるで推理物で犯人を追い詰めたと言わんばかりに秋終は勢いよく扉を開けたのだ。気付かない方が変である。

 

「うっ・・・」

 

自分の迂闊さに思わず頬を染めてしまう。

 

「はぁ・・・。横」

 

「?」

 

「座んなさいよ、ほら」

 

ポンポンと鈴が地面を叩いた。

励ましに来た筈が、逆に気を遣われてしまった様だ。

 

「よっ・・・こらせと」

 

「ぷっ、何それ、ジジ臭いわよ」

 

何気無く座っただけなのに笑われてしまうとは些か心外ではあったが、思ったよりも元気そうなのでそこは安心する。

 

「何かバカみたいね、こうやってくよくよしてるの」

 

「それは・・・」

 

「本当の事よ。・・・ねぇ」

 

「?」

 

「昔話、聞いてくれない?」

 

秋終が二つ返事で了承すると、鈴は語り出した。

まだ小学生の頃、中国から編入してきた鈴は日本語もろくに喋れなく、その姓でクラスの皆から虐められた。それが悲しくて悔しくて自分が惨めだった。だがそんな時、一夏が助けてくれたのだと。自分を庇う様に立つその背中にヒーローを見た。憧れた。

 

「それがきっかけ?」

 

「そう。・・・それで思ったの。私も強くなりたい、一夏みたいに誰かを助けれるくらいに強くなりたいってね」

 

本人は続けた。

それが好意からくる物か憧れからくる物かはわからないが、少なくとも自分の世界に一夏が入ってきた瞬間だった。あの約束も、本人が気持ちを整理出来ずに言った言葉なのだと。それでも伝わっていれば嬉しかったと。

 

「でも、もういいわ」

 

「諦めるの?」

 

「違う、そうじゃない。私は前に進むって決めたから」

 

落胆も失意の色も伺えない。その顔は希望に満ちた者特有の顔であった。秋終は思う、『何て強いんだ』と。

 

「話を聞いてくれたお礼に1つだけ」

 

表情を切り替え、鈴が告げる。

 

「秋終が何を抱えているか何て私は知らない。道に迷ってるなら止まって考えればいい。でも止まったままじゃ何も変わらない。動き出さなきゃ」

 

「動き・・・出す」

 

「そう、だからアタシは進むの」

 

「・・・」

 

「そう言えばアンタ、一組の代表でしょ?アタシは二組の代表よ」

 

「それって・・・」

 

「待ってるわよ」

 

そう言い残し、鈴は屋上を後にした。

残された秋終は、

 

「鈴が相手・・・」

 

呆然とするのみであった。

 

 




続く
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