二年分の想いをあなたに   作:=nana=

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【前回のあらすじ】

 撮影も順調に進んでいき、残るシーンもあと僅か。
 今日の撮影も終了し、暖かいマッカンで一息つく八幡に歩み寄る由比ヶ浜。



 「だって、あたしは・・・演技じゃなかったから。」

 由比ヶ浜の演技を褒める八幡に対して、そう呟いた由比ヶ浜の心境は?





第9話 クランクアップ!

 水曜日

 

 

「はい、これ。二人に!」

「ありがとう。」

「サンキュー!」

 

 放課後になり、由比ヶ浜が葉山と戸部に小さめの小袋を渡しているの横目で見ながら教室を後にする。

 いつも通り昇降口に向かって脇目も振らずに廊下を歩いていると、背後から駆け寄ってきた由比ヶ浜に腕を捕まれてしまった。

 

「ま、待って。ちょっと、いいかな?」

「えっ・・・うわっ!」

 

 由比ヶ浜は、俺の返答も待たずに腕を引っ張り、空中廊下へと向かう。

 

 校舎と特別棟を結ぶ廊下の4階部分――天井が無く屋上のようになっており、空中廊下と呼ばれている。――

 夕暮れ時の太陽によりオレンジ色に染められたその空中廊下で、由比ヶ浜から可愛くラッピングされた包みを手渡された。

 

 包みを手渡した由比ヶ浜は、顔を赤く染め、潤んだ瞳でまっすぐ俺を見据える。

 

「あ、あの・・・あたし、あなたのことが!」

 だが、由比ヶ浜の口からこれ以上の言葉が紡ぎ出されることは無く、結果として無言のまま由比ヶ浜と見つめ合うことしばし・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!OK!」

 

 塚原さんからOKの合図が出た。

 確かこのシーンが最後のシーンのはずだから・・・

 

「二人ともお疲れ!これでクランクアップだよ。」

 塚原さんが由比ヶ浜に駆け寄り、後ろから両肩を抱いた。

「えーりんもお疲れ!それに、ヒッキーも。」

 由比ヶ浜も塚原さんと抱き合いながら、うれしそうに言葉を続けた。

 

 俺がリア充だったら、由比ヶ浜と塚原さんとで一緒になってウェイウェイ騒ぐことも出来たのだろうが・・・

 

「お、おう・・・お疲れ。」

 ぼっちを拗らせている俺にとっては、これが今できる精一杯の反応であった。

 

「あ、そうだ!あたし、優美子達にお礼してくるね!」

 塚原さんと抱き合って喜んでいた由比ヶ浜は、そう言うと名残惜しそうに手を振って、校舎の方へ向かっていった。

 

「うう、急に寒くなってきた・・・。」

 気がつけば、すっかり日も暮れてしまい寒さも一気に増したように思える。

 

「それでは、俺達もそろそろ戻りましょうか。」

「あの比企谷君。この後ちょっとお願いしたいことがあるんだけど・・・いいかな?」

 暖かい室内に戻ろうとした俺を引き留めた塚原さんは、神妙な面持ちでそう言った。

 

 

  × × ×

 

 

 木曜日

 

 

 

 放課後になり、教室を出た俺は奉仕部の部室ではなく映像研究部の部室へと向かっていた。

 昨日の放課後、塚原さんから頼まれた『ちょっとしたお願い』の為である。

 

「失礼します。」

「あ、比企谷君。今日はよろしくね。」

 

 映像研究部の部室に入ると、塚原さんがPCの準備をしているところであった。

 

「雪ノ下さんから、比企谷君が動画編集もできるって聞いたときには驚いたよ。」

「できるといっても、テロップ入れることくらいしか出来ないですよ。」

 以前、文化祭実行委員の記録雑務の仕事でファイナルカットプロとかいう動画編集ソフトを使ったことはあるが・・・。

 雪ノ下がどのように説明したのかは知らないが、塚原さんに過度な期待をされても困るからな。

 

「それだけでも充分助かるよ。」

 そう言って、塚原さんは撮影データが納められたメディアカードをPCに差し込み、データをPCにコピーし始めた。

 

「とりあえず、動画の初めにシーン数やテイク数が書かれた画面が出てくるから、動画のファイル名をそれに変えてくれないかな。」

「わかりました。」

 とりあえず、塚原さんの指示を受けてPCにコピーされた動画データの再生を始める。

 

「ああ、この画面の数字をファイル名にするのか。」

 動画ファイルの一つを再生すると、初めにホワイトボードのアップが映し出されていた。

 塚原さんの指示通りに、ホワイトボードに書かれていた数字を暗記し、動画ファイルのファイル名を変更していく。

 

 

 

 そんな地道な作業を繰り返すこと1時間。

 さすがに作業の要領も解ってきて、音楽プレイヤーにイヤホンを接続して音楽を聴きながら作業が出来るようになっていた。

 

 そして、最後の動画ファイルのファイル名も変更完了・・・と。

 

「塚原さん、ファイル名の変更終わりましたよ。」

「お疲れ様。それじゃあ、そこのハードディスクにコピーしてくれないかな?」

「ハードディスク・・・これですね。わかりました。」

 

 PCにポータブルハードディスクを接続して動画データをコピーし、塚原さんにハードディスクを手渡す。

 

「ありがとう。それじゃあ、ちょっと休憩してて良いよ。」

 そう言うと、塚原さんは自分の目の前に置かれたPCにハードディスクを接続して何やら作業を始めていた。

 

 手持ちぶさたになった俺は、とりあえず目の前あるPCに残っているコピー元の動画ファイルが納められたフォルダを開いてみた。

 一応、脚本を見て話のあらすじは理解していたものの、俺が知らないシーンも結構あったので気にはなっていたのである。

 

 動画データもここにあるし、ちょっと見てみるか。

 そう思い、【Scene16-take01.m2ts】という動画ファイルを再生してみた。

 

 

 

 ――『それじゃあ、結衣ちゃん。準備はイイ?』『OKだよ、えーりん。』――

 

 再生した動画ファイルは、由比ヶ浜の家で撮影したシーンのようだ。

 脚本によると、【女子生徒】がバレンタインに渡すチョコレートを作るシーンだったはずだが・・・。

 

 ――『いや、チョコをお鍋に入れてどうするつもりだったの?』『どうするって、チョコ溶かすに決まってるじゃん。』――

 

 おいおい、由比ヶ浜の奴大丈夫なのか?

 

 

 続いて【Scene16-take02.m2ts】という動画ファイルを再生してみる。

 

 ――『結衣ちゃん!チョコをお湯の中に入れたらダメでしょ!』『でも、さっきチョコはお湯で溶かすって言ったじゃん。』――

 

 えっと・・・チョコレート作るシーンだよね?

 嫌な予感がしてきたが、【Scene16-take03.m2ts】、【Scene16-take04.m2ts】・・・と再生していく。

 

 ――『結衣ちゃん!せっかく上手くいっていたのになんで桃なんか入れたの!?』『だって・・・』――

 

 俺は、【Scene16-take11.m2ts】の再生途中だった動画プレイヤーのウインドウをそっと閉じた。

 

 

  × × ×

 

 

 さっきはとんでもないシーンを見てしまった気がするが、気を取り直して別のシーンも見てみよう。

 そう思った俺は、【Scene17-take00.m2ts】のファイルをダブルクリックする。ん?テイク0?

 

 今度はガラッと場面が変わり、パジャマ姿で自分の部屋のベッドに腰掛ける由比ヶ浜が映し出されていた。

 

 ――『それじゃあ、この場面は・・・』――

 塚原さんが由比ヶ浜に演技のアドバイスをしているところから撮影されていたようだ。

 

 でも、パジャマ姿でベッドに腰掛けてカメラに目線を向ける由比ヶ浜の姿は、まるでAVのインタビューシーンのような・・・ゲフンゲフン

 脳裏に浮かんだ不埒な思いを打ち消そうと、意味も無く咳払いをしていると、

 

 「やっはろー!」

 

 という声と共に、背後から両肩をぐいっと引かれた。

 

 

 「ヒッキー、なにしてんの?」

 俺の顔のすぐ横から顔を出してPCの画面を覗き込んだ由比ヶ浜は、画面に映されていたものを見て顔を真っ赤にする。

 

 「ちょっ、ヒッキー!それは恥ずかしいから見ちゃダメ!」

 そう叫び、俺の背後から手を伸ばしてマウスを操作しようとしてくる。

 

 「待て、由比ヶ浜!後ろから押すんじゃない!」

 近い!近い!それに柔らかいし、ちょっと良い匂いも・・・って、とにかく近いし恥ずかしい!

 

 だが、由比ヶ浜はそんなこともお構いなしに、マウスを操作しようと俺の右手の上から自分の手を被せてきた。

 すんでのところで俺はマウスから手を離し、接触事故はなんとか回避することが出来た。

 

 

 「ヒッキーのエッチ!バカ!」

 マウスを操作し、動画プレイヤーのウインドウを閉じた由比ヶ浜は、赤い顔で頬をぷくっと膨らまし抗議した。

 

 「ってか、何しに来たんだよ。由比ヶ浜。」

 俺がそう問うと、由比ヶ浜はおもむろに眼鏡ケースを取り出し、ケースの中にあった眼鏡をかける。

 

 「ふふーん!あたしは、えーりんから手伝ってって頼まれて来たんだよ!」

 眼鏡をクイクイとさせて自慢げに語る由比ヶ浜。なんかすげーウザい。これが材木座だったら眼鏡取り上げて真っ二つに割ってるくらいである。

 まぁ相手は由比ヶ浜なので、そんなことはできるわけないのだが。それに・・・

 

 「ってか、その眼鏡は雪ノ下のじゃないのか?勝手に使ったら怒られるぞ。」

 「大丈夫だよ。ゆきのんにはちゃんと言って借りたから。」

 「それにしても、なんで雪ノ下の眼鏡を借りたんだ?」

 「あ、えーっと。えーりんからパソコンの画面を超見る仕事だって聞いたから。パソコンの画面見るならコレだ!って。」

 そう言って、再び眼鏡をクイクイとする由比ヶ浜。

 

 制服をキチンと着用しお団子をほどいた黒髪の由比ヶ浜が眼鏡をかけていると、頭が良さそうな優等生に見えなくも無い。

 だが・・・

 

 「今のお前・・・喋らなければ頭良さそうに見えるのにな。」

 「なっ!ヒッキー!それどういうことだし!」

 

 「いや、見たまんまのk―ゴフォ!」

 「えーりん!ヒッキーに何か言ってやってよ!」

 由比ヶ浜が放ったチョップが喉元にクリーンヒットし、ゲホゲホと噎せる俺を尻目に塚原さんの所に駆け寄った由比ヶ浜は、編集作業に没頭していた塚原さんの肩を激しく揺すった。

 

 「あー、比企谷君。結衣ちゃんには編集後の動画の最終確認に来てもらったんだよ。」

 由比ヶ浜に激しく肩を揺すられ、渋々と言った面持ちで塚原さんは説明してくれた。

 

 「ああ、そういうことなんですね。」

 「うん!そういうことだから!・・・で、えーりん。何すれば良いの?」

 俺が塚原さんに相槌を打つと、なぜか由比ヶ浜が割り込んできた。

 

 「それじゃあ・・・そこにあるBGM用のフリー音源CDからBGMを取り込んでくれないかな?比企谷君。」

 「形式はwavでいいですか?」

 「ええ、それでお願い。」

 

 「ねー、えーりん!あたしは?あたしは何すれば良いの?」

 俺が塚原さんから新たな指示を受けている間、由比ヶ浜は自分にも仕事が無いかと塚原さんに詰め寄っていた。

 由比ヶ浜からの熱い視線に耐えられなくなったのか、塚原さんは救いを求める視線をこちらに向ける。

 

 だが、由比ヶ浜が持っているスキルで編集作業に役立ちそうなものはほとんど無いだろう。

 そう思った俺は、塚原さんに向かって軽く頭を横に振る。

 

 俺の伝えたかった事が伝わったようで、塚原さんはこめかみを押さえがくりと肩を落とした。

 が、その直後に何かを思いついたのか、ニヤリと悪い笑顔を向けてきた。なんだか、すごく嫌な予感がする。

 

 「それじゃあ、結衣ちゃんには比企谷君の手伝いをお願いしようかな~。」

 「えっ?つ、塚原さん?」

 「じゃあ比企谷君。結衣ちゃんをよろしくね~。」

 驚く俺には目もくれず、塚原さんは再びPCに向き合い編集作業に没頭し始めた。

 

 「で、ヒッキー。あたしは何をしたら良いの?」

 いつの間にか、俺のすぐ隣に椅子を置いた由比ヶ浜がPCの画面を覗き込むように身を寄せてきた。

 で、覗き込むように身を寄せてきた結果、俺の腕に柔らかい感触が・・・。

 とりあえず少し離れていただくと有り難いのですが、由比ヶ浜さん?

 

 このままの状態では、作業はおろか腕を動かすことすら叶わない。

 

 「ほら、ヒッキー!手が止まってるよ!」

 だが、由比ヶ浜は俺の懊悩など気付くことも無く、ポンポンと背中を叩いて作業の再開を促してきた。

 

 「はいはい。そこで見てて良いから、邪魔はしないでくれよ。」

 俺はそう言うと、プンスカとむくれる由比ヶ浜を差し置いて、塚原さんから指示された作業を再開した。

 

 

  × × ×

 

 

 それからさらに2時間が経過した。

 

 先程から塚原さんと由比ヶ浜が真剣な面持ちで、編集を終えたばかりの動画に見入っている。

 ちなみに、「ヒッキーはまだ見ちゃダメ!」という理不尽な命令により、俺はその動画を見ることは許されなかった。

 

「すっごく良いよ!えーりん!」

「本当に!?ありがとう!結衣ちゃん!」

 

 時間にして2分弱くらいの動画を見終わり、塚原さんと由比ヶ浜はお互いに抱き合って喜び合っていた。

 

「それじゃあ、すぐに完成試写会に取りかかろっか!」

「わかった!ゆきのん と いろはちゃんに連絡入れておくよ!」

 

 塚原さんは液晶プロジェクターの準備を行い、由比ヶ浜はスマホを取り出しポチポチとメールを打ち始めた。

 

 

  × × ×

 

 

 コンコン

 

 

 由比ヶ浜が二人にメールを送ってから10分ほど経った頃だろうか、映像研究部部室の扉がノックされる。

 

「どうぞ。」

 という塚原さんの返答を受け、雪ノ下が一色と共に部室の中に入ってきた。

 

「塚原先輩、結衣先輩。お疲れ様でした!あ、ついでに、せんぱいも」

 一色は、塚原さんと由比ヶ浜に『きゃぴるん☆ミ(丸文字フォント)』と効果音が付きそうな笑顔で挨拶した後、すぐ素の表情に戻して俺に挨拶してきた。

「ついで扱いかよ・・・まぁ、いいけど。」

 一色に雑に扱われるのは今に始まったことではないので、気にしないことにする。

 

「あら、あなたもいたのね。大根くん。」

「ついに『役者』すら省かれて、ただの野菜呼ばわりかよ。」

 てか、もう俺の名前どこにも入ってないじゃん。

 

 ちなみに、平成24年度の大根収穫量の都道府県別ランキングでは、千葉県は北海道に次いで第二位だそうだ。

 千葉すごいじゃん。落花生だけじゃないじゃん。

 

 なんて、現実逃避から千葉に関する豆知識を思い出していたら、いきなり強烈な光に照らされ視界が真っ白になった。

 これは、バルスの呪文?それとも陰陽弾を喰らったのか!?

 

「うぉっ!まぶし!」

「比企谷君。そこ邪魔。」

 

 はい。スクリーンの前に突っ立てた俺に向かって塚原さんが液晶プロジェクターの電源を入れただけでした。

 

「す、すみません。」

 そう言って俺は、部室のカーテンを閉め、室内の灯りを消すと適当な位置にあった椅子に座る。

 それを確認した塚原さんは、PCを操作して、完成したばかりの動画の再生を始めた。

 

 

  × × ×

 

 

 塚原さんが動画の再生を始めて2分。

 

 

 スクリーン上では、夕焼けの空中廊下のシーンが映し出されていた。

 

 ――『あ、あの・・・あたし、あなたのことが!』――

 夕暮れの空中廊下で見つめ合う俺と由比ヶ浜の姿が映り

 

 「誰だって主役になれる。」

 

 というテロップが表示された。

 

 

 ・・・うわぁ。

 

 自分でやっておいてなんだが、こうして自分の姿を見せられると滅茶苦茶恥ずかしいものである。

 

 これ、全校生徒に公開するんだよね?公開したら後悔することになったりして・・・うわぁ、嫌だなぁ・・・。

 

「え、えっと・・・どうかな?」

 由比ヶ浜が胸の前で指をモジモジと動かしながら雪ノ下と一色に問いかける。

 

「ええ。とっても良く出来ていると思うわ。」

 雪ノ下はそう絶賛していたが、なぜか不満げな表情も隠し切れてはいない様子だった。

 

「確かに、すごく良かったと思いますけど・・・結衣先輩、ずるくないですか?」

 一色は、ハッキリと不満があることを口にしていた。

 ってか、不満な点が『ずるい』?由比ヶ浜が?どういうことだ?

 

「おい、一色。それってどういう意味だ?」

 今回の依頼において、由比ヶ浜が脚本の制作から撮影まで頑張ってきたことを知っていたこともあってか、つい厳しい口調で一色を問い詰めてしまっていた。

 

「あっ・・・えっと、ずるいってのは、せんぱいが思っている意味の事じゃなくて・・・」

 俺に叱責されたと思って焦ったのか、一色はあたふたと手をせわしなく動かしながら弁明していた。

 

「結衣先輩のアレって・・・どう見ても演技じゃ無いですよね?」

 だから『アレ』って何だよ。俺は、一色の返答を訝しんでいたが、

「ふぇ?い、いろはちゃん。それは・・・その・・・」

 由比ヶ浜には意味が通じたのか、今度は由比ヶ浜の返答が要領を得ないものになっていた。

 

「きっと結衣ちゃんは、【女子生徒】役の女の子になりきっていたんだよ!登場人物に合わせて役作りすることは良くあることだから!ねっ!結衣ちゃん!」

「そ、そうだよ、いろはちゃん!えーりんの言うとおりだよ!」

「むぅ、いまいち納得できないですが、塚原先輩がそう仰るならそういうことにしておきます。」

 塚原さんが由比ヶ浜に代わって説明したことで、一色も一応は納得したようである。

 

 あれ?いつの間にか俺は置いてきぼりにされているような気がするのだが?

 まぁ、一色も納得しているみたいだし、今さら蒸し返すようなことはしなくて良いか。

 

「では、塚原先輩。次回はサッカー部のキャプテンと冴えない男子生徒がサッカー部の美少女マネージャーを取り合う三角関係をテーマにした――」

「葉山と大岡あたりに協力してもらうようにちゃんと話を通しておけよ?で、出来た動画はどうするんだ。生徒会長殿?」

 一色の変な妄想語りを遮るように、今すべき仕事を提示しておくことにした。一色よ、俺はさっさと仕事片付けて早く家に帰りたいんだよ。

 

「では、今からデータを頂いて告知用のホームページにアップしておきます。」

 壁に掛けられたカレンダーを見ながら一色が答える。

 

「今晩にはアップできると思います。でも、土曜日にイベントですから、それまでに何人見てもらえるか・・・。」

 忘れかけていたが、本来はバレンタインイベントの告知用として制作した動画である。

 木曜日の晩に掲載を始めて土曜日にイベント本番なので、生徒達の目に触れるのは金曜日丸一日しか無いのである。 

 

「いろはちゃん、後でホームページのアドレス教えてくれないかな?LINEとかツイッターを使ってみんなに伝えてみるよ。」

「それはいいですね、結衣先輩!生徒会の他の役員にも指示して、みんなでやってもらうようにしてみます。」

 さてどうやって生徒達に見てもらおうかと悩んでいたら、由比ヶ浜が早速アイデアの一つを披露し、一色もそれに賛同した。

 

「そ、そうね・・・二人にお任せするわね。」

 ワイワイと盛り上がる一色と由比ヶ浜を羨ましげに見ながら、自信なげに雪ノ下が答える。

 まぁ、お前はそう言うコミュニケーションツールの事とか疎そうだもんな。

 ちなみに俺は、そういったコミュニケーションツールへの造詣は深い方だ。なにせ、生徒会長選挙の時にはそれらを駆使して問題の解決に役立てたのだからな!

 ただ問題としては、コミュニケーションをとる相手がほぼ皆無に等しいと言う点があるのだが・・・。

 

 どうやら、一色も由比ヶ浜も同じ考えを持っていたらしく、告知に関しては雪ノ下と俺は戦力外という認識で決めてしまったようである。

 

 

「では、皆さんお疲れ様でした。せんぱいは明日の放課後、会場の設営の手伝いもお願いしますね。」

「おい。俺の仕事は終わったはずだぞ!?まだ働かせるつもりなのか?」

 一仕事終えてゆっくり出来ると思った矢先にコレだよ。

「何言ってるんですか。わたしは『イベントのお手伝い』をお願いしたんですよ。動画の件は『イベントのお手伝いの一つ』に過ぎませんから。」

  

「あの、いろはちゃん。ごめん。あたし、明日はちょっと・・・。」

 おずおずと手を上げた由比ヶ浜が、申し訳なさそうに言ってきた。

 

「どうした、由比ヶ浜。三浦達との約束か?」

「そ、そうじゃなくて・・・その、髪を元の色に戻そうかと思ってサロンの予約取っちゃったから・・・。」

「元の色?ああ、あの色に戻すのか。」

「えっと・・・ヒッキー的には、このままの方が良いの・・・かな?」

 俺が質問すると、由比ヶ浜は髪を弄りながら上目遣いで尋ねてきた。

 

「まぁ、お前の髪なんだし。お前のしたいようにすれば良いんじゃないか?」

 俺としては、何気なく聞いただけであって、由比ヶ浜の髪型や色についてとやかく指図する意思はないからな。

 だって、俺が女子の髪型とかに口出ししたら確実にキモがられるし!

 

「わかった・・・勝手にする。」

 あれ?由比ヶ浜さん?いきなりむくれてどうしたの?

 俺、由比ヶ浜を怒らせるような事言った?

 

「まったく、この男は・・・。」

「せんぱい・・・それはさすがにダメですよ。」

「結衣ちゃんが不憫すぎる・・・。」 

 雪ノ下?一色?塚原さん?なんで、そんなに冷めた目でこっちを見ているんですか?

 

 

 

 

 

 結局・・・

 この日は片付けが終わり昇降口で別れるまで、誰も口をきいてくれませんでしたとさ。

 

 

 って、理不尽すぎない?

 しょうがない。家に帰ったら、小町に訊いてみるか。

 

 

 

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