二年分の想いをあなたに   作:=nana=

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【前回のあらすじ】

 「みなさーん!青春してますかぁー!」

 生徒会長 一色 いろは のコールで始まったバレンタインイベント。

 大声で熱唱する一色、一心不乱にドラムを叩く本牧、緊張しながらも懸命にキーボードを奏でる藤沢。そして、ギターを演奏する奉仕部部長の雪ノ下 雪乃の姿が・・・。

 華々しいステージに沸き立つ会場の片隅で、ひっそりと様子を窺う比企谷 八幡。そんな彼を見つけたステージ上の雪ノ下と由比ヶ浜は・・・。





第12話 ポッキーゲーム

 『ポッキー』

 

 

 江崎グリコが販売している菓子で、登録商標も同社が持っている。

 全長13cm強、棒状のプレッツェルにチョコレートコーティングを施したもので、その商品名の語源は「ポッキン」と折れる音から名付けたそうだ。

 

 ちなみに、「Pocky」と綴ると英語でいろいろとよろしくない意味を持つようなので、欧州では「Mikado」という名前になっているとか・・・。

 

 

 

 さて、俺がWikipediaにあった内容を必死になって思い出している理由であるが・・・。

 

「ん・・・。」

 

 俺の所属している奉仕部の部活メイトである由比ヶ浜結衣が、そのポッキーを口に咥えて俺の方に突き出してきているからである。

 そりゃ、部室で雪ノ下の入れた紅茶を飲む際に由比ヶ浜が持ってきたポッキーを分けて貰って食べたことは幾度かあったが、口移しで渡されるのは今回が初めてである。

 

 

 そういえば、「Pocky」って、同じ綴りで男のナニを意味する言葉にもなるらしい。

 つまり、由比ヶ浜結衣が「Pocky」を口に咥える・・・。

 

 あらやだ、卑猥・・・。

 

 

 って、違う違う!

 今はこんなことを考えている場合じゃ無かった。

 

 さて、どうしよう・・・。いや、マジで。

 

 

 

  × × ×

 

 

 さて、どうしてこんな事になってしまったのか?

 今から10分ほど前に遡ったところから説明することにしよう・・・。

 

 

 

 

「ごちそうさま。」

「どういたしまして。」

 

 雪ノ下特製のホットチョコレートを飲み干した俺は、空になった紙コップを手に席を立つ。

 このコップ捨てるついでに、会場最後列の定位置に戻ろう・・・。

 

 そう考えた矢先、

「せんぱーい!やばいです、やばいんですよー!」

 と、あざとい仕草で俺を引き留めたのは、言うまでも無く生徒会長の 一色いろは であった。

 

「この次に行う、『部対抗 カップルUNO』のメンバーが足りないんですよ!」

「『カップルUNO』?なんだ、それは」

 

 一色の説明によれば、この後に遊戯部監修による『カップルUNO』なるゲームを行う予定だったらしい。

 だが、文化部代表として出演予定だった吹奏楽部の連中が、よりによってバレンタインイベント中に喧嘩してしまい参加出来なくなったそうだ。

 

「そんなわけで、文化系の部活から男女のカップル一組探さないといけなくなったんですよ!」

「そっか、まぁ俺には文化系の部活に知り合いとかいないし。」

 ついでに言うと、運動部でも知り合いは数えるほどしかいないけどね。テニス部の戸塚とか庭球部の戸塚とか、『まったく、戸塚は最高だぜ!!』っと、これは籠球部(ロウきゅーぶ!)だった・・・。

 

「まぁ、頑張れよ。俺は観客席に戻るから」

 そう言って、一色の横を通り抜けようとしたとき、一色が背後から襟首をつかんで俺を引き戻す。

「ぐぇっ!・・・い、いきなりなにしやがる。」

 

「せんぱい?せんぱいは何部でしたか?」

 不自然なまでににこやかな笑顔で問い詰めてくる一色。いや、怖いよ。怖すぎる。

 

「いや、何部って、お前知っているく・・・ハイ、ホウシブデス。」

「奉仕部って、文化系の部活ですよねー。」

「ハイ。ホウシブハ、ブンカケイノブカツデス。」

 

 アカン・・・。これは正直に答えないと、何されるかわからないパターンだ。

 

「そうですかー!あはっ!ちょうど良かったー。ちょうど文化系の部活のカップルを探していたんですよー。」

 いや、いまさら猫被ってきゃぴるん声で言っても無駄だからね。

 

「でも、奉仕部は文化系の部活だが・・・カップルなんて・・・」

 そう言って、部長である雪ノ下の方を見るが、雪ノ下は顔を赤らめて視線を外してしまう。

 

「ねぇ、ヒッキー。いろはちゃんも困っているんだし手伝ってあげようよ!」

 一色の背後から、由比ヶ浜がひょいと顔を出して追い打ちをかけてきた。

「そうは言っても、奉仕部にカップルとかいるわけが―」

 そこまで言って、ふと考えてみる。

 

「いや、いるな。奉仕部のカップル。」

 俺の発言を聞くや否や、由比ヶ浜の顔が真っ赤に染まる。ふと見ると、雪ノ下も赤い顔で俺を凝視していた。

 

 いや、そんなに見つめられると発言しにくいんですけど・・・。

 とりあえず、軽く咳払いをして場を仕切り直すことにする。

 

「ほ、ほら、雪ノ下と由比ヶ浜なんかどうだ?いつも二人で抱き合っているし、仲も良さそう―」

 あ、あれ?今、すさまじい寒気を感じたような。

 おかしいな?どこか窓でも開いているのかな?

 

「せんぱい?さっき言いましたよね。『男女のカップル』が必要だと。」

「お、おう・・・。」

「と、いうわけで。先輩方のどちらかにお願いしたいのですが。」

 と、一色が俺を無視して、雪ノ下と由比ヶ浜に話しかける。

 俺が参加するのは、すでに決定事項なのですね。

 

「仕方ないわね。では、誠に不本意ながら部長である私が参加するしか―」

「そ、それじゃあ、あたしが参加する!」

 雪ノ下と由比ヶ浜が同時に発言し、互いに顔を見合わせる。やっぱり仲いいじゃん、お前達。

 

「ゆきのん、ちょっと・・・。」

 そう言って、由比ヶ浜が雪ノ下の所に向かうと、二人は顔を合わせて話を始めた。

 一分ほど話し合い、その後、じゃんけんを始める雪ノ下と由比ヶ浜・・・。

 何なの?俺と組むことが罰ゲームになるの?

 いや、それはもう慣れているからいいんだけどね・・・。できれば、見えないところでやって欲しかったなぁ。

 

 過去の思い出(トラウマ)を思い出し軽く鬱状態に陥っていると、勝負が付いたらしく由比ヶ浜が嬉々とした表情でこちらに駆け寄ってきた。

 一方で、雪ノ下は無念そうな表情で自分の手を見つめている。

 

 つまり、俺と組む事になったのは・・・。

 

「ヒッキー!決まったよ!」

「そうか、俺と雪ノ下が出ることになったんだな。」

「違うよ!あたしとヒッキーが出るの!」

 あれ?罰ゲーム受けるのがそんなに嬉しいの?

 何なの?由比ヶ浜って、実はMの気でもあるのか?

 

「それじゃあ、お二人ともルールの説明があるので急いで下さい。」

「ほらヒッキー!早く!」

 

 二人の女子に急かされた俺は、部活メイトが持つ隠れた性癖についての考察を中断し、二人に付いていくことにした。

 

 

  × × ×

 

 

「それでは、今からルール説明を始めます。」

 ステージ脇に設けられた控え室で、遊戯部のメンバーである秦野と相模がオモチャのロボットのようなもの(ウノロボット)を手に説明を始める。

 

「基本的なルールは通常のUNOと同じになります。ルールの方は大丈夫ですね?」

 秦野がそう言って、俺達参加チームの全員を見渡す。

 

 今回参加するのは3チーム。

 運動系部の代表としてサッカー部から葉山と一色。生徒会代表として副会長の本牧と書記の藤沢。そして文化系部代表として参加することになってしまった由比ヶ浜と俺である。

 

 まぁ、UNOのルールを知らない奴なんているはずが・・・。

 いや、少し離れた場所で我が奉仕部の部長殿が一人首を捻っているようだ。

 

「カードは、このロボットの頭の上に置いて下さい。その時に、ロボットの頭にあるボタンを忘れずに押して下さい。」

 そういって、相模がロボットの頭頂部にカードを置き、スイッチを押し込む。

 

「この時にロボットから指令が出たら、その指令に従ってもらいます。」

「それでは、何か質問がある方はいらっしゃいますか?」

 相模が説明を終えて秦野が参加者に向かって質問を促すと、本牧が手を上げた。

 

「チーム分けしているけど、これは6人同時にするのだろうか?それとも3人ずつを2回?」

「2人ペアの3組で行います。」

 本牧の質問に相模が答える。

 

「では、ペアで相談しながらプレイする事になるんだね?」

 葉山が続けて質問すると、秦野と相模が顔を見合わせニヤリと笑った。

「いえ、一回ごとに交代でカードを出します。当然、相談も禁止です。」

 

 秦野の答えを聞き、俺と由比ヶ浜が顔を見合わせる。

「ヒッキー、これって・・・あの時の」

「ああ、間違いない。あの時の大富豪と同じだな。」

 

 材木座のせいで無理矢理巻き込まれた遊戯部との脱衣ダブル大富豪対決。

 あの時は、パンツ一枚になるまで追い込まれたからなぁ・・・。

 学校で、しかも女子が見ている前でパンツ一枚になるなんて、間違いなく黒歴史に認定できるレベルの思い出(トラウマ)である。

 

「そういえば、あの時ヒッキー、パ、パン・・・」

 由比ヶ浜もその時の出来事を思い出したのか、顔を赤くしてお団子部分をくしくしと弄り始めていた。

 見ているこっちも恥ずかしくなるので、そういうことはやめて欲しいと思う。いや、マジで。

 

「せんぱいに、結衣先輩。顔が真っ赤ですけど、どうしたんですか?」

 俺達の顔を見て不審に思ったのか、一色が横合いから茶々を入れてきた。

 

「ふぇ?い、いろはちゃん!?な、なな、なんでもないし!」

 動揺を隠そうともしない由比ヶ浜の返答で好奇心を煽られたのだろうか、一色は追及の手を緩めること無く今度はその矛先を俺の方に向けてきた。

「じゃあ、せんぱいでもいいです。」

「だから、何でも無いんだよ。」

 一応、そう答えては見たものの、一色の追求は収まる気配を見せなかった。

 このままでは埒が明かない・・・なにか良い方法は・・・。

 そのとき、とある質問が脳裏に浮かんだ。

 

「と、ところで一色。なんでお前がそこにいるんだ?」

「せんぱい?私がサッカー部のマネージャーだってこと、忘れてませんか?」

「さぁな。最近は奉仕部に入り浸って紅茶飲んでいる所しか見ていないから、てっきり奉仕部の部員だと思っていたぞ。」

「うぇっ!?」

 ここぞとばかりに一色にその質問をぶつけてやると、ギクリとした表情を一瞬浮かべる。

 よし、いいぞ。せっかくだから隣にいるサッカー部の部長様に叱ってもらえ。

 

「いろは、そうなのかい?俺は、てっきり生徒会の方で忙しいからサッカー部の方には出られないものだと―」

「い、いえ!その・・・奉仕部には、生徒会の仕事をせんぱいに手伝ってもらう為に行っているだけで、でもせんぱいがなかなか動いてくれないので、仕方なく紅茶を飲んで待っているだけであって・・・」

「おいこら、一色。何ナチュラルに俺の責任にしているわけ?そもそも、生徒会の仕事手伝うのも俺じゃ無く、葉山に―痛ぇ!」

 俺が反論しようとすると、一色の奴が俺の向こう脛を蹴っ飛ばしてきやがった。

 

 その様子を見た葉山が、さわやかな笑顔で一言。

「ははは、いろはもヒキタニ君も仲良くやっているみたいだね。」

 

「そんなこと無いですよ!」

「んなわけあるか!」

 一色と俺が、同じタイミングで葉山に言い返し、再び顔見合わせて「ぐぬぬ」と唸る。

 

「はーい、そこまで。二人ともちゃんと話聞かないとダメだし!」

 ここで由比ヶ浜が間に入り、にらみ合う一色と俺を引きはがした。

 

 

 

 

 その後、今回のイベント用に設定された特別ルールの説明が行われた。

 

「それから、このロボットから『スペシャルゲーム』という命令が出されたときは、用意したクジを引いてもらいクジに書かれたゲームをしてもらいます。」

 クジが納められた箱を手に、秦野が説明する。

 

「このゲームは3チームで行ってもらい、最下位のチームはペナルティーとして手札が4枚追加されますので頑張って下さい。」

 相模が説明を続けていると、ステージ上のセッティングを行っていた生徒会の連中が現れ、一色に完了の報告を行った。

 

「では、準備が出来たようなので、皆さんスタンバイお願いします。」

 一色の合図で全員が控え室からステージ脇へと移動を始めた。

 

 

  × × ×

 

 

「それでは、今から『部対抗カップルUNO』を始めます!」

 司会進行を行う会計の稲村がステージに上がり、参加チームの紹介を始める。

 

「まずは、運動部代表!サッカー部から部長の葉山君とマネージャーの一色さん!」

 稲村のコールと同時に、会場から黄色い声援が沸き起こる。

 その声援の中、葉山が一色をエスコートして颯爽と登場した。さすがはキングオブリア充、こういう状況でも手慣れたものである。

 

「続いては、生徒会から副会長の本牧君と書記の藤沢さん!」

 今度は会場からの拍手と囃し立てるように鳴らされた指笛に迎えられ、本牧と藤沢がステージ脇から歩み出る。

 先程の葉山と一色に比べるとぎこちなさも感じるものの、二人は互いに手を取り合って登場した。

 

 さて、これで残るは俺達だけだ。

 なにしろ、全校の嫌われ者たる俺がいるからなぁ。失笑?ブーイング?もしかして沈黙?

 会場の反応が予想できず、二の足を踏んでしまう。

 

「最後に登場するのは、文化部代表!奉仕部から比企谷君と由比ヶ浜さん!」

 稲村のコールで由比ヶ浜が颯爽とステージに現れる。その瞬間、会場が野太い歓声で沸き返った。

 

「あ、やばっ!」

 一方で、やってしまったのは俺の方である。

 突然沸き起こった野郎達の野太い由比ヶ浜コールに気圧されてしまい、一瞬出遅れてしまったのだ。

 出鼻を挫かれ頭の中が真っ白になり、もうこのまま逃亡しようか・・・などと考えていると、背中に強い衝撃を感じた。

 

 その衝撃で我に返り振り向くと、いつの間にか俺の背後に回っていた由比ヶ浜がバシバシと俺の背中を叩いていた。

「ほら!ヒッキー!しっかり歩く!」

 そのまま、由比ヶ浜に背中を押される形でステージ上へと押し出されることになってしまった。

 あまりにも間抜けな俺の姿に、会場は大爆笑。

 

 

 もうやだ!ハチマン、おうちに帰る!!

 

 

 爆笑に包まれたステージ上で、俺は心の中でそう叫んでいた。

 

 

  × × ×

 

 

 こうしてゲームが始まり5分が経過した頃・・・。

 

 

「さて!各チームともだいぶ手札が減ってきたようです!では、次のターン。奉仕部チームの由比ヶ浜さん!」

 実況の稲村のコールで由比ヶ浜が手札から一枚カードを抜いて、ロボットの頭頂部に置き、スイッチを押し込んだ。

 

『スペシャルゲーム!』

 

 すると、ロボットから事前に録音していた音声が再生された。

 これは、つまり・・・。

 

「出ました!スペシャルゲーム!由比ヶ浜さん!スペシャルゲームのクジを引いて下さい!」

 急に稲村のテンションが上がり、それに釣られて会場のテンションも上がり始める。

 

「んー・・・えいっ!」

 秦野が差し出したクジ箱から、由比ヶ浜が一枚の紙を取り出す。

 その紙に書かれていたのは・・・

 

 

 

 ― ポッキーゲーム ―

 

 

 

「ポッキ~ゲ~ム」

 

 稲村が某青い猫型ロボット(旧Ver)の声真似をするが、どうやらあまり似ていなかったようで会場の反応はいまいちだったようだ。

 ってか、稲村の奴ノリノリだな。これが本来の性格なのか、それとも、会場のテンションにあてられて変になってしまったのか・・・。

 

 俺の心配をよそに、稲村がスペシャルゲームの説明を続ける。

 

「これから、3チーム対抗でポッキーゲームを行ってもらいます。ルールは単純、残ったポッキーが一番短いチームが一位になります!」

 

 一色、藤沢、由比ヶ浜にポッキーが手渡される。

 始めは三人とも互いの顔を見渡していたが、一色がポッキーを咥えると、藤沢と由比ヶ浜もポッキーを口に咥えた。

 

 さて、どうしたものか・・・。

 やはり開始早々にポッキーをへし折ってゲームを終わらせた方がベストだな。4枚のペナルティーは痛いが・・・。

 

「なお、途中でポッキーが折れたり、残ったポッキーが8cm以上の場合は2枚ペナルティーの上に再度やり直しとなりますので、あしからず。」

 ここで、稲村から非情な一言が・・・。

 

 って、マジかよ。

 退路は断たれてしまった。かくなる上は、8cm以下になるまでポッキーを囓るしかないのだが・・・。

 下手をすれば・・・。

 

 そこで、ポッキーを咥えている由比ヶ浜の唇が視界に入ってくる。

 艶やかに光るピンク色の唇に目を奪われ、意味も無く罪悪感にかられた俺は思わず視線を他の方向へ向けてしまった。

 

 その結果、舞台袖からこちらを注視していた雪ノ下と目が合ってしまう。

 うっすらと微笑んではいるが、その目からはこちらを射殺さんとばかりに冷たく鋭い視線を浴びせかけていた。

 

 わかっているさ、雪ノ下。お前の大切な由比ヶ浜に変なことはしないから安心しろ。

 

 そう心の中で弁解しつつ別の方向へ視線を向けると、今度はポッキーを口に咥えたまま俺の方を注視している一色と目が合った。

 

 おい、一色。俺の方を見ている場合じゃ無いだろ?せっかくの機会なんだから、葉山の方を見てろよ。

 

 

「それでは準備はよろしいですか?それでは、ポッキーゲーム、レディー!ゴー!」

 

 稲村のかけ声を合図に、葉山と本牧がそれぞれ一色と藤沢が咥えていたポッキーに口を近づける。

 

 

 こうなったら仕方ない!

 意を決した俺は、由比ヶ浜の咥えているポッキーに口を近づけた。

  

 

  × × ×

 

 

「それでは準備はよろしいですか?それではポッキーゲーム、レディー!ゴー!」

 

 司会役の稲村の号令と共に、勇気を振り絞って由比ヶ浜が咥えているポッキーに口を近付ける・・・。

 

 だが・・・。

 こういうゲームに慣れているリア充と違って、俺にとっては初めてのポッキーゲームである。

 恥ずかしさと極度の緊張から身体が思うように動かない上に、由比ヶ浜が咥えているポッキーの先端がプルプルと震えている事もあって、なかなかポッキーが口に入らないのである。

 

 こういう時、リア充達はどうやっているのだろうか?

 そう思い、隣にいる一色・葉山組の方を見てみると・・・。

 

 一色が咥えているポッキーも先端がプルプルと震えており、流石の葉山もこれには手を焼いているようだった。

 ところが・・・。

 

「落ち着くんだ、いろは。」

 葉山は顔を赤くしている一色に声をかけ、両手で一色の肩を抱いた。

 

「んむっ!?」

 驚きのあまり一色の目が大きく見開かれ、一色の動きが一瞬だけ止まる。

 その隙に、葉山がポッキーの先端に一気に食らいついた。

 

『いやぁぁあ!葉山君、やめてぇぇええ!!』

 会場内の女生徒の悲鳴が会場中に響き渡る。

 

 だが、葉山は会場に響き渡る悲鳴を意にも介さず、一色の肩を抱いたままポッキーを食べ進めていく。

 そして、ある程度食べ進めたところで葉山は口を離し、一色の頭を軽くポンポンと撫でるように叩いた。

 

 

 なるほど、相手の肩を抱いて動きを止めれば良いのか!

 

 ・・・って、出来るかぁ!

 

 見える!俺には見えるぞ!行間に書かれている『ただし、イケメンに限る。』と言う文字が!

 

 俺がそんなことをやったら最後、会場中からブーイングを受け、雪ノ下がセクハラの現行犯で警察に通報する事だろう。

 なにそれ、俺の青春終わっちゃうじゃん。

 

 さて、どうしようか・・・。

 

 思考回路はショート寸前、堂々巡りのループ状態に陥っていると、何者かに両肩を捕まれてしまった。

 いや、何者というか、由比ヶ浜なんだが・・・。

 

「おい、由比ヶ浜。お前―ムグッ!」

 由比ヶ浜に肩を抱かれ、そのまま俺の口にポッキーをねじ込まれた。

 

 突然の出来事に硬直した俺を見向きもしないで、由比ヶ浜がポッキーを食べ始める。

 

 カリカリカリ・・・。

 

 俺が咥えることになってしまったポッキーの長さはどんどん短くなり、それに伴って由比ヶ浜の顔が次第に近づいてくる。

 お互いの鼻頭がくっつくほどの距離になり、鼻がムズムズし出したところで由比ヶ浜の動きがピタリと止まった。

 

 

 もうポッキーは8cmも残っていないはずだ。もう十分だ。口を離せ!由比ヶ浜。

 俺は、心の中で必死に懇願した。

 

 

 

 カリッ。

 

 

 

 

 ちょっと、由比ヶ浜さん!?

 それ以上食べちゃうと、いろいろとマズいことになっちゃいますよ!?

 

 

 

 

 ・・・カリッ。

 

 

 

 ダメだ!それ以上いけない!当たっちゃうから!

 ほら、その・・・キs―

 

 

 

 

 その時、会場がどっと沸き上がった。

 何事かと辺りを見回してみると・・・。

 

「・・・。」

「・・・。」

 

 本牧・藤沢組がお互いに顔を真っ赤に染め、口を押さえていた。

 二人の間には、極端に短くなったポッキーが一本。

 

 これは、まさか!?

 

 

「おおっと!ここでアクシデント、いや、ハプニングの発生か!?生徒会チーム、まさかの接触事故だ!!」

 司会の稲村の実況で、会場からは囃し立てるような歓声と指笛が鳴り響いた。

 

 

 

「っ!?」

 ここで由比ヶ浜も我に返ったのか、顔を真っ赤に赤らめてポッキーから口を離した。

 

 

 

「はい。全チーム、ポッキーゲーム終了!それでは、計測に移ります!」

 稲村が3本のポッキーを皿の上に並べて計測を始める。

 

「一番短いのは、言うまでも無く生徒会チーム、続いて奉仕部チーム、サッカー部チームの順で・・・えっ?」

 ここで、生徒会のメンバーが舞台袖から現れて、稲村に一枚の紙を手渡した。

 

「えー先程の件で、当イベントの監督教員である平塚先生より物言いがありましたのでお知らせします。」

 そう前置きして、稲村が手元の紙を開いた。

 

「『学校行事上看過できない事態が発生したため、このゲームは無効とする。尚、生徒会チームについては不純異性交遊の現行犯の為、月曜日放課後に職員室に出頭するように』とのことです。ご愁傷様。」

 その瞬間、会場が爆笑に包まれた。

 

 ってか、平塚先生来てるのかよ。姿を見かけなかったから、てっきりいないものだと思っていたよ。

 それと、平塚先生のことだから月曜日に行われる『生徒指導』はかなり面倒くさい事になりそうだな・・・。

 

 

 まぁなんだ・・・頑張れよ。

 

 真っ赤な顔で俯く生徒会チームに、俺は心の中でそっとエールを送った。

 

 

 生徒会チームは、この一件でゲームに集中できなくなり凡ミスを連発。

 『部活対抗カップルUNO』は実質、サッカー部チーム対奉仕部チームの一騎打ちとなっていた。

 

 だが、以前に似たようなゲームをプレイした経験もあってか、ゲームは奉仕部チーム優勢で進み・・・

 

 「勝者、奉仕部チーム!」

 

 結局、由比ヶ浜が最後の一枚を場に出して『部活対抗カップルUNO』は奉仕部チームの優勝で幕を閉じた。

 

 

  × × ×

 

 

 「やったよ!ゆきのん!」

 由比ヶ浜が舞台袖の雪ノ下に声をかけ、雪ノ下は満足げに何度も肯いてその声に答えた。

 どんな勝負事でも勝たないと気が済まないとは、雪ノ下の負けず嫌いも筋金入りである。

 

 「それでは、勝利した奉仕部チームには賞品として『平塚先生セレクト 高級チョコレートセット』が贈呈されます。」

 

 えっ?高級チョコレート?マジで?

 思いも寄らないプレゼントに、思わず頬が緩んでくる。

 

「では、プレゼンテーターの平塚先生!お願いします!」

 

 稲村のコールで、舞台上へ平塚先生が登場する。

 

 

 

 長い黒髪を三つ編みにし、総武高校の女子生徒用制服を着用した姿で・・・。

 

 

 

 平塚先生の姿を見て静まりかえる会場。

 一方で平塚先生は、ノリノリで高級チョコが入った箱を俺に手渡した。

 

 

「先生、どうしたんですか。その格好・・・。」

「いやぁ本当はセーラー服にしたかったんだが手に入らなくてな。どうだ?比企谷。私もまだまだイケるだろ?」

「どう見ても、アレな仕事してる人の格好(風俗嬢のコスプレ)にしか見えませんよ。大体『女子高生の髪型は三つ編み』という発想自体が、もう――」

 

「比企谷・・・覚悟は良いか?」

 笑顔のまま、平塚先生が俺の肩に手を置く。

 あ、この笑顔・・・アカンやつだ。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!他の生徒も見てますし、ここで暴力は――」

「無拍子っ!」

 

 その刹那、衝撃が身体を貫き、会場が爆笑に包まれた。

 

 

 そういえば、先生の拳を受けたの何ヶ月ぶりだっけ?最近、受けてなかったから身体に堪えるなぁ。

 って、それよりも会場は爆笑していいの?問題にならないの?

 

 

 などなど、薄れゆく意識の中、様々な思いが走馬燈のように頭の中を駆け巡っていた。

 

 

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